佐藤優批判―エリート官僚は万能ではない




佐藤氏はアメリカが辺野古移設と嘉手納飛行場以南の米軍基地撤去を切り離したことで「米海兵隊普天間飛行場の県外移設の現実的可能性が生まれている」と述べている。そして、「日米両政府が辺野古移設について確認したことや、防衛官僚が行っている普天間固定化の恫喝に怯える必要はまったくない」と述べ、「沖縄の死活的運命に関する事項を沖縄の民意に反しては行わないという民主主義の原則に忠実あろうとする政治家と外務官僚が、水面下でさまざまな努力をしている」と述べ、じっと我慢していればきっと民主主義の原則に忠実な政治家と外務官僚が「県外移設」を実現させてくれると匂わせている。

中央のエリート官僚の決断次第で「県外移設」を左右できるという佐藤氏は自分がエリート官僚であった性もあり、エリート官僚の政治力を過大評価している。エリート官僚がその気になれば普天間基地の移転場所を見つけることが本当にできるのだろうか。大いに疑問である。

「県外移転」で一番問題なのは地元住民の考えである。地元住民が普天間基地の受け入れを反対する限り移設はできない。もしかしたら、エリート官僚なら地元住民を説得して普天間基地の受け入れを承諾させることができるというのか。
住民が住んでいる場所から12キロメートルも離れている無人島の馬毛島で離着陸用の飛行場建設が進められていた。しかし、住民の反対で中止させられている。海兵隊1500人の移動でさえ本土は受け入れない状況だ。馬毛島の離着陸訓練用滑走路や海兵隊1500人の移動さえ実現できないのに、どうして規模がけた違いに大きい普天間飛行場の本土移設をエリート官僚が実現できるというのだ。そんなにエリート官僚の権力は絶大なのか。そんなことはありえない。エリート官僚がその気になればなんでもできるという佐藤氏のエリート官僚主義には苦笑するしかない。

佐藤氏は、下地氏が県内移設を容認する限り、一部の外務官僚、多くの防衛官僚が県内移設はなんとかなるという考えを持つことになるから「県外移設」が実現てきないだろうと考えている。それでは下地氏が県内移設を引っ込めれば外務官僚や外務官僚が県内移設をあきらめるから「県外移設」が実現できるというのか。外務官僚や外務官僚の政治力を佐藤氏は買い被りすぎだ。

佐藤氏は外務官僚としてソ連に駐在した経験がある。佐藤氏は社会主義国家の実態、共産党一党独裁の政治の実態を熟知している。無論中国の実態も熟知しているはずである。
社会主義国家中国は領土の拡大や政治・経済の支配地域を広げる野望がある。人民解放軍はシビリアンコントロールはされていない。国内で政治力があるし、領土拡大をすれば人民解放軍を率いている幹部の利益につながる。また、周辺の弱小国に市場を拡大して利益を得れば一部の共産党幹部の利益になる。共産党一党独裁の中国は共産党の幹部が立法し、行政をやり、商売をする。商売の利益は幹部のものとなる。
だから、人民解放軍は軍事力を利用して領土を拡大したり、圧力をかけて周辺国から利益を得ようとする。他の共産党幹部は政治力と経済力を利用して周辺国に進出していって利益をむさぼる。政治力、経済力、軍事力を使って支配地域を拡大していくのが共産党一党独裁国家中国のやり方である。
中国の拡大を防いできたのがアメリカである。アメリカ軍がアジアに存在していなかければアジア全体が中国に支配されていた。アメリカ軍がいなかったチベット、ウイグル地区、モンゴル自治区は人民解放軍によって武力によって支配された。

中国の支配拡大主義は今も同じである。ベトナム、フィリピンの弱小国は中国軍によって領海に侵入された。フィリピンとベトナムは中国との貿易が拡大すればするほど中国の政治的な圧力が強くなった。2010年に中国の作家で人権活動家である劉暁波氏がノーベル平和賞を受賞した時、ベトナムとフィリピンは中国の政治的圧力があったためにノーベル賞受賞式に参加できなかった。

フィリピンは中国の軍事圧力に屈しないためにアメリカ軍との連携を求めている。アメリカは中国との貿易を拡大し友好関係を築く努力をしながらも、中国の人権侵害に抗議し、周辺国と軍事提携をしながら、中国への抑止力を強化している。抑止力強化の中心になっているのが沖縄に駐留している海兵隊である。海兵隊は周辺国に出かけて軍事演習をしたり軍事訓練をしている。

中国が共産党一党独裁国家である限り、アメリカは中国への軍事的な抑制力を維持していくだろう。抑止の方法はアメリカ単独で中国を抑止するのではなく、中国の周辺国である、韓国、日本、フィリピン、ベトナム、カンボジア、タイ、インドと連携をすることによって中国への抑止力を高めていく。それがアメリカの戦略である

中国包囲網の中心的な存在である沖縄の海兵隊にヘリコプター基地は絶対に必要である。海兵隊だけではなくアメリカ軍にとってヘリコプター基地は必要である。演習や訓練で事故を起こしたときに救出に向かうのはヘリコプターである。ヘリコプター基地は抑止力よりも救出や少数の兵士や物資を運ぶのに必要であり、アジアにアメリカ軍が駐留する限りヘリコプター基地はなくてはならない。

佐藤氏は「公開の席で、沖縄の勝利に向け、われわれは何をなすべきかについて、忌憚のない討論をしようではないか。筆者が下地氏の選挙区に行く」と述べているが、佐藤氏がやるべきことは「県外移設」が理論上可能であることを明確にすることだ。エリート官僚がその気になれば本土のどこに普天間基地を移設させることができるというのか。普天間基地を受け入れてくれる住民はどこにいるのかを明らかにする責任が佐藤氏にはある。

「県外移設」は下地氏やエリート官僚うんぬんの問題ではない。本土に普天間基地を受け入れてくれる場所があるかどうかだ。軍事基地であるから場所は限定される。限定された場所に本当に普天間基地を移設できる場所があると佐藤氏はいうのか。

鳩山元首相が「県外移設」を目指しながらも最後に辺野古に戻った根本的な原因は普天間基地を受け入れてくれる場所がなかったからだ。小泉元首相は防衛省の幹部を使って移設場所を探したが見つけることはできなかった。移設場所を見つけることができなかった理由を小泉首相は「総論賛成、各論反対」と言った。沖縄に同情して本土への普天間基地移設に賛成する本土の人は多いが、自分ところに移設する話になると大反対する。それが本土の実情だ。
過去の二人の首相が実現できなかった普天間基地の「県外移設」をエリート官僚はどのようにして実現するのか佐藤氏は説明しなければならない。

佐藤氏は普天間基地の「県外移設」がどのようにすれば実現できるのかを説明しないで、「県外移設」が可能であるようなことを匂わすのは県民に幻想を抱かせるだけだ。「沖縄の勝利に向け、われわれは何をなすべきかについて、忌憚のない討論をしようではないか」と述べ、下地氏と討論をして嘉手納移設を諦めさせれば「沖縄の勝利」に繋がるのだという思わせぶりな話にはあきれるしかない。
下地氏に嘉手納移設の主張を止めさせるのは簡単だ。本土に移設できる方法を下地氏に教えればいい。しかし、エリート官僚がその気になれば「県外移設」を実現させることができると話したら、下地氏に笑われるぞ。
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