「日本家屋構造・中巻:製図篇」の紹介-23 :附録 (その8)「仕様書の一例」-5

2014-05-31 18:21:34 | 「日本家屋構造」の紹介


二十九 普通住家建築仕様書の一例(一式請負の時)」の項の原文を編集、A4判6ページ(右上に便宜上ページ番号を付してあります)にまとめましたが、現在、仕様の具体的内容部分(2~6ページ)を紹介中です。

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[文補訂 6月1日早朝][蛇口枘の図追加 1日 9.45][文言追加 1日 10.30]

紹介は、原文を、編集したページごとに転載し、現代語で読み下し、随時註記を付す形にします。
今回は、その5枚目:出格子、雨戸戸袋、霧除け庇、雨押え、軒樋、下水、などの仕様の項の紹介になります。
ところが、今回分の原文に目を通していて、「日本家屋構造・上巻」の紹介が尻切れトンボになっていることに気づきました。
2012年12月21日の「『日本家屋構造』の紹介-18・・・天井の構造」に続き、まだ「庇し」と「戸袋」の項の紹介をしなければならなかったにもかかわらず、入院に取り紛れ、その紹介をせずに終わってしまっていたことに、あらためて気付いたのです。忘れるなんてボケたかな?・・・
そこで、今回の紹介に際して、その項に関わる図と解説を載せ、補うことにいたします。

はじめに原文。

以下、現代語で読み下します。なお、工事順、部位別に、大まかに「分類見出し」を付けました。
〇 表 出格子
  この解説は、平屋建て普通住家の事例についてなされているものと思われますので、その平面図立面図を再掲します。
  
  材料はすべて 檜 無節
  妻板幅 8寸×厚 1寸2分 上々に削り仕上げる。
  格子台成・丈 5寸×幅 2寸5分
  鴨居成・丈 2寸2分×幅 2寸5分
   格子台、鴨居とも、格子取付け用の穴雨戸溝、左右の妻板への取付け用枘を刻み、妻板に差し合せ楔締めで固める。
    註 格子台の参考図として、二階建ての二階に、下野庇上に設ける出格子の例を載せます。いずれも再掲です。
       この図では格子台は庇上に立つ柱に取付けていますが、平屋建ての場合は、本体の柱に取付けた妻板に取付けます。
      
       妻板への取付けは、
       丁寧な場合は、妻板の間に数か所設ける太枘(だぼ)で固定する、
       簡単な場合は、小穴を突いておき、を嵌め込み、隠し釘で取付ける
       などが考えられます。戸袋の項であらためて触れます。
 台輪成・丈 1寸6分×幅 4寸妻板より 1寸8分 外に出し、に納める。
    註 台輪については、次項の戸袋の図を参照ください。
 格子見付 7分×見込 8分 削り仕上げ。1寸5分明きに立てる。
       格子は、幅 7分×厚 2.5分を四通り差す。そのうちの中二通りは、掛子彫りをして割貫として差す。
    註 原文の「中二通り掛子彫割貫に差し通す」を上記のように解しました。
       これは、下図の、貫を二つ割にして差す「割り貫」」「割り子差し」と呼ぶ方法のことと思われます。(図は「工作本位 建築の造作図集」理工学社 刊より)
       「掛子彫り」とは、格子に施す図のような細工のこと。「掛子」とは、段状の形をいう(⇒土蔵掛子塗
       これは、格子の間隔を正確均等に組むために考え出された技法と思われます。
      
       残りの二通りのの位置は具体的にわかりません。適宜か?
       なお、妻板があるので、格子を立てた後にを差すことはできませんから、格子を仮組みして、建具のように嵌めこむものと推察します。
 出格子の戸袋 : 二か所とも檜 無節材方立妻板と同じ大きさ、仕様とする。
    註 「・・方立大きさ妻板と仝断・・」の意が分りませんが、方立は、戸袋の戸の入口に立てる方立のことか?次項の柱建て戸袋側面図を参照ください。    
       また、原文の「見付は仝木にて簓子に造り挿め込み・・・」の「見付」は、戸袋正面の下見板の「押縁」の意かと推察します。別解釈あればご教示を!

〇 表入口の戸袋

以下の説明のために、はじめに上巻の紹介のときに忘れた戸袋の項の原文を転載します(現代語読み下しは省略させていただきます)。

  
   戸袋は、柱建て戸袋妻板建て戸袋に大別されます。
   なお、原文の表の戸袋妻板建てと考えられます。
 材料は、檜 無節
    註 原文の「木口前仝木・・・」は、このような意と解しました。なお、「仝木」のルビは「どうもく」の誤記と思われます。
 妻板厚 1寸2分
 上下長押成・丈 3寸×厚 1寸2分。妻板に小根枘差し楔締め糊を併用
 (戸袋正面の)及び目板杉 赤身 本四分板 無節 削り仕上げ。は、妻板及び長押に彫った小穴に嵌めて張り立てる。
 (板張り用の)中桟杉 幅 1寸2分×厚 8分 削り仕上げ 四通り、妻板寄蟻で取付け。
 台輪長押より外の出 1寸5分、納め。
 戸袋天井杉 六分板 削り仕上げの上、張り立てる。
 他の(横及び裏側の)戸袋、五ヶ所
 妻板 厚 1寸板 上小節材を用い、上下の長押皿板中桟も同材を曳割り削り使用。
 中桟は四通り設けるが、その内の中の二通りは寄蟻で取付け。その他の仕口などは、表の戸袋に倣う。
    註 他の二通りは大入れでよい、との意と解します。
 戸袋正面の及び目板杉 四分板 上小節 を削り仕上げ、張り立て。
 戸袋屋根は、杉 厚 1寸板 を削り取付ける。
    註 戸袋上部は、台輪をまわし天井板を嵌め込む方法と、上長押妻板上に勾配付の屋根板を載せる方法があり、表以外は後者を採るものと解します。

〇 戸袋補遺
  原文の図には戸袋の断面図がありません。「工作本位 建築の造作図集」(理工学社)から、抜粋、当原文に見合うように加筆・編集した図を下に載せます。
  
  戸袋奥の妻板戸尻妻板は、本屋の柱に隠し釘または引独鈷(ひきどっこ)で固定し(隠し釘の場合は、太枘を併用することを奨めています)
   なお、この図のような引独鈷の実例は、私は見たことがありません。
  入口側の妻板手先妻板は、一筋敷居一筋鴨居に取付けます(上掲の図参照、一筋敷居には渡り腮で掛け、いずれも隠し釘で固定)。
  なお、戸袋の深さは、雨戸収納枚数により決め、見込 1寸の雨戸の場合は、1寸1分×枚数 で算定(戸と戸の隙間を 1分と見なす計算)。

〇 霧除け庇  
  この項の説明のため、上巻の「庇し」についての解説原文を下に転載します(紹介を失念した項目です)。

 腕木 松 無節 成・丈 3寸×幅 1寸8分 を削り、を刻み、を飼い(柱に)差し、堅める。
    註 これは、地獄枘の意と推察します。
 杉 磨き丸太 末口径 2寸5分以上 上端を削り、腕木に取付ける。
    註 仕口は、上巻解説文の「(腕木に)渡り欠きを施し、渡り腮腕木に納める」意と推察します。
       なお、同原文の「蛇口枘差し」が不明です。
       調査不足でした。前掲「工作本位 建築の造作図集」(理工学社)に図が載っていましたので、転載させていただきます。[蛇口枘の図追加 1日 9.45]
       渡り腮の場合は、腕木の先端がより前に出る。蛇口枘は、腕木外面に揃える場合の技法、と思います。蛇の口に似ているからか?
       私が蛇口枘の経験がなかったので知らなかったに過ぎない、というお粗末でした!   [文言追加 1日 10.30]
       
 板掛大貫 上小節 を幅 3寸に曳割り、削り仕上げの上、柱を欠き込み取付け。
 板及び目板、垂木形杉 板割 生小節(いたわり いきこぶし)を曳割り削り、正二寸釘にて張り立てる。
    註 杉 板割(すぎ いたわり) : 杉板割は長さ二間、幅七寸~一尺程、厚さは墨掛一寸、実寸は八分~八分五厘程。
                         東京近傍にて単に板割といえば杉一寸板のことなり。   (「日本建築辞彙」より)
 雨押え大貫を削り打付ける。
 鼻柵(=鼻絡:はながらみ): 杉 小割 無節 を削り、庇板の先端より 1寸5分 ほど内側に板、目板双方に打付ける。
    註 杉 小割杉四寸角十二割または五寸角二十割なる細き木にして長さ二間なり。実寸は幅一寸、厚さ九分程のものなり。 (「日本建築辞彙」より)
 外まわり土台上及び窓下、桁下端とも、杉 大貫 二つ割を削った雨押えを取付ける。
    註 窓下の雨押えとは、下見板張り上の雨押え桁下端の雨押えとは、縁側庇と桁の接点の雨押えの意、と解します(前回の矩計図を参照ください)。
 持送り板割 を幅六寸、長さ一尺で絵様形(えようがた:模様を彫った形:別図参照)につくり、に取付ける。
    註 持送りを設ける場所が具体的に示されていません。通常は出格子などに設けられますが、原文の出格子妻板建て。ゆえに場所不明。
       参考として、前掲「工作本位 建築の造作図集」(理工学社)から、持送り付出格子の図を編集の上転載させていただきます。
       右側が雨戸付出格子の例で、原文の出格子は、これに相当するものと思われます。
       ただ、原文の出格子には、屋根の反りはありません。
  
 窓上の横板庇杉 板割 生小節 幅 8寸 を削り仕上げの上取付け、猿頭(さるがしら)は 杉 大小割 の上端を(しのぎ)に削り、一尺五寸間に打付ける。
    註 猿頭(さるがしら) : 上図参照。
       大小割(おおこわり): 墨掛 1寸5分× 1寸2分 の矩形断面の杉材、長さ二間。(「日本建築辞彙」による)
       鎬に削る : 上端を屋根形に加工すること。上図参照。
 下見板杉 四分板 生小節 を削り仕上げ、羽重ね 8分以上で張る。
 押縁大貫 二つ割羽刻みを施し、削り仕上げ、三尺間に打付ける。

〇 雨樋
 軒樋周長 9寸 の竹の二つ割。
 縦樋周長 8寸 の竹、六箇所。
 樋受金物 : 鉄製、三尺間で垂木の横へ打付け、縦樋とも、銅線で水勾配に留意の上取付ける。
    註 「・・・横樋杉 六分板 上小節 削り指立、・・」とは、木製の場合の樋受のことか?どなたかご教示を!

〇 箱下水
 箱下水とは、「広辞苑」によると、「蓋で上部を覆った、断面が長方形の下水溝」とのこと。蓋付のU字側溝も該当する?
 箱の側板及び蓋板杉 板割 生節(いきぶし) 耳摺物(みみずりもの:角が端正なもの) 幅八寸継手殺ぎ継(そぎつぎ)。
 松 二寸角 丸身なし 蟻形に刻み 二尺五寸間に蟻欠きした側板に、左右に 1寸5分ずつ伸ばし嵌め込む。
    註 原文の「・・側板継手殺ぎ継ぎ張桁松二寸角丸身なし二尺五寸間に蟻欠き致し側板外左右に一寸五分宛延し蟻に仕拵へ嵌め込み・・」の部分を
       上記のように解しました。自信はありませんので、別解がありましたら、ご教示ください。特に、「側板外左右に一寸五分宛延し・・」の部分不明
 底板 松 六分板 幅 1尺 生節 耳摺物 内部を荒鉋削り、正一寸五分釘で打付け、内部はコールタール塗し、通りよく埋設する。
 蓋板底板と同木。幅 7寸継手は長さ 2寸 板幅三ツ割三枚の鵙(いすか:鶍が普通の表記)に組む。
      「板幅三ツ割三枚の鵙」の形状不明。どなたかご教示を!
 耳桁 : 大貫 二つ割。継手は殺ぎ継。正二寸釘にて打付け。
      耳桁とは蓋板受材の意か?           
    註 これは、尺幅の底板側板底部に打つと、側板内法が約 8寸、受材:耳桁を打つと、幅 7寸の蓋板が載せられる、と考えた末の解釈です。     
      別解がありましたら、ご教示ください。
 以上仕上がった箱下水を、入念に埋設する。ただし、竪樋より箱下水までの間は、径 3寸の土管を水勾配を十分にとり伏せ、継ぎ目には粘土を十分に塗る。

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以上で今回分はおしまいです。原文の文意の解釈に四苦八苦しました。古文読解よりも難しい・・・!

次回は仕様書紹介の最終回。「建具」の仕様が中心になります。また少々時間をいただきます。[文言追加 1日 10.30]

コメント (3)
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近時雑感 : 大事なのは「 あたりまえな感覚」では

2014-05-26 16:52:42 | 近時雑感
 
今、当地では、あちらこちらの畑で、ジャガイモの花を見かけます。
花の色で種類が分るようですが、私には見分けがつきません。


    5月26日付毎日新聞コラム「風知草」に、大飯原発差し止め判決について、これは「『国富論』判決」である、との論説が載っています。
    是非多くの方に読んでいただきたい、と思い、 web 版 からコピーし、末尾に追加転載させていただきます。[26日 16.50追記]

大飯原発の稼働差し止めを命じる判決がありました。
いくつかの報道は、「画期的な判決だ」と報じていましたが、その「差し止め」の理由は、極めて「あたりまえ」であり、なぜ「画期的」なのか、私は理解に苦しみました。
いくつかの新聞の社説を web 版で読みましたが、判決内容について「批判的」だったのは、きわめて少なく、大方は「是」とする論調でした。
その中から、至極明解に論じていた東京新聞の5月22日付社説をプリントアウトして転載させていただきます。この論者もまた、「・・・今回の判決は、当然というべきであり、画期的などと評されてはならないのだ。」と論じています。


この論説中には具体的には述べられてはいませんが、判決文の中の、「国富とは何か」について触れた部分を取りあげた論が、「信濃毎日新聞」のコラム「斜面」にありました。これも併せて web 版からプリントし転載させていただきます。
        
東北地域の新聞もざっと見ましたが、「河北新報」も判決を是とする論調でした(福島の新聞も探しましたが、見つかりませんでした)。

   この判決に対して「不合理な推論が導く否定判決」との題目で「批判的」な論調の社説を掲げたのは「読売新聞」でした。
   何が「不合理」なのか、読んだ限りよく分らなかったのですが、察するところ、
   「最新の原発の安全に係る規制基準」という《科学的知見》を無視した論であり、
   いくら大きな地震を想定しても、それを「超える地震が来ないという確たる根拠はない」というような《非現実的》な考え方に基づく論であり、
   そして、「原発の審査に関し、司法の役割は抑制的であるべき」という1992年の伊方原発訴訟の最高裁の判決の趣旨にも反する論であるからだ、
   ということのようです。
   この論者は、「合理(的)」ということ、「現実(的)」ということを、どのようにイメージしているのか、思わず問い糺したくなりました。
   要は、「合利的」「実利的」が本音なのではないでしょうか。
   これは、「人員整理」を「合理化」と呼び、「派遣労働の拡大」をして「働き方の多様化」と言うのと同じ《論理》に見えます。
   この論者に、「人としての『あたりまえな感覚』」があるのでしょうか?怖ろしいことです。

追 録
 
  

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「日本家屋構造・中巻:製図篇」の紹介-22 :附録 (その7)「仕様書の一例」-4

2014-05-21 10:15:00 | 「日本家屋構造」の紹介


二十九 普通住家建築仕様書の一例(一式請負の時)」の項の原文を編集、A4判6ページ(右上に便宜上ページ番号を付してあります)にまとめましたが、先回からは仕様の具体的内容部分(2~6ページ)を紹介中です。

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[文中の誤字を訂正しました。23日9.00]
紹介は、原文を、編集したページごとに転載し、現代語で読み下し、随時註記を付す形にします。
今回は、その4枚目:押入、壁、縁側、便所の仕様の項の紹介になります。
はじめに原文。


なお、現代語で読み下すにあたり、工事順、部位別に、大まかに「分類見出し」を付けました。

 押入
  根太掛大貫を(柱、土台面に添い)打付け、(床束位置には)抱き束を添える場合もある。
        註 室部分の垂木は、土台及び大引上に載せ掛けるため、根太掛は不要です。
           しかし、押入床面は、室の床面(畳面)=敷居面に揃えるのが普通です。そのため、根太掛を別途設けることになります。          
           ただ、根太掛土台にも添うので、土台側面にも釘打ちとし、必ずしも抱き床束は設けないのではないか、と考え、上記のように解しました。
            抱き束、抱き床束根太掛を承けるため、床束に添える材。厚さは根太掛に同じ。
              先回掲載の普通住家矩形図第三図・乙縁框束石の間に抱き束が描かれています。この後の縁側の項に再掲してあります。
  根太松 二寸角 1尺2寸間に取付け。
       註 大貫墨掛寸法 幅4寸×厚1寸 実寸 幅3寸9分×厚8~9分 程度、一般には
         松 二寸角松 八寸角の16割。実寸1寸7分角程度。
  拭板=床板松 六分板 無節 削り仕上げ。
 押入中段の棚
  框、根太掛二番大貫 無節 削り仕上げの上、根太彫をして取付ける。
  根太松 成・丈1寸5分×幅1寸2分1尺2寸間に取付け。
  中段棚板杉 六分板 上小節 両面削り仕上げ を張る。
       註 原文の、「・・・根太 松三寸(一寸二分・一寸五分)・・」は、上記の意と解しました。
 壁下地  
  間柱松 二寸角 丸身なし。上部は片枘を刻み(梁・桁に)、下端は土台上端に大釘にて取付ける。
  塗込貫(ぬりこみ ぬき) : 杉 三寸貫。表面を荒し、(上下は)枘差し
       註 下に、木舞壁の詳細図を挙げます。
          左が両面真壁、右が片面下見板張り大壁(外壁)。(理工学社刊「おさまり詳細図集1 木造編」より抜粋編集)
          一般に、間柱下見板張など大壁仕様の場合に設け、
          塗込貫両面真壁仕様の時に横方向の間渡竹の固定のために間柱代りに設けるいわば薄い間柱と考えてよいでしょう。
          塗壁内に塗り込められ、見えなくなるための呼称です。
          縦方向に入れる材をと呼ぶのは、材料として市販の貫材を使うことによるものと思われます。
          なお、縦方向の間渡竹は、に固定されます。         
    

          松 二寸角 : 上掲参照。
          「間柱・・・上み片枘 付け・・」とは、材上端をL型の(実寸1.7/2×1.7寸)に刻むことではないか(通り芯側に設けるため)、と察します。
          「塗込貫 杉三寸貫 嵐付・・・」は、塗土の付着をよくするため、材の表面を荒す、という意に解しました。
  間渡竹は縦横とも、切込み、間柱あるいは塗込貫に打付ける。には横間渡竹をさす孔を穿つ。(上図参照)
  小舞竹 : 四つ割りものを間渡竹に縄で掻き付ける(縛り付ける)。(上図参照)
       註 掻く小舞竹などを縄巻することをいう。・・「かく」は、「鳥が巣をかける」の「かく」と同意なり。「」はただその当字のみ。(「日本建築辞彙」)
          [の字、誤記を訂正しました。23日9.00]
 壁塗り
  荒壁荒木田土藁苆を混ぜ練り、塗り立てた後十分に乾かし、
       に当る部分、柱際、天井回縁の下それぞれ幅三寸ほどについては貫縛(ぬき しばり)、散漆喰(ちり しっくい)を施す。
      註 貫縛荒壁が乾燥した後、の部分に亀裂防止のために行う作業。
              布伏(ぬのふせ):八寸ほどの長さに切った布片や藺柄(いがら)を中塗土とのつなぎに塗り込む。 
              貫漆喰幅より上下二寸ずつ広く漆喰を塗る。荒壁を縫い付けるように切麻を摺り込む。
        散漆喰 : 柱際などに隙間が生じないように二寸程度の幅について漆喰を注意して塗り込む作業をいう(本書では三寸)。
                この解説は、「日本建築辞彙 新訂版」の解説を筆者が要約。
  中塗 : よく漉した土を使う。
  上塗大坂土にて色壁塗り仕上げ。台所、大小便所及び押入の中は、いずれも茶大津で塗り仕上げる。すべて、のないように入念に塗り立てること。
       なお、色合いについては、現場での指示に拠ること。
      註 大坂土(大阪土):上塗土のこと。錆土天王寺土とも呼ばれ、赤味を帯びた褐色の上塗用壁土
                     四天王寺近辺で採掘されたものが特に上等とされ、この名がある。
         今日、赤味を帯びた土壁を聚楽壁と通称するように、明治時代には上塗土の総称として大阪土の名称が使われていたようである。
            聚楽土 : この土は中塗土としても使われ、必ずしも上塗専用土ではなかったが、その後の枯渇により珍重され
                  上塗専用土としての評価を高め、土壁の代名詞となった。(「日本建築辞彙 新訂版」より)
         茶大津上塗用の茶色なる壁土にて、黄へな土二俵半程に川土一升以内を混ぜ、これに蠣灰八升、揉苆百匁程を合せたるものなり。
               へな土粘土のこと。
               蠣灰消石灰のこと。
               揉苆藁苆に同じ。    (以上「日本建築辞彙 新訂版」より)                 
 縁側木工事
    縁側の構造について、「『日本家屋構造』の紹介-14」にあります。
    以下の解説の参考のため、矩計図及び縁側床の詳細図を再掲します。

  縁框栂 無節 柾目もの 成・丈5寸×幅3寸5分溝突き、板决り、根太彫りの上、上鉋削り仕上げ
       継手箱目違い入しゃち継、下木は大釘にて打付け。
            箱目違い入しゃち継箱目違いを設けた竿しゃち継。下図参照。
            註 しゃち継を上面に設けるわけにはゆきませんから、多分下面かと思いますが、どなたか詳しい方ご教示を願います。
  根太松 成・丈2寸5分×幅2寸 間隔は1尺5寸ごと。(縁板の載る)一面を通りよく削り、縁框足堅(足固)には根太彫を施す。
  縁榑貫(えん くれぬき) : と同木すなわち栂 幅4寸×厚8分を丁寧に削り仕上げ、大面を取り、相互は合釘で結び、
                   落し釘手違い鎹または目鎹にて根太に取付け張り立てる。
      註 縁榑貫:現在の縁甲板・フローリングの意と解してよいでしょう。
         板傍は、現在の(さね)ではなく合决り(あいじゃくり)のため、不陸を防ぐために合釘で相互を繋いでます(上図参照)。
         根太への取付けも上図をご覧ください。
         矧ぐ方法の一。片方の板の傍=側面突起をつくりだし、もう一方の板の傍同型の溝を彫り、両者を接合させる。
            突起自体につくりだす場合を本実、双方のだけを彫り、雇材を打込む場合を入実(いれざね)または雇実(やといざね)という。
            についての解説は、「日本建築辞彙 新訂版」などの説明を筆者が要約
             「広辞苑」によると、「さね」とは、「核・実」、「真根(さね)」の意で、果実の中心の固い所、骨、根本の物、実体、などの意とあります。
  無目、一筋鴨居 : 部屋内の鴨居と同木すなわち 樅 無節 とする(前回を参照ください)。
               無目成・丈1寸8分×幅3寸2分)は削り仕上げの上、上面に欄間障子落込み用一筋鴨居を取付け用の决りを刻み取付ける。
               一筋鴨居>(成・丈2寸×幅2寸2分)は削り仕上げの上雨戸用のを突き、無目决り:小穴に嵌め込み取付け、上端より釘打ち。
               鴨居釣り束は、上は割楔を込めた枘差し(通称地獄枘)、下は無目上端に篠差蟻で取付け(上図参照)。
 便所の構造仕様
  床下の内側に、(土台から)床板下端まで 厚さ本六分以上の板を張りつめ、コールタール塗を施す。
       註 を張る場所については矩計図を参照ください。ただし、矩計図には、この板張りは描かれていません。
   : 柱の内面に大貫材の根太掛を打付け、抱束を立て、栂 無節 幅6寸×厚8分合决り(あいじゃくり)に加工、鉋仕上げとし、縁側床同様に張る。
  幅木床板と同木(すなわち、)を面内に取付ける。
  小便所の壁漏斗(じょうご:木製の小便器) の裏側及び両側の壁は、
            高さ3尺まで、杉赤身 無節の本四分板を削り、桶舞倉糊矧(ひふくら のり はぎ)で竪羽目張りとし、には小穴を突き嵌め込む。
      註 桶舞倉糊矧 : 「日本建築辞彙 新訂版」の「ひぶくらはぎ」では、「桶部倉矧」と表記。下図のような板の矧ぎ方との説明がある。
         板戸などで使うようですが、私は実物を見たことがありません。
         桶舞倉糊矧とは、この矧ぎ方で糊を併用するものと解します。
         
         ただ、「ひふくら」「ひぶくら」の意はもとより、どちらの漢字表記も、字義が分りません!!
         ご存知の方、是非ご教示ください
  便所まわりの長押栂 柾 成・丈3寸×厚1寸 削り仕上げを取付け。
  同所入口の敷居、鴨居 : 住家部分と同木(成・丈1寸3分×幅3寸)
  同所窓の敷居、鴨居 : 上記にならい、(建具用の)を突き取付け。
  (小便所)下の簀子(すのこ): 径4分の曝した女竹(めだけ、原文 おんなだけ)を幅1尺に並べ、栂 柾(幅1寸5分×高1寸2分)を削り仕上げたで打留め。
     註 このように解しましたが、自信はありません。
        また、原文の「・・・漏斗の掛釘共打ち、・・」の漏斗の形、掛釘の様態、打つ場所などまったく不明です。お分りの方ご教示ください
        女竹(雌竹) : めだけ。竹の一種。幹が細く、節と節との間が長い。(「新明解国語辞典」)
  便所入口の方立樅 無節 1寸8分角戸当を决り出し、壁板取付け用の小穴を突き、上下にを刻み削り仕上げの上取付ける。
  方立脇の板壁杉 無節 六分板 を両面削り仕上げで、四方を小穴に嵌め込む。
  窓の外格子檜(見付5分、見込7分)を削り仕上げ、2寸5分間に取付け。檜 幅5分×厚2分の削り仕上げ。    
     註 原文の「窓外格子檜・・・、仝貫削り二寸五分間に取付け」は、第三図乙図便所の立面図から、のこのような意と解しました。
  同所への雨戸建ての取付けは、図面の通りとする。
     註 「仝所雨戸建の仕口・・・」とは、第三図 矩計図・乙のように雨戸を納める、との意に解しました。
  便所の天井天井板は、住家部分の八畳間と同じ、竿縁は、五分角として吹寄せに取付け。
     註 吹寄せ : 2本を一対にすること。

以上で今回の分は終りです。

           **********************************************************************************************************

蛇足 陶器の便器のない頃の大便所の床の穴を「桶箱(ひばこ)」というそうです。(「日本建築辞彙」)
    名前は知りませんでしたが、疎開先の外便所がこれ(屋内便所はなかった・・!)。ぽっかり空いた暗い穴は、子どもには怖かった。特に夜は・・・。
    小便器の漏斗は実際に見たことはありませんが、陶器の壁掛け小便器の下が竹簀子になっている例を、倉敷の旅館で見たように記憶しています。
    便所まわりは、いろいろ修理工事報告書を調べましたが、意外と紹介がありませんでした。
       

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近時雑感 : 「事実」と「風評」

2014-05-16 10:30:07 | 近時雑感

続・ブルーベリーの花。
今は花は散り、実になりつつあるようです。



コミック「美味しんぼ」に描かれた原発周辺での体調変化の件が騒がれています。そしてそれが、福島の「評判」を悪くし、風評被害を生むから怪しからん、との「論調」が一部にあるようです。

この状況に違和感を感じるのは、私が「異常」だからでしょうか?

原発周辺一帯は、何段階かのグレードで「危険地帯」として「指定」されている筈です。
では、どのように危険なのか、どうしてそこで暮しては危険なのか、具体的に「危険」の様態について、たとえば、そこに居続けると、どのように体調に変化が生じるのか、などについて詳しく語られ、知らされ、示されているのでしょうか
少なくとも私は知りません。知らないのは私だけでしょうか。
私が知らされているのは、年間何ミリ以下なら問題ない、ということぐらいだけではないでしょうか。

「何ミリを超えると危険だ」という以上は、そのとき、何が体に起きるか、「いわゆる専門家」たちは知っている筈です。なぜそれが具体的に示されないのか。
「起き得る事象」が、具体的に示されていない、これこそが「風評」を生む最大の因だ、と私には思えます。
「事実」が広く世の中に知られると、何か不味いことでもあるのでしょうか?

世の中、「専門家」「有識者」任せにしておけばよいのでしょうか。私たち一般人は、彼らの「思惑」に従え、ということなのでしょうか。

これは、ことによると、昭和の時代よりも恐ろしいことが起こる予兆ではないか、そのように私には思えてなりません。

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近時雑感 : 無事に生きています。感謝!

2014-05-15 17:32:26 | 近時雑感

10日ほど前のブルーベリーの花です。
カラスアゲハが遊んでいたのですが撮影失敗。
チャンスを待っているうちに花が散り、来なくなってしまいました!


昨日14日は、退院一周年でした。
左手指先の痺れと左ひざの耐力(重心移動を支える力)の弱さは相変らずです。
手先を使う微細な仕事にイライラすることはありますが、杖を使わず、一度も転ぶこともなく、一年が過ぎました。

無事に生きていられることに感謝しなくてはならない、と思いつつ過しています。
コメント (2)
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「日本家屋構造・中巻:製図篇」の紹介-21 :附録 (その6)「仕様書の一例」-3

2014-05-07 09:00:00 | 「日本家屋構造」の紹介


二十九 普通住家建築仕様書の一例(一式請負の時)」の項の原文を編集、A4判6ページ(右上に便宜上ページ番号を付してあります)にまとめましたが、先回からは仕様の具体的内容部分(2~6ページ)を紹介中です。

紹介は、原文を、編集したページごとに転載し、現代語で読み下し、随時註記を付す形にします。
なお、現代語で読み下すにあたり、工事順、部位別に、大まかに「分類見出し」を付けました。

           **********************************************************************************************************

今回は先回の続きの3ページ目、はじめに原文

先回の続きで、縁側部分の屋根葺き下地の仕様から始まります。
通常、屋根下地の工事が終ると、一旦木工事は中断し、屋根葺き工事が行われます。
原文でも、その工程にしたがい、縁側の屋根下地に続き、瓦葺きの仕様が述べられます。
  なお、記述にはありませんが、棟木、母屋等が掛けられた段階、あるいは垂木が掛けられた段階には、上棟式が行われたものと思います。
  また、瓦桟の取付けは、大工職が行う場合と、瓦職が行う場合とがあるようです。

現代語で読み下します。
参考のために矩計図を再掲します。ここで描かれているのは、図中の第三図・甲の場合です。


木工事の続き
 縁側垂木掛松 丈3寸6分×幅1寸8分、(裏板を載せ掛ける)腰掛决(こしかけ しゃくり)及び垂木彫を施し削り仕上げをして取付け。
 化粧垂木松 丈1寸8分×幅1寸5分、1尺5寸間。面戸取付けの欠き込みを設ける。
 面戸板:杉 本四分板(ほん しぶ いた:実寸 3分程度)を削り仕上げの上はめ込む。
 裏板:杉 四分板(しぶ いた:実寸厚 2分5厘程度)無節の削り仕上げ。刃重ね8分以上で張り上げる。
   註 四分板:東京近傍にて、四分板は、杉材にして、長さ一間、厚さ実寸 2分5厘程。また杉本四分板は厚さ(実寸)3分程なり。
            またその幅は一尺内外数種あり。これを下見板、天井裏板などに用うることあり。(以上「日本建築辞彙 新訂版」による)
           この「実寸」は、四分板と称して市販されている材の実寸、つまり「墨掛寸法:曳割る前の寸法」の意と解します。
           したがって、削り仕上げると、更に薄くなるはずです(天井裏板で 2分程度、面戸板は 2分5厘程か。)
 なお、野屋根部分(垂木、野地板)は、主屋からの続きとする。(上掲の第三図・甲参照)。
   註 原文の「上野地は本屋よりつき下し」とは、第三図・甲のように、主屋の屋根をそのまま延長する、との意に解しました。

   〈この段階で、現場での木工事は一旦休止、屋根葺き・瓦葺きに入ります。〉

瓦葺き工事
  
 片面磨き 深切込桟瓦、軒先唐草瓦・敷平瓦を、一坪あたり4荷葺土を用い通りよく葺く。
   註 磨き(瓦):白雲母の粉を布袋にて包み、以て素地の表面を磨きたる後、焼きて製す。(「日本建築辞彙」)
 葺土荒木田川粘土を等分に混ぜる。尻釘は各瓦に打つ。
 大棟は、五遍熨斗瓦(のし がわら)四段+冠瓦:とし、鬼板を銅線にて釣り付ける。
 隅棟は、三遍熨斗瓦二段+冠瓦:とし、鬼板を銅線にて釣り付ける。鬼瓦須甘州浜:すはま の転訛)とする。
 切妻(屋根)の端部は螻羽瓦(けらば がわら)を用い、風切瓦丸瓦一通りを葺き、其の端部は巴瓦とする。
 瓦は、面も通りもすべてムラのないように入念に葺くこと。
   
   註 用語の解説のための参考図として、一般的な桟瓦の形状図と瓦屋根形状図を載せます。
    ① 桟瓦の形状図(現在関東地域で多用されている JIS規格53A型の規格寸法です) 
      
     これは、坪井利弘 著「日本の瓦」(新建築社 刊)を参考に作成した図です。
        なお、この書は、瓦と瓦葺きについての現存最高の参考書と言えるのではないか、と思っています。
      深切込切込とは、瓦の左上の欠込み部の深さ:流れ方向の長さ:をいい、深切込桟瓦は切込 1寸3分のもの。
            上図は 40㎜≒1寸3分 なので、深切込に相当します。
    ② 瓦屋根形状図
      上段:切妻屋根  左図中の「袖瓦」は、「螻羽(けらば)瓦」とも呼ぶ場合もあります。
                  右図中の妻側端部の一通りの丸瓦を「風切丸瓦(かざきり まるがわら)」「風切丸(かざきり まる)」と呼ぶ場合もあります。
      中段:寄棟屋根   普通の葺き方は左図です。
      下段:入母屋屋根 左図の表題「下り棟」は、同図中の「降り棟」と同義です。

   註 瓦については、原文は「寄棟屋根の普通住家」についてだけではなく、寄棟以外の屋根形状についても述べています
      寄棟屋根には、螻羽瓦:袖瓦風切丸などはありません。

      軒先唐草瓦:軒先瓦で唐草模様付が唐草瓦軒先瓦の代名詞として、模様のない瓦も唐草瓦と呼ぶ場合がある。原文もその意と解します。
                普通は、上図の「万十」と記した瓦が使われる。「万十」は、「饅頭」の転訛と思われます。
      棟の葺き方  以下に、「日本家屋構造・中巻 八 鬼瓦の書き方」より、当該箇所を抜粋転載します。
        棟積重ねに於て何篇取とは、平の屋根瓦上に熨斗瓦及び冠瓦を重ねたる数にして、
        例へば四篇取りとは、平屋根瓦上に、熨斗瓦三通りと冠瓦一通りを積み重ねたるものにして、三篇或ひ五篇取るも亦之に準ず。
         「日本家屋構造・中巻」の紹介-8に、「鬼瓦の書き方」の項の原文及び「瓦葺き要説」を載せてあります。今回の図は、その中の再掲です。
      冠瓦:棟上部にかぶせるのこと。
        下図は、冠瓦の一例。通常は丸瓦を使うことが多い。(前掲書「日本の瓦」より抜粋転載)

      熨斗瓦:冠瓦を載せる台を形づくる丸味を帯びた扁平な形の瓦。
            「のし」は「のし餅」の「のし」と同義で、「伸ばす」という意。熨斗袋の熨斗も同義に発する。(「広辞苑」による)
      須甘 鬼瓦州浜(すはま):「州のある浜辺」をかたどった模様(「広辞苑」による)の鬼瓦。鬼瓦でもっともシンプルな形状と言えるでしょう。
       下の写真はその一例です。左:表、右:裏面。江戸末頃の建物に使われていた瓦です。なお、地面の目地の幅は、約6寸です。
       「形の謂れ」が明解です。中央の大きな円が「冠瓦:棟の丸瓦」の端部、下の左右の渦が「のし瓦」の端部を隠す(「のし瓦」の痕跡が裏面に見える)。
       裏面の「取っ手」のようなリング状の形をした突起に、瓦固定(原文の「釣付け」)のための銅線を縛り付ける。
         

 軒先瓦はは5枚分、踏下げは4枚分を、また面戸、螻羽、風切丸瓦は2篇を屋根漆喰で接合する。下付けは普通の白漆喰、仕上げは鼠(色の)漆喰を用いる。
   註 踏下げ(ふみさげ):「日本建築辞彙」には、「踏下げ」ではなく、「踏下り(ふみさがり)」とあり、下記の説明があります。
      踏下り(ふみさがり):流れに沿いて棟よりの下り。屋根漆喰、踏下り、三枚通り とは、棟より三枚目迄は漆喰塗になすとの意。

   〈この段階で、再び、木工事が再開します。〉

 足固め(足堅め)檜 五寸角、両端にを刻み、に差し、込栓を打つ。
 床大引末口5寸、長さ2間の松丸太の上端一面を削り、3尺間に架ける。
 床束杉 四寸角大引枘差し礎石玉石上に据える。
 根緘貫(根搦貫) : ねがらみ ぬき 杉 中貫床束の側面に打付ける。
 根太松 二寸角 丸身なし、1尺5寸間。継手殺ぎ継ぎ。上端から大引に大釘打付け。
 床板松 六分板。側面を削り調整の上、張付ける。
   註 五寸角、四寸角、二寸角、 六分板・・・ : いずれも墨掛寸法(曳割り前の寸法)表示。
      中貫隅掛 幅3寸5分×厚8分
 天井廻縁(回縁) : まわりぶち 松 二寸角無節。隅の仕口は下端をにした目違い枘入り。柱へは、襟輪欠きで納める。
 竿縁 : さおぶち 樅 無節 を、高(成・丈)8分×幅1寸に曳割り削り仕上げ。1尺5寸間に回縁に彫り込み取付け。
 天井板 : 八畳間は二間とも杉 四分板 赤身無節、その他の部屋は 杉 四分板 並無節 を上々に鉋で仕上げ刃重ね8分以上で張り立てる。
 天井釣木杉 小割 を3尺間に配し、天井板裏に3尺間に打付けた受木に釣り付ける。
   註 小割 : =並小割。杉の四寸角の十二割または五寸角二十割の細い木材。実寸は幅1寸×厚9分程度の材。長さ2間。(「日本建築辞彙」による)
 内法敷居 松 無節 高(成・丈)2寸×幅3寸8分鴨居 樅 無節 高(成・丈)1寸4分×幅3寸5分 削り、溝を彫る。
 敷居取付け仕口 : 一方 横枘、他方 待枘、横栓打ち
 鴨居取付け仕口 : 一方 横枘、他方 上端より大釘2本打ち、中央部釣束下は、篠差蟻で取付け。   
   註 敷居、鴨居、釣束の仕口などについては、下記参照。
     「『日本家屋構造』の紹介-15」  内法長押樅 柾目 上等品を削り仕上げ。床柱への取付けは雛留とする。   
   註 長押の納まりについては、下記参照。
      「『日本家屋構造』の紹介-16」 
 上り框松 無節 高(成・丈)5寸×幅3寸5分 左右枘差し床板掛りを决り(しゃくり)、蹴込板取付け用の小穴を彫る。
 蹴込板 : 杉 本四分板 赤身 無節 の削り仕上げ。側面には辷刃(すべりは)を設ける。
   註 辷刃 : 板の「傍」を刃のごとくになしたるものなり。(「日本建築辞彙」による)
         相手の材へ嵌め込み作業を容易にするための細工・工夫と考えられます。
      决る(しゃくる) : 職方の常用語の一。板壁に使う「あいじゃくり板」のように、板の側面:接合部を段状に削りとることをいう。
                「日本建築辞彙」では、「抉る(さくる)」(「抉る」は、「くじる」「えぐる」と同義)の転訛、誤記ではないか、という。
      小穴を突く小穴、すなわち幅の狭い細いを穿つ・彫ることを小穴を突くという。職方の常用語の一。
    台所上り框、上げ板框 : 松 四寸敷居木(しすん しきいぎ)無節上げ板掛りを决り取付ける。
   註 敷居木 : 「東京付近に於て販売する松敷居木は、厚さ二寸にして、幅四寸及び五寸の二種あり。これをそれぞれ四寸敷居木五寸敷居木という。
           右、厚さ及び幅は、実寸に於て一~三分少なし。」(「日本建築辞彙」より)
 同所蹴込板 : 杉 四分板 小節 辷刃付、削り仕上げ。
 拭板(ぬぐい いた):松 六分板 無節を削り仕上げ、張る。
   註 拭板 : ・・・・鏡板は区画内にある一枚板・・たとえ矧目あるも顕著ならずして全く一枚板の性質を具うるものとす。
           然るに拭板は同じく平滑なりと雖も、床板の如く合せ目顕著なるものに用うる語なり。(「日本建築辞彙」鏡板の解説より抜粋)
 上げ板杉板 小節 幅七寸以上。削り仕上げ。手掛けの穴を彫り、組み合わせる。
 下流し(した ながし)の根太松 丸太径3寸の一面を削る。
 下流し側板 大貫 赤身 に、底板 松 六分板 を削り仕上げの上差し組み立て埋め込み、松 六分板 上小節を 削り、水勾配に留意の上張り上げる。 
   註 下流しは、下に再掲する平面図の右下隅の矢羽根様に描画された3尺四方の場所。
      中央部の2本の線は:排水溝を、そこに向う左右の斜線は流しの底部になる板張り(上記の松 六分板 上小節)を示しているのでしょう。
      しかし、実際のの位置など、詳細が分りません。修理工事報告書に実例の報告がないか探しましたが、見つかりません。どなたかご教示を!
          
 下流しの上部に無双窓(むそう まど)を設ける(上図の下流しの右手:西面がそれと思われます)。
   註 無双窓無双連子(むそう れんじ)。連子(間隔が一定の格子をいう)を造りつけにした内側に、同形の連子引戸を設けたもの。
             一方に引けば一面の板張りのようになり、他方に引けば普通の連子に見える。(いずれも「広辞苑」より)
 無双窓は、明き3尺、高さ1尺5寸、仕様は以下による。
   註 原文には明き9尺とありますが、平面図から明き3尺と判断しました。
      また、原文の「明き九尺高さ一尺五寸下は鴨居上端に溝付、仝鴨居・・・」は、他の一般の鴨居位置に無双窓敷居を設ける意と解しました。
   鴨居松 成・丈1寸2分×幅3寸2分 削り仕上げ 溝付。
   連子杉 本六分板 無節 を幅2寸5分に曳割り削り仕上げ、明き2寸間に打付ける。
   引戸連子と同じ板の上下にを取付ける。
        杉 中貫 無節 を曳割り削り仕上げ、格子板の木口より、(板一枚に対し)正1寸5分釘2本ずつ打付け作製し、辷りの好いように取付ける。

    長くなりましたが、今回分はここまで。引き続き、各部の詳細が記されます。

           **********************************************************************************************************

用語の確認チェックに時間がかかりました。
これまで、結構「いいかげんな」理解ですましていたんだなァ、と思うことがたくさんあり、大変「復習」になりました。

次回分の用意にも、少々時間をいただきます。
コメント (3)
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近時雑感 : 想像力

2014-05-04 15:01:01 | 近時雑感

今、桐の花が盛りです。葉はこれからです。
淡い紫色が空に溶け込んでしまい、
地面に落花を見かけなければ気が付きません。


昨日は憲法記念日。

その前日、5月2日の東京新聞社説は、憲法が定めている「文民」統制について、現在の《文民》の「統制力」に疑義を、むしろ危惧を感じる、との内容でした。
それは、多くの論者が、これまで語ることを避けてきた、しかし、「実際に起り得る、起きてはならない事態」についてです。

TOKYO Web から印刷、転載させていただきます。

文中に、2003年の「自衛隊のイラク派遣」の際、派遣した輸送機が地上から常に攻撃されている、との報告を受けた当時の官房長官、すなわち現首相の答えが「撃たれたら騒がれるでしょうね」だった、という一節があります。
この「反応」にはいささか驚きます。しかし、「福島は安全にコントロールされている」という「反応」を見れば、むべなるかな・・・・・。
こういう方がたに本当の意味での「文民統制」は委ねられない、これがこの論説の主旨と思われます。
それにしても、ひどい「想像力」です。


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