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健康的で力強くて余裕しゃくしゃくの、らしくないECM作品

2012-05-07 09:01:09 | 音盤ノート
Steve Kuhn "Wisteria" ECM, 2012.

  ジャズ。エレクトリックベースを使ったピアノトリオ作品。といっても、時折ギターのようなソロをとることがあるぐらいで、エレべの使い方で特筆すべきようなところはない。メンバーはピアノのキューンと、Steve Swallow (el-b)とJoey Baron (d)。ECMでの前作"Mostly Coltrane"(参考)が素晴らしかっただけに期待したが…。うーん、悪い作品ではないが「並」といった印象。

  静音系の牙城ECMにしてはイキの良いアルバムである。このレーベルらしからぬ4ビートのウォーキングベースに乗って、テクニックをひけらかしながら、ピアノが楽しげに奏でられる。もちろんそうでないミディアムテンポの曲やバラード曲もあるのだが、その健康的で力強いタッチに、昔からのファンとしては違和を感じざるをえない。1990年代の代表作"Remembering Tomorrow"(ECM, 1996)では、豪華に装飾された和音と、崩れ落ちるような線の細いピアノが魅力だった。この"Wisteria"では、そのような病的で神経質な印象は一掃されて、和音よりも単線的なソロが中心の、余裕しゃくしゃくの大御所ジャズが展開されている。勝手を知ったメンバーでアトホームな雰囲気ではあるが、緊張感に欠ける。

  すなわち、1982年の"Last Year's Waltz"(参考)以降の、Venusレーベルなどで展開されている、ECM路線と異なるキューンの嗜好が反映されているのである。本人にとってはECMでこうしたスタイルが認められて喜ばしいことだったろう。しかし、僕にとってはあまりに「普通のジャズ」で面白くない。これを認めたプロデューサーのアイヒャーの衰えのほうを心配する。
コメント
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