29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

顔と性格との関連を分析、特に童顔にこだわりあり

2012-12-07 10:34:04 | 読書ノート
レズリー・A. ゼブロウィッツ『顔を読む:顔学への招待』羽田節子, 中尾ゆかり訳, 大修館書店, 1999.

  顔をめぐる心理学の一般書籍。原書は1997年発行。顔を手掛かりとして、持ち主の性格や、進化論でいう適応度などが読み取れるかという問題を扱っている。で、後者については、左右対称あるいは平均的な顔というかたちで現れるらしい。つまり、そういう顔は、見る側にとって魅力的に感じられる。しかもその感覚は生得的であるということだ。この話は進化心理学関連の他の書籍でもよく出てくる。

  性格と顔の関連についての話の方は込み入っている。まず、一般の人は、顔のタイプに応じた性格の先入観をもっているという。童顔の人は従属的でやさしい、ごつい顔の人は怖くて厳しいなどだ。そうした先入観は、採用面接や犯罪者の量刑にも影響する。しかし、それは多くの場合正確ではないとのことた。ただし正確な場合もある。そうした先入観が、その持ち主の実際の性格に影響する場合である。そうしたケースについても考察しているが、持ち主の属性や置かれた環境によって先入観に沿う形になったり、逆にそれを打破する方向にも働き、いろいろだという。

  全体としてまだわかっていないことが多いとのこと。一方で、童顔については頻繁に採り上げられており、著者のこだわりを感じる。小ネタは面白い(マスメディアで魅力的な異性を見続けていると、身近にいる異性に魅力が感じられなくなる、など)。だが、一文に含まれる修飾語が長くてちょっと読み難い訳である。
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混沌の中に明滅するエレピの音色が美しい初期フュージョン

2012-12-05 15:34:11 | 音盤ノート
Herbie Hancock "Mwandishi" Warner Bros., 1971.

  ジャズ。正確には"Bitches Brew"影響下の初期フュージョンで、ダークで混沌とした音を聴かせる。エレクトリックピアノを操るハンコック以下、Buster Williams (Bass), Billy Hart (Drums), Eddie Henderson (Trumpet / flugelhorn), Bennie Maupin (Bass clarinet etc.), Julian Priester (trombone)という六重奏団に、曲によってはゲスト入る。

  長尺オリジナルを三曲のみ収録している。演奏は、エコーをかけたフェンダーローズがきらめく中、これまた電気処理された管楽器が登場してきて、反復ビートにのったりフリー演奏になったりするというもの。ドラムとベースは"Bitches Brew"よりシャープに感じられる。管楽器隊はあちらに劣るものの、カオス感を出すことには成功している。

  個人的には、この前作"Fat Albert Rotunda"(Warner, 1969)を先に聴き、そのジャズロック路線が気に入らなかったために、食指の動かなかったアルバムである。今さらながら聴いてみたら、能天気な前作とまったく雰囲気の違う、シリアスで実験的な作品であった。まあ、聴きやすい作品というわけではないが、ハンコックの甘さの少ない美的センスも十分感じられて悪くない。
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文学から各時代の理想の恋愛像の変遷を描き出す

2012-12-03 09:51:37 | 読書ノート
小谷野敦『日本恋愛思想史:記紀万葉から現代まで』中公新書, 中央公論, 2012.

  日本文学で男女関係がどう描かれていたかを検討し、そこから当時の日本人が理想とした恋愛観を探るという試み。古代から昭和半ばぐらいまでは文学に材料をもとめ、以降は映画・歌謡曲・テレビドラマ・漫画なども扱われる。いつもの小谷野節のため、脱線が多くて読みやすいとは言えない。けれども、彼がこれまで行ってきた議論を総括する著作となっており、彼の作品をたくさん読んできた者にとってはコンパクトに整理された内容に見える。

  前半では恋愛は西洋から輸入された概念だという説を力強く一蹴し、西洋の恋愛表現と古代から近世にかけての日本のそれが比較される。公家文化においては『源氏物語』を筆頭に片思いに苦しむ男の姿が美しく描かれるが、武士の覇権の下では「もてる男」が称揚される。片思いをする男は三枚目役に格下げされ、もてる男一人とそれを慕う女二人の三角関係という恋愛表現のパターンが江戸時代享保期に出来上がる。このあたりは著者の『「男の恋」の文学史』(朝日新聞, 1997)の方が詳しいのだが、西洋の恋愛文学についてなど新しい情報も加わっている。

  後半は、正しく恋慕の感情を扱いえているかどうかで近代作家の作品を選り分ける。特にロマンティックラブ・イデオロギーとの関係が焦点となっており、日本で性道徳が厳しかったのは終戦後しばらくの間の期間に過ぎず、恋愛・性・結婚の三位一体は日本で成立していなかったという。むしろ恋愛と結婚の結びつきのみが強固になり、現在も続いているとのことである。このあたりは著者の『恋愛の昭和史』(文藝春秋, 2005)の方が詳しいが、明治時代も押さえているところがポイントだろう。

  新書なので裏付けとなる材料は不十分に見えるが、著者の他の作品を読めということだろう。脱線部分や個々の作品評価も興味深く、面白い。
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