2010年12月16日(木) 7:00pm サントリーホール
ラヴェル ピアノ協奏曲
ピアノ、ピエール・ロラン・エマール
(アンコール)
メシアン 前奏曲から「静かな嘆き」
ショスタコーヴィッチ 交響曲第8番
シャルル・デュトワ 指揮 NHK交響楽団
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ラヴェルはエマールのおちついた精神状態を垣間見るようないい演奏でした。音は太くて粒立ちが良くオタマの長さが均等で正確、響き重視でラヴェルの魅力が全開で見事な演奏でした。
特に第2楽章はまるでブレードランナーでレイチェルが弾くピアノのようなロマンティシズムに溢れ、滴の音さえ聴こえてきそうな静かさをコントロールしてお見事。オーソリティーというしかない。
第1,3楽章は第2楽章と正反対の動きの激しい音楽で、ピアノは冒頭から激しい音楽を求められるがエマールさんきっちりと弾いてます。オケのトリッキーな響きにも負けてません。
この曲は、ブラス、ウィンドともにほぼソロ楽器としての扱い、機能だけを求めておりラヴェルの真骨頂のエキスだけすくい取れる。ホルン、トランペット、トロンボーン、みんな際どいが、N響はしっかりしてましたね。実力がむき出しの曲ですけれどうまく引き締まっており奇妙で魅力的な音楽が全開。楽しめました。
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ショスタコーヴィチの8番は、どちらかというとわけのわからないト系の音楽かもしれない。チチンプイプイの第7番の方が格段にわかりやすい。8番は音楽の方向性がよくわからない。後半の第4,5楽章は魑魅魍魎というかなんのために鳴っているのかホントよくわからない。第2,3楽章の裏返しのような気もするのだが、これがロシアの対称性なのかしら。その割には第4楽章へはアタッカではいるので構造の明瞭さを欠く。
頭でっかちの第1楽章が著しくバランスが悪い。6,7番あたりの傾向からしてその肥大化の頂点のようでもある。構造はあるのだが緊密性に濃くなく、何をポイントに聴けばいいのかときとしてわからなくなる瞬間がある。なんでこの曲作ったのかな。救済は第5楽章の最後の最後で調がハに安定して終わるところだけかな。ここだけとってつけたような響きが逆に違和感を醸し出している。決して自然な推移とは言えない。
ショスタコーヴィッチのシンフォニーは聴けば聴くほど第15番に収束していくような幻覚に襲われる。15番の第4楽章の冒頭のしなやかさと終結部の壮大なパーカッションのピアニシモの持続するハーモニー、なにもかもあすこに向かっているように思えてしょうがない。8番を作っているときはそんなことは露にも思っていないんでしょうけれど、ただこの8番でシンフォニー作曲おしまいなんてありえないと本人も思っているよね。
それでこの日の演奏ですが、全面的にデュトワの棒にかかってました。曲のいいところも悪いところもすべて受け入れ、最善を尽くすことにより曲の持つ魅力を思いっきり出していく。これしかありません。
デュトワでなければオーケストラにこのように緊張感を持続させることができなかったと思います。モチベーション大事ですね。いい演奏をするしかないんだと思わせる。指揮者の技量でしょう。
オーケストラは非常に引き締まっておりこの曲の表現に適している。第3楽章の妙にぎくしゃくしていながらそれでいて魅力的でダイナミックな音楽も面白いし、けっしてふやけない。第4,5楽章の弱音部分のハーモニーも美しい。ここらへん、構造、形式、どうでもよくなってきます。聴いている方としては。
どのように音楽が流れていくのか、持続していくのか、そのへんだけに興味が集中してしまいます。お見事なオケサウンドになっておりました。前半のラヴェルでの引き締めも効いていたのかもしれません。この演奏も堪能できました。
ちょっと忘れそうになりましたが、エマールのアンコールのメシアンよかったですね。
おわり