書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

山下正男 『新しい哲学 前科学時代の哲学から科学時代の哲学へ』 (その3)

2017年02月15日 | 哲学
 2015年06月08日より続き。

 一般に文章は大きく三種に分類される。(1)言語または記号間の関係を表現する文章,すなわち分析命題。たとえば「Aであり,そしてBであることは不可能である。」(2)経験的事実を報告する文章,すなわち綜合命題。「付きの表面には凹凸がある。」(3)(1),(2)のどちらでもない文章、すなわち情意文。たとえば「源氏物語」はすばらしい。」(3)の部類には倫理的文章(命令文)や美的文章(感嘆文)のほかに,いわゆる形而上学的文章が含まれる。例「人間は自由意思をもつ。」
 文章の以上のような三つの区分にもとづいて,学問全体を三種類に分けることができる。(1)分析命題の集まり,すなわち論理学,数学。(2)経験命題の集まり,すなわち物理学,化学,経済学,社会学等のいわゆる経験科学。(3)情意文の集まり,すなわち倫理,形而上学等。
 (「1 哲学の自訴的な理論」“文章の種類と哲学の三部門” 本書71-72頁)

 第三のタイプの文章である情意文は,分析的手続きと経験的手続きのどちらによってもテスト不可能である。したがってそれは文章ではあるが命題ではない。たとえば「ピカソの絵はすばらしい!」といった審美的文章,「倹約は美徳だから実行しなさい!」,「倹約は悪徳だからやめなさい!」といった倫理的な文章は,そのどちらが真でどちらが偽がを決めることはできない。こういった文章は各人の感情や意思の表明にほかならず,真偽の決められるようなものではない。〔中略〕それらはただ自己の感情の表明,信念の告白にすぎないのであり,したがって真偽を決することができないものである。〔中略〕真の科学的命題は分析命題か綜合命題かでなければならない。 (同上、73-74頁)

(培風館 1966年3月初版 1966年5月初版第2刷)