ひろの東本西走!?

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輪違屋糸里(浅田次郎)

2005-10-26 21:54:00 | 10:あ行の作家
itosato-1itosato-2輪違屋糸里(文藝春秋)
★★★★☆:90点

文句無し。抜群の面白さ。
さながら「女たちの新選組」といった趣がある異色の新選組ものである。

~Amazon 内容(「MARC」データベースより)~
 
  島原の芸妓・糸里は土方歳三に密かに思いを寄せていた。
  二人の仲を裂こうとする芹沢鴨には、近藤派の粛清の夜が迫りつつあった…。
  浅田版新選組異聞。芹沢鴨暗殺を描いた話題作!

**************** 【注意】ストーリーについての言及あり **********************

元々、図書館の予約本待ちの狭間で急きょ借りた本なのだが、読み始めてすぐに夢中になり、どっぷりとつかってしまった。新選組は、司馬遼太郎原作で何度もTV放映された「新選組血風録」や「燃えよ剣」のイメージがあまりにも強かったのだが、作家の描き方の違いによってこれほど異なった小説になることに驚いた。

島原の天神・糸里と吉栄、菱屋の妾(陰の妻)お梅、前川のお勝、八木のおまさ。5人の女と新選組の隊士たちが様々に絡み合い、幕末の混沌とした京都の町にはかなくも美しい人間模様を織りなす。その構成が卓抜。

浅田次郎は、清朝末期の中国を描いた直木賞候補の超大作「蒼穹の昴」では、気宇壮大なスケールの大きな物語を構築してみせた。しかし、そこでは多すぎる登場人物の扱いと史実と虚構のドッキングに失敗したように思う。国・時代・スケールは異なるのであるが、本作では1つの時代の終焉に向かっていく同様の物語で冴えを見せつけてくれた。天晴れである。

司馬新選組の影響か悪役のイメージの強い芹沢鴨が、ここでは真の武士として、また憂国の闘士として好意的に描かれている。元々が武士である「神道無念流」 の芹沢鴨。百姓の出である「天然理心流」の近藤勇。二人は案外気が合うようなのだが、芹沢を取り巻く新見錦、平山五郎らと近藤を取り巻く土方歳三、沖田総司、斉藤一、藤堂平助、山南敬助、井上源三郎らは決して心許して交わることはない。双方に関係の深い永倉新八はそれ故に微妙な立場に置かれる。そして、新選組は当然のように血なまぐさい分裂の道へと進んでいく。

新選組隊士の中では、芹沢が永倉が土方が語り部となるのであるが、同じ事件でも言い分が異なり、誰の言葉が真実であるのか分からない。これも絶妙。まるで、黒澤明の「羅生門」(原作は芥川龍之介の「藪の中」)である。

そんな中で芹沢・新見・平山らに心ひかれたのは、浅田次郎の魔力に見事にはまったせいだろう。

  ”フォーサイス、見てきたような嘘を書き” とすると
  ”次郎はん、見てきはったような話書き” だろうか。

しかし、心地よいのである。芹沢と運命を共にしたお梅の哀れさ、平山に「おゆき」と言ってもらえた吉栄の喜びと悲しみが胸をうつ。女性たちについては、実はいくら書いても書き尽くせない。皆、生きることに懸命で、ひたむきで、隊士たちには憎しみと親愛という相反する感情を抱いている。新選組と共に、あるいは新選組に反発して泣き、笑い、怒る。

女性陣を代表して糸里について少しだけ。

「男はんはええなあ」「もいちど生まれ変われるのやったら、どないしても男がええ。おなごに生まれて得なことなど、何ひとつもあらへん」と考えていた糸里。だが、吉栄と新しい生命の行く末を会津の殿様に約束させた糸里は、それと引き替えるかのように土方と決別し、島原の大夫として歩む決心をする。
「輪違屋桜木大夫、逢状うけたまわりまして、ただいままかり越しますえ」

エピローグ的な終章はしみじみとした味わいと生き抜く覚悟を決めた女の強さが見事に表れていた。ある程度予測できた内容かもしれないが、輪廻転生も感じさせる素晴らしい終幕であった。



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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ウーン、これは読まなくてはと思わせる力の入った... (ぐれえす)
2005-10-27 10:40:55
ウーン、これは読まなくてはと思わせる力の入った感想ですね。
浅田さんは強い女性を書くのも上手ですよね。(芯に秘めた強さも含む)
新撰組は浅田さんの好きな題材らしく良い作品がありますよね。
これも読みたい本リストに追加決定です。

ひろさんの感想を読んだだけで勘当、あれ?間道、あれれ?感動しました。
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☆ぐれえすさんへ (私の青い鳥・ひろ)
2005-10-27 12:41:30
☆ぐれえすさんへ

またまた長文を書いてしまいました(^_^;
本当は短くてピシッとした文章を書きたいのですが、まだまだ修業が足りませんわ。

浅田次郎はん、ほんまええ作品を書きはりましたなあ。
女の気持ちをようわかったはる。
惚れ直しましたえ。
うっ、あのインパクトのある顔が浮かんできた・・・。

私の乾燥(潤いがないのね)、あれ?乾草(俺は馬か・・・)、あれ?歓送(人事異動の時期とちゃうけどなあ)、あれ?間奏(どうせ合間のつなぎやしー)、あれ?完走(おおっ!マラソン走り抜きまっせ!)、あれれ?感想(これや、これ)はいったん忘れてからお読みくださいませ。

今朝から読み出した本:「銭売り賽蔵」(山本一力)、
次に読む予定の本:「壬生義士伝」(浅田次郎)です。楽しみ!
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ぐれえすお姉さまとの掛け合いがしんどくてオモシ... (ゆー)
2005-10-27 23:07:23
ぐれえすお姉さまとの掛け合いがしんどくてオモシロイです。。
壬生義士伝は映画が好きです。中井貴一が出てるから~

コメントありがとうございました。
日々の出来事を綴った日記ですが、またのんびり更新します。
遊びに来てくださいね。

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☆ネタバレビューみたいなので、あえて読まないでお... (アトマツ)
2005-10-28 08:48:51
☆ネタバレビューみたいなので、あえて読まないでおきますね♪

ワタシ日本史系の歴史モノって
密かに苦手なんすよね~。( ̄ー ̄?).....??アレ??
学生時代も一番不得意科目だったし・・・。
だから新撰組の人たちってよくわかってないっつか・・・。
実は名前ぐらいしか知らないんですよ(激汗)。

でも、ワタシの高校時代からの親友のHクンは日本史大好き。
おまけにヒネクレンジャーのワタシとは正反対にメチャ素直な性格。
案外オモロイコンビでしょ?

そんな彼とのメールのやりとりで、
ワタシいつも「歳」って呼ばれてるんですよ。
で、彼曰く自分は「勇」なんだそうです。

ってなんのこっちゃ???

・・・まったく、マニアックすぎて伝わらないギャグは
ホントにカンベンしてもらいたいもんです(激爆)

ひろ兄ぃのウチへのカキコ読んで、なんか読んでみたくなりました。
オキニの浅田さんだし、ね。

・・・でも、モトネタサッパリわかってないワタシが、
これから入っていいのかなあ?
返信する
☆ゆー.さんへ (ひろ009)
2005-10-28 12:28:15
☆ゆー.さんへ

おかえりなさい。
の~んびり、ゆ~ったりと更新してください。

ときどき遊びにいきまっせ!

ぐれえすさんとは掛け合い漫才をやっているみたいです(^_^)
やっぱり大阪人やね。
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☆アトマツさんへ (ひろ009)
2005-10-28 21:42:10
☆アトマツさんへ

>・・・でも、モトネタサッパリわかってないワタシが、
>これから入っていいのかなあ?

  モトネタあるいは司馬新選組を知っている方が落差というか
  違いが楽しめますね。
  これから入っても面白いとは思いますが、うーーん、ムズカシイナ。

>ワタシいつも「歳」って呼ばれてるんですよ。
>で、彼曰く自分は「勇」なんだそうです。

  この本を読む前であれば「歳」って呼ばれたらニンマリでしたが、
  今ならビミョーです。
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こんばんは。浅田作品はお休み中です。 (ゆきうさぎ)
2005-10-29 20:43:32
こんばんは。浅田作品はお休み中です。
おまけに新撰組ですか...あまり好きじゃない、というより嫌いです。
例外はマンガチックに描写された、起きた掃除ウィ~~ン、いえいえ沖田総司。
美少年、子供っぽいところがあり、剣はスパッと素早く鋭い。
司馬さんの新撰組は既読です。 総司の恋の話が良かった。
実際の総司は、ひらめ顔で早くに結核になった為、あまり役立たなかったとか。
そのおかげで、新撰組が落ちに落ちていく過程を知らずに済んだわけですね。だからこそ、彼が美化されるんでしょうね。
新撰組の落日の時にも生きていて剣を振るっていたら、ヒーローではなかったでしょう。
って、本題に全然関係ないですね。すみません。
なんなら(どんなら?)削除してください。
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☆ゆきうさぎさんへ (ひろ009)
2005-10-30 21:36:31
☆ゆきうさぎさんへ

新選組だめでしたか。まあ、女性で好きな人はあまりいないかもね。

司馬新選組では肘肩年ぞー、カッコ良くありませんでした?
浅田新選組では、なまくら心配(永倉新八)の出番が多かったのが意外でした。起きた掃除ウィ~~ンはちょっと不思議な描かれ方。



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すみません。 m(_ _)m (ゆきうさぎ)
2005-10-31 09:11:14
すみません。 m(_ _)m
その、肘肩年ぞー、今度は伊丹が悪漢なぁ、あか~んです。
なまくら心配(かな?薩長に寝返った人。ドウドウドリだったかな)や、災難返すか(・・・)がまともと思ふ。
彼を処刑した時点で、新撰組の落ちていく先は目に見えていた~。
でも、起きた掃除だ!のトコだけ読みたいかも ヾ(^_^;
『新撰組血風録』の「菊一文字」「送辞の恋」が良かったのですよ^^ 圧巻。
Me Her White
全く知らない人が見たら、暗号文みたいかも? ^^
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☆ゆきうさぎさんへ (ひろ009)
2005-10-31 12:48:36
☆ゆきうさぎさんへ

>肘肩年ぞー、今度は伊丹が悪漢なぁ、あか~んです。

  ううむ、局長と副局長が討ち死にか。

>全く知らない人が見たら、暗号文みたいかも? ^^

  ほんとですね。
  当事者でもだんだん理解困難になってきますし。

>災難返すか

  これは、返すか=けえすか と読むのかな?
  うわー、山南敬助か!超ハイレベル!
  新選組をよく知っているダジャレンジャーのみ解読可能でありんす。

  確かに彼が一番まともかも。
  小説で描かれた人物像しか知りませんが、人格者みたいやし・・・。

>「送辞の恋」

  沖田はんが新選組を卒業しはるやて。
  うちの気持ち、送る言葉にこめますう。

Me Her White、これにも意味あるの?
頭がこんがらがってきた。

  
  



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