50年前(高校2)に基地問題を描いた私の戯曲より






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50年前(高校2)に基地問題を描いた私の戯曲より

 キャンプ・シュワブに参加した古謝美佐子、加藤登紀子さんを批判し、辺野古移設反対を主張した坂本龍一を批判した。そして、三上智恵を批判した。批判するには相手のことをより知る必要がある。だから、三上智恵さんのフェイスブック、ユーチューブの映像を見たし、「標的の村」のテレビ版も見た。
 「標的の村」は高江の人たちのヘリポート建設反対を描いている。彼らがヘリポート建設反対を主張するのは当然である。私が高江に住んでいたら反対運動に参加していただろう。しかし、ヘリポート建設が北部訓練場の返還、東村の国道開発を条件にし、村民の代表である村長が誘致した理由を知れば私は悩むようになっただろう。ヘリポート建設は高江だけでなく東村全体に関わる問題であるからだ。「標的の村」はヘリポート建設反対をする人間だけを描いてある。それだけでは高江を描いたことにはならない。
 高校二年生の時に私は戯曲を書いた。50年前である。米兵に腕を撃たれた信栄が運ばれてきて、息子の平助、娘の良美、区長、ヨシ、シゲ、カメが繰り広げる一幕劇である。この戯曲を読めば、高江の反対運動に参加しながらも悩む私が予想できると思う。「標的の村」はプロが作った映画である。私の戯曲は高校2年生が書いた作品であるから作品の質としては大差があると思うが、私と三上智恵さんの違いがはっきり分かる。

 あの頃は急病人が出た時にいつもやって来たのがアメリカ軍の救急車であった。私は沖縄の救急車が来ないことに沖縄人として惨めな思いをしていた。アメリカ軍の世話にはなりたくないという自立心が私には強かった。
 私は小学一年生の時にタクシーに撥ねられて九死に一生を得た。気を失った私が母の声で気が付いて目を開くと、私の目に入ったのは母親ではなくてアメリカ女性医者だった。私は真志喜にあるアメリカ軍の病院に運ばれていたのだ。
 アメリカ軍の病院で治療されたこと、救急車がいつもアメリカ軍の救急車であったことはアメリカ軍への感謝より惨めさが強く、沖縄人の急病人を救おうとしない沖縄の政治への苛立ちがあった。そのことを戯曲で描きたかった。
高校生の頃の私は沖縄の政治の自立心のなさを軽蔑していた。祖国に復帰したら平和で豊かになると他力本願の主張をしている祖国復帰運動にも私は反発していた。
 高校生の時の私が基地問題を扱った戯曲である。

サトウキビと鉄砲

父信栄は縁側に腰を下ろし、お茶を飲んでいる。娘の良美は芋を選んでざるに入れながら鼻歌を歌っている。

信栄=さあて、茶も飲んだことだし、そろそろ畑に行くとするか。
良美=父さん、もっとゆっくりして行ったら。お茶は入れたばかりだから。
信栄=そうもしておれぬ。平助が居ればいいのだが・・・・・。それに畑の奴が首を長くしてわしを待っているだろう。早く行かなければ畑の奴が 怒ってしまっていい作物ができないのじゃ。どれ、畑に行くとするか。
良美=(笑いながら) 父さんったら。またいつもの口癖が・・・。
信栄=お前がまだ本当の百姓になっていないからわしの言うことが分からないんじゃ。わしのような年齢になればわしの言っていることが分かってくるよ。
良美=私、結婚もまだなのよ。年寄りになった頃の話なんてまっぴらだわ。
信栄=まったく、近頃の若者は・・・。

  信栄はぶつぶつ言いながら下手の方へ歩いていく。

良美=父さん、タオルは。
信栄=・・・・・。

  良美、急いで家の中に入り、タオルを取ってくる。

良美=はい、タオル。父さんも忘れっぽくなったわね。年齢のせいかしら。
信栄=なにを言うんじゃ、親に向かって。

信栄が怒って良美に詰め寄るが、良美はさっと後ろに退く。信栄、ぶつぶつ言いながら退場。良美、歌を歌いながらざるを持って奥に行く。しばらくして、空のざるを持って出てくる。区長が下手より登場。

区長=ごめんください。信栄さん。
良美=あ、区長さん。
区長=信栄さんは居るかい。
良美=父は畑に行きました。父に用事があるんですか。
区長=ちょっと遅かったようだな。
良美=父になにか。
区長=うむ。今日午後から演習があるらしいんじゃ。
良美=演習って、昨日までそんな話はなかったけど。
区長=わしも、さっき知らせを受けたんじゃ。役所からの通達でな。役所にも演習があるということは今日連絡があったらしい。それでわしは急いで走り回って知らせているんじゃ。信栄はもう畑へ行ってしまったのか。それじゃあ、あと二、三軒回ったら畑に行くよ。役所には今朝連絡があったのだから大した演習ではないだろう。
良美=私が父に知らせに行きましょうか。
区長=いいから。あんたはそのまま仕事を続けなさい。二、三軒回ったら畑に行くから。畑も見たいしのう。きびはどのくらい植えたかね。
良美=さあ、私は家の仕事ばっかしやっていますから、畑のことは・・・・。
区長=そうか。おっと、急いで回らなければ。邪魔したの。
良美=お茶が入っていますけど。
区長=要らん要らん。急いでいかなくては。邪魔したな。
良美=ご苦労様です。

  区長退場。

良美=又、演習が始まるのね。畑は大丈夫かな。ジープで荒らされなければいいけど。演習の度に必ずどこかの畑が荒らされてしまう。内の畑が荒らされた時、父さんはかんかんに怒って棒を持って家を飛び出して行った。それを見て、兄さんは必至になって止めていた。畑を愛するってあんなものかしら。私には分からないわ。

良美、鼻歌しながら芋をざるに入れて奥に退場。しばらくして、兄の平助が鎌の入った包みを持ち登場。

平助=ただいま。・・・・・。誰も居ないのか。良美(大声で)。居ないのか。ふう、疲れた。(信栄が使った茶碗をゆすいで平助が使う)。ふう。茶だけでは・・・。どこかにお菓子がなかったかな。(家の中に入りお菓子を探す)。ああ、あった。これだ。(座っていた所に戻り、お菓子を食べながらお茶を飲む。包みを開いて鎌を出し、眺める)。成程。鍛冶屋の俊さんが言った通り立派な鎌だ。言い艶をしている。こいつさえあれば、あののこぎりみたいな鎌で難儀しなくて済む。早く親父にこの鎌を見せたいものだ。(爪で切れ味を調べる)。ふう、すごい。本当に爪を切ってしまうかも知れないぞ。

  良美がざるを持ち、鼻歌しながら奥から出てくる。

良美=(平助に気づき、鼻歌を辞める)。兄さん。もう帰って来たの。
平助=ああ、話しても無駄らしかったので帰って来たよ。
良美=他の人たちは。
平助=まだねばっていた。無駄だと知っていながらね。
良美=熱心に話せば必ず聞き入れてもらえるわ。あきらめるのが早いわ。
平助=工場の奴らが聞き入れたってなんにもできやしないさ。キビの値段を決めるのは俺たちの手が届かない日本政府なんだからな。
良美=しかし、工場の人たちだって・・・。
平助=ああ、腹減った。なにか食う物を持ってきてくれないか。
良美=ないわ、なんにも。お芋は今炊いているところ。ご飯の残り物もないわ。あ、そうだわ。ちょっと待って。(家に入り、平助が食べたお菓子を探す)。変だわ。ここに置いといたお菓子がないわ。
平助=お菓子だって。お菓子ならここにあるよ。
良美=どこ、どこにあるの。
平助=ここだ。(自分の腹を指す)。ここの中だ。
良美=兄さんのお腹の中。兄さん、もう食べてしまったの。
平助=はははははは。そうふくれるな。だって、お茶はあるのにお菓子がないなんて、物足りないじゃないか。
良美=あきれた。家には食べるものはひとつもないからね。
平助=虫の入った芋はないかい。
良美=あるわ。
平助=こっちへ持って来い。虫の入ったところを削る。
良美=削ってくれるの。助かるわ。

  芋のある所に行き、虫の入った芋をざるに入れる。

平助=良美、そこに置いといて。俺がそこに行くから。

  平助は芋を置いてある所に行き、ざるの芋を鎌で削る。

良美=新しい鎌ね。買ったの。
平助=ああ、帰りに鍛冶屋の俊さんの所に寄ったんだ。そしたら、俊さんがいい鎌があるが買わないかと言った。親父が持っている鎌は随分古くなって切れ味が悪くなっているから、いい鎌があったら買おうと思っていた。
良美=見て、よかったので買ったってわけね。
平助=まあ、そんなところだ。それに親父の喜ぶ顔が久しぶりに見たくなったからな。

  平助は次々と芋を削っていく。良美は側で見ている。

平助=芋を炊くのは早いんじゃないか。なぜ、こんなに早く芋を炊くんだ。
良美=(返事に戸惑う)ううん。
平助=どこかに出かける用事でもあるのかい。
良美=う、うん。お友達と一緒にちょっと。
平助=どこに行くのか。
良美=どこって・・・。別に決まっていないわ。
平助=海かい。
良美=ま、まあ、そういう所かしら。
平助=なんだ。ぼかした言い方をして。良美らしくないぞ。友達って何人だい。
良美=三人。
平助=男二人に女一人だろう。お前を合わせたら男二人に女二人ってところだ。
良美=兄さん。よく知っているわね。
平助=当たり前だ。妹のことくらいは目を瞑っていたって分かるさ。
良美=誰から聞いたの。
平助=誰だっていいじゃないか。この間遅く帰って来たのは、デートをしたからだろう。あの時、親父は随分怒っていたぞ。家のことは満足にできないくせに、遊びとくれば一人前だからと言ってな。あの時は俺がなんとかなだめたからよかったが、今夜遅く帰ってきたら俺知らんからな。(良美は奥の方へ行く)。親父にどんなに叱られたって、お前を助けることはしないからな。それを覚悟するんだな。いいな良美(振り向いて、良美がいないことに気づく。苦笑いする)。くそ、こっちにいい気持ちでしゃべらせておいて。雲隠れか。
    (大声で)。親父に叱られても俺知らんからな。

  平助は立ち上がり、お茶を飲みに行く。タオルで鎌を拭く。

平助=芋の血でべとべとしてしまった。

  平助はお茶を飲む。
大砲の音。鉄砲、機関銃の音。

平助=アメリカ軍め演習を始めやがったな。今度はどこの畑を荒らす積もりだ。忠栄さんのところかな。それとも・・・・・。ああ、いい加減にしてくれ。演習がある度に俺たちは畑仕事ができないで泣き寝入りをしてしまう。アメリカ人なんか早く沖縄から出て行ってしまえ。
良美=(登場する)父さん大丈夫かしら。
平助=親父の姿が見えないな。良美。親父はどこに行った。
良美=畑。
平助=畑だって。今日は演習をやっているんじゃないのか。
良美=父さんはそのことを知らないで畑に行ったの。
平助=親父は演習があることを知らないのか。
良美=区長さんが呼びに行くと言っていたから、もう少しで帰って来るんじゃない。
平助=親父と区長か。(含み笑いをする)。
良美=なぜ笑うの。私がなにかおかしいことを言ったの。
平助=親父と区長のことを想像したのさ。
良美=父さんと区長さん。
平助=今頃、畑で言い争いをしていないかなと思ってね。
良美=そうかもね。
平助=区長は親父を家に帰そうとする。親父は畑に踏ん張って帰ろうとしない。親父は区長にきっとこう言うよ。「演習といったって実弾を使うわけではない。やつらの演習は大人の遊びみたいなものだ。気にすることはない。わしはもっと働くぞ」とね。
良美=とうさんっていつもそうね。
平助=二人の老人が「家に帰れ」「いや、帰らない」なんて口喧嘩していると想像するとね。おかしくて。
良美=父さんも区長さんも頑固だからね。畑で口喧嘩していてもおかしくないわ。
平助=きっと、そうしているよ(笑う)。

ヨシが仕事着のまま登場。

ヨシ=(頭のタオルを取りながら)、ごめんください。
平助=(顔をあげる)。
ヨシ=ああ、平助さん。
平助=ヨシさんか。
ヨシ=あのう。
平助=キビ代が元の値段に上げることができたかどうかを訊きに来たんですよね。
ヨシ=はい。それでどうでしたか。値上げしてもらえましたか。
平助=(困った顔つき)。・・・・お茶でも飲みませんか。
ヨシ=はあ(そのまま立っている)。キビ代が今のままだと私たち一家は生活していけません。畑は小さいし、働き手は私一人だし。
平助=秀吉君はよく働いているそうじゃないですか。
ヨシ=でも、まだ中学の二年生ですし、いくら働くといっても知れています。中学を卒業して集団就職でもすればいいですが。今は、なんとしても前のキビの値段になってもらいませんと生活が苦しいです。
平助=農業でお金になるのはサトウキビしかないからなあ。
ヨシ=平助さん。どうだったですか。値上げしてもらえましたか。
平助=ううむ。それがなあ。
ヨシ=それじゃあ、やっぱり。(しゃがみこむ)
平助=そんなに気を落とさないでください。まだ、駄目になったわけではないし、工場の人たちだって味方です。キビ代が下がればあいつらだって儲けが減るだろうし。
ヨシ=だったらなぜ値を上げてくれないのですか。
平助=日本の政府が、つまり買うほうが値を下げて買うことにしたらしいんです。買い手に値下げされたのでは、砂糖工場はどうしようもありませんよ。
    それに買い手は日本政府だからなあ。俺たちだけではとても手に負える相手ではない。
ヨシ=そうするとサトウキビの値段はあげてもらえないのですか。
平助=さあ、俺にはなんとも言えません。しかし、砂糖工場の人たちは日本政府と話し合ってなんとか元の値段にこぎつけてみると言っていたから、元の値段にまではいかなくても今よりは値上げしてもらえますよ。
ヨシ=そうなってくれればありがたいですけど。夫が軍で働いていた時は生活に困らなかったんです。夫が生きていればこんなにサトウキビの値段にこだわらなくてもいいのですが。
平助=秀治さんは働き者でした。もう三年になるかあ、秀治さんが亡くなってから。秀治さんは本当にいい人だった。子供たちともよく遊んでいた。昔、俺は竹馬をつくってくれたことがあった。とても頑丈な竹馬で、乱暴に扱っても壊れなかった。秀治さんが亡くなってからはヨシさんも随分苦労しましたね。
ヨシ=(黙っている)
平助=どうしてこんなにキビ代を下げたのかなあ。俺たち農民が困るのは目に見えているのに。
ヨシ=キビ代が頼みの綱です。それなのに値段が下がってしまうなんて。これからどうしたらいいんでしょう。
平助=本当に困った問題だなあ。
ヨシ=(うつむいてそっと目頭を押さえる)。

  良美が箸で刺した芋を持ってくる。

良美=兄さん。お芋炊けたわ。あ、ヨシさん。いらっしゃっていたんですか。ちっとも知りませんでした。お話の邪魔をしてすみません。あのう、お芋どうですか。今炊けたところです。
ヨシ=い、いえ。よろしいです。私はこれで失礼します。
平助=まあ、いいじゃありませんか。
良美=そうですよ。お芋を取ってきますから。
ヨシ=仕事をほっぽらかして来ましたから。もう戻らなけれは。失礼しました。

ヨシ急いで去る。二人沈黙。

良美=(芋を渡しながら)何があったの兄さん。ヨシさん泣いているみたいだったわ。
平助=うむ。例のサトウキビの値下げのことでね。
良美=そう。困った問題ねえ。
平助=俺たちの畑は大きいからなんとかやっていけるが、ヨシさんの畑は小さいからなあ。
良美=(頷く)。
平助=俺たちにはどうにもならない問題だ。
良美=違うわ。兄さんみたいに捨て鉢になるからどうにもならないのよ。
平助=さあ、どうかな。
良美=みんなが団結して取り組めば、きっと望み通りになるわ。
平助=それには相手が大きすぎる。
良美=どうして私のいうことを真剣に聞いてくれないの。いいこと。人間というのは情熱に弱いものなのよ。政府だってなんだって人間が集まってできているものじゃない。人間である以上やさしい心を持っているものなのよ。情熱よ。団結よ。それでぶつかっていけばいいのよ。
平助=さあ、どうかな。
良美=真面目に聞いて。兄さんたちが一生懸命に働きかければ、きっと振り向いて手を差し伸べてくれるわ。
平助=ああ、分かった分かった。分かったから、もう止してくれ。俺はへ理屈が苦手だ。
良美=へ理屈。兄さん、私の言うことをへ理屈くらいにしか思っていないの。へ理屈とは違うわ。これは今の沖縄にとって・・・。
平助=もういいよ。全くお前にはかなわん。ああ言えばこう言う。こう言えばああ言う。口だけは誰よりもお前が達者だ。
良美=兄さんはそう言って逃げるけどね。
平助=(手をかざして)はい。もう終わり。

  大砲の音

平助=親父の帰りが遅いな。
良美=どうしたのかしら。もう帰ってきてもよさそうだけど。
平助=俺、行ってみようかな。
良美=そうした方がいいわ。
平助=親父どうしたのかな。いくら区長さんと言い争いをしたってこんなに遅くなるはずはないのに。これだから年寄りは面倒なんだ。もしかしたら区長さんと一緒に酒を飲んでいるのかな。
良美=まさか。そんなことはないと思うわ。
平助=この芋おいしいな。
良美=当たり前よ。私が炊いたんですもの。
平助=お前が炊けばまずいものでもうまくなるというのか。
良美=そういうことね。
平助=いい気なものだ。俺が買ってきた鎌はどこだろう。
良美=あそこよ。兄さんも父さんに似て忘れっぽいのね。
平助=(鎌を取りながら)なにか言ったか。
良美=なんでもないわ。早く父さんを迎えに行って。
平助=分かっているよ。しかし、お茶をもう一杯飲んでからだ。

  下手から声がする。

区長=良美さあん。
良美=区長さんの声だわ。
平助=なんだろう。

区長、ヨシ、シゲ、カメが右腕に大傷を負った信栄を急ごしらえの担架に乗せて下手より登場。中央にゆっくり下ろす。

平助=区長さん。一体これは。
区長=わしにもよく分からん。畑へ行ってみると、畑の近くの草むらに倒れていた。気を失ってな。
良美=お父さん。
区長=急いで手当しなくては。良美さん包帯はあるか。
良美=は、はい少しならあります(鳴き声を押さえている)。
区長=少しでは足りそうにない。これだけの血じゃ。ホータイがたくさん必要じゃ。ううむ。それじゃあ、包帯の代わりにできるものはないか。
良美=は、はい。(家に入り包帯と白い布を取り出す)。
区長=信栄さんが一大事だというのになにをぼんやり突っ立っているんじゃ。傷の手当をするぞ。
平助=は、はい。
良美=区長さん。これだけしか。
区長=これだけあれば足りるじゃろう。(布を切り裂く)。平助、これで腕を縛れ、血を止めるんじゃ。

  平助は布で信栄の右腕の付け根を縛る。

区長=良美さん。酒を持ってきてくれ。
良美=は、はい。
区長=まだ、血は止まっていないな。平助、傷口を包帯で押さえろ。

 良美が酒を持ってくる。

良美=区長さん。

区長は酒瓶を取り、酒を口に含み、信栄の傷口に吹き付ける。良美はふらふらと
倒れる。シゲが良美を支える。

シゲ=大丈夫、良美さん。
良美=ええ、少しめまいがしただけ。

  区長は酒を吹き付ける。

シゲ=向こうで休んでいたら。
良美=もう大丈夫よ。
区長=血がとまらないな。平助、もっときつく縛れ。

  良美が倒れる。

シゲ=良美さん。良美さん。
平助=(良美に駆け寄る)。良美。どうした。良美。しっかりしろ。
区長=平助、心配するな。気を失っただけだ。少しの間横にしておけばよくなる。平 
   助、良美さんを縁側に移動させよう。

 平助と区長は良美を縁側に移動させる。

区長=シゲさん。濡れたタオルをひとつ頼む。
シゲ=(自分のタオルを濡らして区長に渡す)どうぞ。
区長=ありがとう。
区長=誰か公民館に行って、電話で救急車を呼んでくれないか。
ヨシ=私が行きます。
区長=ヨシさん。できるだけ早く来るように頼んでくれ。血が止まらない。
ヨシ=はい。

  ヨシ退場。

平助=良美。(良美の頬を叩く)。
区長=平助。心配するな。やがて気が付くじゃろう。早く傷の手当を済まそう。さあ、平助。

  平助は傷口を拭く手を止めて、傷口を見る。

区長=この傷が何によってできたか、お前も気が付いたと思う。
平助=親父は・・・・。鉄砲で撃たれたんだ。
区長=演習があることを昨日知らせてくれればこんな事にならなくて済んだのに。一年前の比嘉さんのことがあるし、わしは心配だったんじゃ。比嘉さんの時には頭の上を掠めたからよかったんじゃが。アメリカ兵の中には演習している時に、いたずらの積もりで実弾を撃ったりするからな。それに信栄は畑を荒らされるのが大嫌いじゃ。畑でアメリカ兵と会うと喧嘩をやりかねない人じゃ。それが心配だったんじゃ。・・・・。せめて昨日わしに演習があるということを知らせてくれればこんなことにならなかった。
    サトウキビの値段は下がるし、近頃は嫌なことばっかりじゃ。

平助は傷の手当をする。シゲが信栄の額のタオルを取り、水で冷やしてから絞り、額に乗せる。

区長=(良美の額のタオルを取り)、シゲさん。これを頼みます。

シゲはタオルを受け取り、洗面器に入れ、絞り、区長に渡す。

区長=平助。手当はは済んだか。
平助=親父、こんなに血を流してしまって(自分の手についている血を見る)。
区長=済んだのなら、手を洗ってこい。

  平助退場。

カメ=区長さん。信栄さんは大丈夫でしょうか。
区長=分からん。命に別状はないとおもうのだが。出血がひどいからな。心配じゃ。
カメ=右腕はどうなるんでしょうね。
区長=どうなるかな。心配じゃ。
カメ=働き者の信栄さんを撃ってしまうなんて、余りにもひどいです。人の畑を荒らして、しまいには人に傷を負わしてしまう。アメリカ人なんて犬畜生にも劣ります。

  カメは血の付いた布をまとめる。
  手を洗った平助が登場。

区長=平助、手を洗ったのならこっちへ来て休んだらどうじゃ。大分疲れたようじゃ。

平助はゆっくり歩いて信栄の方に行く。区長は平助から目を離さない。信栄の側に来た平助は鎌を取る。外に向かって歩き出す。区長が平助の前に立ちはだかる。

区長=止めるんじゃ。
平助=止めないでくれ。
区長=わしの思っていた通りじゃ。平助。仕返しするのは止めるんじゃ。
平助=親父がやられたというのに、息子の俺が泣き寝入りしろというのか。
区長=泣き寝入りではない。このことを役所に知らせて、軍のほうに責任をどうするか掛け合うんじゃ。
平助=その結果どうなるというんだ。奴らは涙ほどの賠償金をポンと出し、二、三年すれば又同じことをしでかしてしまうんだ。

  シゲとカメが平助の後ろから鎌を取ろうとして近づいていく。

区長=良美さんを見てみろ。お前がこれから何をしようとしているかを知らないで眠っている。お前がアメリカ兵に仕返ししようと鎌を持って出て行ったことを知れば良美さんはどうなると思うんじゃ。平助、落ち着くんじゃ。
平助=この鎌は俺が親父のために勝ってきたものだ。親父の喜ぶ顔が見たかったのに。この鎌を一度も使わずに右腕が駄目になるなんて。
区長=まだ、右腕が駄目になるかどうかは分からん。落ち着くんだ平助。
平助=俺はあいつらを許せない。どいてくれ区長。
区長=駄目だ。お前を行かせるわけにはいかない。どうしても行くというなら、わしを倒してから行け。

  シゲとカメが平助の右手に飛びつき、鎌を取ろうとする。平助は激しく抵抗する。

区長=シゲさんカメさん。しっかり掴まえて。

区長と三人がかりで平助の持っている鎌を取り上げる。鎌を取られた平助はおとなしくなる。

区長=平助、冷静になるんじゃ。落ち着くんじゃ。良美さんを看病しろ。そうすれば心も落ち着くだろう。

 平助は良美の側に座る。電話を掛けにいったヨシが帰って来る。

区長=ヨシさん。どうじゃった。救急車はいつ来るんだ。
ヨシ=はあ、それが救急車は他の所に出ていて、すぐにはここに来れないそうです。
区長=救急車が来れないと。
ヨシ=なんでも他の所で急病人が出たそうで。
区長=それは困った。
ヨシ=いえ、救急車は来ます。アメリカ軍にお願いしたら、救急車をすぐに手配してくれるそうです。
区長=そうか。とにかく救急車が来てくれるなら助かる。
カメ=だけど、この場所が分かるかしら。場所が分からないと探すのに時間がかかる。
区長=それもそうじゃ。こっちは一分一秒でも早い方がいいからな。すまんが、カメさんは公民館に行ってくれないか。あそこだったら救急車の来るのがすぐ分かる。
カメ=はい。

  カメは退場。

シゲ=もし、救急車が来なくて、私たちが信栄さんを連れていかなければならないようなことになれば大変だわ。
ヨシ=そうねえ。バス乗り場まで運んだとしたら、その間に信栄さんの傷が開き出血がひどくなるかもしれない。
シゲ=バスに乗せる時にもっと傷が開くわ。バスに乗せることはできないわ。タクシーに乗せるとなるとシートにたくさんの血がつくわ。タクシーの運転手は嫌がるわね。
区長=ヨシさん。信栄の傷はどうだ。血はまだ出ているか。
ヨシ=血がにじんでいます。
区長=心配するほどではないな。しかし、年が年だからな。安心もできない。
シゲ=ちょっとの出血でも心配です。どうにかして出血を完全に止めることはできませんか。
区長=傷が大きすぎる。どんなにきつく縛っても出血を完全に止めるのは無理じゃろう。こうなれば救急車が早く来るのを期待するしかない。
シゲ=しかし、区長さん。少しずつ流れていても救急車が来るまでにどれくらいの血が流れ出ることか。どうにかして出血を完全に止めなければ。
区長=シゲさんの気持ちは分かる。わしも同じだ。しかし、今の私たちにはこれ以上はどうすることもできない。完全に血を止めることはできない。道具もないしな。
信栄=ううううううう。
区長=信栄どうした。
平助≂親父。

  大砲、機関銃、ジェット機音。

シゲ=皮肉だねえ。
ヨシ=なにが。
シゲ=信栄さんを傷つけたのがアメリカ人なのに、私たちが気を揉みながら待っているのもアメリカ人。同じアメリカ人なのに一方は憎み、一方は感謝しなければならないなんて。なんだか変な気持ち。憎むに憎めず。といって感謝の気持ちも起こらない。
ヨシ=そうねえ。気持ちがもやもやしてしまう。

  平助が立ち上がり、外に出て行こうとする。区長は平助を止める。

区長=どこへ行くつもりじゃ。まさか、仕返しに行こうとしているのじゃないだろうな。
平助=公民館に電話をかけにいくだけだ。
区長=どんな電話をかけるのじゃ。
平助=アメリカ軍の救急車を断って沖縄の救急車を頼んでくる。
区長=ヨシさんの話を聞いただろう。ここにはアメリカ軍の救急車が来てくれることになっているんじゃ。今からお前が掛け合ったって同じことじゃ。

  平助は出て行こうとする。区長は止める。

区長=アメリカ軍の救急車が来たらどうするんじゃ。

  平助の動きが止まる。

区長=ここにはアメリカ人と話ができるのは一人も居ない。アメリカ軍の救急車が来れば、わしたちにかまわず信栄を運び出すだろう。今大切なのは信栄が早く傷の手当をしてもらうことだ。そうではないのか。

  平助は出て行く。

区長=今はアメリカ人沖縄人というのにこだわっている場合ではない。平助、よく考えるんじゃ。今から電話を掛けてもなんにもならない。平助。
ヨシ=区長さん。平助さん大丈夫でしょうか。
区長=心配じゃ。あいつのことじゃ。いつ暴れるか分からん。
ヨシ=私が呼び止めてきましょうか。
区長=ヨシさんが呼び止めることができる平助ではない。わしが行こう。

  区長退場。

シゲ=区長さん。平助さんを連れて来れるかな。
ヨシ=心配ねえ。良美さん、まるで眠っているみたい。
シゲ=区長さんと平助さんが戻ってくるまで気が付かなければいいけど。
ヨシ=疲れたわ。(縁側に腰掛ける)。
シゲ=(腰掛けながら)、戦争はとっくの昔に終わったというのに、鉄砲で撃たれるなんて。信栄さんも運が悪いわ。

  信栄がうなされる。

シゲ=どうしたのでしょう。
ヨシ=区長さんを呼んできたほうがいいんじゃない。
シゲ=区長さんが居ても同じことじゃないかしら。
ヨシ=でも心細いわ。
シゲ=そうね。区長さんを呼んでくる。
ヨシ=できるだけ急いでね。

シゲ退場。ヨシ、信栄の額のタオルを取り、洗面器に入れ、絞ってから額に乗せる。ジェット機の爆音、大砲の音、機関銃の音。

ヨシ=信栄さん。しっかりしてください。救急車が来るまでの辛抱です。・・・・・・・・・信栄さん。・・・・・・・信栄さん。救急車はまだかしら。早く来て。信栄さん。

  信栄のうめき止む。ジェット機の爆音、大砲の音、機関銃の音止む。

ヨシ=信栄さん。(信栄の胸に耳を置く)。脈は大丈夫だわ。・・・・・・・。元気に畑に出かけた人がこんな姿になって。災難と言うのはなんの予告もなくやって来る。サトウキビのことも、夫の死のことだって。

    間。シゲが戻って来る。

ヨシ=区長さんは。
シゲ=走って追いかけたけど見つからなかったわ。きっと区長さんも走って行ったと思う。信栄さん。うならなくなっているね。区長さんを連れてくる必要はなかったみたい。
ヨシ=私一人で怖かったわ。
シゲ=早く救急車が来てほしいわね。
ヨシ=早く来てほしい。
シゲ=遅いわ。
ヨシ=心が落ち着かない。

  間。

シゲ=アメリカ軍がここへ来なければ信栄さんもこんなにならなくて済んだのに。戦争が終わって二十年も過ぎたというのに、まだ沖縄に居座っている。アメリカ軍は自分勝手なことをやるんだから。アメリカ軍は早く出て行けばいいのに。
ヨシ=シゲさんがうらやましいわ。そんなことが言えて。
シゲ=・・・・・・・・・・。
ヨシ=私たち家族がなんとか生活をすることができたのは畑が軍用地になったからといっても言い過ぎではないわ。生活費の半分以上は軍用地代で払っている。畑は軍用地だけど黙認耕作地としてサトウキビを植えることができる。だからサトウキビ代金も入ってくる。もしアメリカ軍が出て行ったら軍用地代が入ってこない。サトウキビだけでは生活をすることはできない。
シゲ=ごめんなさい。気を悪くするような話をして。
ヨシ=気を悪くしてはいないわ。ヨシさんの言うことは正しいわ。私だって真一が働くようになって、軍用地代がなくても生活できるようになればヨシさんと同じことを言うと思うわ。でも、今のところ軍用地代に頼らなければならない。そんな自分が惨めなの。
シゲ=そんなことはないわ。ヨシさん一人で五人の子供を育ててきたのは立派なことよ。惨めに感じることはない。
ヨシ=よしましょう。こんな話は。

  良美が正気に戻る。

シゲ=大丈夫、良美さん。
良美=うん、ちょっと頭がふらふらするけど。大丈夫よ。
シゲ=起き上がってはいけないわ。しばらく横になっていたほうがいいわ。
良美=本当にもう大丈夫。だんだん頭もすっきりしてきた。父さんは。救急車はまだ来ないの。
シゲ=ええ、もう来てもいいころなのに。どうしたのかしら。
良美=父さんの傷は大丈夫なの。
ヨシ=布できつく縛って腕の出血は止めたし、傷は洗ったから大丈夫だと思うけど。しかし、なんとも言えないわ。やはり専門の医者に治療してもらわないと。
良美=ホータイが赤くにじんでいるわ。出血しているのじゃないの。
ヨシ=このくらいは大丈夫じゃないの。

良美は信栄の額のタオルを取り、洗面器に入れてから絞り、信栄の額に乗せる。平助が居ないのに気付く。

良美=兄さんが居ないわ。区長さんも。
シゲ=平助さんと区長さんは電話を掛けに公民館に行ったわ。救急車を頼みに。
良美=救急車は今から頼むの。
シゲ=そうじゃないの。あなたが気を失っている時にヨシさんが救急車を頼んだの、でも救急車は他のところに出ていたから、アメリカ軍の救急車が来ることになったの。
良美=アメリカ軍の救急車。
シゲ=平助さんはアメリカ軍の救急車を嫌がって、沖縄の救急車を寄越すように電話をしに行ったの。
良美=そう。

 良美、信栄の側に座る。

良美=お父さん。頑張って。

 良美立ち上がる。そして、外に出て行こうとする。

ヨシ=良美さん。どうしたの。
良美=私、兄さんの所に行ってみます。
ヨシ=止めても無駄なようね。分かったわ。私と一緒に行きましょう。シゲさん。あとはお願いね。
シゲ=ええ。

  平助と区長が登場。

区長=平助。そう怒るんじゃない。アメリカ軍の救急車を手配したのは信栄の傷を早く手当するためではないか。今は信栄の傷を一分一秒でも早く治療するのが一番大事なことだ。
平助=俺はアメリカ軍なんかに親父の傷を手当してほしくない。他所の土地へ来て自分勝手に振る舞い、あげくの果てが親父に傷を負わした。そんな奴らに親父の傷の手当をしてもらうのは嫌だ。
区長=平助。何度言えば分かるんじゃ。信栄を撃ったアメリカ兵と信栄の傷を手当するアメリカ軍の医者とは同じアメリカ人でも全くの別人じゃ。一人のアメリカ人が悪いことをしたからといってアメリカ人みんなが悪人なんかではない。
ヨシ=区長さん。どうしたんですか。
区長=平助はわしの言うことをどうしても素直に聞き入れてくれようとしないんじゃ。平助はアメリカ軍の救急車を断って沖縄の救急車を寄越せとしつこく言い張ってな。とうとう相手を怒らしてしまった。
良美=兄さん。
区長=良美さん。気が付いたか。
良美=(頷く)。
区長=もうわしの手に負えない。良美さん。平助の気持を鎮めてくれ。
良美=兄さん。兄さんがいくら強情を張ってもいくら怒ってもどうしようもないのよ。もっと冷静になって、兄さん。
平助=お前だって俺と同じ気持ちじゃないか。
良美=そうよ。でも怒ったってどうしようもないわ。

  信栄のうめき声。

ヨシ=シゲさん又始まったわ。
区長=前にもこんなことがあったのか。
ヨシ=ええ、区長さんが出て行ってすぐに。

  良美、平助は信栄の側に行く。

平助=親父、俺だ。しっかりしろ。
良美=父さん。しっかりして。

  信栄のうめき声。
 
  信栄のうめき声止まる。

平助=ちくしょう。

  鎌を取って外に出て行こうとする。良美は止める。

良美=止めて兄さん。

区長と良美が平助の鎌を取り上げようとする。もつれて三人は倒れる。良美が手首を切られ、悲鳴を上げる。ヨシとシゲが良美の手首を見る。
  救急車の音。

ヨシ=血が出ているわ。

  平助と区長は良美を見る。

区長=良美さん。大丈夫か。
良美=兄さん。止めて。

  救急車の止まる音。サイレン止む。カメ登場。

カメ=区長さん。救急車が来ました。

  平助、鎌を持っている手が緩み、鎌が落ちる。

  大砲、機関銃、鉄砲の音。
     

        幕
  
             一九六五年十一月二十四日(水)

戯曲を書いた高校二年生の時に読谷飛行場でパラシュート降下訓練のジープに少女が圧殺される事故が起こった。事故への抗議集会が喜納小学校であり、読谷高校生であった私は他の生徒と一緒に抗議集会に参加した。
集会が終わると多くの人がバス停留所に集まったので、バスに乗るのにかなりの時間待たなければならなかった。私はバスに乗らないで歩いて帰ることにした。多くの人がぞろぞろと喜納から嘉手納方向に1号線(現在の国道58号線)を歩いていたが、私の隣を歩いていた琉大生が私に話しかけてきた。彼と私は討論になった。学生は平和憲法の話をやり平和のために日本は軍隊を持つべきではないといい、沖縄の米軍基地は撤去するべきであると話した。

私たちが歩いている1号線の左側は嘉手納弾薬庫の山が黒く横たわり、正面には嘉手納飛行場の明かりが煌々と輝いていた。嘉手納弾薬庫には核爆弾が貯蔵されているという噂は子どもの頃から聞いていた。第三次世界大戦が起こったら核爆弾を貯蔵している沖縄は真っ先に攻撃されて沖縄の人間は一瞬のうちにみんな死んでしまうという話は何度も聞かされた。もし、明日第三次世界大戦が起こるとしたら死ぬ前になにをしたいかなどと子ども同士で話し合ったこともあった。
だから、子どもの頃から戦争には敏感になっていた。中学生の時にキューバ危機があった。ソ連がキューバにミサイル基地を造ろうとしたのに対してケネディ大統領はもしキューバにミサイル基地をつくるならソ連と戦争するのも辞さないと宣言し、ミサイル基地をつくろうとソ連の輸送船がキューバに向かった時、ケネディ大統領の指令で核原爆を積んだ多くの爆撃機が飛び立ち、ソ連と一触触発の事態になった。このニュースを聞いた時、私はいよいよ第三次世界大戦が始まるかも知れないとびくびくした。幸いなことにキューバ危機は回避され、世界大戦に発展することはなかった。キューバ危機の回避は勇気あるケネディ大統領のお陰だと思った私にとってケネディ大統領はヒーローだった。
高校生のときはベトナム戦争が激しくなっていた時であった。毎日嘉手納飛行場からB52重爆撃機がベトナムへ飛び立ち爆弾を落として帰ってきた。エンジン調整の爆音は一晩中続いた。テレビの音も話し声も聞こえないくらいに爆音は大きかった。嘉手納飛行場の爆音が一番ひどい時期であった。
毎日ベトナム戦争の悲惨な状況が報道されていた。しかし、私は沖縄の米軍基地を撤去してほしいという考えはなかった。むしろ、米軍基地がすべて撤去すれば、他の国に沖縄を占領されるという恐怖のほうが強かった。
私は、もしアメリカ軍がベトナム戦争に敗北した時、南ベトナムを占領したベトコンはアメリカ軍のいる沖縄を攻撃するだろうかということを考えた。ベトコンが南ベトナムを支配したとしても核ミサイルなど多くの兵器が揃っている沖縄を攻撃すれば、アメリカ軍はベトナムに核爆弾を投下してベトナムを廃墟の国にしてしまうだろう。ベトコンが沖縄を攻撃するのはありえないことだというのが私の考えだった。アメリカ軍が沖縄に駐留している間はベトコンだけでなくどの国も沖縄を攻撃することはない。沖縄は安全であると私は考えていた。

「命どぅ宝」と「物喰ゆすどぅ我が主」の格言への反発や子どもの頃から戦争に対して敏感になっていたから、琉大生の憲法9条の平和論や米軍基地の撤去論に私は納得できなかった。自衛隊を廃止し米軍が撤去した日本・沖縄は無防備な国になる。無防備な国が他の国に侵略された歴史はあったが、平和が続いたという歴史はなかった。米軍基地がなくなれば平和で豊かになるという考えは非現実的であると高校生の私は考えていた。無防備な日本を植民地にしようと侵略してくる国は絶対あるはずである。どこかの軍隊が侵略してくれば武器を持たない日本・沖縄は簡単に占領されてしまう。日本・沖縄の人間は抵抗することもなく奴隷にされてしまう。
私は琉大生の話に反発した。内心では、「お前のようなきれいごとを言っても世界には通用しない」と思いながら、「外国が攻撃したら日本・沖縄はどうすればいいのか」と私は琉大生に質問した。話を折られた琉大生は一瞬言葉に詰まったが、軍隊がいなくても大丈夫であると色々説明をした。琉大生の話した内容は記憶に残っていないが彼の説明に私は納得できなかった。軍隊がいなければ敵に支配されるのは明らかであり、単純明快な理屈である。琉大生の説明に納得しない私は、「外国が攻めてきたらどうするのか」という質問を繰り返した。
私のしつこい質問に困った琉大生は人民軍で敵と戦うと言った。私は人民軍も軍隊ではないかと琉大生に言うと、彼は自衛隊やアメリカ軍は軍隊であるが人民軍は軍隊ではないと言った。
琉大生は人民軍とアメリカ軍や自衛隊との違いを説明したが私は納得できなかった。琉大生は、自衛隊やアメリカ軍は国家がつくった軍隊であり支配者の利益のための軍隊である。しかし、人民軍は人民がつくる軍隊であり人民のための軍隊であるから自衛隊やアメリカ軍とは違うというような説明をしたと思う。学生は中国の人民解放軍をイメージして話したのだろう。民主主義国家の軍隊はシビリアンコントロールされているから人民軍と同じである。このことは脳裏にあったが高校生の私は筋道をたてて説明することはできなかった。琉大生と私は話がかみ合わないまま終わった。

 敵が攻めてきたら自分たちを守るために戦うのは当然である。沖縄戦の時、民間人が日本軍と一緒に戦ったのを私は当然の行為だと思った。中学生が鉄血勤皇隊として勇敢に戦ったのを私は賞賛するほうだった。戦後生まれの私は軍国主義少年ではない。天皇のために戦う考えはなかった。ただ、敵が沖縄を攻めてきたら家族、親戚、仲間や沖縄の人々を守るために戦うのは当然であると考えていた。占領されれば奴隷になる。奴隷にならないためには戦うしかない。そのように私は考えていた。
 「命どぅ宝」の思想は命が惜しいから侵略してきた敵軍と戦わないで降伏し、敵の奴隷になる思想である。沖縄の「命どぅ宝」と「物食ゆすどぅ我が主」の格言は奴隷の精神であると私は考えていた。
「命どぅ宝」「物喰ゆすどぅ我が主」の二つの格言は沖縄の農民の奴隷精神の表れだと考えていた私はふたつの格言を誇らしげに話す教師にむかついた。

 戯曲と「命どぅ宝」「物喰ゆすどぅ我が主」の否定と米軍基地の存在を認めていたのが私の高校時代である。それに間接民主主義である議会制民主主義・三権分立は素晴らしい政治だと思った。今でもそう思う。
三上智恵さんや島袋文子おばあ等、辺野古移設反対運動に参加していながらも共産党のようなマルクス・レーニン主義ではない大衆運動家たちの批判を展開していこうと思っているが、彼らを徹底して批判するには私の高校時代の思想が基本となる。彼らの思想は単純な反戦思想であるし、議会制民主主義とは違う前近代的な年寄りの思想である。彼らは本当の議会制民主主義を知らないし、民主主義の基本である多数決の原理も知らない。そして、三権分立も知らない。
沖縄の政治が正常になるためには彼らの思想とマルクス・レーニン主義を粉砕しなければならない。

2016/03/04 に公開
平成28年3月3日木曜日に放送された『沖縄の声』。本日は、キャスターの又吉康隆が­「佐喜真宜野湾市長に失望」、コラムコーナー”又吉康隆のこれだけは言いたい”では前­回に引き続き「二大政党は共産党が参加する野党連合より大阪維新の会のほうが可能性あ­り」のテーマについて解説いただきます。
※ネット生放送配信:平成28年月3月3日、19:00~
出演:
  又吉 康隆(沖縄支局担当キャスター)

チャンネル桜

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