くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「あやかし草紙」宮部みゆき

2018-05-06 05:37:18 | 時代小説
 ほぼ一ヶ月、更新も何もせずに生活していました。読んではいたんですけどね……。携帯替えたので慣れないのと、予測変換のテンポが合わなくて気づいたら変な文章になっていたりするのと、四月はどうしても忙しいのと、そんなこんないろいろです。

 「あやかし草紙」(KADOKAWA)、「三島屋変調百物語」の新刊です。第一部完とのこと。
 というのも、おちかが嫁に行くからです。このあたりのことは、以前宮部さんのインタビューで読んでいたので(今回「宮部みゆきの江戸怪談散歩」で新しいものと一緒に再録されています)、予想はしていましたが、うーん、わたしの読解力に問題があるのか、地の文がいうほどおちかに「熱」を感じないというか……。
 まあ、それはともかく、視写する人の運命をあからさまにする本の存在には身震いしました。
 宮部さんの作品は「家」に関わるものが多いですよね。今回も「開けずの間」が怖い。霊的な怖さよりも、欲の深い怖さ。また、「面の家」も性根の悪い娘の語りに苦いものを感じました。
 「金目の猫」は、可愛い感じのふわふわしたものが現れるのでほっとしますが、なんだかやるせないものもありますね。
 今回、「江戸怪談散歩」も買ったので、「曼珠沙華」も読み返しました。
 このシリーズ、新刊のたびに既刊を読み直したくなります……。わたしは全部単行本で買ったのですが、一冊めだけ前の学校に寄贈してしまったのですよ……。
 買い直すべきでしょうか。(前回は図書館で借りました)

「夢裡庵先生捕物帳」泡坂妻夫

2018-01-22 20:49:51 | 時代小説
 最近泡坂さんの本が新装版で刊行されていますよね。嬉しいなあ。この勢いで亜智一郎の未刊行本(生前最後の単行本ラストにそれらしきことが書かれていた記憶が……。間違っているかもしれませんが)を出版していただけないかしら。

 「夢裡庵先生捕物帳」(徳間文庫)、上下巻です。
 わたしは「宝引の辰」は文庫で全部持っている(はず)ですが、同時期に読んだ「からくり富」の方もまた読みたかったのですよ。
 だから、書店で発見してすぐ買ったのですが、ストックを入れる箱に入れたままその上にどんどん積み重ねてしまって……。
 最近週末はどこにも出かけずひたすら本を読んでいて、同じ傾向のものを読みすぎたせいかなんだか読む気力がないというか。
 あと、コンタクトレンズだと夜は読みづらい。
 それで二三日まんがばかり読んでいました。
 で、箱を整理していたらこの本があったので、嬉々として読みました。
 富士宇兵衛門は、夢裡庵先生とも呼ばれる八丁堀同心。
 様々な事件を解決していきますが、彼は狂言回しの役割で、前短編に登場した人物が次の話にも続けて中心的役割を果たします。いわばしりとりのような構成ですね。
 捕物帳ってレギュラー以外は入れ替わりが多いかと思うのです。でも、印象的な人はしばらくするとまた登場したり、すごく親近感がある。
 中でもやっぱりお千代さんでしょうか。
 青馬の俵助という御用聞きの娘で、ときに父親の代わりを務める男まさり。三十になるけど、囮捜査で若い娘に扮することもできます。
 あと、小桜屋の女将たけもいい味出しています。

 読んだのが、かれこれ十年以上前なので、筋はほとんど忘れていて新鮮でした。「一天地六」のさいころの話を始め、ぼんやりと覚えている部分はあると思います。
 エピソードを結構予測できたので、記憶のどこかに残っているものがあるのかもしれません。
 夢裡庵先生、年配のイメージだったので、最後が思ったより血気盛んで驚きました。彰義隊に入って大砲のデモンストレーションに参加してみたり……。
 泡坂さんの本、いろいろ読み返したくなりました。

「この世の春」宮部みゆき

2018-01-08 06:38:49 | 時代小説
 宮部さんのデビュー三十年記念作品「この世の春」(新潮社)、上下巻。思ったより早く借りることかできました。
 時々テレビで集中できなくなりつつ……。
 宮部さんの時代もの。しかもサイコミステリと聞いていたのですが、それ以上の予備知識がなかったので、はらはらドキドキしながら読みました。
 各務家の娘・多紀は、隠居した父親の面倒を見ていましたが、その父が急逝。前後して、領主北見重興が押し込めとなり、寵臣だった伊東は失脚します。
 多紀が隠居所の整理に戻ると、従兄弟の田島半十郎が待っており、北見家の別邸で元江戸家老の石野織部から「御霊繰」という技法の末裔であると告げられます。
 さらに、自害したと言われていた伊東は岩牢に閉じ込められており、多紀の母が自分の母の妹であること、郷里の村は何者かによって皆殺しにされたこと、その死霊が重興に取り憑いているのだと言い出します。

 と、ここまで読むと、「視点伊東で復讐譚にしてもよさそうだけど……」と思うのですが、どっこいこれが重大なフェイクでして。
 その後、多紀の目の前に、重興の中の子どもの心「琴音」が現れるのです。
 そう、これは多重人格ものなのですよ。
 重興の中には、琴音の他にすすり泣く女と猛り狂う男がいるらしいのです。
 また、半十郎は城下の花街で、鍵になる事件に触れることになります。
 重興押し込めの背後にある陰謀。誰が味方なのか。「面」の果たす役割は何か。村が根絶やしにされた理由は?
 謎が謎を呼び、翻弄されていく中で、多紀は重興を慕うようになっていきます。

 どろどろした因縁や呪術的な彩りがあっても、多紀や周囲の人々の懸命さに救われます。
 わたしは女馬喰のしげに心引かれます。暴れ馬を制し、忍びをかわす契機を作り、なんかかっこいいんですよぅ。
 宮部さんのパターンだと「石野は作中で亡くなるのでは?」と予想していましたが、幸いそんなこともなく。
 非常に残酷な物語なのですが、そして、一歩間違うとありきたりになってしまいそうなところをうまくすくっていく宮部さんの力に改めて感心してしまうのです。

「まるまるの毬」西條奈加

2018-01-01 10:03:20 | 時代小説
あけましておめでとうございます 
 
 年末最後に読んだのは、西條奈加「まるまるの毬」(講談社)です。
 とあるブックエッセイで気になって借りてきました。
 諸国の名物菓子を日替わりに廉価で販売する南星屋は、主人の治兵衛と娘のお永、孫のお君で商う小さな菓子屋。
 若い頃には国中を歩きまわって菓子づくりを覚えた治兵衛ですが、あるとき「印籠カステラ」を販売したことで奉行所に出頭を命じられます。平戸松浦藩の門外不出の菓子「カスケード」の技法を盗んだと疑われたからです。
 治兵衛は旗本の家に生まれながらも菓子職人になった男で、実は出生の秘密が。
 
 この事件が縁で知り合った松浦藩の河路金吾や、治兵衛の弟石海(名刹の高僧)、お永の別れた夫などが登場しますが、わたしは治兵衛の兄嫁のお芳さまが素敵だと思いました。
 季節のお菓子と心に沁みる物語が、本当に愛おしい。
 お君が自分の思いに踏ん切りをつける場面は、涙が止まらず……。
 武士ではなく菓子職人になりたいと言ってやってくる翠之介の話「若みどり」と、幼少期の治兵衛・石海兄弟のエピソード「大鶉」が良かった。
 西條さんは少年を描くのがうまいですよねぇ。

 今年もよろしくお願いします。

「とるとだす」畠中恵

2017-10-30 05:41:40 | 時代小説
 一太郎の父親・長崎屋藤兵衛が倒れて意識不明に!
 どうも薬種問屋の集まりで勧められた薬をいっぺんにのんだらしい。一太郎に縁談を迫る大店や、恨みをもって凶骨となった男、蜃気楼、非時香果など、盛りだくさんの内容でした。
 このシリーズも、長く続いているせいかキャラクターが多すぎてあれこれ細かいことを忘れてしまうわたしには、ごちゃごちゃになってしまうこともあります。
 霊顕あらたかなお寺は、二軒(二社か……?)あったのですね。
 強そうな寛朝さんが広徳寺で、弟子は秋英さん。自己評価が低いけど人には見えないものも見える人でしたっけ。
 寛永寺が寿真さんで、弟子は天狗の黒羽ですね。
 今回も若旦那や二人の兄や、金次やら屏風のぞきやらおしろに鳴家と大活躍なんですが、薬種問屋なのに薬の飲み合わせを考えずにのんでしまう藤兵衛さんに驚きました。

「花しぐれ」梶よう子

2017-08-21 05:12:30 | 時代小説
 「御薬園同心水上草介」の完結編です。梶よう子「花しぐれ」(集英社)。
 最初からネタバレですみません。このパターンは「星へ行く船」ですよね! ラスト残り十ページくらいで、ようやく草介が思いのたけを告げ、その後は紀州に行く送別会があったけど千歳は現れない。これはきっと……と思ってたら、予想通りでした。
 今回は草介の両親がいい味出していました。
 お母さんの栗ご飯がすごくおいしそう! で、栗の葉で染め物をすることにした職人さんと奥さん。栗のいがも薬になるんですね。しかも、鳥居一派の妨害に使うとは。
 今回は園丁頭が結構活躍していて、娘さんが気に入らない若旦那と結婚するのはショックだったと思いますが、土に隠れた植物をみつけるのもうまいし、年始の挨拶でも水上家を訪ねてきてくれます。
 あとは双子の芸人の話もおもしろかった。
 わたしはこのシリーズ、かなり好きなので、終わってしまうのは残念です。新天地での二人の新婚生活も読みたいところなんですが。
 

「ひとめぼれ」畠中恵

2017-08-11 05:05:13 | 時代小説
 相馬小十郎がかっこいいなあ。畠中恵「ひとめぼれ」(文藝春秋)。「まんまこと」のシリーズ六冊め。
 読むたびに、この本を揃えようかなと思ってしまうのですが、ついいつも借りてきます。
 今回は、タイトルと帯の感じから、相馬吉五郎がメインであることは感じていました。前回清十郎も嫁取りをしたし。
 でも、確か許婚がいたよね? だから養子になって相馬家に入ったんだよね? ということは?

 「わかれみち」「昔の約束あり」で、許婚の一葉が結構吉五郎を頼もしく思う場面が多かったので、さらに気になります。
 わたしは、てっきり吉五郎がどこかのお嬢さんにひとめぼれしててんやわんやの騒動になるのかと思っていたのですが。
 見目いい男に心惹かれてしまったのは、一葉の方でした。
 一葉の婿になれば、相馬家を相続し侍になれると思った仏具屋の倅春四郎。腕っぷしも弱いのにあきれるばかりですが、当の一葉が夢中になっているのでどうしようもありません。
 吉五郎はしょんぼりし、小十郎も悩んでいる様子。果たしてどうなるの?
 小十郎の出した結論、わたしには納得できました。春四郎は少し打算的だと思いますが、商家の四男としては仕方ないのかな。
 続刊が楽しみです。

「剣と紅」高殿円

2017-02-18 09:25:35 | 時代小説
 高殿円さんが時代小説! しかも、大河の主役井伊直虎を描いているというので、読んでみました。(大河は見ていませんが……)
 「剣と紅 戦国の女領主・井伊直虎」(文春文庫)。
 今回の大河ドラマ開始とともに、関連本が随分出たのでその一環かと思ったのですが、連載は2011年。
 井伊直虎は、日本史のど真ん中には出てこない人物かと思うのですよ。こういう人をモチーフに描こうと思われた動機を知りたいように思います。

 この娘は世を動かすだろうと名僧に予言された香(かぐ)。人の死を予兆する黒い靄を目にし、先を見通す力をもつことから、民衆から「」と崇められます。
 井伊家の一人娘だった香は、いとこの亀之丞(直親)と結婚して家を守ることになっていました。しかし、ある謀略から亀之丞の父が死に、彼自身も逃げ落ちていかなければならなくなります。
 家老の息子小野政次が求婚してきますが、香は剃髪し、尼になることを宣言。
 政次は戦国の世を渡るために、井伊家中の武将たちを謀殺していく中心となります。
 香は、政次とともにある白い影が気になるのですが……。

 直親が逃亡先で情を交わした娘きぬ、奥山家の四姉妹、祖父直平と尊師南渓、商人瀬戸方久。様々な人物たちも魅力的です。
 また、成長した養子の直政が、家康に昔語りをするという構成も、血脈が受け継がれていく世を感じさせてくれます。
「誰しも、橋の上で同じ水を二度と見ぬ」
 効果的に使われるこの言葉と合わせて、歴史のうねりを味わえる一冊でした。


 今日でブログをはじめて三千日となりました。早いものですね。

「まことの華姫」畠中恵

2017-01-17 20:30:39 | 時代小説
 次に予約が入っていることで読み始めたのです。
 とても読みやすかった。
 畠中恵「まことの華姫」(角川書店)。
 華姫とは、月草という男が操る姫様人形。月草はもともとは人形師でしたが、工房が火事にあい、そのためにけがをして現在は腹話術の芸人として身を立てています。
 理屈として、月草が話していることはわかっているはずなのに、お華の可憐さに心ひかれてしまう人々。
 親分の娘のお夏も加わって、様々な事件に関わっていきます。なにしろお華は真実を語ると言われている人形。毎日小屋は大繁盛です。
 「お華追い」と言われる追っかけまでいるんですよ。

 火事のどさくさで生き別れになった子どもを判別する話では、候補となる子がたくさん出てきて困惑します。誰が本物なのか教えてほしいというのです。
 もちろんお華にわかるはずはないのですが、推理や洞察で判断していく。
 お華の目は、真実の井戸から汲み出した水から出てきた玉を使っているため、本当のことを見通せるらしいのですが。
 すみません、急いで返したので誤読かもしれませんが、井戸は江戸にあり、月草は西国で人形を作ったのですよね? 玉はわざわざ西国に運ばれたの?
 やりとりや仲間同士の連携がおもしろかった。やっぱり畠中さんは団体活動ですよね!
 

「三鬼」宮部みゆき

2016-12-18 20:01:02 | 時代小説
 「三鬼 三島屋変調百物語」(日本経済新聞出版社)、良かったです。
 待ち望んだ四冊め。おちかの身辺も移り変わります。
 正直、青野先生の決意はショックでしたが……。
 
 「迷いの旅籠」は、山中の村に「おばけ」が出た話。死んだ肉親に会いたい絵師が行ったことは……。
 「食客ひだる神」、だるま屋さんの弁当がすごくおいしそうなんです。この仕出し屋さんが、夏の間はなぜ営業しないのか。それは、ご主人に憑いているひだる神を太らせないため。神様のダイエット!
 ユーモラスでしみじみとしました。
 宮部さんは陰と陽の話を交互に意識して語っているそうですが、こちらは陽ですね。ひだる神との交流が、柔らかいものを感じさせてくれました。
 「三鬼」は、冒頭の妹のエピソードだけても腸が煮えくり返るような思いを感じましたが……そのあとの、鬼も、開拓の村も、そこにしか行きようのない人々も、もうみんなつらい。
 「三」というからには、やはり村井も須加も、鬼だということなんですよね。欣吉の姿も哀れです。
 「おくらさま」。よくこんな設定を思いつきますよね……。
 尋常ならざる老女が語る火事と、香具屋の蔵に住む「おくらさま」。それは、おちかの夢なのか。
 それ以上に青野先生のゆくたてと、どうやらおちかと縁のあるらしい瓢箪古堂の勘一さんの登場が、これから先の物語のことを想像させられました。