「普及」が「衰退」をもたらす・・・・住宅金融公庫仕様

2007-11-19 19:23:56 | 建物づくり一般

[字句修正:11月20日3.39]

いわゆる「宅金融公庫(現 住宅金融支援機構)」仕様は、それに順じていれば確認申請が通る、という点から、一般に「普及」している仕様であると言ってよいだろう。
そこで、近年の「建築基準法の改変」が、「住宅金融公庫仕様」にはどのように現われているか、興味が湧いたので、「木造住宅工事仕様書」の最新版(平成19年版)を取り寄せてみた。
私のところには、平成3年(1991年)、平成13年(2001年)版があり、見比べてみると、ますます金物オンパレード状態となってきていることがよく分る。

しかし、まったく変わっていないのは、継手・仕口や部材の組み方。
継手で紹介されているのは、「腰掛蟻継ぎ」「腰掛鎌継ぎ」「追掛け大栓継ぎ」「台持ち継ぎ」「腰掛継ぎ」「殺ぎ継ぎ」だけ。
「腰掛け」は、きわめて簡便な、力のかからない部分にしか使えない継手。
「殺ぎ継ぎ」は垂木や根太など、しかも真下に受け材がなければ使わない。
継手・仕口を説明するならば、どういう場合に何を使うか解説をしなければ、誤解を生むだけだろう。

上掲の図は、「仕様書」が一貫して奨めてきた床組に使う継手、「台持ち継ぎ」「追掛け大栓継ぎ」「腰掛鎌継ぎ+短冊金物」と、「通し柱への横架材の仕口」の解説図。

この図を見る人は、多分、梁の継手として、「台持ち継ぎ」も「追い掛け大栓継ぎ」も「腰掛け鎌継ぎ+短冊金物」も、どれも同様の「効能」を持つ、と理解するにちがいない。なぜなら、仕様書の2階床梁の項では、この三つの中から継手を選択するようになっているからだ。
しかし、この三つは「効能」がまったく異なる。なぜ、三つの選択制にしているのか理解に苦しむ。

「台持ち継ぎ」は、元来は小屋梁で使われる継手で、「敷梁・敷桁」上で継ぎ、その真上、つまり敷梁・桁位置上で束柱を立て、その上の屋根の荷重で継手部分を押さえ込むのが原則(押さえないと上下に容易にはずれる)。
ボルトで両者を縛りつけるのは、やむを得ないとき。
しかし、ボルト締めは、時間の経過にともなう「木痩せ」でナットが緩んでしまうことが多く、また大抵の場合、天井などで隠れてしまうため、気付かない。
下の図の①が通常の方法。

   註 いかなる乾燥材でも、含水率が常に一定ということはあり得ない。
      含水率15%の材でも、季節により13~18%の程度の幅で変動する。
      つまり、「木痩せ」はかならず起きると考えてよい。
      木材の含水率、乾燥材については、9月15日に簡単に紹介。

「腰掛け鎌継ぎ+短冊金物」を「追掛け大栓継ぎ」同様の効能にするには、短冊金物では間尺に合わない。大きな荷には堪えられないからだ。下手をすれば、ボルト孔から割れるだろう。つまり、「追掛け・・」とは、まったくちがう。
どうしてもというなら、「短冊」の代りに、西欧のトラスのように、両側面に「当て板(添え板)」を釘打ちした方がよほど効果がある。

「追掛け大栓継ぎ」は、これで継ぐと、一本ものと同様の強度が出ると言われる。しかし、手加工は手間がかかる(最近は加工機械がある)。
だから、これを使えば最良なのだが、現場では現在ほとんど見かけない。上記の三つの中から選べとなれば、簡単な方法を選ぶに決まっている。
金融公庫仕様は、「蟻継ぎ」「鎌継ぎ」に「目違い」を設けないなど、簡便な加工で済ます継手・仕口を紹介しているが、加工に手間がかかる「追掛け大栓継ぎ」だけが「生き残っている」のは何故なのか、不思議である。
②が追掛け大栓継ぎの一般的な組立図。この継手は、継手長さをどのくらいにするかが要点。
「追掛け大栓継ぎ」を載せるのなら「金輪継ぎ」なども紹介する方が妥当に思える。「金輪継ぎ」は、追掛同様、きわめて頑強な継手で、土台に使えば、万一の取替えが容易にできるすぐれもの。「追掛け・・」は「上下の動き」で納めるが、「金輪・・」は「横の動き」だけで納められるから、既存の架構の修繕に利便性があり、柱の根継ぎなどでも使われる(今回は図面省略)。

問題は、通し柱への横架材の取付け。もう何年もこの方式が金融公庫仕様で紹介されているから、どこの現場でも目にする。
いずれもボルト締め。ボルト孔はボルト径よりも大きいのが普通。つまり、いかにナットを締めようが、初めからガタがある。
さらに、いかなる乾燥材を使おうが収縮があり、かならずナットが緩む。ということは、この部分に力がかかれば変形が生じるのは火を見るよりも明らか。しかも、こういった箇所は、多くの場合隠れてしまうから、緩んでも気が付かない。

こういう箇所の従来の納め方は、③~⑧。いわゆる「差物」の仕口:「差口」。
いずれも「込み栓」「楔」「シャチ栓」「鼻(端)栓」といった木材の弾力性・復元性、材同士の摩擦を利用する堅木製の材:栓を打ち込む方法。
これは「木痩せ」の影響を受けないから、経年変化もない。第一、この仕様の歴史は長い。価値のある仕様ゆえに長く使われ、進歩した。

この仕口:差口が使われなくなったのは、刻まれた段階の柱を見たときに生じる「恐怖感」によるところが大きいだろう。特に、現場に立ち会ったことのない人は、刻んだ箇所で折れてしまいそうに見えるから、恐怖感が大きいはず。
この仕口は刻みが大きいので、最低でも4寸角以上必要。3寸5分角では先ず無理。ところが、柱を3寸5分角にすることがあたりまえになってしまったのだ(この点についての桐敷真次郎氏の論説を6月13日に紹介した)。
おそらく、この仕口を推奨していないのは、金融公庫仕様策定者も、「恐怖感」に襲われたからにちがいない。
なお、すでに紹介した今井町・高木家は、4寸3分角である。きわめて妥当な材寸である。

では、このような「差口」の刻みは、手がかかるか?否である。機械でも加工できる。
ただ、建て方は手間がかかる。組立てるまで、慎重に扱うことが必要である。単材のままのときは、刻み部分が弱点になるからである。
しかし、組まれれば、かけた手間以上の「効能」が期待できる。長期にわたり狂いがなく、丈夫な架構ができるのである。
「追掛け大栓継ぎ」を紹介するなら、同等の「効能」のあるこの方法を紹介しないのは片手落ちというもの。


いずれにしろ、このような基準法お墨付きの仕様の普及・促進は、結果として、日本の長い歴史のある木造建築の技法を衰退させてしまった、と言ってよい。
あるいは、こういった「仕様」は、フール・プルーフ:ばかでも扱える:方策、全般の技術の「底上げ」のための方法として推奨してきたのかもしれない。
もしもそうなら、それは、一般の人びとの能力をバカにした話。
むしろ、こういう策・方法をフール・プルーフとして提示する人たちの能力が疑われて然るべきだろう。

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