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ジャケットも編曲も原曲への愛に溢れているが、また過剰である

2012-12-28 15:22:21 | 音盤ノート
吉松隆 "タルカス: クラシック meets ロック" 日本コロムビア, 2010.

  オーケストラもので、CDはクラシックの棚に置かれているようだ。演奏は藤岡幸夫指揮による東京フィルハーモニー交響楽団で、吉松隆(参考)は編曲を担当している。収録曲は、英国プログレバンドEmerson, Lake & Palmerを原曲とする‘タルカス’オーケストラ編曲版、黛敏郎の‘BUGAKU’、ドヴォルザークの‘アメリカ’オーケストラ編曲版、吉松オリジナルの‘アトム・ハーツ・クラブ組曲第1番’となっている。

  聴き物はタイトルとジャケットにもなっている‘タルカス’で、ロックバンド三人編成による原曲に比べると、オケ版はレンジが広くて凄まじくパワフルである。一方で、原曲にあったリズミックなところは無くなっている。なんだろう、原曲はアメリカンフットボールの選手が巨体を揺らしながら、フットワークよく敵をかわし、前に進んでゆくような感覚だったが、オケ版では同じ巨体の前進でも相撲取りが真正面からぶつかってくるような感覚、と言えばわかるだろうか。それはそれで面白いのだが。

  ロック名曲をクラシック音楽的な楽器編成で聴かせるというアイデアは、Kronos Quartetがジミヘンの‘紫のけむり’を弦楽四重奏にしたあたりから、Philip Glassの“Low Symphony”(Philips, 1993)やらBalanescu Quartet“East meets East / YMO”(Consipio, 1997)などいろいろあるが、オリジナルを超えて面白くなったためしがない。これらの例から、ポップミュージックの魅力は音色や音質であって、メロディや和声進行からくるものではないことがよくわかる。

  この‘タルカス’オケ版はそれらに比べればかなり成功していると言える。その原因は、原曲が目まぐるしく展開する組曲で、そもそも交響曲風に編曲するのに向いているということが一つ。もう一つは、ロッククラシックとはいえ原曲のサウンドは現在の耳ではかなり古びたものになっている──僕がプログレをダサいものと扱ってきたニューウェーヴ育ちということもある──ため、それに比べればこの録音は新鮮に聴こえるというのがある。あともう一つは、抑制の美学をまったく感じさせない、やり過ぎで大仰な編曲の勝利だろう。トゥーマッチ過ぎて笑えるレベルである。

  他の曲もいろいろ手を加えているのだが、もっとも素晴らしいのはやはりオリジナルの‘アトム・ハーツ・クラブ組曲第1番’。弦楽器主体の曲だが、メロディもテンポも現代的で、叙情感ありユーモアありで楽しめる展開となっている。さすがである。
コメント
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