バカな男二人

自殺しそうにもない男が病気で死んだ。タバコは吸わず酒は一週間に一度の貞節を守り
通したのに。なんの因果か大腸癌に罹ってこの世とおさらばをした。享年五十五歳。
身長160センチ足らずの頭の大きい小男。名前は仲里貞夫。通称テイ。わずか十人足らずの仲間の間の通称ではあるが。それはそれでいいではないか。私にとってはテイは永遠にテイであり仲里と貞夫と呼ぶ方が違和感に襲われ気恥ずかしいのだ。
 
ひょうきんな小男が大腸癌で死んだ。2001年の初夏。テイよお前はバカだよ。地球規模の世の中がこれからおもしろくなろうというのに死んでしまうなんてもったいないよ。インターネットの普及はそれはそれは世界中に民主主義革命が広がるということなのだとうれしさの余り酒を浴びるほど飲み、ロシア革命の時のマヤコフスキーが「おい、革命だぞ。」と家の戸口をかたっぱしから叩いて回ったように私も回りたいと私ははしゃいだ。ていよ。これから世の中はおもしろくなるのだぞ。末の娘が大学を卒業したらまるで男蟻の役目が終わったとでもいうように死んでしまうなんて、なんてバカな男なのだ。お前の死がどれだけ私に迷惑かけてしまっているのか死んだお前は知りようがないが私はとてもとても迷惑しているのだ。私の理論をしゃべる相手がいなくて私は非常に困っている。ニューヨーク高層ビルへの旅客機の突入。アルカイダ、テロリズムと株価の下落、世界経済とアルカイダテロとインターネット経済と株価の関係。小泉首相の構造改革の内実と可能性と派閥政治との抗争、アフガンへのアメリカ軍進攻、イラクへのアメりカ軍進攻、六本木ヒルズの若き経営者の登場、中国の資本主義原理の導入と経済発展と中国共産党の政治・・・・・・テイよ。お前で死んでから明るい変革がぞくぞくと起こっているのだ。こんなおもしろい世の中になったというのに死んじまって、お前はバカだ。重苦しい世紀末に暗い青春を送り、暗いながらも暗いなりに楽しく生きる術を私もテイも持っていた。

 二〇〇一年六月二十三日にお前がこの世におさらばし、二〇〇一年九月十一日にニューヨークの高層ビルに巨大旅客機がめりこんだ。美しい真っ青な空。真っ白な雲。大都市ニューヨークのビルの上をゆったりと浮いて走る巨大な旅客機。飛んでいるというより気球のように無重力に浮いているという形容が似合う旅客機の飛行。ゆっくりと旋回しゆっくりと高層ビルに近づきゆっくりとのめり込む。背景は輝く真っ青な空。余りにも美しすぎる悲劇。美しい光景だと口に出せない凄惨な悲劇ではあるが、しかし過去のとんな映像よりも衝撃的な美しさであるのは否めない。
 アルカイダ。私はその組織のことを知らなかった。イスラム原理主義がアフガンを支配していることは知っていた。イスラム原理主義を批判する書物を翻訳した教授が暗殺されたことは記憶にあった。

予想をしていなかったアルカイダのニューヨークテロ
こんなことが起きるなんて 
でも問題はこれで民主主義革命が中東アジアに広がること
ニューヨークテロはそれの引き金であったこと

ていよ。
日本のマルクス学者の誰ひとりとして、アメリカのアフガン侵攻が民主主義革命であることを指摘しないのだ。アルカイダがどうのイスラム原理主義がこうのなんて偉そうに語っているだけだ。ブッシュがどうのビンラディンがこうの。大学の教授なんて現実を見る目が腐っている。マルクス学者なんてただのインテリだ。過去を研究するだけの考古学者とちっとも違わない。

アメリカ資本主義国家がイスラム原理主義宗教国家を滅ぼした。それがアフガンの歴史的事実である。アメリカによるアフガンの民主主義革命である。革命は国内の虐げられた人々が起こすものだという先入観でアフガンを見てはいけない。国民が起こそうと外国軍が起こそうと戦争の目的が議会制民主主義国家を創ることであれば民主主義革命なのだ。

とんまな学者ども。ロシア革命や中国の革命には根掘り葉掘り調べて詳しいのに目の前で起きている現実には鈍感である。

ていよ。お前と酒を飲みたい。酒を飲んでこの胸の内をぶちまけたい。文字を書くのはイライラする。しゃべってしゃべってすっきりしたい。
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