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高値で取引されていた廃盤EPと海賊盤を駆逐するシングル編集盤

2012-05-14 08:07:25 | 音盤ノート
My Bloody Valentine "Isn't Anything : Remastered Edition" Sony, 2012.
My Bloody Valentine "EP's 1988-91" Sony, 2012.

  1990年代ロック名盤"Loveless"リマスタ盤(参考)と併せて発行された、出世作にあたるアルバムのリマスタ盤とシングル編集盤。"Isn't Anything"のオリジナルは1988年末に英国インディーズ・レーベルのCreationから。"EP's"の方はCreation所属時代の四枚の12inchシングルと、レアトラックによって構成される二枚組である。

  "Isn't Anything"の方は、ザラついたガレージロック的サウンドをバックに四畳半フォーク風の暗くて弱々しいボーカルをのせるというコンセプトの作品。後の"Loveless"で聴ける弛緩した浮遊感と陶酔感はあまり感じさせない。むしろ‘Feed Me with Your Kiss’を筆頭にパンク的な疾走感とパワーで押し切る曲が目立つ、とてもロック的な内容である。当時はまだshoegazeなるカテゴリは存在せず、Jesus & Mary Chain, Sonic Youth, Dinosaur Jr.らすでに日本に紹介されていた「オルタナティヴ系にしては比較的聴きやすいボーカルメロディを持ちながらも、ディストーション・ギターで音をラウドに装飾するバンド」の一つという認識のされ方だったように思う。僕が中学生の頃に某洋楽雑誌で輸入盤が紹介され、ほぼ一年後に日本盤が発売されてもう一度同じ雑誌に評が載ったのを覚えている。インディーズ系の英国ロックファンにとっては、New Orderと当時すでに解散していたThe Smithsが二大アイドルで、この頃のマイブラはその他大勢の一つだった。

  "EP's"は、これまで廃盤で入手しにくかった曲を完全収録した歓迎すべき編集盤なのだが、きちんとクレジットが示されていないのが残念なところ。CD1には、上の"Isn't Anything"と同年に発表された"You Made Me Realise EP"から全5曲と"Feed Me with Your Kiss EP"からの全4曲、1990年に発表された"Glider EP"からの全4曲が、EPの収録順そのままで収められている。CD2の冒頭は、"Loveless"と同じ年に発表された"Tremolo EP"からの全4曲である。このEPは、エスニックなサウンドを聴かせる‘Swallow'を筆頭に粒ぞろいの内容で、"Loveless"の音にとりこになった人を満足させるだろう。続く‘Instrumental No.2'と‘Instrumental No.1'は"Isn't Anything"のLP初回出荷分の付録となる7inchシングルの収録曲。ただし、そのときの曲名はそれぞれ‘Instrumental B'と‘Instrumental A'だった。続く収録曲‘Glider (Full Length Version)'は12inchシングル‘Soon (Andy Weatherall Mix)'のB面曲。‘Sugar’は1989年にフランスの音楽雑誌の付録レコードに提供されたもので、素晴らしい出来。残りの収録曲は、数年前にネットに流出した4曲の未発表曲のうちの3曲で、その音からは"Isn't Anything"のボツ曲だとわかる。クリエイション期の既発表音源で収録されなかったのは‘Soon (Andy Weatherall Mix)'だけである。

  僕は現役でマイブラを聴いておりstill nothingなるレーベル等の海賊音源も集めているという人間なので、初めて出会うという曲は無い。それでも、針飛び音の入っている海賊CDを聴かなくていいという事態に、ある種の解放感を感じる。"Loveless"に魅せられた人間の、その長い屈折したファン心理については、4年前のエントリに記した。この勢いで、Lazy以前の音源や、Island時代に残した曲──Lalala Human Stepsに提供した曲など──もまとめてCDにしてしまうことを願いたい。
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