昔、といっても10年ぐらい前まで、俳優座の地下あたりに今は居酒屋の土風炉となっているあたりに、プライムリブのステーキ屋ヴィクトリアステーションというのがあって、わりとキラキラした階段を下っていき、赤いカーペットを踏みながらもう2,3段降りると右に大きく店内がみえ、ヴァイキング風なヴェジタブルコーナーや奥の少し薄暗くていい雰囲気のテーブルなどが六本木のスモーキーな夜を演出していたお店がありました。
当時のカパオとカパコはそんな大柄でもないのにだいたい800グラムでした。
800グラムカットして、というと、店員は、お二人で?と、きくので、いや800グラムずつください。といって頼んでおりましたが、それも最初のうちで、だんだん面が割れてくると、言わなくても800グラムずつでるようになりました。
昔は肉ばかりでしたが、そのうちバリエーションが欲しくなり、これも昔の防衛庁正面玄関ではない横向かいあたりにあった焼き肉屋の十里のほうにいくようになり、こちらは焼き肉屋なのにウィスキーボトルをキープし、連日連夜の牛タン22皿というのにはまったこともありました。
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ということで、ヴィクトリアステーションのほうですが、ここは男同志でもわりと言った記憶があります。
ある日、カパオは肉1000グラム食える、といった会話を友達にしたら、信じられないということだったので、それでは善は急げ、ではなく、真実は現場で、という話になり、おりしもカパオの誕生日ということもあり、みんなで一目散に階段を駆け降りたのでした。
それで、みんなが固唾を飲むのを横目にしながら、プライムリブ1000グラム、レアレアで、と声高らかにオーダーしたのでした。高らかな声の二声目は、周辺物は無しで、イモとかヴェジタブルはいらない、それから、肉に味付けしないで、といつも言っていることを繰り返しました。
ワル仲間たちは、ふむふむ、といった目で見ておりました。たぶんあれ以来、彼らはチープな居酒屋でまずい焼き鳥などを喰らうのはやめたと思います。
それで、レアレアのプライムリブというのもちょっと難がありますが、食べ方としては、まず、味付けしていないスの状態のお肉を300グラムほど食べます。これがまたいい味なんです。このときはワインをボトルでオーダーしていたので、赤いワインと、血の滴る赤いレアレアを同時並行的に飲み食べる。
それで300グラムほど進んだら、次におもむろに、背広のポッケに隠し持っていたキッコーマンの醤油をとりだす。瓶だと大きいので携帯用の小型詰め替え醤油。当然自宅からの調達品である。ヴィクトリアステーションのみならず、お店においてあるソイソースはいまいちだ。アメリカのものはいまさんぐらい。だいたいにおいて、瓶に英語で書いてあるあたり論外だ。
それで醤油であるが、回転するふたをはずし、300グラム食べた後の残り700グラムのうちの200グラムにおもむろにたらす。
この、醤油味のステーキ、絶品ですね。肉と豆のコラボ。なんとも言えない感動が舌や鼻を通って脳天に突き抜ける。これであっというまの200グラム。今のところ500グラム。
あと残り500グラムなんですが、あっという間といいながら、頼んだ代物がレアレアであるため、残りの部分は比較的早期に冷たくなりつつあります。そこで、スタッフに声をかけます。
悪いけど、この残り500グラムなんだけど、もう一度火を通してくれないか、と我ままをいうわけです。そうするとスタッフも、変な客だなぁなどと心の中で思ったことがわざと顔に出るような形相で、ホワッ、などとのたうちまわったりするが、もう一度言えばいいだけ。
悪いけどもう一度火を通してくれないか、さっきの感動をもう一度味わいたいんだ、と言えば事は何となくまるくおさまり、火を通しに肉を持ち帰る。まわりの客たちはジロジロみているが、そんなことはどうでもいい。
そして、肉に再度の火を通している間に、ワル連中にしゃべるわけだ。
僕が昔メト座の河童であった頃は、肉はだいたい2パウンドって決まっていたんだ。約900グラムぐらいかな。だから1000グラムっていっても数字的には桁ずれをおこしているけど、900も1000も同じようなわけさ。だからもともと通常食なんだ。ってのたうちまわって、ワル連中が、へぇー、などといっているさなか、先を続ける。
それは肉の話なんだけど、海老、ロブスターの話もあって、5パウンドロブスターってぇのを食ったことあるよ。っていったらワル連中はびっくりしていたけど。
5パウンドっていっても、ロブスターの場合、武装していて殻だらけだから実際においしく食えるところはそんなにないんだ。それに、スチーム、ベイクド、ボイルド、どれでもいいけど調理すると何だか知らないけどかなり軽くなるしね。と、うそぶいた。
実のところは、5パウンド、ネットで2.5パウンドぐらいだと思うが、殻にへばりついている部分の肉は食えないので、2から2.5といったところか。
ボイルしたロブスターもとてもおいしいが、それを食って翌日会社に出たら、カパオさん、あまり寄らないで、って2メートル先の切れ者女リズコに言われたことがある。こんなとき男は言わないが女はズケズケというからね。それにしてもよっぽど臭かったんだ。
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というわけで、火を再度通したお肉が出てきた。レアレアというわけにはいかない。ミディアムレアでもない、限りなくミディアムに近い。このような食べ方をなんというか知らないが、好きなものを食べるときは我ままをいっていいのではないか、などと反省のいろは全く見せず再度食べ始めた。
このミディアムな残り500グラムのポイントは、グレイヴィーだと思います。プライムリブに肉汁をマッチさせるケースは本来的なものなのかどうかわかりません。それにリブの場合、肉汁が溜まっているところに肉を漬けておくのでしょうか。漬けておいたとしても、なんだかあんまりおいしいグレイヴィーは望めそうもありません。
ここは比較的調理しまくったグレイヴィーのほうがいいのかもしれません。とにかく熱い肉に飴のような粘度のグレイヴィーをたらし、食すリブの味は何物にも代えがいたいものがありました。
その500を終われば合計1000グラムとなります。ソーホワットですよね。みなさん。
記憶では、ヴィクトリアステーションに1000グラムのメニューはない。勝手にカットしてもらっただけ。最初からわがままな客だったわけだ。
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今は、渋谷にもあるアウトバックなどでもいい肉が食えるときがあります。スタッフが変に気をまわして、きいてもいないのに、うちの店はアウトバック、オーストラリアが謳い文句ですけど、肉はアメリカ製なんです。などといったりしていたが、うまければどこの肉でもいい。
ここの肉は、肉だけでなく、何事も量が多く、また安い。ビール一本と、ステーキ300~400グラムとあとなにか一品頼むと、一人当たり五千円ぐらい。最近の収縮モードの胃には大変にこたえる量ながら、値段的にも満足のいくものがある。
そもそも、日本料理屋で食べるステーキというのは、調理しすぎで、他の料理と同じぐらい手間暇かけている。それをどうこういうつもりはないが、そこまでして食いたいとは思わない。
あらかじめこってりと味付けされた肉、選択肢のない調理、果ては、何とかショーみたいな感じで鉄板焼きで肉を細かく切り刻んで出したりする。あんなもののどこがいいのだろうか。
そのようなことばかりしている人間は、だまされたと思ってヴィクトリアステーションへいけ。もうないからアウトバックへ行け。
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すぐに脱線してしまいますが、その六本木のヴィクトリアステーションで、みんなでお肉を食べた後、今日はカパオの誕生日です。と、厚かましくスタッフにしゃべったら、ケーキをだしてくれた。
普通ならうれしさも半分で、もう食えない。といったところだろうが当時のカパオは特に問題もなく、デコを三分の一ほどいただいた。ただ、ケーキの後のワインはこたえる。
それで、重いおなかをおさえて、階段をのぼり、六本木の外の空気を吸う。みんなおなかがいっぱいの割には気持ちが快調だ。やっぱりここで肉食ってそのまま帰るなんてバカな真似は出来ないし、誰もそんなことはゆめゆめ考えたこともない。
肉ってぇのは、何でも消化がいいらしくて、4~5時間でまた腹減ってくるらしいじゃないか。などとまたまたうそぶき、六本木の細い通りのほうに身をうずめ、好きなウィスキーを飲みながら肉の消化を待つ。
花より団子、肉よりウィスキー、てなことにはならないが、肉あれば酒あり。朝になれば腹がグーっと共鳴していたので、当時のエネルギーは果てしもなかった。
おわり
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