2019年4月5日(金) 7pm-10pm 東京文化会館
ワーグナー 作曲
さまよえるオランダ人 全3幕 コンサートスタイル、字幕付き、映像付き 11+41、58+28
キャスト( in order of voices’ appearance)
1.水夫たち
2-1.ダーラント、イェンス=エリック・オースボー(Bs)
2-2.舵手、コスミン・イフリム(T)
3.オランダ人、ブリン・ターフェル(BsBr)
4.娘たち
5-1.マリー、アウラ・ツワロフスカ(Ms)
5-2.ゼンタ、リカルダ・メルベート(S)
6.エリック、ペーター・ザイフェルト(T)
合唱、東京オペラシンガーズ
映像、中野一幸
ダーヴィト・アフカム 指揮 NHK交響楽団 GCMライナー・キュッヒル
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(duration)
序曲 11
ActⅠ 41
Int
ActⅡ+ActⅢ 58+28
東京春祭り2019。序曲からそのまま第1幕。休憩を挟んで2幕3幕と続いていく仕様。
昨年までの作品からすると一回り小さくなった感は否めないものの、ビッグな3人衆のお見事なさま。計6人衆による歌いっぷりはオペラの醍醐味をまるごと満喫、何も考えずに楽しめばよい。のだろうけれども、個人技はいきなり冴えわたるものの、全体の流れが良くない、オーケストラもいまひとつ。指揮がまとめ切れていないし、ワーグナーの流れを作り出していない。いいものとそうでないものが入り混じって、チグハグ。
ダーラントはアイン・アンガーに代わってオースボーという方。映像は昨年までより精巧になったような気がするが、歌い手たちの中に入っていくことは無いので飽くまでもイメージによる補完。
アフカムの一振りで序曲から始まった。緩急をかなりつけていて濃い内容。緩での丁寧なオケ扱いは、これまで何度もこの作品を振っているのだろうなあと思わせる。ひとつずつ粒の様な音だ。一幕にそのまま入っていく。
代役オースボーのダーラントと舵手のイフリム。オースボーは線が細く、崩れず、安定感ありで、こう言っては何だが、思わぬところでいい歌を聴けた。線が細いというか、一つのピッチはひとつの音と思わせるところがあって、山の尾根的な際どさが緊張感を生んで継続していく。
オランダ人のターフェルが易々と絡んで軽く歌う。歌い口がいかにも慣れていてお見事の一言に尽きる。ただ、シーン全体に暗さや、ヒュー・ドロドロドロといった雰囲気が無くて妙に明るい。バックの映像は幽霊船相応な事はしているが奥での出来事であっていくら精巧な絵になろうとも目に見える主役は歌い手たちとオーケストラ。明るい。
そのオーケストラなんだが、歌の伴奏となるときのブラスセクションがかなり粗末。指揮の問題と思う。オランダ人の流れがオーケストラに出来ておらず、歌が束にならずソリストが点になってしまっている。大いなる楽しみも半分なり。
第1幕終って一服で30分の休憩。
第2幕の頭で娘たちの合唱、そしてマリーとゼンタという女性陣が歌い始めてようやく締まった。歌が良く締まっていてオーケストラも少しずつ上向きに。とは言っても最初からキュッヒルの音が飛んでくるのは変わらない。毎年折角のコンマス席なんだからオケの連中も、もっとつられてもいいと思うんだが、あれだと周りは仏像弦、動きのない弦、音も奥行き感無く、昨年までの彫りの深い演奏となっていない。
メルベートは高音までスッキリと伸びて美しい。鮮やかな歌唱。2013~2018年バイロイトでゼンタを歌っているとのこと、さすがですね。聴きごたえありました。
彼女は初台に頻繁に出ているので馴染みもあり、今回の歌も抜群の安定感。さらに一段、高みに昇ったような気がしました。
ちなみに、初台でのメルベートは自分が聴いたものだけでも、昨年2018年グールドと組んだフィデリオ、その前の年はジークフリートでのブリュンヒルデ、2015年にはゼンタ、それから2007年にはタンホイザーでエリーザベトを歌っていましたね。
エリックを歌ったザイフェルトはこのオペラの主みたいな歌いっぷりで、役どころオーバーという余裕の歌唱。メルベートとの絡みもお見事の一言に尽きる。
ターフェル、メルベート、ザイフェルト、この3人衆の歌であっという間に終わってしまったオランダ人でした。まあ、オペラとしては物足りない。歌ってる連中が大きすぎたのかな。
おわり