語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【TPP】漂流する可能性が出てきた ~大筋合意見送り~

2015年08月17日 | 社会
 (1)「大筋合意の確率は70%」
 という甘利明・TPP担当相の読みは、大甘だった。
 7月末からハワイで開催されていた環太平洋経済連携協定(TPP)の閣僚会合は、合意に至らないまま閉幕した。

 (2)甘利大臣が読み違えた理由は、“伏兵”の存在を軽く見ていたからだ。
 「日米交渉がまとまれば、あとは何とか決められると考えていたのではないか」【菅原淳一・みずほ総合研究所上席主任研究員】
 ところが、会合が始まると、ニュージーランドが日米などに乳製品の輸入拡大を求め、強硬な姿勢を最後まで崩さなかった。
 自動車や自動車部品の交渉では、日米は関税撤廃で合意する方向で進んでいた。しかし、メキシコとカナダが、原産性基準【注1】について、日本が主張する40%台では小さすぎるとして反対し、交渉が難航した、と言われる。
 また、医薬品の新薬承認に必要なデータの保護期間でも折り合いが付かなかった。

 (3)7月末からの閣僚会合で大筋合意が先送りされたことによって、TPPが漂流する可能性が出てきた。
 米国(来年に大統領選挙)の政治日程が厳しくなってきたからだ。
 現時点では、大筋合意が実現するのは、早くても9月、と目される。
 その場合、米国政府がTPPに署名できるのは12月となる。大統領貿易促進権限(TPA)【注2】には「90日ルール」【注3】があるからだ。
 しかし、
   12月にはクリスマス休暇がある。
   2016年2月からは大統領予備選挙が始まる。
 民主党内部ではTPP反対派が多く、予備選が始まると、TPPは蚊帳の外に置かれる可能性が高い。  

 (4)大筋合意に先送りは、日本の政治日程にも影を落とす。
 2016年夏に参議院選挙を控える自民党としては、その前にTPP法案を可決する手はずだった。大筋合意がずれ込めば、参院選でTPPが争点となる可能性がある。
 今年9月の自民党総裁選挙で安倍晋三・首相が再選されるのは確実、と言われる。が、支持率の低下が続けば、参院選前に農業従事者を茂樹するのは得策ではない。
 TPP法案可決を急ごうにも、党内から反撥者が出てくる可能性が高い。
 TPPは、日本でも停滞する可能性があるのだ。

 (5)TPPを輸出拡大や機構改革の起爆剤にしようとしてきた安倍政権にとって、7月に大筋合意できなかった打撃は、ボディブローのように大きく効いてくることになりそうだ。

 【注1】TPP圏内で一定の付加価値比率を累積で満たせば圏内原産と認定される基準。
 【注2】政府が他国と結んだ通商合意について、議会に修正なしで賛否の議決を求めることができる権限。
 【注3】議会に通知してから90日たたないと、政府は署名することができない、というルール。

□大坪稚子「想定外のTPP見送り 日本が読み違えた“伏兵”」(「週刊ダイヤモンド」2015年8月22日号)
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 【参考】
【メディア】とTPPの「壁」を突き崩す調査報道(2)
【メディア】とTPPの「壁」を突き崩す調査報道
【米国】が狙い撃ちする日本の自動車部品メーカー ~カルテル摘発続出~
【TPP】の最大の抵抗勢力 ~米国の議会と社会~
【TPP】というゾンビに食い荒らされる日本
【TPP】というドラキュラの死とTPPのゾンビ化
【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~
【食】「多古町旬の味産直センター」の試み ~農業経営の安定化~
【TPP】「限界農業」化の危機 ~農業の持続可能性~
【TPP】持続可能な農業を ~いま必要な政策~
【TPP】自民党の二枚舌、甘利大臣の無知
【TPP】国家主権の放棄 ~国民の知らないところで~
【TPP】条件闘争は不可、途中下車も不可 ~韓米FTA~
【TPP】1%の1%による1%のための協定 ~医療・食の安全~
【TPP】安部首相の二枚舌 ~信じがたい事態~
【TPP】医療制度崩壊を招くTPP参加
【TPP】その先にあるFTAAP ~国家ビジョンの不在~
【TPP】米国製薬会社の要求 ~日本医療制度の営利化~
【TPP】蚕食される医療保険制度 ~審査業務という盲点~
【経済】TPP>米韓FTAの「毒素条項」 ~情報を隠す政府~
【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~
【経済】中野剛志『TPP亡国論』
【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
【震災】復興利権を狙う米国
【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ ~外資・外国人労働力・TPP・法人税減税~
【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題 ~「超」整理日記No.541~




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1 コメント

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脱 国民洗脳なら副島隆彦の学問道場 (脱 国民洗脳なら副島隆彦の学問道場)
2015-08-17 09:15:31

アメリカの属国、つまり家来国家 日本! アメりカの洗脳広告代理店、電通による、テレビ、新聞、週刊誌、ラジオ等の、マスコミを使った偏向報道で、見事な国民洗脳をされ続ける日本人は、自分自身の脳、すなわち思考そのものを点検せよ! さらにネット洗脳システムのツイッターやフェイスブックの利用、まとめサイトには注意が必要である。 我々はハッ、と気付いて、常に注意深く、用心して、警戒し、疑いながら生きれば、騙されることはない。 すべてを疑うべきなのだ!
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