書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

加地伸行 『孝経 全訳注』

2018年04月08日 | 哲学
 中国人のそういう思考の回路を知らないで、中国人は死一般について思考しないと断ずる(その根底には、欧米流の抽象化一般化をもって思考の最高とする欧米模倣がある)人が多いが、それは欧米近代主義による錯誤にすぎない。 (「六 死と孝と『孝経』と」 163頁)

 私もまったく賛成で、じつは、加地先生の持説(体系的にたとえば『中国人の論理学』で展開されるところの)を、くわしく理解する前に、粗放ながら同じ方向性で意見を立てていて、それを無知は無謀なもので某機会で発表したところ、「漫談」と聞こえよがしに冷笑されたことがある。若い頃運動していて勉強していない系の先輩だったから加地先生の御説をご存じなかったのだろうし、それはそれで構わないのだが、ただもし知っておられたら加地先生に対しても「漫談」と冷笑されただろうかと、そこには多少興味がある。「あの人は保守反動」と、それで先生の議論を全否定するような想像もしている。「加地先生は右だからその論著は読まないようにしてきました」という誇らしげな言明も、内藤湖南に対する某大先生の前例があるから想定内だ。

(講談社 2007年6月)