29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

暗くてメランコリックな米国産欧風ボサノバ

2016-11-09 10:19:07 | 音盤ノート
Thievery Corporation "Saudade" Eighteenth Street Lounge Music, 2014.

  ボサノバ。シーベリー・コーポレーションについてはよく知らないが、米国ワシントンD.C.を本拠とする男二人組とのこと。1990年代半ばからコンスタントにアルバムを発表しているようだが、いくつか聴いた限りではいわゆるトリップホップ(trip hop)にカテゴライズできる。打込みではあるがあまりダンサブルではなく、楽曲はいずれもスローテンポからミドルテンポで、ゲストボーカルがじっくり歌を聴かせるというスタイル。本作においても、オーケストラをバックに女声が悲しげに歌唱する最後の曲なんかはPortisheadを思い起こさせる。

  このデュオは、これまでレゲエありジャズありのノンジャンルの上物の楽曲を揃えてアルバムを作ってきたようだが、このアルバムはアコギが目立つボサノバ曲とストリングス中心のラテン・ラウンジ曲で統一している。しかもクレジットを見る限りでは、打込みではなく人力演奏のようである。曲毎に五人の女性がボーカルが入れ替わるが、エリス・レジーナ風からフレンチロリータ風まで取り揃えている。タイトルにある「サウダージ」という語からイメージする「爽やかな郷愁感」はあまりなくて、パリ時代のナラ・レオンのような暗くメランコリーな印象が強い。ボサノバと言っても、ブラジル直輸入ではなく、欧州解釈が施されたそれをわざわざ米国人が採りいれた、というひねりのある作品である。

  トリップホップの陰鬱な感覚で演奏するボサノバと言われればそうなのだが、これまでこういうのはあったのだろうか。もしかしたらあるのかもしれないが、これはこれで統一感があってなかなか完成度が高いアルバムだと思う。かなり気に入った。新作がそろそろ出るようだが、この路線を続けてほしいな。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする