2017年6月11日(日) 2:00-4:20pm 東京芸術劇場
コネソン フランメンシュリフト(炎の言葉) 10′
ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番変ホ長調エンペラー 21-7+11′
ピアノ、モナ=飛鳥・オット
(encore)
リスト ヴェネチアとナポリより、カンツォーネ 4′
Int
ベートーヴェン 交響曲第3番変ホ長調エロイカ 15-12-6+11′
(encore)
シューベルト ロザムンデより、第3番 5′
ステファヌ・ドゥネーヴ 指揮 ブリュッセル・フィルハーモニー管弦楽団
●
改名を重ねている初来日のオーケストラ。これまで持っていたイメージというのは、歴史的に、それと最近の鬼才タバシュニク絡みで、現音得意系オケ。
技巧を前面に出すことなくオーソドックス・ヨーロッパを感じさせつつ、得意系は自信満々な演奏を展開していく性能良好オケと思いました。クリアな線。活き活きアンサンブル。自らの伝統をバックに現代音楽までの様式を自家薬籠中の物としている団体と見うけました。素晴らしい。現時点ではドゥネーヴの前のタバシュニクの功績が大きいような気がする。
最初の曲、コネソンの作品。1970年生まれ、2012年の作品。演奏前にドゥネーヴによる解説マイクパフォーマンス。
ベートーヴェンのことを念頭に置いた作品。激烈で最後までテンションが高い。拍子は見る限りシンプルでとりたてて変速拍子ではないと思う。内面よりもベートーヴェンの気性を追ったような作品に感じられる。オーケストラのデモにはいい作品。もう一度聴いてみたい。
次の曲はエンペラー。
モナさんはお初で聴くと思います。両手の骨格だけみていると男のようなたくましさ。大きくて迫力ある手です。出てくる音もそういった類のものかと思ったのですが、実際のところ殊の外デリケートでナイーヴ。強音の方にシフトせず弱音重視のプレイでした。エンペラーの激しさとはだいぶ違う。また緩徐楽章の思索の森、それをかき分けながらの演奏でもない。この2楽章はそうとう意識した弱音プレイに終始したようで静けさの醍醐味のようなものはありました。明らかに意識されたスタイルだと思う。ただ、たくましい手であえて小さい音運びをするには、もっと練り上げられた微に入り細に入りの入念な仕上がりが必要。ちょっとのっぺりした印象が全体を覆う。音楽の表情の豊かさが欲しい。
●
エロイカは明快な演奏で爽快、オーケストラの醍醐味を満喫。
鮮烈な一拍子振り。峻烈なアクセント。細やかな糸の集合体のような鳴りの弦。ノンビブで突き刺すように進んでいく。ウィンド8人衆は総じて強吹きで、大胆なプレイは現代音楽物に一家言あるオーケストラのソロパートの自負を感じる。これらウィンドとブラスセクションのバランスが大変に良い。芯のある弦との融合が小気味よい。
ということで、この第1楽章は提示部リピートありでソナタバランス良好。ドゥネーヴは最後まで一拍子で振りぬいた。
葬送行進曲はスピーディと言えるもので、一か所たりとも停滞するところがない。前進あるのみの葬送。張りつめた空気感というものは無くて、飽くまでも器楽的な響き。速めのテンポ設定にすることによって消えてしまったものがあるように思えた。葬送の歩としてはどうかと思うが、4楽章ソナタ作品としての見通し、バランスの良さはお見事というほかない。
スケルツォは突進力とともに線の細さを少し感じさせる。トリオのホルンはバランスよしだが小粒、手堅い。このオーケストラには名物プレイヤーがいるのかどうかわかりませんけれども、こういったあたりを聴いていると、そういうプレイヤーは必要としないオケのような気もする。まんべんなく秀逸プレイヤーが揃っている。ホルンはエンペラーの4人がエロイカでは別の3人に入れ替わっているように見受けられました。
終楽章変奏曲。導入部の後、弦四弾きから開始。柔らかい変奏とストレートな変奏があり、ノンビブスタイルは一貫しているものの柔軟性が欲しいところもある。1楽章と拍子は異なるが前進する推進力は切れ味の鋭いもので爽快。後半部の丁寧な進め方、それとコーダでアンサンブルがきっちりと鳴っていくあたり、どうしてもこのオケで現代音楽を聴きたくなった。次回の来日では是非、ブーレーズとストラヴィンスキーの作品をお願いします。
15-12-9-8-6型
ドゥネーヴは長身、足の細さは西欧人そのものといった感じ。全体的にギリギリのバランス感覚のような体躯はそのまま彼の音楽を感じさせてくれる。
秀逸な演奏会、楽しめました。
おわり