
★★★★☆:90点
「あかね空」で直木賞を受賞した山本作品を久々に読みました。
極上の味わいの中編集で、山本ワールドを堪能。
個人的には「のぼりうなぎ」「菜の花かんざし」「長い串」の3編が良かったです。中でも「のぼりうなぎ」に一番感銘を受けました。物語としては予定調和的な甘さがあるのかもしれませんが、私はこの世界を高く買いますね。
弥助の真摯な態度・覚悟・努力良し。柾之助の景気づけ、その心意気良し。久右衛門の人を見る目・人を信じる心良し。膳吉・こまりの親娘良し。商売がたきでありながら急場に救いの手を差し伸べる木下屋・柏原銘木良し。かつえ・松吉も素晴らしい。
どんな苦労・嫌なことがあっても我慢する、たとえ不得手と思われることでもやり方を工夫する・努力する、人に接する真摯な態度は決して変えない、何があっても自分の良いところは信じる・・・。
これらを続けていれば必ず道は開けるということでしょうか。
中編小説なのですが、人と人の在り方や心の持ち方など大切なことを改めて教えてもらいました。素晴らしい作品です。
「菜の花かんざし」 武士としての矜持、夫婦・親子の情愛が丁寧に描かれていました。
「長い串」 ラスト近くの掛川藩江戸留守居役・甲斐伊織の恩返しに涙。
この2編についても書き出せばきりがないのですが・・・。
オール讀物新人賞を受賞した「蒼龍」。荒削りな直球の魅力があるのかもしれませんが、私としては後年の熟達した作品にひかれました。ただし、題材としては非常に面白いと思いました。
「あかね空」と並び、本書も最上クラスにランクインです。