書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

荷田在満 『国歌八論』

2012年03月31日 | 芸術
 三枝博音編『日本哲学思想全書』第11巻「藝術 歌論篇」所収。
 印象がひどく近代的である。
 歌とは世の為にもならず、平素の役にも立たぬもの、天地を動かすなど誰が言い出したのかしらぬが出鱈目もよいところと、言いたい放題である。だが歌を貶めているわけではないことが続く行文で分かる。歌とは、ただ好きな者が少しでも上手く詠みたいと思い、他人の良き歌を見ては自分もああなりたいと努めるものである、それだけに一首でも思い通りの出来のものを作ることができれば、それはそれは楽しいものなのだ、と(「翫歌論」)。「翫」とは“もてあそぶ”意。「翫歌」とは、つまり歌をもてあそぶ。歌はむやみに有り難がったりあがめ奉るべきものではないという意味だろう。
 今日の言葉づかいでいえば、歌は芸術もしくは趣味であって、それのみに価値があるのであり、思想や道徳を宣べるための道具ではないといったところ。

(平凡社 1956年4月初版第1刷 1980年7月第2版第1刷)