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海賊版にも益があると主張する著作権本、ノリは新書風

2012-05-04 08:23:22 | 読書ノート
山田奨治『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』人文書院、2011.

  近年の著作権改正(改悪?)の動向を伝え、批判する内容。若手ジャーナリストのような書きぶりだが、著者は『〈海賊版〉の思想』(みすず書房, 2007)など数点の著書を持つれっきとした学者である。索引の付されたハードカバーの書籍であるが、手に取りやすい新書などの形態で出版したほうが、著者の狙いに沿ったものになったかもしれない。

  内容は次の三つである。第一に、権利保護の強化と厳罰化という現在の趨勢の解説である。利用者が著作物にアクセスできないのみならず、著作財産権の保有者との対立で著作者まで著作物を十分管理できないような状況になっているらしい。第二に、最近の著作権法の改正をめぐる文化庁の審議会およびその下の小委員会の議事録の分析である。消費者を代弁する立場の委員が少なく、保護の強化を狙う権利者側の意見が通りやすい状況が見てとれる。第三に、海賊版の実態とそれが文化の消費を促進するという議論である。中国で製造される海賊版を分析し、正規版では売れ残る可能性の高いマイナーな日本のテレビ番組までもが、海賊版によって現地で広く安価に普及することとなり、海外で日本文化への認知を高める結果になっているという。結果、日本の正規のコンテンツへの嗜好も高まるだろうと。

  本書は、あくまでも現状の動向を伝える内容で、著作権のロジックを解説するものではない。また、権利の強化反対という著者の立場を支える証拠を提出するようなものでもない。著作権に南北問題を絡めるという説得力の欠く論理展開も散見される。そういうわけで、著作権の入門書には適していない。著作権の保護強化反対派の議論を知るためという目的意識で接したほうがいいだろう。個人的には著者の意見に賛成なのだけれども。
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