書籍之海 漂流記

看板に掲げているのは「書籍」だけですが、実際は人間の精神の営みすべての海を航海しています。

藤原敬士 『商人たちの広州 一七五〇年代の英清貿易』

2018年01月18日 | 東洋史
 出版社による紹介

 「序論」の第1節のタイトルが「商人たちの視線に寄り添って」という。そういう発想で書かれている。まあ発想はいいのだが、この語彙と表現を用いる文体で精密な論証は難しいだろうと思ったら、実際できていない。「のようである」「と理解できる」「考えられる」「と言えるだろう」等で文および文章の最後を締め括る思考では、仮説(という言葉が出てくる)は、推論なく、それを支持する確たる論拠なくして、実証されず、推測は推測空想は空想に終わり、その上に立って続く“以下同文”の過程の繰り返しは、すべて無効となる。
 これは史料をふんだんに使ってはいるがあくまで概説書で、研究書ではないのかもしれない。

(東京大学出版会 2017年9月)

箱田裕司/都築誉史/川畑秀明/萩原滋 『認知心理学』

2018年01月18日 | 人文科学
 出版社による紹介

 1昨年院生対象に行った講義・演習テーマの続きで閲読。
 認知心理学自体、disciplineとしては若い分野らしいが、そのせいもあってか、自身および心理学全体としてのschemeやpremiseに疑問を呈しているところが、共著のせいもあろうが相互の齟齬というかたちで現れていて、非常に興味深い。

(有斐閣 2010年6月)

恐ろしい話

2018年01月18日 | 思考の断片
 いま調べ考えているテーマに関して、何年も前に読んで大いに感銘は受けたが内容は自分の頭で消化しきれず、それから寝かしたままにしてあったある大先達の論著を、いまあらためて開いてみると、今考えていることとほとんど同じ方向性で、ときに個別の議論さえ同じところがある。それを見て、自分がようやくそこまで進歩したのか、それとも無意識のうちにその先達の論著をなぞったのかと、恐ろしくなっている。