今日はいつもほど疲れていないのでじっくり魚をご紹介。この間このぶろぐでも紹介したコモンイトギンポの近縁種。スズキ目・タウエガジ科・カズナギ属のトビイトギンポ。
トビイトギンポは同じカズナギ属のコモンイトギンポに似ているが、背・臀鰭に三角形のような模様が入るので見分けることができる。コモンイトギンポでは背鰭と臀鰭に、2本でひと組となった暗色の線が入っているので見分けることができるが、慣れないと難しい。標準和名ギンポは、ニシキギンポ科と呼ばれる本種とはまた異なる科の魚である。尾鰭の形状が本種と異なり、見た目から見分けるのは難しくはない(ただ、ギンポとタケギンポなど、属内での見分けが難しいことはある)。
口は大きく、この仲間は口を大きく広げて威嚇をすることがある。ウツボの仲間と間違えられることもあるが、ウツボの仲間と異なり胸鰭があることや、ウツボの仲間では見られない背鰭の鰭条が明瞭であることが特徴。なおこの属は背鰭棘条がほかの一般的な魚と比べると多く、「日本産魚類検索 第三版」によれば28~37棘、さらにその後方に78~89軟条がある。
ちなみにこのトビイトギンポと、よく似たコモンイトギンポを合わせたこの類を「イトギンポ」とまとめて呼ぶこともあるが、この標準和名をもつものは別の属であるため注意が必要とされる。種の標準和名イトギンポは駿河湾などのやや深海から得られている稀種である。イトギンポ属の魚はカズナギ属よりも体高が低く、また背鰭棘数も著しく多くその数は100棘を超えるとされる。カズナギ属の場合40棘以下なので、明らかに数が桁違いである。なお、Fishbaseではこの属はEulophiidaeとされる。カズナギ属およびヒメイトギンポ属からなるものはNeozoarcidaeという別属とされている。ただ分子分類学的なものなのであまり信用していない。おそらくこの2属は科として分けられないのでは、とも思っている。なお、Eulophiidaeはイトギンポ属の3種と北海道にすむオビギンポ、千島列島から記録されているAzygopterus属(1種)の合計5種からなる。
トビイトギンポは冬~春、まだ海藻が多い時期に浅い潮だまりで採集することができるが、5月の大型連休を過ぎると浅瀬から姿を消してしまう。一体どこへ行くのかはわからない。ライフサイクルを終えてしまうのか、それとも深場へ移るのだろうか。潮だまりで採集されたものはアクアリストにより飼育されることもあるが、低めの水温が必要なので長期飼育が難しく、一般的な海水魚の飼育に適した25℃では長生きさせられない。なお、トビイトギンポの分布域はコモンイトギンポと比べると少し広いようで、千葉県~和歌山県の太平洋岸、瀬戸内海に分布している。コモンイトギンポは千葉県から三浦半島までとされている。両種ともに日本固有種である。