29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

上品かつ高尚なレーベルカラーを崩せなかったリミックス集

2011-06-03 00:00:00 | 音盤ノート
Ricardo Villalobos / Max Loderbauer "Re:ECM" ECM, 2011.

  ドイツ在住のエレクトロニカ系DJが、ドイツのジャズ/現代音楽のレーベルECMの録音をリミックスするという企画物。Ricardo Villalobosはすでにこのブログで言及したことがある(参考)。Max Loderbauerについてはよく知らないが、Moritz Von Oswaldの"Vertical Ascent"に参加している人らしい(参考)。

  選曲はかなり偏っている。Christian WallumrødやWolfert Brederodeといった、室内楽的なジャズを多く録音してきたECMの中でも、とりわけクラシック寄りでジャズ的熱気を欠如させた演奏家や、Alexander Knaifel、Paul Giger、Arvo Partといった民族音楽と宗教音楽を混交させた荘厳かつ哀愁あふれる曲を書く現代音楽作曲家の占める割合が大きい。他に、フリー系のフランス人管楽器奏者Louis Sclavisや、同じくフリー系のイタリア人トランペット奏者Enrico Rava (曲はPaul Motian)の演奏が採りあげられているが、やはりどちらも低温熱欠なタイプである。古い録音としてJohn Abercrombie、Bennie Maupin、Miroslav Vitousらが採りあげられているものの、いずれも彼らの代表作ではない。

  率直に言って、地味すぎる。レーベルにとっては挑戦となる、せっかくのジャンル横断的な企画物なのに、ECMを代表するアーティストの録音や名盤からの選曲が無い。リミックスには、既知の作品をどう料理するかを聴く楽しみもあるのだが、このアルバムにそれは皆無。納められているのはレーベルの中でもマイナーなアーティストかマイナーな録音であり、レーベル全作品の購入をしているような熱狂的ECMファンでなければ、ほとんどの曲でオリジナルを思い浮かべることは難しいだろう。看板とも言うべきキース・ジャレットやヤン・ガルバレクの曲を解体しないというのでは、冒険心が欠けると思われても仕方がないところである。

  Villalobosの"Vasco"(Perlon, 2008)以来の久々新作としてはどうだろうか? これまでは、踊れないテクノを作るとはいえ、淡々とした印象でへヴィネスは感じさせなかった。しかし、このアルバムは、無表情で盛り上がらない感覚はそのままだが、原曲の影響のせいか暗く、とても重たい。もともと弱い音で構成していたビートの音もさらに小さくなった印象。一番最後の"Redetach"だけは彼らしい。Disc 1は退屈な曲が長く続き、本当に眠い。一方、Disc 2はなんとか通して聴けるものになっている。特に、現代音楽系作曲家たちの荘厳かつ緊張感漂う曲のリミックスはなかなかのもので、原曲の清廉さと深遠さを湛えたまま、下品にならない程度に切り刻んだり電子音を混ぜたりしている。とはいえ、二枚組ではやや辛い。

  全体としては、レーベルの高尚かつ前衛的なイメージが優位に立ち、リミキサー陣の突き抜けた感覚が感じられない。似たような企画であるDeutsche Grammophonの"Recomposed by Carl Craig & Moritz von Oswald"(参考)の方が、わかりやすいテクノ曲を交える下世話なサービス精神があり、楽しめた。エレクトロニカ系のECM作品なら、Nils Petter Molvaer "Solid Ether"(2000)という名作があるのでそちらを薦めたい。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする