“CONSERVATION of TIMBER BUILDINGS” :イギリスの古建築-5

2011-03-07 21:01:41 | 建物づくり一般
時ならぬ雪が降りました。
その中でも、ボケとサンシュユの蕾がふくらんでいます。





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[註記追加 8日11.39] [註記追加 8日 12.23]

先回、石造の尖塔型構造を目指して行き着いた木造 Cruck 工法を紹介しました。
この工法の建物は、いろいろな「要素・部材」が複雑に絡みあってつくられていて、その実際の「構築法」は、実物の「解体~再構築」を試みてみて初めて分ったようです。
先回の最後に載せたスケッチに、“Reconstruction of typical cruck hall” とあるのは、その「再建」作業によって得られた「成果」だからでしょう。

同書では、引き続き、各部の「Joints :継手・仕口」と実際の「建て方」を図解で示しています。
初めの図(a)は、ある実際の建物の「Joints :継手・仕口」の図解です。
そして次の(b)は、そうして組み立てられた Cruck の建て方の方法。
今回は、分りやすくするため、全般に図版を大きめにしてあります。





いろいろな形の「枘:ほぞ」と栓を多用した、きわめて精緻で、しかも念入りに検討された「Joints: 継手・仕口」であることが分ります。

   註 joint :継手は、持ち出し対置で継ぐ「持ち出し継ぎ」ではなく、主要構造部材上にあります。
      「構造用教材」などで示されている現在の日本の木造の《標準的仕様》が「異質」なことが分ります。
      [註記追加 8日11.39]

最初に、ある「通り」の一面を地上で組み立て、それを引張り起こす建て方は、日本でも、差鴨居を多用するような場合に行なわれます。
通常は、各部材を建てながら組んでゆきます。西欧でも、Cruck のような架構法以外では、建てながら組んでゆくと思います。

次の図は、別の例での構築法の図解。この場合は、平面図も載っています。

単位がftであるとすると、平面は梁行が16~18ft、桁行は12~15ft柱間が3~4。
つまり、日本で言えば、梁行2.5~3間×8~10間程度の建物に相当するでしょう。そんなに大きくはありません。それにしてはゴツイつくりです。

この事例はイギリス中部の Avon 州の博物館に移築されている建物。
移築にあたって構築法が解明されたのでしょう。その構築手順を図解した図です。
今回は、解説をそのまま載せるだけにします。




Cruck には、いろいろな種類があるようです。その解説が次の図です。



そして、Cruck 工法のいわば完成形とされるのが、下図のスケッチ。上は足元から木造の Cruck、下は石造の Base に Cruck を建てる Base-cruck と呼ばれる方法です。 Base-cruck は、おそらく「最高」のつくりだったのではないでしょうか。





下の図は Cruck の細部のつくりかた。





それにしても手が込んでいます。
Cruck の曲った形への強い「こだわり」が感じられます。
これはいったい何なのでしょう?
地震とは無縁な地域の建物。多雪地域かもしれませんが、合掌造でも、ここまでゴツクありません。
その一方で、西欧でも森林の豊かな地の木造建築には、こういうゴツイのはない。この対比には、きわめて興味が湧きます。
やはり、地中海沿岸の石造が「願望」だったのでしょうか?


ところで、この書物を見ていて、日本では、このような「建て方・組み方」を図で解説した書がないということに気付きました。
多くの「研究書」「研究報告」は、修理工事報告書をも含めて、「部分」の解説に終始しているように思えるのです。

それはおそらく、研究者を含め、建築に係わる多くの方がたが、建築「物」に関心があって、字義通りの「建築」(建て築くこと)についてはあまり関心がないからではないでしょうか。簡単に言えば、「結果」に関心があり、「過程」には関心がない。

いわゆる「建物の構造」についても同様で、「結果物」の「構造」については云々しても、「建て築く過程」を通して「構造」を考えることを嫌うように、私には見えます。
たとえば、ものの本には、継手・仕口の個々については説明があっても、架構全体から見た解説がされた書物は見たことがありません。
だから、三方差、四方差の柱を見て、これではアブナイ、金物が必要だ、などという「見解」が横行するのではないか、と思います。
   先回のコメントで、石の「空積み」の話がありました。「空積み」は、のっけからアブナイとされるのが日本。
   しかし、城郭の石積みや、九州に多い石橋は、空積みだと思います。
   煉瓦積では、目地材が使われます。そして目地材はセメントモルタルが奨められます。
   ところが、シックイ目地の方が、ひび割れも起こさず強い、というのが現場の声。
   組積造が地震に弱いというのも、積む「過程」を無視したことから生まれたいわば「風評」に思えます。

   註 私の知っている書物で、唯一、「過程」から建物を考えている書物があることを思い出しました。
      以前に紹介した「建築学講義録」です。
      これも以前に触れましたが、この書の出された頃の「建築」という語は、
      字の通り、「建て築く」という意味でしたから当然ではあります。
      [註記追加 8日 12.23]

一般に、「現代の建築関係者」は、「過程」を無視して「結果」を追い求めたがる人種であるように、私には見えます。
簡単に言えば、カッコイイ形づくり。
カッコイイ「絵」を描いて、そうなるようにつくれ、と施工者に命じることを「設計」と考える人たちの群れ・・・。
だから、「設計図」のほかに別途「施工図」が要るような「設計図」が描かれてしまう(それを助長しているのが、設計ソフトの類)。
これでは「設計」という語が「かわいそう」!


   「草思社」から「日本人はどのように建造物をつくってきたか」という好著(絵本)が刊行されています。
   第一巻は1980年初版の「法隆寺」、その後刊行されているか不詳です。
   しかし、この書でも、“Conservation・・・・”のような解説にはなっていません。
   なお、この本は、建築史学者 宮上茂隆、大工 西岡常一両氏の共著です。
   宮上茂隆氏は、将来の活躍が期待された異色の建築史学者でしたが、早逝されました。


この続きの次回は、同書の「木」についての解説を紹介します。これも、日本のそれとは趣きが多少違うように感じられます。   

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