「焼肉通の多い業界人が“究極の焼肉屋”と絶賛し、通いつめる、こだわりの焼肉屋。舌の肥えた業界人たちを唸らせ、究極とまで言わせる秘密はズバリ、料理の旨さにあり。」
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さわやかな感動と笑いを誘う、目の前がクラクラするような宣伝・煽り文句である。
この文章なんとなく、毎年冬になるとなんとかの一つ覚えで、ハワイにいきたがる旧芸能人間を想起させ、激しく可笑しい。
「業界人」という単語が出てきただけで、鳥肌が立ち絶対行くまいと決めてしまう人もいるに違いない。
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そんなにケチつけるなら、いかなきゃいいだけなんだけど、でも、
恐いものみたさ、ってあるよね。
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六本木のロアビル手前の小道をはいっていき、ハードロックカフェとトニーローマをやりすごし右に折れると黒い建物で表に二階に行く階段がさらされている焼肉屋は、そこにあった。
時は夜中の1時半。六本木ではちょうどいい時刻だ。
よし久しぶりに肉を食らうか、という気持ちの高ぶりを抑えながら透明なガラスの押しドアをあけた。
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河童
「業界人が食べているというお肉を食べたいのですが。」
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店
「お客様、すみません、今の時間帯、これから団体さんの貸し切りが入りますので、申し訳ありませんが、いれることはできません。」
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河童
「むむむむ。
夜中の1時半だぜ。今頃貸し切りなんて本当か。常識っぱずれもいいところではないか。」
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店
「すみません、業界の客ですので。彼らの常識ですから。」
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河童
「むむむむ、業界人と河童とどっちが大事なんだよ。」
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店
「もちろん、業界人のほうが大切です。
歌を歌えない歌手とか、声がでかいだけの無芸脳人とか、食べることが本業のアスリートとか、とにかくサラリーマン以外の人たちが大切なんです。みかけだけでも様になるほうが宣伝になりますし。
木端の河童さんは、別の日にすいてる時に来てくださいませ。」
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河童
「客席が114席もあるのにダメなのかね。」
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店
「はい、業界人は夜中の団体さんが多いので、うちみたいにたっぱがでかい店でないとだめなんです。」
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河童
「おお、そうか、キャパがでかいだけの店ということだね。」
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店
「。。。。」
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やはり、夜更かしの焼き肉は健康に良くない。
業界人はせいぜい夜中に肉を食らい元気をつけて、おてんとうさまが照っているときは眠い目をこすりながら臭い息を吐き、自分の目を覚ますためのばかでかい声で騒いでいればいい。
このようにしてテレビでは学芸会以下、否、未満のどうしようもない絶叫の数々が今日も続くのである。
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それはそれとして、この巨大な牛の荘園には、はいりそびれたわけであるから、味のことをどうのこうのと言う資格は河童にはない。
誰かさんが言っているように、
「業界人がいく店にうまい店なし」なのかどうか、是非とも河童舌で確かめてみたい。
夜中ではなくね。
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おわり
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