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そこに帰りたいという思いを欠いた、暖かい郷愁感

2012-08-27 12:00:50 | 音盤ノート
Bill Frisell "Have a Little Faith" Elektra Nonesuch, 1993.

  ジャズ。といっても非ジャズ的な内容で、ヴォーカルとバンジョーとヴァイオンを欠いたオルタナ・カントリーロックといった趣きである。ごくまれに体温低めのフリージャズにもなる。編成は、フリゼル(g), Kermit Driscoll(B), Joey Baron(Ds)のトリオに、クラリネット(たまにバスクラも)のDon ByronとアコーディオンのGuy Klucevsekが加わったクインテットである。

  アメリカ的音楽の探求というのがこの作品のテーマ。冒頭7曲がアーロン・コープランドの『ビリー・ザ・キッド』からである。他に、チャールズ・アイブス‘ワシントン・ポスト・マーチ’フォスター、ソニー・ロリンズ‘When I Fall in Love’ボブ・ディラン、マディ・ウォーターズ、マドンナ、ジョン・ハイアットなどを採りあげている。要は、非ヨーロッパ的な米国クラシック音楽、米国民謡、ジャズ、ブルース、フォーク、ポップミュージックなどアメリカ印が押されたものならなんでもいいというわけである。

  バンド演奏は緩く、メンバーが激しく挑発し合う場面は見られない。フリゼルのギターは、たまにハードなディストーションを聴かせることがあるけれども、大方の場面では柔らかい音色でユーモラスかつノスタルジアに満ちたソロを展開する。アルバム全体を覆うノスタルジア感は、涙を見せて過去を懐かしむような情緒感からは遠いもので、現在の生活を十分満足している大人が子ども時代の楽しさを思い返すような感覚である。そこに帰りたいという思いを欠いたもので、子どもの頃一緒に過ごしたみんなは今どうしてるだろうかと軽く気遣うような感覚。

  個人的には、二十歳の頃このアルバムを購入して、即行で中古盤屋に売り払った記憶がある。当時ジョン・ゾーン率いるNaked Cityでの演奏に衝撃を受けてフリゼルに接してみたのだが、このアルバムでののんびりとした演奏は若い頃の僕に退屈すぎた。あれから20年近く経って改めて聴いてみると、今でも緩すぎるという印象は変わらないものの、ここで展開されているノスタルジアの味わい深さを分かるぐらいにはなった。
コメント
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