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家庭が子どもの学力に与える影響についてのパネル調査

2016-11-07 08:38:35 | 読書ノート
赤林英夫, 直井道生, 敷島千鶴編著『学力・心理・家庭環境の経済分析:全国小中学生の追跡調査から見えてきたもの』有斐閣, 2016.

  子どもの学力に影響する家庭の側の要因を探った研究書。所得や親の学歴が子どもの学力と相関するというのはすでによく知られていることだろう。しかしながら、どの時点でそれらの要因が作用し始めるのか、すなわち「環境を理由とする」学力差が広まり始める時期はいつか、というのはこれまでの一時点の調査ではわからなかった。効果的な政策介入をするにはタイミングを知る必要がある。というわけで、パネルデータによる調査を行ったのが、編著者らのグループである。

  ただし、データが集まり始めてまだ四年。うち、きちんと時間的変化を追うことのできるのは二年分だけで、本書は途中経過報告的な色彩が濃い。いちおう、異なる学年グループの変化を連結してみることで、子どもの各成長時期における家庭の影響を検証している。それよれば、所得は学力と相関するが、因果関係の分析をしてみると有意とはならないという。同様に、問題行動の頻度についても、所得が原因となっているようには見えないらしい。一方、学校行事に熱心に参加する親の子どもは、小学校高学年において学力が高まるとのこと。ほか、似たような所得階層内の学力差、米国との比較、出生時の体重と学力などについて検討されている。

  ソフトカバーで手にとりやすそうな装いの本だが、図表満載であり通読するには多変量解析の知識が要求される。また、結果については適用した分析手法によってまちまちで、章のまとめ部分で、なぜクロスセクションデータの分析とパネルデータの分析では結果が異なるのかについて細かい解説をしていることもしばしば。さまざまな面で所得階層間で差はつくことがあるのだが、詳細に検討すると他の要因(親の学力や、データに現れない生得的素養など)に分解できるのではないか、ということのようである。そのようなわけで、手堅く慎重な内容であるぶん、おそらく読者はスッキリと分かったという読後感には浸れない。続編を待てということだろう。
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