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良心的であるがために地味なジャズピアニストのデビュー作

2016-10-07 21:12:42 | 音盤ノート
Fred Hersch Trio"Horizonz" concord, 1985.

  ジャズ。ピアニストのフレッド・ハーシュのデビュー録音で、ベースがMarc Johnson、ドラムがJoey Baronというスポーツカーのようなリズム隊を従えてのトリオ作品である。ビル・エバンス系という触れ込みで聴いてみたのだが、跳ねるような快活な演奏であり、音数も多くて流麗である。後年はもっと落ち着いた演奏となるが、この作品では「弾きまくっている」という印象だ。

  演目には、自作曲一曲のほか、Billy Strayhornの'The Star Crossed Lovers', Herbie Hancokの'One Finger Snap', Wayne Shorterの'Miyako'を配している。加えて三曲のスタンダード曲──'My Heart Stood Still', 'Moon and Sand', 'The Surrey with the Fringe on Top'──も演っている。それぞれビル・エバンス、キース・ジャレット、アーマッド・ジャマルと比較したくなる選曲だが、たぶん狙ってやっているのだろう。少々アレンジされている曲もあるが凝ったものではなく、基本はアドリブを至上とした演奏である。個人的にはこれまで、実験的な和声を追求したり、とことん4ビートを避ける耽美派ジャズピアニストばかり聴いてきたので、ハーシュの演奏はかなりオーソドックスに聴こえる。

  とはいえ優れた演奏である。アドリブにおいて、テンポの良い曲では最初からエネルギー全開でアイデアを紡ぐ一方、バラード曲では静かに始めて徐々に盛り上げるという計算高いところも見せる。タッチは暖かくて優しい。一方で、鋭さや気迫迫る感覚に乏しく、聴き手を溺れさせるような過剰なロマンチシズムもない。このあたりが「良い人だけどなんだけねえ...」と言われてしまうような、なんとなく地味なピアニストという印象の原因なんだろう。好盤であることは確かだが。
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