彩色の第3弾。もっとも、黒髭とほぼ並行して作業をやっていたから、同じような時期である。これは彩色前の木彫りの状態で、数年前に作っていた「しかみ」という能面だ。
これまで能面を彫るときは、材料の都合が付けば出来るだけ複数の同じものを作るようにしている。一個だけでは失敗もあるし何かの都合で破損することもある。だから、彩色でも複数の面に施すことになるから、色が変わったり表情が変わったりする。
下地塗りが終わって顔の表面の色をあれこれ考えて作り、塗ったところの図である。これも見本はホームページから引用したもので、実は本当は「赤黒い」「どす黒い赤」色なのだ。この色はどちらかと言えば紫っぽく出来あがっでしまった。
「どす黒い赤」だから、赤色に黒(実際は墨)を混ぜてみたが、胡分(白)に混ぜたことでピンクっぽい色になってしまう。更に焦げ茶や茶色、朱色などを混ぜ合わせたところ、おかしな色になってしまった。それが上の色だ。本当は「柿色」が欲しかったが、それが出来ずに苦労した結果、見本とは別の色合いになったのだ。
一日考えてやり直すことにした。一度上塗りを紙ヤスリで全部取ってしまった。それで改めて白い胡分を用意し、それに慎重に色を作っていく。最初は赤を混ぜオレンジを混ぜ様子を見るが、どうしてもピンク系になってしまう。茶色や焦げ茶も入れてみるが、どす黒い赤や、せめて柿色にもならない。
上記の面が左右で色が違うのは、試した色を塗っているから。どう見ても「赤黒い」とは言えないし、見本とも大きな隔たりがあり、満足できないものの、やたらに色を作るわけにも行かない。というのも、彩色の材料に限りがあり、何度も試すほど多くは持っていないのだ。
本には「ベンガラ」「朱」を使うとなっているが、ベンガラはないし、他の色も水彩絵の具を代用しているのだ。元になる胡分や他の材料などは当地では売っていない。絵の具は売っているが、その外、筆にしても「面相筆」「ぼかし筆」「岩絵の具」「にかわ」等、画材そのものを取り扱っている店がないから、無くなったら先生に追加注文するか関東の街に出かけて買ってこなければならない。
それでも、手持ちの画材を駆使してなんとか完成にこぎ着けることになる。それがこの写真だ。眉毛や髭などは、よく見ると「黒髭」とほぼ同じ描き方のようだ。前の写真と比べたら、だいぶ赤みが出てきているが、本当はこんな色ではない。眼球や歯は金泥を塗って錦石で磨いたところ。これは、般若の手法だから知っていた。
赤くなったのは、試しに朱色(粉末を水、又は膠で溶かしたもの)をぼかし網を使って振りかけたのだが、その時は赤くなったものの乾燥したら元の粉末になって、こすったら剥げてしまったのだ。それでも、表面が梨地肌のため、隙間に入り込んだ朱が残ったことで、赤みが出ていた。更にその上に古色を出す「夜叉の実」の液をぼかし網で振りかけて、いくらか赤みを固定させた状態である。
こちらは若干色味が違うが、まあ似たような手法で「憤怒の表情」を表したものである。これも見本の色とは大きく違っていたが、もうどうしようもないし、素人には比べる面がないから、「こんな色かな」ということで終わるかも知れないという期待を持って、完成させてしまった。
ここ2週間ほどは、前の「黒髭」と今回の「しかみ」4面を彩色するために、毎日数時間を費やして作業をしていた。これで、手持ちの岩絵の具(岩彩)も多くがなくなってしまったので、次の面に彩色することは出来なくなった。あとは足りなくなった色を補充できるまで作業は中止である。
来年度も4月以降の「能面教室」に通う予定なので、その時に先生に色や材料の補充を御願いしてみることにしたい。次回の新規作成課題もすでに決まっており、今の生徒も全員が留まるようなので、まだまだ楽しみは続くのだ。
ちなみに次回に作成する能面は「乙(おと)」。おたふくとも言われる、あの面だ。私はすでに前の先生が担当していた時に作っているので、2度目の作成になる。