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セルフ・コントロールをめぐる哲学的・科学的エッセイ

2012-08-10 08:58:00 | 読書ノート
ダニエル・アクスト『なぜ意志の力はあてにならないのか:自己コントロールの文化史』吉田利子訳, NTT出版, 2011.

  セルフ・コントロールをテーマとしたジャーナリストによる考察。自己制御に関する心理学や行動経済学の知識をベース(マシュマロテストなど)に、事例や概念を求めて文学と哲学と渉猟してゆく。消費社会批判の要素もあるが、副題にあるような歴史書ではない。全体としての体系性は無く、雑獏としたエッセイ集である。文章は面白いが、内容が濃いとは言えない。

  とはいえ興味深い知見が得られることもある。例えば「怒りは解放したほうがいいのか、それとも抑え込んだ方がいいのか」という問題。米国では前者が正しいと考えられているようだが、著者によればそれは間違いらしい。感情の表出には、表出それ自体(例えば顔の表情)が感情形成に寄与するという作用があるらしい。笑い顔を無理矢理作っていると気分が楽しくなってくるように。同様に、怒りを表現するにまかせていると、正のフィードバックがかかってより怒りが増してしまうとのこと。抑え込んだほうが気持ちを鎮めやすいという。まあ、抑え込んでばかりというのも体に悪そうだから、適度にというのはあるだろう。

  結論としては、自分の意志力だけで自分を制御することは難しいので、プリコミットメントを使えということである。プリコミットメントとは、3ヶ月で10kg痩せないと一万円払うなどと親しい人に約束したり、クッキーを食べるときは箱から直接ではなく皿に数枚だけ出して箱を隠してから食べる、というようなことである。つまり、自己の外部の者やモノ・制度に行動を拘束されるよう、自分を縛ってしまうことが有益だというわけである。日本人の僕には穏当な主張に思えるが、主体性重視の西欧ではセンセーショナルなのだろうか。
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