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表参道スワマエ商店街会長のひとり愚痴

高田郁著「八朔の雪」

2009年08月16日 | わたくしごと、つまり個人的なこと
          
高田郁著「八朔の雪」角川時代小説文庫
最近、本屋さん推薦というのが流行っております。プロが選ぶという意味で、なんとなく間違いないといった印象を受けますが、その中の1冊であります。
大坂の料理屋に奉公していた澪(みお)は火災に合い、女将さんと共に江戸に出てくる。そこで“つる屋”という飯屋に勤めながらいろんな料理を工夫して成長していくお話だ。江戸の町を舞台にした市井もので、人情と料理レシピが絡んだ物語となっている。
大坂で幼い頃友達だった野江とは、小さい頃別れ別れになるが、二人は江戸に来ていた。そのあたりの絡みも感動的だ。
主人公は、いろいろなひとの意見を率直に聞き、絶えず工夫を重ねて新しい料理を作り出していく。ぴりから鰹田麩・ひんやり心太・とろとろ茶碗蒸し・ほっこり酒粕汁。こうしてみると形容詞頼りの感も受けるが、下町を舞台に若い女性を主人公にして、けなげでやさしさが一貫して出された物語となっている。
ヒット商品を出してもすぐ真似されるが、それにもめげずまた新しい料理を作り出す。弱者であるが故、ひどい仕打ちを受けるが、決して負けてはいけません、商いというものは素直な気持ちで絶えず挑戦していくものですよと教えられる。

雲外蒼天。
そうだ、長く忘れていたが、易者の水原東西は、澪に艱難辛苦が降り注ぐ、と予言した後、確かにこう言葉を続けたのだ。
「けんど、その苦労に耐えて精進を重ねれば、必ずや真っ青な空を望むことが出来る。他の誰も拝めんほど澄んだきれいな空を。ええか、よう覚えときや」
長い間。垂れ込めた雲ばかりに気をとられて来た。その上に広がる青い空を忘れてしまっていたのだ。
見てやろう。どうあっても、青い空を。
澪は折っていた膝をのばして、ゆっくりと立ち上がった。もうその瞳に涙はなかった。


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