細野氏の対談で分かる希望の党の二大政党への可能性

細野氏の対談で分かる希望の党の二大政党への可能性

 民進党が共産党と共闘することを嫌い、離党したのが細野豪志氏である。離党してから希望の党結成の一翼を担った。
 細野氏の考えは、経済から政治問題まで現実的であり、共産党とは違う。希望の党であれば自民党に代わる政党になれる。
 「沖縄内なる民主主義14」で「細野氏の『たった一人の反乱』が二大政党への一歩になってほしい」を掲載したが、こんなに早く実現するとは・・・・。

【対談】「衆院選で各党は日本の課題にどう向かい合っているのか」細野豪志氏(希望の党)(1/2)
10/17(火) 8:00
 これまで10月22日の投票日に向けて、有権者の皆さんに判断材料を提供してきました。言論NPOの最後の取り組みは、政党のマニフェストの内容に切り込むことです。

 一体、日本の政党は、日本が直面する課題を真剣に考えているのか、その解決に本気で向かい合おうとしているのか、さらに、選挙目当てで甘い話に逃げていないか。

 主要5党の政策責任者にマニフェストからは読み解けない疑問点を直接ぶつけ、議論した模様をお届けします。

 希望の党からは、細野豪志氏にご参加いただきました。まず、今回の公約についての説明と、工藤からの疑問をぶつけてみました。

第一部:希望の党は何を訴え、選挙に臨むのか

工藤:言論NPOの工藤です。今回の選挙で、私たちはどの党に投票すればいいのか、きちんと吟味しなければいけないと思っています。そのため、各党の政策責任者ならびに政策に非常に詳しい人に言論NPOの事務所に来ていただき、我々の評価委員とともに意見交換、また質問をさせていただきます。

 今日は、希望の党の細野豪志さんに来ていただきました。今度の選挙で希望の党は何を目指そうとしているのか、語っていただき、それについて私たちの質問に答えていただこうと思います。細野さん、よろしくお願いします。

安保政策の骨格は――有事への後方支援が出来る限定的な集団的自衛権行使

細野:希望の党の細野豪志です。希望の党はまだ誕生したての政党なので、党としての役職はまだ決まっていません。ただ、私は希望の党設立に関わり、その関係で政策作りにもかなり深く関係してきましたので、私の方から説明させていただきます。

 私が民主党・民進党に所属してきたことは皆さんもご存じだと思うので、率直にそこから話をしたい。私は民主党・民進党という政党で18年間やってきて、国会での採決はおそらく2000件くらいあったと思うが、一度も造反したことがない。その意味では、非常に忠誠心の高い議員でした。ですから、民進党に所属し、その政党で貢献することによって、国民のために役に立ちたいという思いは強くありました。その私がなぜ民進党を出たのか。これは、決して小池代表がいたから出たというのではなく、特に外交・安全保障の問題、ここは現実的にやらないと政権政党の資格はないし、逆に、それが出来ないようであれば、政権をとらない方がいいだろうとまで思っていた。それで、党を出て新しい党を作ることになった。

 従って、一つの大きな柱は、やはり安全保障、特に朝鮮半島有事における重要影響事態への後方支援はしっかりやっていく。さらに、現段階でのミサイル防衛は、アメリカのグアムに飛んでいくミサイルを迎撃するのは技術的には確立していないが、そのあたりが技術的に出来た場合にはしっかりやれるようにするという、限定的な集団的自衛権。そのあたりは、党派を超えて現実的にやっていくというのが、希望の党の安全保障政策の骨格ということになる。逆に、地球の裏側まで行って、アメリカがやるかもしれない戦争の後方支援をするということに関しては、慎重な立場で臨みたい。

政治・行政の無駄削減、消費税以外の見直しで財源を確保し内部留保課税や規制緩和で経済の基盤を強化

 経済政策では、アベノミクスは是か非か、さらに、これから何が必要なのかということについて、多くの皆さんの関心がある。おそらく一番大きな争点になるのが消費税。まず、率直に疑問を感じているのは、安倍政権になってこれまで二回、消費税の8%から10%への引き上げは先延ばしされてきた。それは、経済の状況が良くないからというのが前提だった。ところが今回に関しては、8%から10%への引き上げを、景気弾力条項もなく、とにかくやるのだ、とおっしゃって、その使途を変えるから信を問う、と。ここは、これまでやってきたことと、現在言っていることにずいぶん矛盾があると思う。我々は、消費増税については、もう一度立ち止まった方がいいだろうと思う。具体的には、「凍結」ということを訴えている。

 数日前、塩辛屋さんを経営している方から声をかけられた。最近、イカの塩辛の原材料費が上がり、けっこう大変なのだとおっしゃっていた。ただ、簡単には価格転嫁が出来ないのだと。なぜなら、消費者はそんな値段の高いものは買わないし、あと、同業他社が当然同じ値段で売るから、そんなことでは競争に勝てないのだ、と話していた。まず何をやるのかというと、社長が給料を削るのだ、と。国家でいうと、社長はやはり政治家だと思う。今、衆議院の定数は465人、本当にこれだけ人数が要るのか。参議院は衆議院と同じような役割をしているが、今のままの衆議院と参議院で本当にいいのかということも含めて、まずは国家の経営者たる政治家の大胆な削減、経費も含めて相当取り組まないと、とても今の状況で増税とは言えないだろう。その上で、例えば霞が関に依然としてある様々な無駄な支出も、政治家が身を切る改革をやってこそ初めて切り込むことが出来る、というのが基本的な考え方だ。

 それを全て行った上でなおかつ税金が必要な場合も、果たしてそれが消費税なのかどうかということも、今回、議論として提示している。一つのアイデアとしては、例えば配偶者控除。これは長年議論されてきたが、結局、自民党はそれを廃止出来なかった。夫婦控除という考え方もあるが、専業主婦か、もしくは働く女性か、ということで税負担に差が出てきて、本当はもっと働きたいのだが時間の制約があるという、例えばパートの女性の方もたくさんいる。そういったところは相当大胆に改革していかないといけない。これでも一定の財源は出ると思う。

 そして、新しい発想として我々が提示しているのが、内部留保。企業の内部留保は、今、大企業だけでも300兆円とも400兆円ともいわれるほど積み重なっている。もちろん、それは全て現預金ではないので、全てに税金をかけることは出来ない。ただ、安倍政権は二回ほど法人税の減税をしているかと思うが、法人税の減税をしたにもかかわらず、設備投資は一部を除いてなかなか増えていない。さらには、実質所得は上がっておらず、従業員の給料も上がっていない。配当もそれほど大胆に増やしたという話は聞かない。結局、企業が内部留保をため込むことによって、言うならば凍り付いているお金が300兆円、400兆円ある。これは極めて不健全だと思う。アメリカや韓国でも、余分な内部留保をため込んだ場合については、内部留保に課税がされている。そのことによって企業は配当をし、それによって当然、株価も上がることが期待されるし、従業員の給料ということになれば、当然所得も増えるし、所得税収も上乗せが期待出来る。さらには、設備投資ということになれば、それが経済を動かす一つの要因になる。そういった効果も含めて、チャレンジをする余地はあるのではないか。内部留保の課税のあり方については、いろいろな可能性があるので、今の時点で断定的に「これですぐにやる」ということではないが、自民党のように、経団連という大きな組織のしがらみにまみれていては、内部留保には指一本触れられない。麻生財務大臣も「内部留保がたまっているのはよくない」とおっしゃるが、そんなことで口先介入しても企業が動くわけがない。そういったしがらみにまみれて、具体的なアクションを起こせない自民党ではなく、私どもはそのあたりをしっかりとやっていくというのが、党としての一つの考え方だ。

 あと、経済政策としては、一つはサプライ(供給)サイドだと思う。第一の矢(金融政策)、第二の矢(財政政策)、それぞれ機動的にやるとことは別に悪いことではない。ただ、いずれもカンフル剤にすぎないので、具体的な経済の基盤自体が強くなったわけではない。そこは、サプライサイドのAI(人工知能)や自動運転、特区なども利用して、あらゆる規制にもう一度ゼロベースで取り組み、経済の基盤自体を強くしない限り、決して日本経済の基盤は強くならないだろう。これを東京だけでなく全国でやるというのが、一つの大きな柱になってこようかと思う。

タブーだった外国人受け入れで地方の人手不足解消を

 もう一つは、地方の経済をどうするのかというのも、大きなテーマ。例えば、地方の中小企業は、今、かなりの人手不足に苦しんでいる。正社員を増やして、出来るだけ事業を継続するということを考えている企業が、非常に多い。ただ、その時に大きな制約になるのが、中小企業における社会保険料の負担。具体的には、例えば医療保険の保険料、さらには年金の保険料、失業保険もある。介護保険料も、40歳以上にはかかってくる。その負担が大きいから、なかなか正社員で雇えないという企業が多い。私は昨年、ヨーロッパを視察してきたが、例えばイタリア、フランスなどでは、中小企業の社会保険料を軽減することで、若い人たちの正社員化を促している。EUは財政出動については非常に厳しいが、そういう部分に関しては優先的にすることによって雇用を増やしたという実績がある。そういったところも一つの大きな柱になる。

 ただ、そういったことをやったとしても、中小企業の人手不足は簡単には解消しないと思う。そもそも、本当に人口が減っていて、人が充足出来ないという状況がある。例えば介護現場は今、充足率が約3割。7割の人員が充足出来ていない中で、介護現場がもたないところが出てきている。どこの職場も、研修生、実習生を補うということをやりだしたが、これとて相当絞り込まれているので、介護現場は、まもなくもたなくなると思う。もう一つ深刻なのは建設現場。地方の経済において建設業の位置づけは極めて重要だ。そして、災害などが起こった場合には、そういう地元の企業が復旧に直接かかわるが、ほとんど人が確保出来ていない。これも充足率が35%くらい。そうなってくると、実際に来てくれる人は60代とか、場合によっては70代の方々が本当に頑張っている。年齢が高くても、元気で働いてもらえ、また女性にも働いてもらえるのは大事だが、やはり若い世代が、根本的に地方には本当に少なくなっているという現状は、いかんともしがたい。

 そこは、これまで自民党も民進党も言えなかった、外国人にも労働力として入ってもらうのを本気で検討しないと、地方経済が滅ぶと思う。単純労働の人たちを、そのまま世界中から引き受けるなどということは出来るわけがないので、国を限定する。例えばASEANで日本と友好的な国。そういった国々から、職種を限定して入ってもらう。もちろん、犯罪者、犯罪歴のある人については入ってもらうことは出来ない。これまでタブーで出来なかったことにチャレンジして、職種と国を限定して入ってもらい、その中で日本に引き続き留まりたいという人については、例えばグリーンカードのようなものも含めて、多様な外国人のあり方というものを提案していくことが必要なのではないかと思う。

地方自治拡大をはじめ、自民党より幅広い憲法論議を巻き起こしたい

 今回の選挙で非常に大きな課題として私どもが提示したいのは、一つは憲法。9条の議論だけが先行しているが、私は、日本の平和主義なり憲法9条を、基本的に守っていきたいという立場だ。自衛隊そのものを憲法上どう位置付けるかという議論をすること自体は、悪いことではない。ただ、万が一にもそういったことが、国民投票を発議された時に否決されたら、自衛隊の存在そのものが危うくなるから、そういう状況なら、私は、自衛隊を憲法に位置付けることもやらない方がいいだろうと思う。

 むしろ大事なのは、憲法8章。8章をもう一度しっかり見直すことで、国と地方の関係を変えていく。地方に条例制定権はあるが、法律の下でがんじがらめでは、自由な発想で条例を制定することは出来ない。地方自治体が課税を出来るかどうかについては、憲法上何ら規定はないから、非常に遠慮気味に、一応課税自主権を持っていることになっているが、これも十分ではない。さらに、地方が自由にやっていくためには、道州制とか特別自治市などもどんどんやればいいと思うが、これとて憲法上位置づけがない。そのあたりは、憲法8章を変えることによって、地方が様々なことにチャレンジ出来るような政策を合わせてやっていく必要があるだろうと思う。

 自民党の憲法の議論のこれまでの流れの中では、やや限られた議論がされてきたが、我々はもう少し幅を広げて自由な発想で議論するで、国民的な憲法議論をぜひ巻き起こしていきたい。

 最後にもう一つだけ触れれば、今回の解散の最大のきっかけになったのは、森友問題・加計問題だったと思う。解散のタイミング、臨時国会の冒頭解散というのは、国会での質疑をしたくなかったということ。この数日の間に「自民党圧勝だ」というような報道もされているようだが、仮に、三たび衆議院選挙で自民党が圧勝することになれば、まさに、森友問題・加計問題の情報隠ぺいを国民が認めたということになる。どう考えても、残されるべき公文書がなくて、「捨ててしまいました」、さらには国会で答弁することになると「記憶がありません」、そして、出てくる最終的な資料は(黒塗りされた)のり弁当、これでは話にならない。情報公開法を徹底して、さらに強化をしていく。公文書管理についてもしっかり位置付ける。希望の党の一丁目一番地は情報公開だから、そこもしっかりと訴えていかなければいけない。

工藤:では、私から質問します。言論NPOはどういう立ち位置かというと、有権者が主権者となり、主権者と政治がきちんと約束をして課題解決に取り組んでほしいということです。私たちが7月に行った世論調査では、日本の国民の6割が日本の将来に不安を持っていて、その解決を政党に期待することが出来ないという人が、また6割近くいた。それはなぜかというと、日本の国民が今、気にしているのは、日本の将来のことで人口減少と高齢化。そして最近出てきているのは北東アジアの平和、北朝鮮問題。それに対して政党が真っ向から解決策を競ってほしいというのが、基本的な認識です。従って、我々はそういう立ち位置から質問します。その前に、二つほどお聞きしたいことがあります。希望の党はよくメディアに出ているが、私たちにも分からないところがある。まず、これは政権を争う選挙だが、選挙の結果、誰が首相になり、どういう枠組みでやっていくのか。それを選挙の前に決めず、国民に説明しなくていいのか。

細野:希望の党は過半数である233人以上の候補者を出しているので、もちろん我々は政権の獲得を目指している。ただ、現実問題として、比例区単独の候補者を含めて233人を若干上回っている程度なので、単独過半数を取るのは相当難しい。そうなってくると、もちろん我々が中心で政権を担うことを目指すのだが、足りない分については何らかの他党との協力なり、そこから何人か希望の党に加わってもらうことがない限り、政権は取れない。そこはいろいろな可能性があるので、選挙が終わった後、柔軟に対応していくというのが我々の姿勢だ。

工藤:二つ目は、細野さん自身の話。細野さんが民進党をやめて新しい政党に加わる一つの大きな動機が、現実的な安全保障ということだった。それが今回の政策の中で、どう実現したのかをお聞きしたい。例えば、憲法問題に関しては、自衛隊も含めて「議論しましょう」という形です。それから、安保法制も含めて、今までと違って、何を新しい問題として提起されているのかよく分からない。

 また、2012年の三党合意で、税と社会保障の一体改革が決まった。それが、野田政権以降の日本政治の大きな変化のドラマの始まりだったわけです。その時、細野さんは民主党政権の閣僚だったわけですが、三党合意を経て消費税を上げ、そして財政再建を図る。何よりも少子高齢化が進む日本の将来に備える決断をした細野さんが、消費税増税を凍結する側に回っていることに違和感がある。それはどういう考え方なのか。確かに、自民党の政策の立て方がどうだ、ということはあるが、そもそも政治家として日本の将来を見据えた場合に、消費税の持つ意味をかなり大きく考えていたはずです。そのあたりはどう説明されますか。

政権が破棄した三党合意には責任を持てない

細野:まず安全保障に関しては、安保法制が成立した当時、私は民主党の政調会長だった。ですから、尖閣諸島の問題に対応する法律と、周辺事態法を強化する法案を、党として作っていた。私の率直な気持ちとしては、限定的な集団的自衛権についても議論して結論を出したかったのだが、そこは時間切れで最終的な収斂はしなかった。ただ、少なくとも、主要な三つの変更点のうち二つについては法案を作った。ところが、当時の民主党の判断としては、国会に法案を提出することなく、反対だけに終始した。ですから、今回、希望の党としては、周辺事態、重要影響事態といっているが、朝鮮半島有事の後方支援についてはしっかりやっていく。ミサイル防衛に関わるような限定的な集団的自衛権についても、必要があれば認めていくということも、公約の中で書いている。一方で、国際平和支援法という法律があるが、地球の裏側に行ってアメリカがやるかもしれない戦争に参加するということ、ここについては相当慎重でいたほうがいいと思う。ですから、私が二年前に考えたいたことと今との流れで言うならば、私は一貫していってきて、ようやくそれを比較的現実的に言える環境が整ったということだ。

 三党合意は確かに歴史的だったと思うが、とっくに破棄された。消費税増税を二回も延期して、一回も話し合われていない。使途についても、当時さんざん議論したことが全く守られていないので、2012年夏の三党合意を持ち出して「責任があるから」と言われても、さすがにそれは責任を持てない。むしろ、動くお金に税金をかけるか、もしくは動かないお金に税金をかけるかというと、そこは少し発想を変えたほうがいい。消費増税をすれば、リバウンドはあるにしても必ず経済が落ち込むことは間違いないわけだから、そこを含めて税の考え方をもう少し慎重に考え直した方がいいと思う。

情報のない野党が財政再建の根拠を示すのは無理

工藤:今度は、希望の党の政策の中身について。政策の基本的な考え方、視点に関しては確かに斬新なものはあるが、何を具体的に、どういう形でいつまでにやっていくのか、ということが全く見えない。例えば、消費増税の凍結をする。しかし、凍結したことによる、社会保障の必要経費や財政再建に対する影響をどのように説明するのか。特に、財政・経済政策を一体でやると言っているが、財政再建に対する具体的な公約はない。例えば、自民党の公約について我々が厳しく見ているのは、プライマリーバランス(基礎的財政収支)黒字化について全く説明していない。希望の党は、財政再建に対する考え方をどのように説明していくことになるのか。

細野:2020年のプライマリーバランス黒字化は、長年政府が約束してきて、国際公約でもあった。今回、それが完全に反故にされたというのは、そもそも自民党サイドの前提が崩れているということ。政府ですら試算できないような状況と、これだけ政府が情報を隠蔽している中で、財政再建の考え方を全て示せというのは無理。だから、少なくとも凍結をした上で、どこに無駄があるのかについては具体的にかなり指摘しているし、税金の方法についてもいくつか提示している。それらもしっかり情報開示をしてもらい、我々としてやりうるなら計算したいと思うが、今の時点で、計算出来るだけの情報の開示がないということだ。

工藤:しかし、凍結することによって想定される財政収支への影響額が出てこない。また、赤字国債で埋めるということは先送りせざるを得ないという状況だから、その検討期間そのものの時間コストがかなり高い段階に、今の日本はあるのではないか。

細野:消費増税を二回先延ばししているのだから、その批判は全て、政府がお受けになった方がいい。先延ばししてどうしているのかといえば、いろいろなことで帳尻を合わせてやっている。国民としても、それを政府に許しておいて、野党に財政再建の計画を出せと責任を問うのは、ちょっと筋が違うと思う。

工藤:であれば、財政状況に対する認識はどうなのか。

細野:極めて厳しいと思う。

工藤:極めて厳しいというのは、どういう形か。持続可能ではない、ある期間でかなり厳しい段階に来る、どのような認識か。

細野:非常に厳しいと思う。公約にも書いているが、金融緩和を継続してきているから、簡単にすぐ収束させるわけにはいかない。しかし、それが収束する時に、国債が市場できちんと消化され続けるのかということも含めて、相当厳しいと思う。

 公約の中では、金融の異次元緩和について、出口戦略をしっかり練らなければいけないという話をしている。日銀と政府との間で相当しっかりとやっていかないといけない、ということを書いている。逆に、急激に緩和をやめるということになるといろいろな混乱もあるから、そこは現実的な対応が必要だ。

金融緩和からの出口戦略は、急激な方針転換の危険性に配慮しつつ練る

工藤:公約では「ポスト・アベノミクス」を掲げています。アベノミクスの第一の矢と第二の矢に関しては、どのような立ち位置をとるのか。

細野:カンフル剤としての効果はあったと思う。我々は補正予算で、何でも財政出動でやるということに対しては慎重な立場だ。金融緩和については今やっているので、急激な方針転換は危険。そこは緩やかに、将来的な出口戦略については検討していく必要があると考える。「財政で景気回復」というのは、これまでも何度もやってきた方法だが、相当限界がある。やるとすれば相当戦略的に、例えば社会保障についても人生前半の部分にシフトしていくとか、限定したものでやっていくということだが、その持続性はあまりないと思う。だからこそサプライサイドの改革を徹底的にやり、そのことで経済自体の競争力を高めていかないと持続しないというのが、我々の考え方だ。

工藤:確かに、補正予算でどんどん財政出動するのはよくない、それは補正でやらないという話でしたよね。

細野:補正予算を全部やるなとは言わない。ただ結局、補正が織り込まれていて、補正の部分も政策の弾を用意して毎年やっている。そのチェックが甘いというのは繰り返されてきたことで、こういう既存のやり方は、我々はしないということだ。

工藤:今までの安倍政権では、税収増のかなりの額を財政支出に使っている。本来は財政赤字をもっと軽減出来たかもしれないが、財政政策にかなりウェイトを置いて支出していた。そのスタンスとは同じですか。それとも、財政政策はほとんど使わないということか。

細野:補正予算で帳尻を合わせて、本予算で確保できなかった予算を補正でやる、そのことによって財政のたがも緩んでいく、というやり方はよくないと思う。

工藤:日銀は昨年、軌道修正をし始めて、どんどん緩和するという形から方向を変えている。この軌道修正に対しては賛成ですか。それとも、緩和は今後も続けるという考えですか。出口戦略は慎重に練るとおっしゃいましたが、当面の異次元緩和は続けていくということなのでしょうか。

細野:スタートする時の判断と、既にやっていてこれからどうするかという判断は、当然違う。ですから、急激な方針転換はかなり危険を伴う。徐々に日銀が方針転換をしていくということであれば、それはやはり必要なのだと思う。

工藤:与党は「デフレ脱却」という目的を掲げているが、希望の党はデフレ脱却が政策目的にありますか。

細野:デフレ脱却はもちろん必要。しかも、現状は成功しているとは言えない。やはり実質所得が上がってこないと、デフレ脱却出来ない。コストプッシュ型のインフレは決して良いデフレ脱却ではないし、やはり実質所得が上がって購買所得が上がって、そのことによってものの値段が上がっていくというのが一番いい方法だから、そういう状況が達成出来ていないことは明確だと思う。

工藤:実質的な消費をベースにした経済の好循環を起こすということは分かったが、では、デフレ脱却の定義はそこなのですか。経済の好循環が起こるとデフレ脱却だ、という理解でいいでしょうか。

細野:デフレ脱却というのは、CPI(消費者物価指数)なりGDPデフレーターなり明確な指標があるので、それで測るのだと思う。なぜデフレ脱却が良いのか、デフレ脱却の目的は何かといえば、例えば為替が動くとか石油が高くなるとかということで、コストプッシュ型でデフレ脱却しても何の意味もない。そうではなくて、所得が増え、そのことによって消費が増え、そのことが設備投資にもつながっていくという好循環が出来ることに意味があるのではないかと思う。

工藤:消費増税凍結の理由は、経済回復の実感がないという話だが、経済指標を見ると、今、景気は非常に拡大する状況になっている。その要因は海外景気などいろいろあると思うが、ここまで完全雇用に近いような経済状況の中で消費増税を出来ないとすれば、どういうタイミングで出来ることになるのか。

細野:少なくとも今回、景気弾力条項がないこと自体が、おかしい話ではないか。もともとあったのだから。経済状況に応じて考えましょうということになって、増税出来ない状況を二回作ってしまった。これは、安倍政権の失敗だと言える。二年後の経済状況について完璧に予測出来る人はいないのだから、そういう中で本当に出来るのかについて慎重に考えるべきだというのは当然だと思う。

政治家の自己改革と政権交代の可能性を両立できる仕組みをどう作るか

工藤:議員定数と議員報酬の削減については、確かに「自ら身を切る努力をしたから」という話は、新鮮に感じました。具体的にどれくらい削減することが目的なのか。

細野:そこは出来たての政党だから、数までは議論が収斂していない。ただ、私は原発担当大臣として被災地に行っていたが、被災地で長靴を持っていなくて官僚におんぶしてもらうなど考えられない。そういう人が復興政務官をやっていたこと自体、信じられないが、そういう個人的な話ではなく、公的な部分でほとんど機能しているとは思えない議員が相当いる。衆議院だけでも削減は出来るし、参議院も含めて役割を考えた場合、すぐにバサッと削れないにしても、もう少し絞り込んでいくという少なくとも方針は示して、その上で霞が関にも切り込まないと、とても国民的な理解を得られないと思う。

工藤:今の話はある程度理解出来るところがあるが、全然違う切り口でお聞きします。今回の選挙結果はどうなるか分からないのですが、小選挙区で一人の候補者を選ぶとなると、かなり民意の大きな部分を得る候補者が当選する形になる。しかし、実質的には多くの人たちが選挙に行かないので、有権者全体の10数%の票で当選している国会議員もけっこういる。その人たちも含めて国民の代表と言えるのか。定数是正も含めて政治家のあり方を問うているのであれば、そのあたりについての理解をお聞きしたい。

細野:小選挙区制は、基本的には選挙区で一人を選ぶ選挙だから、非常に死票が多い。投票率が下がれば、確かに信任を得ている有権者の数が少なくなり、そこはいろいろ感じるところがある。ただ逆に、小選挙区だから政権交代が起こってきたという現実もある。今回、我々はもう一度、きちんと候補者を出して二大政党制を目指そうということでチャレンジをする。それに国民の皆さんがどういう審判を下されるか、というのは間もなくわかるが、私もどういう姿がいいのか、もう一度考えてみたいと思う。

 時々言われるのは、「小選挙区で政党の公認をもらうと、既得権益になるので努力しない」とか、「政党の看板を背負っただけで当選する」とか、「むしろ中選挙区時代の方が同じ党内でも切磋琢磨があった」というところで、確かにそういう面はあったと思う。ですから、どうすれば政治家が常に自己改革をするだけの状況を作れるかということと、一方で政権交代可能な仕組みを作っていくかということ、ここをどう両立するか。私もまだ答えが出ていない。


原発ゼロの手段は省エネと再生可能エネルギー

当面の電源構成は火力に頼らざるを得ない

工藤:それは、これから細野さんだけでなく皆で考えないといけない、非常に重要な問題だと思います。私の方からあと二つ、質問があります。原発ゼロという公約も、考え方としては分かるが、どう進めていくのか。今の状況を見ると、今、再稼働しているものは5基しかないが、稼働40年以上の原発は廃炉するとしても、2030年に20基の原発が存在していることになる。どういう形で原発ゼロを目指していくのか。工程表が具体的になくても、「こういう考え方でゼロにするのだ」ということを明らかにしていただきたいが。

細野:原発政策については、私は、あまり答えの幅はないと思っている。例えば、原発推進と言う人に、「新しい原発を作るのですか、作るところはありますか」というと、もう立地地域はないので、出来ない。一方で、もう原発は絶対に動かさないで、「即ゼロ」という主張の人もいる。ただ、今、数基動いている。具体的には、PWR(加圧水型原子炉)の、しかも比較的津波のない高台にある原発が動き、原子力規制委員会が相当精査している。最低限の原発を動かすことを認め、即ゼロの立場に立たない、しかも新設はしないことになると、もうだいたい幅はこの辺。例えば、一番新しい原発が出来たのが2000年代前半だから、40年で廃炉するとなると、一番長くて2040年代前半くらいにゼロになる。それをどれくらい前倒しできるか、という話。原発を建て替えて40年以上稼働させる、という議論もあるが、基本的には40年というのは守っていくべきだ。だから、2040年代を30年代に出来るかどうか、30年代を30年に前倒し出来るかどうか。その程度の差。あとはどこまでやる気になるかどうかだ。安倍政権になって、いろいろな再生可能エネルギーの開発に対する熱意のようなものは、率直に言うと薄れていると思う。

工藤:確かに、与党側にとっても、2030年のエネルギーミックス実現のめどが、現実的に言えば見えない。野党がそこを突くということは出来ると思う。ただ、原発ゼロということになると逆に聞かないといけないのは、2030年の目指すべき電源構成のイメージ。例えば、再生可能エネルギーの比率は30%と、公約にある。2030年に原発の比率を20~22%にするというのが政府の計画だが、そうでないのであればどれくらいのイメージをしているのか。

細野:一番効果があるのは省エネ。例えば2011年の福島原発事故の時も、電力不足を乗り越えられた最大の要素は省エネだった。徹底して国民が省エネをし、例えばエネルギー消費量を2割削減できれば、2割分の電源コストは要らない。例えば30%の節電のようなものは、日本社会の中で出来ると思う。それがまず一つ。もう一つは、再生可能エネルギーをどこまで高められるか。この二つでどうバランスをとるかだ。

工藤:今の政府の計画では、火力発電をかなり中心に考えている。火力発電についての考え方はないのか。

細野:原発を動かさないとすれば、広い意味でLNG(液化天然ガス)も火力だとすると、火力と再生可能エネルギーしかない。ですから当面は火力でやっていくしかない。出来るだけ石炭ではなく、LNG、それも最新鋭のものを導入し、地球環境の問題をクリア出来る技術革新にしていく。LNGも含めて火力を全て否定するとなると、とても日本のエネルギーは回らない。神学論争みたいなことをやっても仕方がなく、どうやって現実的にやっていくのかというロードマップは既に作り始めたが、それをさらにレベルの高いものにしていく必要はある。

技術拡散を思えば、圧力を緩めて対話、というわけにはいかない

工藤:それは、なるべく早く出してもらえればと思う。最後の質問は、北朝鮮問題について。まず、北朝鮮を核保有国として認めないということですよね。そのためにどうしたらいいのか。

細野:当面は、国際社会としてしっかり圧力をかけていくということに尽きる。クリントン政権の時の核の危機で、圧力から対話に舵を切った。当時の羽田総理にも柿沢外務大臣にも話を聞いたことがあるが、相当緊張した状況の中でクリントン政権が対話に舵を切ったことで、胸をなでおろしたという。ただ、結果として核の開発が続き、よりレベルが上がり、広範な施設ができ、ミサイル開発が進んでしまった。世界が危機感を持った方がいいのは、今度は北朝鮮の中だけでなく、核やミサイルの技術が世界に拡散する可能性があるということ。これは日本とか東アジアだけの問題ではなく、世界の問題だ。それを認識した時に、簡単に圧力を緩めて対話、というわけにはいかないのが現実だと思う。

工藤:私は、圧力か対話か、という対立軸にはあまり意味がないと思う。圧力をかけて外交プロセスに持っていくのか、それとも場合によっては軍事攻撃もやむなしという判断をするのか。どちらでしょうか。

細野:そこは、圧力をかけて対話に引きずり出してくるということだ。そこについては、我々の政策で相当議論して書いている。安倍総理が国連の演説で「対話に意味がない」と言われた。あれはいろいろな文脈の中で出てきた言葉ではあるが、ギリギリの線で対話の余地をどう残すのかという戦略を、しっかり持っておかないとまずいと思う。

工藤:トランプ大統領が「全ての選択肢がテーブルに乗っている」と言っているが、希望の党としては、軍事攻撃はやめてもらって、圧力をベースにした外交プロセスにかけるという考え方か、それとも、あらゆる選択肢があるという考え方か。

細野:外交・安全保障については現実主義で行くというのが我が党の考え方。その立場に立てば、それが先制攻撃かというのはあるにしても、日本としては盾の役割はするが、矛の機能は持ち合わせていない。安全保障とは総合力だから、軍事攻撃の選択肢を持っているアメリカと同盟関係を組んでいることが抑止につながっている面はあると思う。

 あとは、トランプ政権が日本との間で外交的な対話の戦略を練れているかというのは、ちょっと不安。ティラーソン国務長官、国務省と大統領の連携がどうかということはよく言われているし、国務省とホワイトハウスとで本当で一枚岩でやれているのかもやや不安だ。

工藤:現実主義で行くということになると、アメリカ合衆国憲法の修正25条に規定されているように、トランプ大統領がやっていることをマティス国防長官が反対するとか止められない限りは、戦争になる可能性があるわけで、日本の政治はそれを国民にしっかりと伝えるべきだと思う。つまり、「我々はあくまでも現実主義だけれど、北朝鮮を核保有国として認めないという立ち位置で行くのだ」と言うべきだと思うが、政治家はみな曖昧にしている。多くの国民は不安になっていると思うが、そのあたりは曖昧にしないでいただきたい。

 二つ目に、圧力をかける手法として、希望の党として何をするのか。国連決議を徹底的に履行するという選択肢だけか。もし希望の党が政権を取ったら、私たちはどのような可能性を抱けばよいのか。

細野:外交・安全保障で野党が独自性を発揮すべきかどうかということに関しては、私はそのことにそれほど価値を見出していない。むしろ、外交・安全保障、特に北朝鮮のような緊張感が高まっている問題については、現実的な対応をしていくという意味では継続の方が大事だ。唯一、自民党政権と違う可能性があるかなと思うのは、例えば核兵器禁止条約に日本は入らなかった。私も外交を経験していたから、アメリカとの関係が非常に難しいのはよく分かる。ただ、世界は核廃絶を目指しているということが、もちろん核保有国に対してもいろいろなプレッシャーにはなるのだが、一方で核保有を目指して驀進してきた北朝鮮に対するプレッシャーにもなると思う。ですから、私は批准を検討すべきだと思う。

工藤:今の状況が核拡散の脅威ではなく、核抑止の段階だとした場合に、核抑止の力を強めるために、日本にアメリカの核兵器を持ち込ませる。自民党の中ではそういう発言をする人がいるが、希望の党の考え方は。

細野:過去、岡田外務大臣の時にアメリカの核持ち込み疑惑を検証したが、時代が変わってきているので、日本に核を持ち込むことも戦略的な意味はあまりないと思う。爆撃機がアメリカからすぐ飛んでくることも出来るし、遠くからも弾頭を発射出来る。一部戦闘機にも核を積めるわけで、それは日本にいなくても飛んでこられる。潜水艦も相当自由に動けるようになっているので、あえて日本に核が存在することの戦略的な意味はあまりないと思う。

多分、石破元防衛大臣などの頭の中にあるのは、「そういう選択肢もある」という議論が日本から出てくることで、国際的にいうと「日本もそこまで考えるのか」ということになり、北朝鮮に対するいろいろな圧力を加える上でプラスになる面があるのではないか、と戦略的に言われたのだと思う。

工藤:その発言は理解出来るか。

細野:石破さんらしいといえば石破さんらしいな、と思って聞いている。

【対談】「衆院選で各党は日本の課題にどう向かい合っているのか」細野豪志氏(希望の党)(2/2)

工藤:今度は評価委員の方からどうぞ。

社会保障の主な財源は消費税か、他の税制か

内部留保課税で想定される経済への負の影響は

湯元:消費増税凍結の話について、「凍結」というと一時的な措置だと理解出来るが、そうすると、そもそも消費税をどうするのか。これからの社会保障財源はどんどん不足していくわけで、消費税を社会保障財源の基幹税として位置付けていくという考えなのか。凍結の代替財源として、内部留保課税という新しい税を出しているが、社会保障の財源は必ずしも消費税ではなく、こういったものを財源にしていくということなのか、それを伺いたい。

 それから、内部留保課税については賛否両論ある。実際にやった経験のある国もあると思うが、例えば二重課税になるといった税理論上の問題もある。また、増税して企業に痛みを与えることにより賃金増加とか雇用増加、あるいは配当増加、設備投資増加のインセンティブを与えるという政策だと思う。ただ、マイナス金利の場合でも、金融機関に痛みを与えて積極的な貸出を増やすという意図があったと思うが、現実的にはなかなかそうならない。ですから、痛みを与えることによって投資や雇用や配当を出すことになるのかどうか、という政策効果の不透明性があるのではないか、と思う。もう一つは、現実として何に課税するのか。内部留保の残高に何%か課税するというやり方は、実際にキャッシュがあるのは現預金だけのところなので、課税することも難しい。つまり、どれだけの税収があがるかというのは枠組みによっても異なってくる。それから、企業にプラスのインセンティブを与えられるのかも枠組みによって違ってくる。韓国の例だと、直接内部留保に課税することはしておらず、いろいろな工夫をしてやっている。

 加えて、企業の国際競争力を強化していくという方向性は与党も野党も同じだと思うが、社会保障の財源を稼いでいくには、国の競争力を高めて海外から所得を稼いでくる、これがベースになると思う。内部留保課税というのは、これまで法人実効税率を下げてきてあまり効果が出ていなかったので、今度は痛みを伴う政策で逆に効果を出させようということだが、法人実効税率の引き下げと内部留保課税は方向が逆になるので、その整合性はどうするのか。法人税引き下げはここでやめ、企業部門に対しては増税の方向にいくと、増税の方向で所期のプラス効果が本当に出るのかどうか、お伺いしたい。

細野:二重課税という問題については、例えば個人で言うなら相続税というものがある。あれは、所得税などのフローに対する税金を払って、亡くなる時に貯まっているものについて相続税を課税している。ですから、完全な二重課税。ただ、社会的な公正の観点から、「人生のスタートは出来るだけ平等であった方がいいだろう」ということも含めて相続税が課されているので、二重課税そのものが絶対にダメだという議論ではないと思う。

 法人税の減税と内部留保課税も、私は十分両立しうると思う。法人税の減税は、国際競争力を強化するという意味ももちろんあるし、また、減税することで様々な企業の活力を生み出すということが目的だった。減税で当初期待されたのは、当然、配当に回るとか給料に回るとか設備投資をするということだったが、十分に回っていない。日本の企業の経営者にも考えてもらいたいと思うのは、これは麻生財務大臣もおっしゃっているが、300兆円、400兆円の内部留保があって、利益剰余金だけで140億円ある。それは、本当に考えてもらった方がいいと思う。そこに税金をかけることで、企業自体も、税そのものが上がってくる可能性はあるが、そのことによって経済が動き出すことは、税のかけ方としては極めて健全なものだと思う。

湯元:ただ、内部留保自体がいろいろな資産に投資されている。例えば企業の保有する株式、M&Aをやって株式を取得するといったものも内部留保の運用先になっている。M&Aを止め、その金を使って税金を払うということになりかねないので、経済的にマイナスの影響も出かねないところでは。

細野:対象をどのようにするかは非常に悩ましい。韓国とかアメリカの例をかなり見てきたが、相当いろいろな例外を設けた上で、社会的に許容しえない内部留保をかけている。そこは大いに工夫しなければいけないと思う。

湯元:現預金も全て課税出来ないというか、運転資金でかなり使われている。

細野:中小企業などの場合は最低限の内部留保が必要だし、そもそも内部留保課税で中小企業を対象とすることは考えていない。むしろ同族会社の場合はそういう制度がある。ですから不思議なことに、内部留保課税については中小企業にはやっているのに、大企業が見過ごされてきた。大企業の経営者が本当に社会的な責任を果たして、社長が1年、2年で代わる会社が多いからそういう面がどうしても日本の場合はあるが、そういう企業経営者の背中を押すくらいのことをやらないと、日本の経済は良くならないと思う。

 一問目の、消費税はもう社会保障の財源と考えないのかどうか、そうではなくて内部留保課税を主として考えるのかということに関しては、答えは両方。消費税が全てではない。財務省は消費税に相当偏ってやってきたが、それ以外の税の可能性についても探るべきだと思う。一つは、内部留保課税を検討対象に加えるべきだと。ただ、消費税は選択肢としてない、と考えているわけではない。ですから、凍結という言い方をしている。共産党の主張とはそこが違う。

工藤:どれくらい凍結するのか。

細野:2019年の引き上げに関しては凍結ということ。

湯元:2%分をいつ上げるのか、ということについては何も表明されていないと思うのだが。

細野:それは前提として、まずは国家の経営者たる政治家がきちんとリストラクチャリングをする。さらには行革をやる。これをやった上で、あとは様々な税の可能性も見ながら、という判断だ。

湯元:議員定数とか議員報酬の削減、あるいは一院制の展望も公約に書いてあるが、その目途がつくまで上げないという意味なのか。短期間でそういうことをやるのはけっこう難しいのでは。

細野:定数の削減は、やろうと思えば出来ると思う。一院制は憲法事項だから大変だが、全部が全部揃わないと何も動かせないということではもちろんない。

湯元:ただ、少子高齢化が急速に進んでいるので、5年も10年も放っておくということはとても出来ないような状況になっていると思う。その辺の目途は、例えば2020年代前半とか半ばとか、何かお持ちなのか。

細野:各地方の議員の削減は相当のスピードでやっている。報酬の問題もかなりのスピードでやっている。国会は遅すぎる。これこそまさに、議員が自己保身に走るというしがらみそのものなので、そこは我々が議席をしっかりと国民の皆さんから与えてもらえれば、相当ドライブをかけてやれるという自負はある。

湯元:基本的には、政治改革が大前提なので、それをやれないうちは上げないという認識か。

細野:いろいろなタイミングがある。決まったということが一つの大きなタイミングというのもあるだろうし、もちろん実現出来たというタイミングもあるだろうし。それは、日本の財政の状況や、他の税の可能性なども総合的に勘案して、政治努力として判断していくことになると思う。

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労働市場の変化や人口減少を踏まえ。社会保障、国と地方の新しい姿とは

小黒:消費税とか内部留保課税の話というのは手段としていろいろあると思うが、自民党など他党との比較で、希望の党が目指している社会保障の像、新しい仕組みが少し見える部分があって、その辺について少しお伺いしたい。例えば、消費税を凍結する他方で、ベーシックインカムのようなものを、基礎年金と、あるいは生活保護と雇用保険、こういったものをある意味で見直して、国民一人一人にベーシックインカムを配っていくというような話も公約にある。これは、ある意味で社会保障をスクラップして、必要なベースの部分だけに集中投下していくような仕組みを提示されていると思う。

 もう一つ、国と地方の関係でいうと、地方もすごい勢いで人口減少していく中で、国が画一的な行政で全部やろうとしても難しくなってきている。そうすると、国と地方の関係を見直すのも重要なテーマで、他党からは、あまりその点について議論が最近出てきていない部分がある。もし、国の機能をスリム化して、地方にもう少し頑張ってもらうという仕組みにすると、今、他の方が言っている国と地方の関係とだいぶ違うと思う。その意味では、国の議員定数、社会保障や国の統治機構もスリム化するというような、そういう新しい国家像のようなものを提示されているということなのか。

細野:大まかな方向性としては、小黒先生がおっしゃった方向です。一つの考え方として、国の今の社会保障のシステムが永続的に機能して、国民がみんな平等で幸せな社会が出来るなら、それは一つありだと思う。しかし、どうもそれは無理ではないか。特に、AIの時代になって、アメリカのある研究によると、47%くらいの仕事が自動化される。そうなると大量の失業者が出て、もしくは職種を変えなければいけない状況になる。これは対岸の火事ではなく、日本でもそういうことが10年、20年のタームで起こる可能性がある。そうなった時に、今、生活保護は150万人が受給しているが、本当にそれで済むのか、という問題も出てくる。この制度を延長するというのだが、生活保護過程と例えば高齢者の基礎年金を比べると、基礎年金の金額の方が低いから、このアンバランスの問題などもある。これから仕事が大きく変わってきて、社会保障の仕組みが対応出来なくなるというのは、かなり明確に見えている。ベーシックインカムの導入は相当難しいが、そういう将来を見越して議論を始めておかないと日本の社会の底が抜けるのではないか、という問題意識があるので、問題提起している。そういう意味では、社会保障の大幅な再構成だ。

 その時に、ベーシックインカムは国がやるしかないということになる。でも、例えば介護とか、医療とか、そのあたりは国と地方の役割分担でいうと、もっと地方が持っていいと思う。今の市町村のレベルでやるというのは難しいが、道州制とか特別自治市のようなものが出来た時には、地方がやれる仕組みになる。そのことで、地方が財政や様々な社会保障で大きな役割を果たすようになれば、国会、国の役割は小さくなるし、ベーシックインカムになると厚労省と財務省がやることは相当統合出来る。例えば、参議院も今のままではなく、参議院的な機能は、地方の首長さんが担って、チェックをしてもらうということがあるのではないか。その大きな絵姿を描きたい。描こうとして、そのパーツが公約に表れているということだ。

小黒:国と地方の関係だと、例えば道州制のようなもので、医療とか介護なども地方に任せていって、国そのもののガバナンスの構造を変えていく、と。人口問題については、外国人の受け入れなども積極的に考えていく。社会保障は、ベーシックインカムのようなものも入れながら、スリム化していく。そうすると、成長戦略の部分について、人工知能とかビッグデータとかいう話が出ているわけで、今、自公政権も実際いろいろやっている。そことの違いはどういうものがあるのか。例えばデジタル通貨とかそういうものもあると思うが、どういうところまで違った点を考えて、公約を出しているのか。

細野:成長戦略の部分は、小池代表の言葉を借りれば、スピードが遅いということ。世界はもっとスピードを上げてやっていて、東京も世界で競争している。国ももっとスピードを上げていかなければいけないというのが、我々の問題意識だ。東京金融特区構想のようなものがそうだ。

小黒:あるいは、東京23区内の大学定員の抑制を見直すなどと書いてあるが、そういうのも一つだということなのか。

細野:地方が元気にならなければならないので、東京とどうバランスをとるのかというのは大きな課題だ。ただ、東京の価値を低めることで地方を高めることをやっている限り、日本は沈む。東京がしっかり元気になって地方が元気になるという意味では、大学定員の抑制のような政策はとらない方がいい。先進金融都市を目指すというのは、東京はかなり言っているのだが、国はやや冷淡。そこは、国として必要な規制は緩和していくとか、それについて最大限のサポートをしていくという体制を作らないと、東京も沈むし、日本全体も沈むということになってしまうと思う。

年金納付者と未納者の公平性、既存制度と比べた必要財源の規模

ベーシックインカムの制度設計はまだこれから

湯元:ベーシックインカムについて聞きます。本格的に導入している国はなく、フィンランドなどは今年からやり始めたという段階だが、ベーシックインカム制度の導入の基本的狙いは、どうやって就労インセンティブを高めていくか。貧困状態にある人が、最低限の生活を保障されながら働くインセンティブを高めて、貧困から脱出していくというのが基本的な考え方としてあると思う。そうすると、制度設計が非常に重要になってくるのではないか。例えば、一人当たりいくら配るのかということもあるし、対象は全国民なのか、一定レベルの所得以下の方なのか、ということも重要になってくる。

 それから、基礎年金、雇用保険、生活保護を、先ほど伺った感じでは全て廃止してベーシックインカムにしていくということだが、例えば雇用保険とは、失業のリスクに対して保険料を払い、将来失業した時に保険金が入ってくるという仕組みだから、それがなくなってしまって大丈夫なのかどうか。基礎年金の問題だと、かけている期間が人によって違うから、もらえる金額が違っているが、それは不平等なので平等にするという考えなのか。本来、自分のリスクに対して自分で保険料を払っている制度だから、保険をかけていない人はもらえないというのは、ある意味で当たり前の話。そこを全てもらえるようにすると、今度は保険料を払う必要性がないというインセンティブが出てくる。非常に大胆な改革を考えていると思うが、様々な問題点、課題が出てくる。

細野:既に、そこの矛盾は出ていると思う。例えば、基礎年金は、今、6万円とか7万円。まじめに払った人はそれだけもらえるが、逆に言うと、それだけしかもらえない。一方で、払わなかった人で生活保護になると、東京などではもう少しもらえ、その矛盾は既に現実のものとなっている。

 もう一つ言えることは、それぞれの社会保障の給付をするのに行政コストがものすごくかかっている。生活保護は、申請の際に資産があるかないかチェックしなければならず、ケースワーカーも相当大変です。そこでいろいろな軋轢もあったりする。年金もものすごくコストがかかっている。失業保険も、職業紹介をしながらなので、コストがかかっている。そういう行政コストももう一度見直して単純化した方が、むしろ行政コストも少なくてすむし、失業保険や生活保護をもらう側も精神的につらい。

 そういうこともなく一定の収入が入るという意味で、行政と受給者の両方にメリットがある。ただし、ベーシックインカムを出すことによって働かなくてもいいような社会になると、確かにバランスが悪いし、それだけを払うと財政がもたないので、そこは一定の制限を...

湯元:スイスでは国民投票をして、否決されている。もらう金額が30万円という大きな金額なので...

細野:日本の1億人を超えた人口では、そんな金額は財政的にとても無理だと思う。一方で、例えば子どもなどは、今は、義務教育はもちろんだが手当もかなりついているので、全部をベーシックインカムにするかという議論はあっていいと思う。ただ、ある一定の年齢以上になった場合は、行政コストも考えると、平等に出すということにしないとベーシックインカムのメリットがない。制度設計はまだまだこれからだが、トータルな状況からすると、そろそろ議論を始める。制度の切り替えに相当時間がかかる。例えば年金などは、払った人と払っていない人の問題があるので、どう平等な形に持って行くのか、時間もかかる。議論はもう始めておかないとAI時代、働き方が大きく変わる時代に対応出来ないのではないかというのが、我々の問題意識だ。

湯元:基本的考え方としては、かかる財政コストは全て既存の制度の見直しでカバーするので、その範囲の金額にするというイメージ。つまり追加的な財源が必要になるという考えはない、ということか。

細野:そこはいろいろな可能性があると思う。いくらくらいにするのかという制度設計も含めて、相当議論した上で国民合意がないと、ベーシックインカムは難しいと思う。

湯元:少し柔軟に考えれば、ある一定の働ける年齢くらいの人については、求職活動をちゃんとしているか、していないかに分けて配るというのもあると思う。負の所得税とか勤労税額控除など、ベーシックインカムのいろいろな仕組みは見かけ上似ているが条件が違うので、少し条件を変えることによってお金を節約するというのはあると思うが、そういうことは考えていないのか。

細野:やり方としては、今言われたようなかたちはあると思う。ただ、一方でベーシックインカムの議論は、例えば本当に自動化が進み、人力が相当必要なくなった社会では、「いわゆる生業として働くことの価値とはいったい何なのか」という時代がやがて来るかもしれない。ですから、そこは「社会がどうなるか」という哲学的な部分も踏まえて、どういうインセンティブなり、社会のモラルのようなものを維持しながら持続させるか、という議論になってくると思う。

工藤:最後に二つだけ。一つは、今回の結党後の動きですが、民進党からかなりの人たちが入りました。希望の党が入党条件を付けることで、枝野さんの立憲民主党が出来ました。それは、希望の党から見て、ある程度の基準をベースにして立党したので、当然だということなのでしょうか。それとも、もっと柔軟な形で一つの極を作るということを目的にすると、やりすぎだったと思うのか、どちらでしょうか。

細野:そこはなかなか難しい。個人的な人間関係から言えば、枝野さんは私が一番一緒に仕事をしてきた人。例えば原発事故のとき、枝野さんは官房長官で私が首相補佐官、その後私が閣僚になって枝野さんが経産大臣になった。本当に修羅場を一緒にくぐった、仕事がものすごく出来る人だ。長妻さんは同期で、心根のいい人、政権交代の立役者でもある。ですから、そういう人たちと一緒にやりたいという個人的な思いはある。

 ただし、立憲民主党を見ていると、安全保障に対する考え方とか、共産党の関係とか...相当ぐっと近づいた。共産党とは一つの極になったことが、明確になった。政界全体を見たときに、自民党がある。もう一つの、政権を担える極を、今、我々は作ろうとしている、出来つつある。どちらになっても、一定のチェック機能を働かせる極がもう一つある。これはもしかしたら一つの形かもしれない。まだその途上にあると思うが、私は、ある程度のところに線を引かざるをえなかった。そうでないと、民進党と同じ党が出来るだけ。

自公政権の長期化による制度のゆがみを正すためにも、もう一つの極を作りたい

工藤:もう一つ、森友・加計問題、これは何が問題ですか。つまり、安倍さんの政治家としての姿勢が問題なのか、それとも、長期化した自・公政権を変えなければいけないという問題なのか、あるいは、首相官邸に権限をかなり集めて、内閣人事局を作って、といろいろな形で動かしていることが、忖度を招きやすいような状況を作ったのか。

細野:内閣人事局は廃止をした方がいいのではないか、という議論も一部あったが、私はそういう議論はしない方がいいだろうと思う。霞が関がそれぞれの役所ごとにタコツボに入ってやっているのはよくないから、人事を一元化するというのは、仕組みとしては悪くない。一番問題なのは、工藤さんがおっしゃった二つ目。長く政権にいることで、対抗する勢力も自民党の中にもないし、野党の中にもないものだから、そこにおごりや慢心が出てきて、制度がゆがんだかたちで運営されるという状況が生じてしまっているということだと思う。だからこそ、自民党・安倍政権に対抗しうる勢力を作らなければならないという思いが非常に強い。我々も与党を目指しているが、国会の議席数が変われば、安倍政権が強いという状況だったとしても、緊張感が全然違う。300議席あったら政府は楽なもの。こんな状況をいつまでも続けていてはいけないと思う。

工藤:今日は細野さんを呼んで議論しました。今回の選挙は政権を選ぶ選挙で、私たちは政治と有権者との緊張関係を取り戻したい。ただ、もう一つ、日本の将来ということです。国民が一番直面している困難、北朝鮮とか少子高齢化といった課題が、日本の将来像の前に横たわっています。希望の党は出来たばかりですが、希望の党がその問題にどのような考え方と見識を持っているかということを、今日は確認させてもらいました。皆さんはどのように受け止めたでしょうか。これをもとに投票していただきたいと思います。今日はどうもお疲れ様でした。

工藤泰志
言論NPO代表

東洋経済新報社で、『論争東洋経済』編集長などを歴任。2001年10月、中立・独立した非営利のシンクタンク「言論NPO」を立ち上げ、代表に就任。選挙時のマニフェスト評価や政権の実績評価の実施をはじめ、様々な政策議論やフォーラム等を開催。12年3月、米国・外交問題評議会が設立した国際シンクタンク会議の日本代表に選出。同年11月、日本の政策論調を世界に発信する「DiscussJapan」編集長に就任。
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