SNSなどで魚の写真を撮影し、アップする。そこに回答がつく。しかしFacebookのように一つの回答にたくさんのコメントがつくことがあるSNSでは、ただしい同定結果に辿りつかないこともあるので注意が必要だ。写真の魚をアップしたら「ダイナンギンポ」という返信がつけばよいのだが、「ギンポ」という回答が返ってくることもある。これはよくない。
ダイナンギンポはよく「ギンポ」と呼ばれているのだが、実際にはギンポとは異なる魚である。ギンポといえば天ぷらの原料としておなじみの魚なのだが、ダイナンギンポとは上位分類群の「科」の時点でことなる魚である(ギンポはニシキギンポ科、ダイナンギンポはタウエガジ科)。さらにややこしいのは上位分類で「ギンポ亜目」とした場合、ニシキギンポ科もタウエガジ科も、あるいはベラギンポやトビギンポの類も含まれない。ギンポ亜目はイソギンポ科やヘビギンポ科などが含まれる。ちなみにニシキギンポ科aやタウエガジ科の魚は、ゲンゲ科やメダマウオ科、オオカミウオ科などとともにゲンゲ亜目に含まれる。
ダイナンギンポの腹部の側線
ギンポ
ギンポとダイナンギンポの大きな違いは体側にある。ダイナンギンポには網目状の側線が体にあるが、ギンポにはない。またギンポは体がダイナンギンポよりも薄っぺらいように見える。いずれの種も、腹鰭はえらく小さい。写真はダイナンギンポの腹部の側線で、この角度から見るのがわかりやすいだろう。ダイナンギンポは、幅広いガタイからウツボと間違えられることもあるようだが、腹鰭がある(ないのもいる)ことや、尾鰭があること、胸鰭があることなどでウツボと見分けるのは難しくない。
ダイナンギンポも決してまずい魚ではないのだろうが、天ぷらだと身が薄いギンポのほうが食べやすく美味しいであろう。磯釣りでよく釣れるのはダイナンギンポのほうで、ギンポのほうは岩礁での釣りよりも、藻場で藻ごと掬うと入っていることが多いように見える。釣りでは落とし込みの小物釣りで釣れることがあるが、あまり多くは釣れない。ギンポは夏に三河湾で水深30mほどの(比較的)浅場を曳く底曳網に入っていたのを見たが、浅瀬は水温が高いので、夏季は深場に避難しているのかもしれない。
ベニツケギンポ
ダイナンギンポ属は日本に3種がいる。ダイナンギンポとベニツケギンポが普通種であるが、近年モヨウダイナンギンポという種が2015年に日本から新しく報告された。日本近海や朝鮮半島に分布し、胸鰭に模様があるのが特徴であるが、あまり日本では多く見られないのか、写真では1回しか見ていない。今や遺産的な存在となったmixiのコミュニティで見ただけである。一方のベニツケギンポはダイナンギンポに非常によく似ているが、鰓蓋上方に明瞭な赤色斑があることや側線の様子などで見分けることができる。
一方ギンポを含むニシキギンポ属は5種が知られる。しかしながら本州~九州で見られるのはギンポとタケギンポくらいである。しかしこの2種はよく似ていて見分けにくい。ほかの種類は東北から北海道に見られ数も多い。いずれにせよ、ダイナンギンポ属もニシキギンポ属の魚も温帯性の魚で、琉球列島には分布しない。