何でも彼でも“情念〈パッション)”で割り切ろうとする処が“世界史の基本法則”よろしくほとんど金太郎飴状態だが、それを我慢すればまあ面白い“物語”である(精神分析学的方法論を使った歴史学研究というのは、たいてい物語、しかも“”付きの物語しか生み出さない)。しかしそれにしても情念という切り口でタレーランを論じて、カレームを論じないのはどういうことかしらん。食欲も人間存在にとって重要なパッションの一つであろう。もしその理由が、種本にしたフーリエの理論では食欲とは五感の物質的な情念にすぎず、情念としては下位に位置づけられているからというならば、あなた自分の考えというものはないのかと、憎まれ口のひとつも利きたくなるところだ。
(講談社学術文庫版 2009年8月)
(講談社学術文庫版 2009年8月)