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第Ⅷ章 壁 壁の役割と歴史

2025-08-15 11:43:40 | 同:壁

お寄り頂き、ありがとうございます。

壁の章、まだ終わっていないところがありますが、投稿することにしました。

また、一端投稿しても内容を訂正することになる部分が出ると思います。

 

第Ⅷ章 各部の納め2:壁

1.壁の役割と歴史

壁の役割 ①必要な空間を確保するための仕切り⇒遮音性や吸音性が要求される。

     ②仕上げ面の表情は空間形成上の要素となる。

     ③外壁は、防風・防雨の役割があり、同時に、周辺の環境に対しても大きな影響を持つ。

     ・地域によっては、防火の役割を要求される場合もある。

壁の仕様は、これらを考慮して決められる。

 

1)木造軸組工法と壁の造り方

  洋の東西を問わず近世までの木造軸組工法では、軸組(柱と横架材)の間に別材を充填し、軸組を表す真壁(芯壁)とするのが普通であった。

  半世紀前までは、日本でも普通に見られた工法である。

  軸組の間に充填する材料:壁の材料としては、古来わが国では、主に土、板が使われてきた

  (西欧では、土、石、レンガ、板が使われており、明治以降、わが国でもレンガ、石が使用されるようになる)。

  充填材を使用する場合は、軸組の間に取付けた竹や木の小枝などの下地(木舞こまい:小舞とも記す練った土を塗り込む方式が、古来世界各地域で一般に行われている(小舞土塗壁)

 

小舞土こまい塗り壁:柱の間にを通し、で下地を作って わらなどを刻み込んだ土を塗りつける。      図はともに滅び行く民家 川島宇次著 主婦と生活社より

 

[付録 ヨーロッパの木造軸組工法の壁]  “Fachwerk in der Schweiz” (Birkhauser Verlag)スイスの木骨造りより

    

世界各地域で、同様な工法が行なわれている(その地域で得られる材料が使われる)

写真はイギリスの木造壁 左は練った土の塊を軸組間に積む。右は石片を軸組間に積む。 ヨーロッパの木造住宅 駸々堂より

 

[長野県 秋山郷 旧山田家住宅 18世紀中頃 大阪府豊田市 日本民家集落博物館] 新潟県との県境の豪雪地に建てられた

 

   写真は日本の美術№287 至文堂より 

中門造りちゅうもんづくり(主屋の一部に中門と呼ばれる突出部をもつ。突出部には主屋への通路・厩うまやなどが設けられる)。

は、屋根材と同じくを用いた茅壁。江戸時代には広く分布している。

外観・高窓(雪深い季節の明かり取り)、内部(板敷きの部屋はなく、すべての床は土のまま:土座:夏涼しく冬は暖かいと言われる。冬はワラやムシロを敷いた。)

 

2)風雨と外壁の仕様 

外壁の仕様は、建設地の状況に応じて(特に吹き降りの激しい地域では)、屋根と同時に考える必要があり一般に、軒先を深く出す外壁を防水仕様にするなどの方策がとられる。

  注 最近、《デザインのために軒を出さない》例が多いが、デザインとは、所与の目的を格好良く仕上げることを言う。    

○雨水の侵入を避ける

① 水返し、水切り、水はけを考えた納まりとする。

② 万一軸組内部に雨水が侵入した場合、雨水を内部に滞留させない手だても講じる。

屋根同様、外壁に対しては、単に見かけではなく、「水は上から下に流れる、ただし毛細管現象の生じる場所では上にも流れる」という理屈を考慮した設計が必要である。

 

○外壁の雨水・火災からの保護

仕上った真壁を強風・雨から保護するため、水切り雨押えを造り、平瓦張り板張りなど耐水性の材料による被覆が行なわれた。

また、建物を火災から保護する必要がある場合や、寒冷地の住宅では、真壁の上を、さらに土壁で被い軸組を隠すことが行われた(土壁による塗篭ぬりごめ大壁土蔵など)。

 

[軒先を深く出す、屋根を葺き下ろす]      

▼軒を深く出す後藤家 17世紀末 岩手県江刺市 

    

大壁小舞壁 茅先端~外壁芯:約5.6尺

土塗り大壁(「塗り家つくり」と呼ぶ地域がある)の防雨のために、軒の出が深い。東北、中国山地など寒冷地に多い。(土蔵造も同様の工法をとるが、土蔵の方が塗り厚が厚い。)

写真・図は共に日本の民家1農家Ⅰより 

 

▼屋根を低く葺きおろす道面家どうめんけ (島根県鹿足郡六日市町)18世紀後半 

 

  

『間口四間。茅葺の屋根を低く葺きおろし、棟には小さな千木三組をあげる。小さいながら整った意匠である。』

『重要文化財指定民家のうちでは最も規模が小さく、間取りは「なんど」一室をかこうだけの簡単なものであるが、構造は四周に下屋をめぐらした本格的なものであって、当時の農民の間では最も多い住宅形式であったと考えられる。重要文化財指定民家が庄屋層などの上層民家が多いなかにあって、貴重な存在である。』

図・写真・文共に日本の民家4農家Ⅳ 学研 より

 

[大きな壁面に雨押え、水切り、水切り庇を付ける]         

上塗りの漆喰に亀裂や剥離、雨水が壁面上を連続して流れるのを防ぐために、雨押え漆喰で作り出したもの)、水切り水切り瓦を載せたもの)、

水切り庇腕木出し桁を造る)。 妻面土塗り大壁水切り庇を設ける場合もある。           

土蔵の漆喰造り出しの雨押え(東京都練馬区内)

 滅び行く民家 川島宙次著 主婦と生活社刊 より

                

妻壁に水切り瓦を用いた水切り 関川家住宅 米倉 高知県高知市 19世紀初 

  日本の民家4農家Ⅳ 学研より

 

けらばまで土佐漆喰でかため、水切り瓦を施した防風防火の商家(高知県安芸市内)

 滅び行く民家より 

 

[腰壁を平瓦の大壁とする] 

土塗壁の場合、雨による壁の剥落防止柱際からの雨水の進入を避けるため、雨がかかりやすい腰壁部分を、高さ1間程度まで板や平瓦の大壁仕上げとする(軒桁近くまでの地域もある)。

なまこ壁:耐水性のあるの四隅を釘留めにして、釘と目地を漆喰でかまぼこ型に盛り上げる。形状がなまこに似ることからと云われる。

     瓦45度傾けて貼る菱張り四半しはんばりは、水平の目地より水はけがよい。

▼建物のけらばまわりをなまこ壁で補強する。(岡山県倉敷市連島) 

 滅び行く民家より 

 

旧矢掛脇本陣高草家 内倉・東壁 岡山県小田郡矢掛町19世紀初 

  

『少し横長な長四角の瓦を使うのはなまこ壁では古い形     写真・文ともに日本の民家7町屋Ⅲ 学研より  

 

旧大原家の土蔵 岡山倉敷市19世紀初

                              

 『棟ごとに屋根の高さや水切りの高さを変えて外観に変化をつけている。』 写真・文共に 日本の民家7町屋Ⅲ 学研より    

 

内子の町並み本芳我家の土蔵の正面 愛媛県喜多郡内子町 

 

黄味を加えた漆喰で仕上げ、雨に弱い部分をなまこ壁で補強する。写真左 日本の美術167 至文堂、右 日本の民家7町屋Ⅲ 学研より

 

なまこ壁のつくり方 日本の民家7町屋Ⅲ 学研より

 

[切妻屋根の妻面の保護のための雨囲い(雨除け板)] 

土蔵の妻側の雨除け板(妻垂れ壁)(岡山県中国山地)とささらこ下見板の雨囲い(三重県伊勢市)

  写真は共に滅び行く民家 より 

左:この土蔵の場合、屋根まで漆喰で塗り固め、その上に束を立てて置屋根をつくっている(置き鞘さやとも呼ばれる)。

右:ささらこ下見板妻壁前面に、さらに同じ仕様の雨囲いよろいいたを垂らしている。海岸地帯に多い。(三重県伊勢市) 

 

小舞下地土塗りの工法は、真壁大壁ともに、小舞下地造りに手間が必要で有り、さらに仕上り後の亀裂防止のために十分な乾燥が必要であり、施工期間が長くなる(一度に塗込まず数回に分けて施工するため、仕上がりまでに日数がかかる)。そのため、現在では小舞土塗壁に代る工法(ラスカット等の下地ボードに下塗り、中塗り、仕上げを行う)が用いられることが多い。

シーリング材に依存する仕様も増えているが、シーリングで水の侵入を完全に止めることはできず、先ず、水返し、水切り、水はけを考えた納まりを考えることが必要。

 

[板 壁]

板壁は、中世までは板材の確保が難しく、社寺建築などに限られる(伊勢神宮などの落し込み納めの壁)。

注 板材は、当初、素性のよい木材を割り、表面をチョウナなどで削り加工していたため、古代の建物に使われる板材は平角材に近く、きわめて厚い(2~3寸)。

一般の人びとが板材を用いるようになるのは近世以降である(製材工具が発達し、薄い板材が流通しだす)。

板壁には、土塗り真壁の外側に板張りを設ける場合と壁内は貫として板張りを行う場合(真壁、大壁)とがある。

真壁 「簓子ささらこ下見の図」と「縦板張りの種類」

     滅びゆく民家 より

 

板の張り方としては、縦羽目あいじゃくり本実ほんざね底目板大和板やまといた打ち重ね打ちなど)、横羽目よこばめ相じゃくりドイツ下見南京下見重ね打ちなど)各種の方法がある。

上図では、「本実張り」を相决り打ちとしている。

外壁の板壁は、関東では横張りが多く、関西の海岸に近い地域では比較的縦張りが多い。台風が多く、激しい吹き降りに見舞われるため、その際の壁面の「水はけ」を考慮したものと考えられる(縦の方が水が流れやすい)。

また、関西の板壁は大壁納めが多いが、関東では真壁納めも多く見られる。  

 

○腰壁を板張りとする  高木家住宅・豊田家住宅 奈良県橿原市今井町

高木家住宅 玄関まわり縦羽目板張り 

  写真・図共に日本の民家 町屋Ⅱ 学研より 

 

豊田家住宅外観・断面 東面外壁簓ささらこ下見張り

  写真・図共に日本の民家 町屋Ⅱ 学研より 

 

壁面の全面を簓湖ささらこ下見で覆う。 

田中家住宅 藍寝床あいねどこのための建物 徳島県名西郡石井町 1865年 

  写真・図共に 日本の民家4農家Ⅳ  学研より

特産のあいの葉を発酵させる藍寝床あいねどこのための建物。吉野川の氾濫に備えて石垣を高く積む。

 

○土塗り大壁の全面 簓子ささらこ下見板張り 

▼旧中村家住宅:北海道檜山郡江差町 明治21年(1888年)

    日本の民家5町屋Ⅰ 学研より

切妻造り、妻入りの土蔵造りの商家土塗り壁の保護、修理が容易

建物裏は浜に面している。主屋の壁面を覆う下見板(写真からはパネル化されているように見える)


第Ⅷ章 壁仕上げの仕様と下地

2025-08-15 11:42:55 | 同:壁

2.一般に使われる壁仕上げと下地

1)壁仕上げの種類

壁の仕上げには、工場で作られた建材を現場で取り付ける乾式)と、現場で漆喰やモルタルを練り上げる塗り壁や、タイル張り湿式)がある。

外壁仕上げ 乾式サイディング張り、ボードに塗装仕上げ、無垢板張り

      湿式漆喰、モルタル塗り、ドロマイドプラスター塗り、石膏プラスター塗等の塗り壁、タイル張り

内壁仕上げクロス張り、化粧合板張り、ボードに塗装仕上げ、漆喰・珪藻土・繊維壁等塗り壁、タイル張り

柱・間柱と仕上げ材の間には、構造用面材耐火ボード、壁内通気確保のために通気胴縁などの様々な仕様が必要に応じて組み込まれる。

 

通気工法は、2000年代に入って高気密高断熱住宅が増加したこともあり、壁内の湿気や結露により軸組木材や他の建材にも腐朽が及ぶことに対しての対策として行われるようになった。

この工法は、調湿性のない外装仕上げの場合、壁内に胴縁を使って通気層を設け、「土台位置より入った外気が壁内を上昇して軒天見切縁で排出」されるか、

小屋裏まで上がって小屋裏換気口・棟換気口から排出」を行うかの2仕様ある。

[通気胴縁による外壁内換気]

         

一般的な通気工法の仕様:柱・間柱外透湿防水紙を張り厚15㎜×幅45㎜程度の通気胴縁を1尺~1尺5寸(300~450㎜)間隔で設け、通気層を確保する。

            外壁仕上り材下部水切り鉄板との間は15㎜前後の空きを作り外気の流入口をつくる。

            壁上部通気胴縁内を上がってきた空気を放出する場合は、軒天見切縁排気口を持つものとする。

透湿防水紙:透湿防水紙水蒸気を通し、を通さないシート。主にポリエチレンを素材として、ラミネート加工: 不織布とフィルムを高温高圧で貼り合わせて作られる。

      室内側から壁体内に入った湿気透湿防水紙を経て通気胴縁によって設けられた通気層に移動し、屋外に排出することができる。 また外装材からの熱伝えにくくする機能も持つ

 

2)外壁についての防火の法令

                      (表の続き)

 

 

3)壁下地

壁下地は、柱間・横架材間に、間柱(縦胴縁)、横胴縁を設けるか、またはを利用する。

その上に各種下地ボード塗壁の場合は木ずりが取り付けられる。

 間柱、横胴縁 :現在は、間柱・横胴縁を設ける方法が圧倒的に多い。

 間柱 大壁柱の見込み寸法」×幅1寸2分~1寸3分(35~40㎜) @1尺~1尺5寸(303~454.5㎜)。

    真壁厚1寸3分~1寸8分(40~55㎜)×幅1寸2分~1寸3分(35~40㎜)

 間柱は横架材に1寸角程度の短ほぞ差しで取付けるのが確実。通常は釘留め。

 ボードは、柱・間柱上で継ぐ合板などの場合は、半端が出ないように、間柱の間隔を決める)。

 横胴縁 通常は、合板などを張るときなどの継目部分に設ける。

 

(1)構造用面材を用いる場合 (告示1100号)

a.大壁の場合:図は外壁又は壁勝ち

 

構造用面材は、材種ごとに3’×9’版(910×2,730㎜)や3’×10’版(910×3,030)を用いる。

やむを得ず梁・柱等以外で継ぐ場合(3’×6’版の使用等)は、間柱及び胴縁等の断面は45㎜×100㎜以上とする。3’×6’版を用いる場合は。縦張り又は横張りとする。

また、1階、2階部分の上下同位置面材耐力壁を用いる場合は、胴差部おいて6㎜以上のあきを設ける。

○大壁耐力壁の壁倍率と張り方  壁勝ちの場合       金融公庫支援機構テキストより 

            

                      (表)

 

 ・サイディング張りなどの場合、柱・間柱外側に縦あるいは横に通気用の胴縁を取付けることがある(通気工法)。 

 通気胴縁構造用合板等を張っても壁倍率は0.5であり、面材耐力壁は、柱・間柱・土台・梁・桁に指定の釘で(及び指定の間隔で)打ちつけなければならない。(S56建告1100号)

 

b.真壁の場合(図中の寸法は4寸角柱主体のとき。仕上げ壁ちりの寸法によって増減する)

        

間柱:厚み1寸3分~1寸8分(40~55㎜) ×幅1寸2分~1寸3分(35~40㎜)@1尺5寸(454.5㎜)。 (告示1100号 厚さ3㎝以上で幅4㎝以上柱際にも添える

   横架材(土台・差鴨居・梁又は桁)に1寸(30㎜)角程度の短ほぞで取付けるのが確実。通常は釘留め。横架材にも間柱と同寸の受け材を釘留めして添わせ、軸組内に枠を設ける。

横胴縁面材を継ぐ場合は45㎜×65㎜以上とする。受け材は厚30㎜以上×幅40㎜以上。丁寧な仕事の場合、間柱と同寸材を@1尺~1尺5寸に入れ、全面を格子状に組む。

 

○真壁耐力壁の壁倍率と張り方   

耐力壁を、[間柱と横胴縁で受ける受け材で受ける場合]と[貫を用いる場合]がある。   (貫を用いる場合については後述)

・ 間柱を用いる場合  間柱:厚30㎜以上×幅40㎜以上 釘N75 壁勝ちの場合  金融公庫支援機構テキストより 

 

            (表)

 

 

 (2)一般的な下地ボードの張り方

a.大壁外壁:(通気胴縁を用いない場合 間柱(縦胴縁)と横胴縁相欠きで@1尺5寸 (450㎜)程度の格子に組む丁寧な仕事。格子の間隔は使用ボードの規格を勘案して決める。

b.真壁外壁柱間四周に受け材を設ける。図は間柱(縦胴縁)横胴縁を、相欠きで@1尺5寸程度の格子に組む丁寧な仕事。

 


第Ⅷ章 壁 貫

2025-08-15 11:42:28 | 同:壁

(3)貫

が構造部材として使われだした中世以来、木舞こまい丸竹・割竹等を添わせ縄を巻き土を塗り込む壁仕様

主体となって来た。現在はを用いて、[構造用面材を用いる工法]と従来の[土塗り壁にする工法]がある。

 

〇貫に構造用面材を張る場合 告示1100号

貫15㎜×90㎜以上を5本以上、間隔は横架材の直上、61㎝以下

構造用面材上で継ぐ。(直下はおおむね30㎝以下、貫を柱に差し通す場合は両面くさび締め又は釘打ち。柱との仕口はくさび締め又は釘打ち。構造用面材は原則横張りとする。金融支援機構テキストより)

   

構造部材としての貫を用いる場合は、住宅規模の建物では、見付け3~4寸(90~120㎜)×厚8分~1寸2分(24~36㎜)の材を柱に貫通させ楔締くさびしめとする。

(建築基準法で筋かいの使用が勧められてから、貫は壁下地材と見なされ、一般に見付け90㎜×厚12㎜前後の材を、柱に5分程度差し込み釘留めとするのが普通になった。)

・どちらか一方又は両面を大壁にする場合は、柱同面になるように縦胴縁:見付[1寸3分程度]×見込[(柱幅-貫厚さ)/2]を@1尺5寸程度で設ける。

 

〇土塗り壁(竹や木材などで組まれた下地に土を塗る) 

木舞壁木舞小舞とも記し、下地に使われる小ぶりの木材や竹材を細かく編み込んだ下地に土を塗る

滅び行く民家 より

中世から用いられてきた土塗り壁の工法間渡竹まわたたけを縦横に約1尺(303㎜)間隔で組み、これに小舞竹を30~40㎜間隔で取り付ける。小舞に縄を巻くのは土の付着をよくするためで、縄を巻くことを「小舞を掻」と呼ぶ。

小舞を掻いて壁で柱など軸組を覆う大壁にすることを塗篭ぬりごめにする、塗篭め、あるいは土蔵造などと呼ぶ。壁を塗り回した部屋は、塗篭と呼ばれる。)

                               

壁倍率の仕様

2003年に壁倍率を定めた「告示1100号第1六」によって、在来軸組工法等に用いられる土塗壁等の壁倍率が定められた。

自然素材である土壁には調湿効果や断熱効果・防音効果があるため、貫を用いて壁内を土壁にする例は、広く行われている。

   

仕様 (厚1.5㎝以上、幅10㎝以上、91㎝以下の間隔)を3本以上設ける(柱との仕口はくさび締め)。

   幅2㎝以上の割竹又は小径1.2㎝以上の丸竹を用いた間渡し竹を柱、梁、桁、土台その他の横架材に差し込み、貫に釘で打ち付ける

   幅2㎝以上の割竹により4.5㎝以下の間隔とした小舞竹間渡し竹シュロ縄、パーム縄、わら縄等で締め付ける。

   荒壁土両面から全面に、かつ中塗り土全面に塗り、塗り厚を5.5㎝又は7㎝以上とする。

      荒壁土:100ℓの砂質粘土(荒木田土など)に対して、0.4kg以上0.6kg以下のわらすさを混合したもの。

      中塗土:100ℓの砂質粘土(荒木田土など)に対して、60ℓ以上150ℓ以下の及び0.4kg以上0.6kg以下のもみすさを混合。

○壁内を土塗り壁とした防火構造 (施行令108-1延焼の恐れのある部分30分 → 告示1359号 )

 ・土蔵造 

 ・土塗真壁造で厚さ40㎜以上(裏返塗りをしないものは、間柱の屋外側の部分と土壁とのちりが15㎜以下又は間柱の屋外側の部分に厚さ15㎜以上の木材を張ったものに限る) 

 ・屋内側 厚さが30㎜以上の土塗壁

 ・屋外側 厚さ20㎜以上の土塗壁 又は 厚さ12㎜以上の下見板(屋内側が30㎜以上の土塗壁に限る)

          

[一般的な土塗壁の行程] 竹小舞の片面に土と藁すさを練った荒壁を塗る→十分に乾燥後、反対面にも荒壁を塗る裏返し塗り荒壁のひび割れを埋め平滑にするため、砂や短いスサを混ぜた土で両面に中塗りを施す→漆喰や仕上げ土で上塗りを行う。 「裏返し塗りなし」というのは、片面には貫や小舞竹が露出した状態

 


第Ⅷ章 壁 サイディング張り、塗装仕上げ

2025-08-15 11:41:58 | 同:壁

3.各種仕上げと下地   

(1) 外壁 サイディングボード張り  

     

          

○材料 窯業系セメント質木材繊維質等を薄い板状に加工した外壁材。窯で高熱処理される。

        セメント繊維質を混ぜ込むことによって補強し、混和剤を加えることで軽量化強度耐久性を向上させる。

        耐火性が高い(セメント系サイディング「準不燃材料」)。表面を塗装することによって防水力を保つため、塗装の種類により(10年前後で)再塗装が必要

    金属系塗装ガルバリウム鋼板、アルミニウム合金塗装板、塗装ステンレス鋼板等。

        軽量であるため建物にかかる荷重を減らし、地震による揺れに強い。表面材、芯材、裏面材構造で、芯材に断熱材(発泡プラスチック系断熱材)を用いているものは、

        熱伝導率が低く断熱性がある。耐用年数は長いが、経年による錆の発生を防ぐために定期的な点検と塗装が必要。 

    木質系天然木の表面に塗装と不燃処理が施されている。断熱性が高い。定期的なメンテナンスが必要。準防火地域では使えない場合もある。)

    樹脂系塩化ビニル樹脂を主原料とし、凍害や塩害に強く、耐久性が高い塗装やコーキングのメンテナンスは少ない。施工費は高め。 

 

サイディングボードは縦張りと横張りがある。仕上げ面をタイル張り状などに模したパネル状の製品もある。 

      メーカー指定の仕様による(出隅、入隅、下端、上端などの役物土台水切り上部見切り材等がある。 注意点 材料の選択にあたり、材料の在庫保証期間の確認が必要。

 

張り方:直張り工法と通気工法がある。(金融公庫支援機構テキストでは壁体内通気を可能とする構造が必要とされる。)

   ・直張り工法間柱→透湿防水紙の上に、釘打ち(厚み14ミリ以下)やビス止めまたは専用の留付金具を用いてサイディングボードを直接張り付ける。

          工数が少なく済むが、内部の湿気が溜まりやすい

   ・通気工法 :透湿防水紙とサイディングの間に通気胴縁(幅45×厚15㎜@450、出隅入隅部は幅90㎜程度)を入れ、通気を確保する。

          またはサイディングの留付金具自体に厚みがあって通気を確保できる金具を使用する。

   構造用面材用いる場合:柱・間柱に所定の釘で取付ける

   耐火ボードを取付ける場合:透湿防水紙の位置は、ボードメーカによって異なる場合があるので確認する。 

 

             (胴縁の仕様図・留付金具の姿図等 PDFにて掲載)         窯業系サイディングと標準施工より (一社)日本窯業外装材協会  WEB版もあり

 

○下地ボード :  構造用面材及び耐火ボート        

 

                               (表)

  

  

  合板はシックハウス規制に注意。F☆☆☆☆~F☆:ホルムアルデヒド放散濃度の基準。F☆が含有量が最も多く、建材として使用できない。F☆☆☆・F☆☆は使用面積制限がある。国土交通省告示第1112~1115

  参考WEB 日本合板工業組合連合会、(一社)石膏ボード工業会、(財)日本木材総合情報センター 、全国木質セメント板工業会 

 

サイディングの塗装

  サイディングは種類によって耐久性・メンテナンスの時期が異なり、経年で再塗装が必要とされている。塗装の傷みを放置するとサイディング基材まで傷みが進むことがある。

  塗料:アクリル樹脂系:安価、つやのある仕上がり紫外線に弱い。耐久年4~8年

     アクリルウレタン樹脂系: 柔軟性、弾力性、密着性が高く塗りやすい湿度が高い時の施工は表面の硬化が遅れ性能が落ちることがある。耐久年6~10年。

     アクリルシリコン樹脂系: 耐久性、耐候性、耐熱性にすぐれ、紫外線に強い密着度が低いため、再塗装の際は、相性の良い下地剤を使用する。耐久年8~12年 

     フッ素樹脂系耐久性がより良い。 

     参考図書 サイディングの維持管理はどうするの、不具合はなぜ起こるのか (一社)日本窯業外装材協会

 

 

(2) 外壁 ボード下地 塗装仕上げ                                         参考WEB全国木質セメント板工業会

○下地ボード :    

                     (表) 

             (メーカーごとに伸縮目地間隔の指定等がある)

 

○塗 料 アクリル樹脂系塗材シリコン樹脂系塗材外装合成樹脂エマルジョン系塗材外装ケイ酸質系塗材等。 

      各ボードメーカー推奨の塗料、下地処理・塗布方法がある。

    ○一般的な塗布方法: ボード表面の汚れや油分を取り除き→ボードのジョイント部分やネジ穴をパテで平滑に埋め、その後サンドペーパーで表面を滑らかにする。    

              下塗り:下地材の吸水性を抑え、密着性を高めるためにシーラーやプライマーを下塗りする。

              中塗り:(上塗り用と同じかもしくはメーカーによる)で厚みを均一にする。

              上塗り:塗膜表面の仕上げと耐久性を高める。

 

 


第Ⅷ章 壁 無垢板張り

2025-08-15 11:41:20 | 木造軸組工法の基本と実際:概観・寸法体系

(3)無垢板張り  外壁・内壁、大壁・真壁のいずれにも可能。

○材 料耐久性、耐腐朽性のある材を用いる。通常はスギ、ヒノキなど針葉樹系の板材。厚さ4分~7分(12~21㎜)程度。下見張では2分~3分(6~9㎜)。

○張り方縦張り縦羽目たてばめ)と横張り横羽目よこばめ)がある。

○縦張り横胴縁を必要とする。水が木目に沿い流下するので水はけがよい

      横胴縁は、通常  5~6分×1寸3~5分15~18㎜×40~45㎜)程度の材を@1尺~1尺5寸で柱・間柱外側に取付ける

                柱・間柱欠き込み柱・間柱と同面に納めることもある。外壁の場合、透湿防水紙を張ることが多い(防水紙なしでも可能)。

       

 種類 合決あいじゃくり張り目透し張り突き付け張り):釘が見える 本実ほんざね張り目透し突き付け):釘は隠れる隠し釘。   重ね張り釘が見える。 

   いずれも板幅は任意相決り張りでは丸釘真鍮またはステンレス本実張り隠し釘ではステンレス、スクリュウ釘などが使われる。

   一般に、目透し張りの方伸縮に耐える。本実張りは接合部が確実ではあるが、逃げを見て張らないと、高湿で板が膨張したとき下地から浮き上ることがある。

 

○横張り :通常は間柱に板を直接張る(金融公庫支援機構テキストでは壁体内通気を可能とする構造。)

       関東に多い。外壁の場合、透湿防水紙を張ることが多い(防水紙なしでも可能)。

   下見板張り南京下見 よろい下見):小幅板の下端を下の板の上端に少し重なるように張る(羽重ね)。板を釘打ち。板と板の間に段差ができるため、雨水などが侵入しにくい。

   押縁下見張り羽重ねにした下見板を1尺~1尺5寸の間隔の押縁板押えで押えてあるもの。押縁を釘打ち

   簓ささらこ下見押縁を下見板の重なりに併せて切り込んである簓子(押縁)で押える。簓子を釘打ち

   ドイツ下見 (合决あいじゃくり目透し箱目地下見):合決り板の上部を大きく削り取って目地が見えるように張ったもの。

   突き付け張り:板を釘打ち

 

 ・ 壁下端の納め方(土台際の納め):土台を隠す納め方土台を表しにする納め方がある(土台の腐朽防止には、土台を表した方が適切。)

  必ず金属板の水切り水返し)を設ける。 水切りは、板材の裏側防水紙を設けるときはその裏側)で2寸(60㎜)以上立ち上げる。

   (水切りは、基礎や土台に水が浸入するのを防ぎ、外壁の下端から水が離れやすくなり外壁の腐朽やカビの発生を抑える。

    板材の切りっぱなし外壁の下端に水が留まりやすくなり、切断面が直接雨にさらされるため、木割れや変色を起こしやすくなる

 

○大壁の場合の出隅、入隅部分の納め方 本実張り下見板張り

 

出隅部:横張り縦張りとも、突き付け納め(十分な板厚と丁寧な施工が必要)と付柱納め見切り縁納め)がある。

入隅部:横張り縦張りとも、風雨時に裏側に水がまわる可能性大。侵入した水を下に導くために、透湿防水紙2枚張り又は防水紙裏側に金属板を張る。

     導いた水は下部の水切り上に流すシーリング材では水の侵入を完全に止めることはできない。

 

○真壁の場合 柱際の納め方風雨時に裏側に水がまわる可能性大。特に横張りは、目地に沿い水が柱際に集まる風雨の強い地域では、保護策が必要。

       壁下端横架材上端の納め方:雨のあたる箇所には、金属板の水切り(水返し)を設ける。水切りは、板材の裏側(防水紙を設けるときはその裏側)で2寸(60㎜)以上立ち上げる。

 

○板材の仕上げ 塗装または無塗装木材は、従来は、防水紙なしが普通で、雨仕舞で防水に留意していた。)

        木材は、特に外部は、年月を経ると紫外線により風化・変色するが、木材としての機能を直ちに失うわけではない。

        常に湿潤な状態におかれないかぎり、塗装しなくても腐朽することはない。

        腐朽の起きる環境に置かなければ寿命は長い。木部の防腐効果を塗料・塗装に求める以前に、腐朽を起す環境をつくらない設計が基本となる。

   木材の塗装は、防腐よりも防汚を目的とし、被膜をつくらない(水分の吸放出を妨げない)材料が適切

   注 木材は乾燥材でも10~15%の水分を含み、常に吸・放出を行っている。この状態を維持することが必要。

     塗膜を形成する塗料の場合、放出される水分により塗膜下の水蒸気圧が高くなるので、塗膜が素地の動きに耐えられない場合は亀裂や剥離を起こす。

 

〇外部木材の塗料内部に浸透する浸透型塗料と、表面に被膜をつくる造膜型塗料がある。

   浸透型:木材の表面から内部に浸透して木材を保護する。木材の風合いを保ちつつ、防腐・防かび作用がある。主に屋外で使用される。

       WPステイン : 木材用に開発されたWood Preservative Stainの略。

               防虫・防黴・防腐効果のある薬剤(有機リン系等)と通気性のある樹脂からなる。紫外線に強い顔料を使用。

              木材に浸透し、撥水性がある。耐候性があり、塗り重ねができるので塗り替えが容易。

              有機リン系薬剤を含む製品は、使用にあたり注意が必要(商品名キシラデコール、ノンロットなど)。油性のほかに、水性のものもある。5年~7年で再塗装。

   造膜型 :木の表面に塗膜を作り、水や汚れから木材を保護する。屋外で使われることが多く、紫外線や雨風による劣化を防ぐ。表面に膜を作るため、木材の乾燥収縮や膨張に注意が必要

        被膜内側に侵入した水で木部が腐朽する場合がある。 調合塗料や合成樹脂塗料は塗膜の素地の動きへの追随性を維持するため、5~10年で塗り替えが必要。

   調合塗料:様々な成分を混ぜ合わせて作る。アクリル、ウレタン、油性、水性(屋内)等がある。

 合成樹脂塗料樹脂(科学的に合成されたポリマー:高分子化合物)が主成分として重要な役割を果たす。

        弾性塗料(被膜が伸縮する。エマルジョン系)は、亀裂が生じにくいため、被膜内に侵入した水が滞留し、腐朽の原因となる場合がある。

 

〇内部木材(板壁、床等)の塗料浸透型塗料と、被膜をつくる調合塗料合成樹脂塗料がある。

    屋内用浸透型塗料 : オスモカラー植物油をベースにした塗料。木材の呼吸を妨げず、内部に浸透する。5年~7年

           ワトコオイル亜麻仁油合成樹脂、乾燥助剤、溶剤が加わる。拭き取り仕上げ 3年~5年

          うるし 拭き漆 : は日本古来の塗料。接着剤にも仕様。目止めした材に、溶剤で延ばした生漆を塗り、木綿布で拭き取る。

                  空気中の湿気・水分で分解し乾燥する。木地にしみこみ、時間の経過とともに重厚なつやを生む。表面が光ることが少ない。

          カシュー : カシューナッツの外殻に含まれる樹脂。漆に似る。透明タイプエナメルタイプがある。

               塗装作業はウレタンに似て容易。空気中の酸素と反応して硬化。光沢優れ、耐水性耐磨耗性に優れる。紫外線に弱い。

          ロジン松ヤニ、接着剤や水をはじく性質があるため防水剤として使用されることがある。

 

[参考 古建築、神社等に使われる主な色彩と顔料]  現在も日本画の顔料(岩彩がんさい、岩絵の具)として使われている。

朱色 : 丹塗りにぬり、赤土)、朱(硫化水銀辰砂しんしゃ)、ベンガラ酸化第二鉄。黄土を焼成)など。

白色 : 鉛白えんぱく(塩基性炭酸鉛):奈良~鎌倉時代。鉛板を積み重ね、下から酢を炭火で蒸発させる。有毒。

     胡粉ごふん(炭酸カルシウム): 室町時代以降に用いられる。貝殻を焼いて製造

緑色 : 緑青ろくしょう(塩基性炭酸銅): 空気中で銅に生じる錆。 

黒色 : 墨(油煙を膠にかわで固めたもの)。 にかわ(獣類の骨、皮などを煮て乾燥させ固めたゼラチン状の物質。透明~半透明。接着剤)。       

これらを水に混ぜ塗布すると、顔料が木地に付着する。膠を併用することもある。被膜はつくらない

 


第Ⅷ章 壁 漆喰塗り

2025-08-15 11:40:40 | 同:壁

4)漆喰壁:外壁・内壁

壁の構成

          

塗壁には、気硬性材料水硬性材料とがあり、漆喰気硬性:空気と反応して硬化する。

○塗壁の下地材 

塗り壁の下地には木ずりを用いる場合とボードを用いる場合があり、柱間・横架材間に、間柱縦胴縁)、横胴縁を設けるか、またはを利用する。

 外壁 木ずり下地の場合 

      

  ・ 大壁 木ずり下地漆喰又はモルタル塗り等の下地

            スギの白太(外周部:辺材)でつくる幅3.5寸(115㎜)×厚4分(12㎜)程度の板を、7分(20㎜)程度の明きで間柱突き付け継ぎ釘打ち乱継ぎとする。

            木ずりの上にアスファルトフェルトラスを張る。 

  ・ 真壁 木ずり下地漆喰塗りの下地。同上サイズの木ずり突き付け釘打ち乱継ぎ柱際に木ずりの受け材を設ける。

  ・ 真壁 木ずり下地塗り壁直塗り 大壁も可能(ただし、開口四隅などでの亀裂に注意)。

             スギまたはサワラ白太材幅1寸(30㎜)×厚2分(6㎜)程度の板を3分(9㎜)内外の目透かし張り

            下げ緒さげおトンボ又は下げトンボ):塗材の収縮防止・補強のために用いる麻の繊維木ずりに釘打ち。ラスでも可能

   真壁の場合は、各横架材上には水切り金属板を設ける。 

 外壁 ボード下地の場合

 ・大壁及び真壁:ラスカット構造用合板特類特殊なセメント凹凸層を施してモルタルとの密着性を高めた製品。モルタル下塗りの工程を兼ねる厚7.5、9、12㎜ ラス不要。

               (メーカーの指定施工条件を満たした場合は、通気工法でも壁倍率が認められている。) 

               ラスカットの接合部ではシールをしても亀裂が入ることがある。大壁では注意が必要。  

  ボード下地の塗り壁の場合、継目部分は塗壁の亀裂の原因となることがあるため、丁寧な下地処理が必要。

○外壁の構成

 アスファルトフェルト:フェルト原紙にアスファルトを含侵させたもの。合成繊維不織布を用いたものもある。

 ラス  : 塗材を付着させる金網。耐久性の点で、防錆処理を施した厚手の材を用いる。

       メタルラス:亜鉛メッキ鋼板に切れ目を入れて引き伸ばしたもの(平ラス、リブラスなど)。

       リブラス:メタルラスに同一方向にこぶ(リブ)を設けたもの。下地板なしで取付ける事ができる。 ワイヤラス:鉄線を編んだ金網(菱型、甲型、丸型がある)。

     他に、メタルラスを角波型に波付けした亜鉛鉄板の片面に電気溶接した下地材等がある。

 

○漆喰塗りの種類と主な材料 

 

 材 料生石灰CaO石灰岩炭酸石灰CaCO₃を900~1,200度で焼成)を水と反応させてできる「消石灰Ca(OH)₂水酸化カルシウム」を原料とする。

     水で練った消石灰は空気中の炭酸ガスと反応し炭酸石灰CaCO₃に戻り固化する(気硬性) 。そのため、接着材としても使われる(例:レンガの目地材)。

     セメント(接着材)の前身。石灰岩は世界各地にあるため、古来各地域で壁塗りや接着材に利用されている。

 性 質気硬性硬化に時間がかかる(表面の乾燥速度に比べ、内部の乾燥が遅い)。空気に触れさせなければ硬化しないので、練り置き可能。

     耐久性(弾力があり亀裂は入りにくい)、耐火性遮音性保温性に優れ、調湿機能がある。

   補助材糊のり  粘度を高め、施工性と消石灰の粒子相互の付着性をよくする補助材料。

         従来は海藻の紅藻類を煮たふのり又は角叉つのまた(紙の原料)を煮た糊を用いたが、最近は化学合成糊も用いられる(合成糊はシックハウス規制に注意)。

     すさ(繊維質の材料で、亀裂防止のために混入する。最近はガラス繊維も用いる。

 下 地木ずり幅3.5寸(115㎜)×厚4分(12㎜)程度の板透かし張りの上にアスファルトフェルトを張りラスを取付ける。又はラスカット。     

 塗り方塗厚は、全体で13~18㎜程度。1回の塗り厚は10㎜以下。厚塗りは塗り回数を増やす。

     下塗りむら直し後、1週間程度放置しひび割れを出させ、中塗りを行う。下塗り中塗りには、強度を上げるため、通常、砂を混ぜた砂漆喰すなじっくいを用いることが多い。

     上塗りは厚1~2㎜程度のため、中塗り面が仕上がりに影響する。

     急激な乾燥は亀裂を発生させるので、徐々に風通しを与え、自然に乾燥させる。(下塗りにドロマイトプラスターを用いると下地への付着がよい。)

 なお、外壁で一般的に使われる「木ずり+フェルト+ラス+塗り仕上げ」の方法は、塗り壁面がラス取付けの釘(ステープル)で下地(木ずりや合板)に取付いているだけで、耐久性に不安がある。

 

[下地に直接漆喰を塗る方法 直塗じかぬり]:内外壁に使用でき、耐久性がある。

   木ずり(スギの白太、1寸2分(35㎜)×厚2分(6㎜)程度)下げ緒さげお( 塗材の収縮防止・補強のために用いる麻の繊維)を付け、直かに塗り込む

   明治以降多用され、天井の塗仕上げには、上記木ずりへの直塗が用いられた。

   下塗りはドロマイトプラスターが適。軒の出があれば、防水性には特に問題はない。小割の白太板を張るため、収縮が少ない。

   木ずりの隙間から裏側に塗材が塗り込まれるため、耐久性は大(塗材がかかりやすい横張りが望ましい)。

 

木ずり下地 漆喰直塗りの事例 旧日本銀行京都支店 (1906年:明治39年竣工) の間仕切り壁下地。この漆喰塗りは、一部の天井にも使用されている。   

重要文化財旧日本銀行京都支店修理工事報告書より

      

 

[参考 ラスカット下地 漆喰塗壁真壁の例] 

 

庇屋根上の1段目の横材(窓台)は差物(シャチ栓で柱に継ぐ)、2段目の横材はラスカットを継ぎ目なしで納めるために設けた窓台と同面・同見付の後付け材(見込み寸法は30㎜)。

900×1800㎜判のラスカットを、継ぎ目なしで割り付けるための方策。なお、ラスカットの厚さ分を含め、柱に壁厚分の「散りじゃくり」を設けている。

 

[参考 木ずり直塗り漆喰大壁の例] 

    

塗り壁による大壁では、下地の継ぎ目(合板やラスカットなどの場合)や開口部の四隅などに亀裂が生じる恐れが強い。

下地による亀裂は、合板、ラスカットなどの場合は、継ぎ目部分見切り枠などを設けて仕切ることで避けられる。壁内に開口を設けることはできるだけ避け、やむをえないときは開口の四周枠で見切るなどの方法をとる。

図は木ずり直塗り漆喰仕上げ大壁の例で、開口部の上および下枠を水平に延ばし見切りを設け、亀裂を防止している。

唯一、図の[A]の見切りが「はちまき」にあたる部分の部分で、「はちまき」に亀裂が生じている。

水返しの鉄板(ステンレス鋼板)の収縮によるものと考えられ、鉄板を「はちまき」から離せば亀裂は生じなかったと考えられる。

壁仕様 下地:木ずり+下げ緒 下塗り:ドロマイトプラスター 中塗り:砂漆喰 上塗り:漆喰   写真は住宅建築1989年11月号より

 

[日本家屋構造]より 明治37年9月発行 

土蔵の姿図、矩計、入口平面、窓枠及木柄戸きがらど

(木柄戸:土蔵扉の木造骨組)

     

 


第Ⅷ章 壁 モルタル塗り等

2025-08-15 11:39:51 | 同:壁

 b.モルタル塗:外壁、内壁

 壁の構成

     

 塗壁には、気硬性材料水硬性材料とがあり、モルタル水硬性:水と反応して硬化する(水和反応)である。 

○塗壁の下地材 

塗り壁の下地には木ずりを用いる場合とボードを用いる場合があり、柱間・横架材間に、間柱縦胴縁)、横胴縁を設けるか、またはを利用する。

 外壁 木ずり下地の場合 

      

 ・ 大壁 木ずり下地漆喰又はモルタル塗り等の下地

     スギの白太(外周部:辺材)でつくる幅3.5寸(115㎜)×厚4分(12㎜)程度の板を、7分(20㎜)程度の明きで間柱突き付け継ぎ釘打ち乱継ぎとする。

     木ずりの上にアスファルトフェルトラスを張る。 

 ・ 真壁 木ずり下地 :同上サイズの木ずり突き付け釘打ち乱継ぎ柱際に木ずりの受け材を設ける。

     真壁の場合は、各横架材上には水切り金属板を設ける

外壁 ボード下地の場合

 ・大壁及び真壁

  ラスカット構造用合板特類特殊なセメント凹凸層を施してモルタルとの密着性を高めた製品。モルタル下塗りの工程を兼ねる厚7.5、9、12㎜ ラス不要。

       (メーカーの指定施工条件を満たした場合は、通気工法でも壁倍率が認められている。) ラスカットの接合部ではシールをしても亀裂が入ることがある。大壁では注意が必要。  

  木毛セメント板(木材をリボン状に削り出し、セメントペーストと混ぜ成型)

  シージングボード(木繊維をほぐして成形し、合成樹脂や接着剤を混ぜ板状にして表面にアスファルトやモルタルを塗る):ボードの次にアスファルトフェルトラスが必要。 

  ボード下地の塗り壁の場合、継目部分は塗壁の亀裂の原因となることがあるため、丁寧な下地処理が必要。

 

○外壁の構成

参考 WEB 日本住宅モルタル外壁協議会「木造モルタル外壁の設計・施工に関する技術資料」 国土交通省国土技術政策総合研究所発行

金融公庫支援機構テキスト

 

 アスファルトフェルト:フェルト原紙にアスファルトを含侵させたもの。合成繊維不織布を用いたものもある。

 ラス  : 塗材を付着させる金網。耐久性の点で、防錆処理を施した厚手の材を用いる。

       メタルラス:亜鉛メッキ鋼板に切れ目を入れて引き伸ばしたもの(平ラス、リブラスなど)。

       リブラス:メタルラスに同一方向にこぶ(リブ)を設けたもの。下地板なしで取付ける事ができる。 ワイヤラス:鉄線を編んだ金網(菱型、甲型、丸型がある)。

 ラスカットの他に、メタルラスを角波型に波付けした亜鉛鉄板の片面に電気溶接した下地材等がある。

 

○モルタル塗り等の種類と主な材料  

                 

    材 料セメント石灰(CaCo₃)と粘土を高温で焼成し、微粉砕したもの、および

    性 質水硬性。練り置きができない。強アルカリ性(長年にわたり保持。オイルペイント塗装などは不可)。比重大強度大耐火性、耐水性に富む。乾燥収縮性があり亀裂が生じやすい。

   塗り厚:一般的な塗厚20㎜前後(準耐火構造では20㎜以上)。比較的重いので、下地の強度に留意。養生・調合が悪いと亀裂が入る。

   仕上げ:ひび割れや水分の侵入を防ぐ事が必要。薄付け(リシン)、複層仕上げ(吹付けタイル)、厚付け(スタッコ吹付け)等。

     ・リシン:(細かく砕いた石や砂に樹脂、セメント、着色剤を混ぜた塗料を吹付け)、

     ・スタッコ:(骨材、セメントに塗料)、吹付けタイル(複数の塗料を層にして吹付け)、

     ・リシンかき落とし(左官仕上げ) 等。

   それぞれ、内装用外装用のセメント系ケイ酸質系合成樹脂エマルジョン系塗材がある。10年前後でメンテナンス(ひび割れ、再塗装、洗浄、シーリング材の見直し)が必要。

 

 c.ドロマイトプラスター塗:外壁、内壁

   材 料ドロマイト(白雲石)を焼成し、消化(水と反応)させたもの。消石灰(Ca(OH)₂ アルカリ性60~70%)に似る。苦石灰くせっかいとも呼ぶ。

       消石灰Ca(OH)₂の一部を、水酸化マグネシウムMg(OH)₂に置き換えた組成。アルカリ性50%。

     性 質苦石灰そのものは気硬性耐火性(有毒ガスを発生しない)、耐久性防音姓(多孔質構造)がある。調合や添加物によっては水硬性。白色で着色可能。鉱物のため比較的安価。

                              (粘土が高く下地への付着力も高いそのため、漆喰壁の木ずり下地直塗りの下塗り材として用いられることがある。

         空気中の湿気を吸い取る性質があるので雨濡れに対して軒を出す等の対策が必要。)

          補助材すさ(苆) 麻スサ等の繊維質の材料で、亀裂防止のために混入する。最近はガラス繊維も用いる。

    塗り方:塗厚は、通常、全体で13~18㎜程度(1回の塗り厚は10㎜以下)。下塗り・むら直し後、1週間程度放置し、ひび割れを出させ、中塗りをかける。

                       注 表中の下塗り、中塗りにセメントを加える仕様は、硬化を早めるためである。 上塗りは厚1~2㎜。着色可能。

 

    d.石膏プラスター塗:(外壁)、内壁

   材 料:石膏(硫酸カルシウムとも呼ばれる。二水石膏CaSO₄・2H₂Oは乾燥すると無水石膏CaSO₄に変化する)。

       「天然石膏」、「硫酸と石灰石を反応させた工業製品」、「化学工場の副産物」などがある。

                        「現場調合プラスター下塗り用(現場で骨材を調合)」、「既調合プラスター下塗り用(あらかじめ骨材、混和剤が混入)「既調合プラスター上塗り用」等が規格品として市販されている。

                          石膏に石灰、ミョウバン、ポルトランドセメントといった硬化促進剤を加えたものは硬石膏プラスターと呼ばれる。

   性 質水硬性硬化が速い。練り置きができない。仕上がり面が美しい。反応とともに膨張する(乾燥で少し収縮する)ので亀裂が生じにくい。

       下地への付着力が大きい。湿気や雨水からは保護が必要。空気中の湿気を吸い取る性質があるので雨濡れに対して軒を出す等の対策が必要。

   塗り方と仕上げ:全厚12~18㎜程度(プラスターの種類によって異なる)。 急激な乾燥を避けるため施工中には通風・乾燥を控える。鏝押えや櫛引き水刷毛仕上げがある。

 

 e.日本壁上塗り仕上げ(土塗壁、大津壁:泥大津、並大津、大津磨き):外壁、内壁

   材 料:色土、粘土、スサ、石灰等を混ぜる。 

   性 質:調湿機能大。防火、防水、防音性に優れる。施工手間が必要。

   塗り方:糊を加え粘度を出す。通常は、木舞下地、下塗り・中塗りとも土壁。上塗り厚1~2㎜。

   注 砂漆喰やモルタル面、石膏ボード面に塗る大津壁の風合いの塗壁材(上塗り用)が市販されている。

 

 f.繊維壁塗 (土壁風仕上げ、綿壁風仕上げ、砂壁風仕上げ等):内壁

   材 料:有機質または無機質の繊維材料、色土、パーライト等を主原料とし、混和材、糊材料を混ぜたもの。

   性 質:吸音性、調湿作用あり。   塗り方:上塗りのみ。塗厚は2㎜前後。

       繊維壁を外壁に用いる場合は、水分を吸収しやすいため塗装、メンテナンスが必要。

 

  g.珪藻土塗:(外壁)、内壁

    材 料:約800万年前に海中に生息した珪藻の死滅・堆積したもの。珪酸質(SiO₂)の含有量、PH(強酸性~アルカリ性)は、産地により異なる。

                       市販の材料は、採掘珪藻土+硬化材・接着剤(+骨材・すさ・着色材)などからなる。

    性 質:多孔質のため調湿性がある。耐熱性がある(耐火レンガ、七輪の原料)。吸水性が高く衝撃に弱い。

      自己硬化性がないため、石灰(漆喰)または合成樹脂を硬化材・接着剤として、混合する。

                      注 合成樹脂系接着剤使用は調湿性能が劣る。石灰(漆喰)使用は、調湿性に富むが、乾燥が遅い。  合成樹脂系接着剤の使用はシックハウス規制に注意。

  塗り方 : 仕上げ材として、モルタル面または石膏ボード面に、塗厚1~3㎜程度。

                      注 室内で調湿、消臭目的に使用する場合は、石膏ボードに石灰系の材料を用いるのが適(下塗り・中塗りから用いる方が効果大)。

        現在の使用法は、塗壁仕上げというよりも塗装に近い。下地処理や施工方法によって仕上がりに差が出ることがある。

 

 

〇塗壁共通の注意点

 ・ 柱あるいは枠材と塗壁の間に、壁材の収縮による隙間が発生しやすい。 真壁の場合隙間を防ぐためには、柱・枠材に壁厚分の幅で深さ1分(3㎜)程度の壁しゃくり散りしゃくり)を設ける。

 ・ 下地の不陸や取付け不良は、仕上げ面の亀裂の要因になる。 注 特に合板やラスカット下地では、継目が亀裂発生の原因になる。石膏ラスボードでは起きにくい。

 ・凸型凹型など不整形の壁面、あるいは壁面内に設けられた開口部では、長年のうちに隅部分塗り面の形状が急変する箇所)から斜めに亀裂が生じることを避けられない。

    注 大壁仕上げで著しい。真壁の場合、柱間全幅に設けられた開口(柱と横架材、あるいは柱と敷居・鴨居でつくられた開口)では発生しないが、壁面中に設けられた場合は発生する。

 ・ 「防水紙+ラス」下地の場合は、ラスの留め方、ラスへの塗り込み方に注意。塗壁自体がラスの留め釘で下地に取付いているので、留め方が不十分な場合、剥落の原因となる。

  また、ラスが錆びると、膨張によりラスの網目なりに亀裂を生じる。

 


投稿者より

2025-08-15 11:39:08 | 投稿者より

残暑お見舞い申し上げます。

ご訪問いただき、ありがとうございます。

テキストとしては、2年数ヶ月ぶりの投稿になります。

まだ再確認が必要な箇所や、曖昧なところがありますが、一端掲載したいと思います。見切り掲載です。

これまではWordのPDFがほぼ出来てからそれをブログに移すのですが、今回はブログの投稿画面で文章を作り直したりレイアウトを変えたりするものが多く、当分はPDFへのリンク掛けは出来そうもありません。

表も所々入っていません。これから取りかかる項もあります。誤字脱字はいつものようにご容赦ください。

 

 

今回は、金融支援機構のテキスト、各メーカーさん、(一社)日本窯業外装材協会さん、日本住宅モルタル外壁協議会さん、各種建材業のWEB頁や図書に大変お世話になりました。

この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。

 

2025年8月15日                  投稿者 下山 悦子


第Ⅶ章 各部の納め1:屋根 5.瓦葺き 再編集 

2023-06-05 11:36:10 | 同:屋根

お寄り頂き、ありがとうございます。

ブログサービス終了の引越しに伴って、ブログ内のPDFへのリンクをはずすことにしました。

PDFの新しいリンクは、引越し先のAmebaブログにかけることにします。

恐れ入りますが、数ヶ月お待ちください。                   5月16日  投稿者 下山 悦子   

 

                      

Ⅶ 各部の納め1:屋根

5.瓦葺き

耐熱性耐久性耐火性に優れる。JIS規格がある(JIS A5208)。

粘土製(粘土瓦と通称)、セメント製(セメント瓦)、スレート製(厚型スレートスレート瓦)がある。

セメント瓦は、近年厚型スレートに移行しつつあり、厚型スレートの材料は、石綿入りから無石綿の補強成型セメント板に代ってきている。

粘土瓦セメント瓦厚型スレートは、メーカーにより形状が異なる。 

瓦葺きは、風などによる被害が全面に及ばないため、規格品ならば部分的な葺き替えで済む。

近年は、耐風耐震性能を向上させた防災瓦も施工されている。

 

標準的な桟瓦の形状・寸法・重量など   以下は最も利用例の多い型

 

注1 日本の瓦葺きには、本瓦葺(下図)と桟瓦葺きがある。

  

   当初は中国から移入された本瓦葺きは、谷をつくる平瓦と平瓦の継目に被せる丸瓦の2種類の瓦で構成された。

   江戸中期に、平瓦丸瓦を一体化した桟瓦が考案され、以後、施工の容易さから広く普及する。

   現在は桟瓦葺きが普通。寺院等では本瓦葺が使われている。

 

注2 “”は、当初はfrench(フランス式)のF。現在はflat:平ら:の意。メーカーにより多種多様な形がある。

注3 S型の“”は、spanish(スペイン式)の意。

   元来スペイン瓦(通称洋瓦)は、日本瓦の本瓦葺き同様、谷の下瓦と継目に被せる上瓦の2種類の瓦で構成される。

   現在は日本の桟瓦と同じく、両者を一体化したS型が主流。

                   

注4 一般に、瓦屋根は重量があり重心位置が高くなるので、地震に弱いと言われるが、それは、軸組を基礎に緊結した場合である。

   寺院等の古建築は、現在よりも数等重い瓦屋根だが、概して地震の被害は少ない。据え置きの基礎の場合、確実な軸組であれば、重量が重いほど安定する。

 


【軒先の仕様と垂木】

日本家屋構造(明治37年:1904年発行)の仕様では、

瓦屋根金属板葺き(当時はブリキ:鉄板にスズを被せたもの 又はトタン:鉄板に亜鉛を被せたものが主流)が掲載されている。

左図:通りから見上げる下屋化粧木舞天井として広小舞を用い、上屋は垂木に広小舞垂木鼻先には鼻隠しを打つのみとしている。

右図化粧垂木を用いている。(両図共に化粧軒先では、下が「」、上が「広小舞」の呼称になっている。)

 

「垂木・軒先まわり 納り例」破風板垂木表し広小舞+登り淀、(軒桁:垂木彫り)  

破風板は、一般的には際垂木の外側に同じ高さで鼻先を垂木先端より出して取付け、上に登り淀をまわす。

垂木を表す場合(軒天井を張らない)、垂木の先端を広小舞より出す納めがある。

この際には、垂木の先端(鼻先)が風雨にさらされるのを防ぐため木口に銅板を被せることがある。                          

 

〈垂木寸法 1,818/4:@450㎜(1尺5寸)の場合  細身の垂木にする場合は1,818/5:360㎜(1尺2寸)

 


2)焼成法の違いによる粘土瓦の分類・特徴 

 

以下では桟瓦葺きについて解説する。

3)桟瓦の規格と種類(日本工業規格JIS A 5208-1996年 粘土瓦)

桟瓦葺きの瓦には、基本葺き材の桟瓦と、軒先用の軒瓦、けらば用の袖瓦(そでがわら)(右、左がある)、棟用の熨瓦(のしがわら)鬼瓦などの役物瓦がある。

桟瓦の1枚の大きさには地域差があり、いくつかの型にまとめたのが以下のJIS規格。

注 「働き寸法」=瓦の全長、全幅から「重ね幅」を引いた寸法(外面に表れ、雨のあたる部分の寸法)

関東では53A型、関西では64型が主体。 埼玉深谷・児玉、北関東(茨城、栃木、福島)は53A型、群馬藤岡は56型が主体という。

地瓦には規格と異なる寸法のものがあり、使用する場合には、事前に調査が必要である。

JISの型呼称は、1坪あたりに必要な桟瓦の平均枚数で示す。

53A型の場合

流れ方向の働き寸法全長から重ね寸法70㎜を引いた寸法きき足葺き足、有効長、働き長さ)と呼ぶ。

幅方向の働き寸法 :全幅から重ね寸法40㎜を引いた寸法きき幅(有効幅、働き幅)と呼ぶ。

 

2)桟瓦の葺き方と勾配

屋根下地は、基本的に他の葺き材の場合と同じで、針葉樹系の無垢板材(スギなど、相ジャクリ)12㎜以上または構造用合板(特類)12㎜以上野地板防水紙(アスファルトルーフィング940以上)を敷きつめる。

軒先広小舞けらば登りよどの形状は、瓦の形にあわせ、バチ型にする。

軒先では、瓦を据えるためによどまたは瓦座(かわらざ)を取付ける。瓦座の前面には軒先面戸(のきさきめんど)(金属製・樹脂製・漆喰・木製)を取付ける。

・葺き方には、土葺き(つちぶき)土居葺きどいぶきと呼ぶこともある)と引掛け葺きがある。

  土葺き:下地上に葺土(ふきつち)を敷き、瓦を貼り付ける。古代から行われている方法。風に強い。土を敷く分、屋根重量が重くなる。

        (土居葺:アスファルトルーフィング以前に使われた木をそいだ薄板を張りつめる工法。

             通称とんとん葺き。瓦の葺き土を受ける。 土居塗り(どいぬり):瓦下に土(荒木田土あらきだつちなど)を塗ること)

  引掛け葺き:下地に瓦桟を流し、瓦尻にある突起(つめ)に引掛け、瓦をで下地に留める方法。現在、主に行われる方法。土を敷かないため屋根重量は軽くなる。

        関西地方では、引掛け葺き土居塗りを併用する葺き方も行われている。風に強いという。

 

・軒先面戸スズメグチとも呼ばれる。瓦下にできる隙間を埋めるため、従来は漆喰が用いられていたが、近年は金属板プラスチック製品を瓦座等に釘打ちすることが多い。

    プラスチック面戸 断面と正面  

  本瓦葺葺きの場合の面戸板 日本建築辞彙より 

 

・瓦葺きの勾配:3寸5分(3.5/10)勾配以上とされるが、4寸勾配(4.0/10)以上が確実  勾配の決定にあたり、視覚的な効果も検討する必要がある。

軒の出側軒(そばのき)の出軒の出側軒の出は、半端がでないように、使用する瓦の寸法、割り付けを検討して決める。

 

瓦屋根の形状、名称と必要な瓦

 


5.瓦葺き  瓦の形状と寸法,納り,割付け  

2023-06-05 11:35:45 | 同:屋根

6)53型桟瓦の形状と寸法 参考 (各寸法はメーカー各社ごとに異なります。)

 

 

 

参考図書   日本の瓦 坪井利弘著(新建築社)

 

5)53型瓦葺きの屋根寸法の決め方と各部の納まり 参考 (寸法はメーカー各社ごとに異なります。)

  a.桟瓦のきき幅  b.桟瓦のきき足(葺き足)

 

  c.軒先の納め、けらばの納め

  

  e.壁との取り合い:登り上部  f.壁との取り合い:壁際 

  

  壁際では雨水が屋根勾配なりに排水されないので、雨押え包み板(水切り鉄板)だけでは雨水の浸透を防ぎきれない場合がある(内壁にしみをつくる)。

  そのため、捨て谷を設ける。 

 

  g.谷 

 

  h.棟(厚のし3段、素丸瓦納め)   i.棟(厚のし5段、素丸瓦納め)

 

  j.鬼瓦の据付位置     k.隅棟

                                               

 

7)切妻屋根の瓦割付け例

53型桟瓦割付け(地割り)例(前項の寸法の瓦を用いた場合) 

建物 桁行4間半(27尺:8,181㎜)×梁行3間半(21尺:6,363㎜)

流れ方向割付け例      軒瓦1枚+桟瓦17枚

注 最上部の瓦桟位置を野地板棟から30㎜(1寸)とするとき、野地板棟から端部までは概略15㎜(5分)程度になる。

 

▼万十(饅頭)巴 軒先                

                                                                                      

▼けらば 右袖瓦(4寸5分勾配)

 

▼瓦伏図  上部:流れ計18枚、下部:流れ計19枚

切妻屋根平軒方向は、袖瓦を用いる場合の総長さは、{左袖瓦225㎜+桟瓦きき幅265㎜×枚数+右袖瓦305㎜}となる。

▼けらば割付け詳細

 

 

〈けらば風切丸:丸瓦又は紐丸瓦 を一筋葺いた場合〉 袖瓦の隣には片切桟瓦平瓦を用いる。