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一聴して爽やかだが、実は複雑なアレンジが施されている

2012-05-02 11:30:01 | 音盤ノート
Pat Metheny Group "Still Life (Talking)" Geffen, 1987.

  フュージョン。Geffen移籍第一作であり、ECM時代の透明感をそのままにしながら、編曲やリズム面でより複雑なことにチャレンジしている。編成は、メセニーとライル・メイズの双頭と、当時メンバーだったSteve Rodby (b)と Paul Wertico (d)ほか、ボーカルのDavid Blamiresら三人の準メンバーとなっている。Pedro Aznarが参加したこの前後のアルバムと比べると、スキャットはやや控えめである。

  全編を通じて爽快であり、聞き流すことも可能なように出来ている。しかし、各曲のアレンジは複雑かつ緻密であり、完成までにそれなりの時間がかかっているはずである。副題通り6/8拍子の‘Minuano (Six Eight)’や、二つの異なる曲を打楽器のブリッジを挟んで繋げるパーカッシブな‘Third Wind’など、曲の組み立てはもうプレグレシッブ・ロックである。一方で、‘Last Train Home’を筆頭に、美しいメロディを持った郷愁をかきたてる曲も数曲ある。‘(It's Just)Talk’など、1980年代のPMG諸作に共通するブラジル風味も全開である。多彩な収録曲でありながら、いずれも高い完成度を誇り、アルバムトータルで素晴らしい。

  このアルバムは商業的にも成功したはずだが、緻密なアレンジを施した曲の上でアドリブを展開するというPMGの路線は、後進のジャズミュージシャンに継承されて主流になってゆくことは無かった。なぜだろうか? 1950年代に比べてどんどんマイナーな音楽になってゆくジャズを、もう一度メインストリームにすることのできる唯一の方向性だと思えるのだが。模倣しようにも、1980年代のPMG作品の完成度が高すぎたのかもしれない。
コメント
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