昔聴いたものを書いてます。
1983-1984シーズンの聴いたもの一覧はこちらのリンクへどうぞ。
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このシーズン、ニューヨーク・フィルハーモニックはクーベリックの棒で9月14日に幕を開けたが、肝心のミュージック・ディレクターが登場していなかった。
約一ヶ月して、今晩ようやくタクトを持った。
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1983年10月11日(火)7:30pm
エイヴリー・フィッシャー・ホール
nyp10,283回
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メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲
ヴァイオリン、イツァーク・パールマン
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マーラー/交響曲第5番
ホルン、フィリップ・マイヤーズ
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ズービン・メータ指揮
ニューヨーク・フィルハーモニック
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どんな感じだったのかしら?
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今シーズン、ズービン・メータが棒を振る最初のコンサートである。従ってかどうか知らないが、このプログラムの定期は今晩だけ。
この曲はやっぱり難しいと思う。みんなが曲を知りすぎているだけに、ちょっとしたミスにもみんな気がついてしまう。特に、ソロパートは十分練習を積んでも積みすぎるということがないように思う。トロンボーンのトップの調子が悪かった。歯切れが悪く、特にピアニッシモが良くなかった。それに比べてトランペットは実にすばらしいアンサンブルで、またソロも出だしから安定感があり音色もこの曲にマッチしていたように思う。ホルンはトップに関して言えば独特の深みのある音であった。ただセカンド以下があまり良くなかった。
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演奏は第2楽章と4楽章が素晴らしかった。特に第2楽章の同一楽器毎のアンサンブルが良い。同一楽器毎のハーモニーが他の同一楽器によるハーモニーと完璧に分離して聴こえ、マーラーの特色がよく出ていたように思う。
また、テンポも妥当性を感じさせるものがあり、特にこの楽章の後半のファンファーレからコーダに戻るときのタイミングが絶妙であった。緩みのない素晴らしい第2楽章であり、このように強い主張を感じさせる第2楽章の演奏というのは今まであまり聴いたことがない。
第2楽章以上に素晴らしかったのが第4楽章で、メータはこんなに柔軟であったかしら。いやメータの演奏は今まで聴いた中にも柔軟性を感じさせるところがあったが、こんなに柔らかで優しい解釈を第4楽章に与えるとは思ってもみなかったというのが素直な感想。
このようなロマンティックな演奏を聴くのは久しぶりである。
この第4楽章を聴くときいつも頭に浮かんでくるのは昔買った小型スコア。たった2~3ページしかないその第4楽章のページから発する弦楽器の優しい音楽。そしてページ数に逆比例でもしたかのように過ぎ去る時間の長いこと。正確な時間は分からないが、感じではバルビローリがベルリン・フィルを振ったレコードと同じぐらいかかっているような気がした。
ここでまた思い出すのがブルーノ・ワルターが同じニューヨーク・フィルハーモニックを振った古いレコードです。この指揮者に対する一般的なイメージとはまるでかけ離れていて、ものすごいスピードで音楽が進んでいったことを思い出さずにはいられない。
同じニューヨーク・フィルハーモニックでも指揮者が違えばこんなに違うのか。そんなことはわかりきっていることだけれども、実際にこのようなメータの棒による第4楽章を聴いているとつくづくそのようなことを考えてしまう。
かろうじてポルタメントは使わない、といったところまでいった極端にして大胆な演奏であった。フレーズというよりもまるで一音ずつ微妙にコントラストを作っているようであり、その陰影の中、アメリカの中にあって伝統の力といったものが見え隠れする演奏だったように思う。第1ヴァイオリンにはある種の落ち着きがあり、水中で楽器を弾いているような水っぽさがあった。またこの楽章の低弦部にも節度が感じられ、たとえば、シカゴSO.を振ったショルティのごときステージの底をえぐるような音は決して出さない。あくまでも第1ヴァイオリンに追従しているような理性的な音である。そこにはこの大編成のオーケストラのなかにあっても常にバランスを忘れない姿があり、そのような姿勢をもった演奏はやっぱり美しいと思う。
たしかにマーラーの求めていたものはワルターのような演奏であったかもしれないが、今は、メータのような演奏が実に好ましく感じられる。
第5楽章にはメータとニューヨーク・フィルハーモニックの息の合ったところがよく出ていて、安定感があり、この一見ごつごつしたところのある音楽がひたすら開放に向かって、明るく輝き、求める喜びの一点に向かって進むその姿は‘音楽の中の幸福’を感じとるのに十分。やっぱり第5番を聴くとき、それはひたすら第5楽章を聴きたいためなんだなあ、とつくづく思う。
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メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。みんな裏も表も全て知っている曲だけに演奏者もあまりやりやすい曲ではないだろう。しかし、さすがパールマンのヴァイオリンは素晴らしく、特に高音のはちきれんばかりの非常に美しい音は緊張感を含みながらも柔らかさを失うことはなく安心して聴いていられる。
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しかし
メンデルスゾーンのような曲だと、美しさがある一定の方向にしか向いていないので演奏する前から、最高に美しく表現されればどのようになるかということがある程度予測がつきあまりスリルがない。例えばシベリウスなどを演奏した場合には、こちらとしてもまたいろいろと別のことに考えを張り巡らせることができると思うのだが。
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この日の演奏は、
WQXR 1984.3.25 , 3:05pm
ブロードキャストされました。
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コメントありがとうございます。
メータの意を汲んだニューヨーク・フィルの演奏は素晴らしいものでした。やわらかくてスケールが大きくて、一心同体であったと思います。
メータがニューヨークフィルの弦からそのような素敵な4楽章の演奏を導き出したことを知り、
とてもうれしく思います。
ブラスセクションは圧巻だったんでしょうね。