ひろの東本西走!?

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松風の家(宮尾登美子)

2009-10-07 23:58:00 | 16:ま行の作家

Matsukaze1Matsukaze2松風の家(文春文庫)
★★★★☆’:85点

最近、宮尾登美子さんの小説をよく読んでおり(「天璋院篤姫」「序の舞」「」「天涯の花」「きのね」など。感想を書けていないものも多いのですけれど・・・)、その素晴らしさを堪能しています。この作品は中学校時代の同窓生から奨めて頂いたものです(Yさん、ありがとう)。それまで書名を聞いたことがなかったのですが、さすがは芸術家や女性、家族とその歴史を描けば抜群の冴えを見せる宮尾登美子さんらしく、これまた素晴らしい作品でした。宮尾登美子さんも完全にMy殿堂入りです。一応エイ・ヤーで点数もつけていますが、このレベルになると実際には関係なしですね。

*********************************** Amazonより ***********************************

明治初年、京の茶道宗家・後之伴家は衰退し、その日の食事代にも事欠くほどの窮乏ぶりであった。家元も出奔してしまい、残された者たちは、まだ幼い家元を立て、必死の思いで苦難に立ち向かう。成長した家元は宗家再興を期して、東京に向かった。千利休を祖とする一族の愛憎の歴史を秀麗な筆致で描く。文芸春秋読者賞受賞。

明治四十年代、茶道宗家・後之伴家十三代家元の伴秀室と一族の苦闘により、後之伴家はようやく隆盛の時代を迎えようとしていた。十四代家元は仙台から才ある嫁を迎え、ますます繁栄をとげていくのであった。千利休を祖とする名族の、明治、大正期における孤高の歩みを余韻嫋々、香り高く謳う傑作長篇。文芸春秋読者賞受賞。

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小説のモデル(題材)は名前からも想像できるように裏千家でしょうが、その題材をこのような一族の歴史物語と人間ドラマに仕上げるとは!やはり宮尾さんは凄いです。後之伴家やそれを取り巻く人々の息づかいまでもがよく感じられました。喜びと悲しみ、怒り・恨み、新しい生命の誕生と愛する人との離別、窮乏と再起・復活、伝統や風習と刷新・革新・・・悲喜こもごもの後之伴家の歴史が人々の想いと共に丁寧に描かれた秀作と言えるでしょう。また、家族のありようについても考えさせられました。

序盤、物語は後之伴家の苦境から始まり、これは一体どうなることやらと思われました。茶道宗家にもこれほど苦しいときがあったとは!全体的にはしみじみとした感慨があったのですが、下巻に入って第11章(宮城野)から加藤紗代子が登場し、これにはちょっと唐突な感じも持ったものの、彼女が新しい時代の流れや風を感じさせてとても清新でした。ずっと上巻の感じのままでも素晴らしい作品だったとは思いますが、この場面転換の鮮やかさに感嘆しました。

主人公は由良子だと思いますが、生母・いよと遂に生前の再会が叶わなかっ悲しみ、夫・不秀の突然の死にその責任を感じる苦しみは哀切でした。後之伴家へ尽くすことのみを考えた不秀の生き様も鮮烈。二人が夫婦になって、短い年月とはいえ幸せな家庭を築くことができたことは良かったですね。一方、病を抱えた妻・益子を連れ、業躰の不秀と共に乾坤一擲の上京を目指した若き宗匠、十三代・円諒斎。彼の不退転の決意が後之伴家の窮地を救うことになり、家族が2人増えての帰京は、小さな凱旋ではありますが、そのときの由良子や猶子たちの喜びの場面は素晴らしかったです。泣きたくなるような心細い思いで宗匠の座を継いだ少年がよくぞここまで成長したもの。

そして終盤、2人の女性の言葉に心をうたれました。

結婚で遠い京都の地へ旅立つ紗代子に宗匠の妻としてのふるまい方を伝えた養母・辰寿の言葉「人の心をつかむには一には言葉、二に金だっちゃ(しみったれた気は起こすなということ)。・・・お前が私の言葉ば実行すっ限り、年月経てば後之伴家は必ず興隆する。またきっとそうしねくてなんね。それはなや、紗代、お前を拒んだ一之橋家への意地もあっからっしゃ」。名言です。

また、死を間近にした猶子が、娘の由良子、嫁の益子、ずっと後之伴家と自分を支え続けてくれた業躰の仲秀保に語った言葉も素晴らしかったです。最後に自分の思い通りのことをさせてほしいと言いながら、各人の立場への十分な配慮も見事でした。

もちろん、人間ドラマの部分だけではなく、茶道の奥深さや積み重ねてきた歴史と伝統の重み、それゆえの苦悩(特に第十二代・恭又斎の苦悩)、茶室や道具などの話も興味深く読みました。また、京都弁と仙台弁が実に良い味わいを付加していたと思います。

◎参考ブログ:

   ほっそさんの”Love Vegalta”
        mango3842さんの”フィリピンマンゴー暮らし”
   せいざんさんの”潮風 海辺よりの感想録”
   


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは。参考ブログに挙げていただいて、感激... (ほっそ)
2009-10-09 12:32:37
こんにちは。参考ブログに挙げていただいて、感激です。宮尾先生の小説は、どれも好きですが、「蔵」「天涯の花」「きのね」の三点は、私のお宝です。特に「きのね」は、新聞の連載で読んだので、忘れられない作品です。


この作品内の仙台弁のセリフの紹介、ありがとうございます。私20年以上、宮城在住ですから、ネイティブです? また海の幸をふんだんに食べていた、紗代子たちが京都の食生活に参った様子も、印象的でした。私自身、海なし県でそだったので、海が近い場所の食生活は、「カルチャーショック」でした・・
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☆ほっそさんへ (ひろ009)
2009-10-09 22:33:35
☆ほっそさんへ

宮尾登美子作品の素晴らしさは最初にほっそさんに教えて頂いたので、常に参考にさせて頂いておりますよ。感謝、感謝!

私が読んだのはまだ一部の作品なのですが、その中では「序の舞」「蔵」「きのね」「松風の家」をほぼ同格のベスト4としています。「天涯の花」はかなり雰囲気が異なりますね。私には評価が難しいです。

おー、ほっそさんは仙台弁のネイティブでしたか!私は大阪弁のネイティブです。辰寿の言葉はいずれも素晴らしかったですね。

ちなみに引用した言葉を大阪弁にしてみますと、「人の心をつかむには一に言葉、二に金や。・・・あんたがうちの言葉をきちんと実行したら、年月が経って後之伴家は興隆すること間違いなしや。またきっとそうせんとあかん。それはやなあ、紗代、お前を拒んだ一之橋家への意地もあるからやで」といった感じになるでしょうか。やっぱり仙台弁の方が味わいがありそうですね(笑)。
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