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功利主義一点突破の倫理学入門書

2012-08-02 09:32:14 | 読書ノート
児玉聡『功利主義入門:はじめての倫理学』ちくま新書, 筑摩書房, 2012.

  倫理学の入門書としてまず功利主義を知ってもらうというコンセプトの著書。キムリッカ(参考)はじめ、政治哲学の教科書ではたいてい冒頭に置かれて批判されているのが功利主義である。だが、否定しがたい長所があるのも確か(例えば安藤馨(参考))。なので、カントではなくベンサムから倫理学に入ってもらおうというのは慧眼だろう。ちなみに、この著者の前著(参考)も僕は読んでいた。

  最初の二つの章で功利主義の何たるかを説明し、その特徴を帰結主義・幸福主義・総和最大化の三点に求める。続く二つの章で功利主義に対する批判を紹介し、それに対応した功利主義である「規則功利主義」を提示する。以降は公衆衛生を例とした功利主義的政策──著者はリバタリアン・パターナリズム(参考)に接近するという──、幸福とは何かということとその計量、感情に基づく倫理観と合理的な倫理観(こちらが功利主義)の二つを人はもっていて二つはしばしば衝突するものになっていること、以上のことを論じている。

  倫理学の本としてはとにかくわかりやすいのがいい。倫理学の諸学説をあれこれ検討せずに、一つの説にしぼって掘り下げたのは良かったと思う。巻末の文献紹介も充実しており、若い人におすすめ。
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