29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

創造と理解のためには有害な表現も受け容れよ、という

2018-05-06 17:13:07 | 読書ノート
ナイジェル・ウォーバートン『「表現の自由」入門』森村進, 森村たまき訳, 岩波書店、2015.

  Oxford University Pressの"A Very Short Introduction"シリーズの一つで、表現の自由を採りあげて議論している。著者は英国の哲学者であり、法学的な視点がないわけではないが強くは感じられない。原理的なところを確認しようという目的の記述である。

  著者は表現規制に批判的である。とはいえ、その理由を掘り下げるのが本書の内容。まずは、ホロコースト否定論を例に「思想の自由市場」が機能していることが示される。真偽を論点とした表現は、仮にその主張が間違っていたとしても、正しい側の理解を深めるのでよい、と。一方、真偽に関係のない表現、ヘイトスピーチやポルノグラフィはどうだろうか。近代社会においては、成人は愚行をすることも許される、一方で他者への身体的危害は許されない。ただし、他者危害の原則において「不快さ」は危害の範疇に入らないと著者はいう。というわけで、ヘイトスピーチ規制は妥当ではなく、ポルノグラフィへの規制も正当としない、ただし子どもを保護するという目的の表現規制はOKということのようだ。

  ただし、著者の記述は一刀両断的なスタイルではなく、さまざまな論点を検証しながらの議論であり、著者の論理に納得させられたという印象はない。反対者の議論にも一理あると感じる。この点で良質な入門書ではある。ただし、インターネットを扱った章は著作権による表現規制に議論が限られており、フェイクニュースについても採りあげてほしかったところ。原書の出版が2009年だから、まだそういう概念がなかったようだ。ただ、著者ならばフェイクニュースも受容することは明らかだ。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 相関関係を示すグラフが充実... | トップ | 早稲田大学での日本図書館情... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

読書ノート」カテゴリの最新記事