「日本家屋構造・下巻・参考篇」の紹介-5(了)・・・・「五 床棚の部」「六 間仕切り及附書院の部」

2014-09-05 11:02:05 | 「日本家屋構造」の紹介


[参照記事追記 6日9.45]

だいぶ間が明いてしまいました。一時、操作ミスで、下書段階の記事が載ってしまったようです。お騒がせしました。

今回は「日本家屋構造 下巻 参考篇」「五 床棚の部」「(六)間仕切及附書院の部」の紹介です。
これで、「日本家屋構造」全巻を紹介したことになります。
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はじめに「(五) 床棚の部」の原文を転載し、続けて現代語で読み下します。なお、図版部分は、編集の都合で縮小してあります。また、図版に歪みがありますが、ご容赦ください。





第二十四図~第二十九図は、および床脇棚の参考図で、いずれも前面の姿図である。
には、正式、略式があり、大別すると六種に分けられる。
第二十四図 甲が、正式な床、本床(ほんどこ)の図である。
本床」は、室内の畳面より上に床框)を設け、床の内部には上端揃いで畳を敷くか板を張り、床柱角柱とする。
の材寸などは、「製図篇の普通住家木割に解説がある。(「日本家屋構造・中巻・製図篇の紹介-6」
   註 「和室造作集成」(学芸出版社刊)では、床の間の基本形は次の八種としている((図も同書による)。
     ①本床、②蹴込床、③踏込床、④洞床(ほらどこ)、⑤袋床、⑥織部床、⑦釣床、⑧置床
 
第二十五図 甲は、床の内部右手に板を敷き、その上方に釣舟を下げた一風変わった床の例。
第二十五図 乙は、床框を省き、床板と室内の畳寄せとの間に蹴込板を設けた蹴込床の図(「日本家屋構造・中巻・製図篇の紹介-6」中の第五十四図に図解があります)。
踏込床とは、床の間の床面を室内の畳面と同一にしたをいう。
第二十六図 甲は、釣床の図。室内の一隅の天井から束を下げ、落掛(おとしがけ)を廻し釣り壁を設けたもの。
   註 原文は分りにくいので、「和室造作集成」の説明を転載します。
     壁床の一種で、下部は畳敷きのままとし、上部にだけ、釣束を下げ、矩の手に(かねのてに)落掛あるいは垂れ壁などを付けたもの・・・。
第二十六図 乙は織部床の図。室内正面の壁の天井廻縁下に幅5~6寸の板を横に嵌めただけの床。
   註 「和室造作集成」の説明
     床柱は壁付とし、天井廻縁の下へ杉柾板を取付け、これに掛軸の釘を打っただけの極めて簡単なもので、古田織部の創意に拠るとされる。
第二十六図 丙袋床の図。床の内幅より横に入れ込んだ床をいう。
   註 「和室造作集成」の説明
     床の間の前面に袖壁を設け袋のように囲った床で、小堀遠州の創意に拠るものという。袖壁は通常は壁にするが、彫刻した板などの例もある。
     地板踏込にするのが通例である。
第二十六図 丁は、洞床の図。床の間の内部の左右の壁及び天井を塗り廻しにした床をいう。
   註 「和室造作集成」の説明
     室床(むろどこ)とも呼ばれ、床の内部の壁、てんじょうのすべてを塗り壁で塗り廻しての形にしたもので、片桐石州の創意とされる。
     地板は、踏込にする決まりがある。壁だけで天井を塗らない場合は、洞床ではなく、塗回し床(ぬりまわしどこ)という。

第二十九図 甲は、上等客間の上段の間付の床の間の例。
深さは京間の6尺、火燈口の内部は、床の間の面より一段上がった畳敷きで、高貴の人の御座所になる場所で上々段と呼ぶ。
   註 火燈(かとう)
      架燈とも瓦燈ともいう。上方が曲線形なるものをいう。・・・(「日本建築辞彙」による)
第二十九図 乙は、間口2間半、襖4枚建ての間仕切で、欄間筬欄間(おさ らんま)を設けた例。部屋に最も厳格な風情を添えることができる。
   註 筬欄間:見付1分5厘×見込4分の組子を明き4~5分で縦繁の格子を組込んだ欄間。
      (おさ):織機の部品名。金属あるいは竹製の細い板を平行に並べて枠に収めたもの。織物の縦糸をそろえ、横糸を押しつけては織目を整える。
                                                                            (「新明解国語辞典」による)

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続いて「(六)間仕切及附書院の部」の原文。


以下、読み下します。
第三十図 甲は、欄間透しの例(前項の第二十九図 乙も、欄間透しの一例を挙げたものと思われます)。
第三十図 乙は、間仕切の小壁に用いる角柄窓欄間の図。
第三十図 丙は、座敷の縁側境の小壁に設けた櫛形欄間の例。
第三十一図は、いずれも附書院の意匠の例。
第三十二図は、風雅な棚を設けた例と妻板建ての附書院の例。
下地窓(第三十二図 丙の右手の壁にあるような壁下地:小舞を見せた窓をいう)は、茶室の例を応用したもので、通常座敷に多く用いられる。
下地の小舞の掻き方は、大小とも指先3本入るほどの大きさとし、縦長窓のときは、小舞の間は縦を長くし、横長窓のときはなるべく正方形に見えるように組む。竹の組み方は、寒竹(かんちく)、紫竹(くろちく)などは、末を上に向け、女竹(めだけ)は打ち返して使用する。(打ち返して使用とは、2本目は逆さに使用してもよい、という意と解します)。
小舞の組み方は、1,2,3,4本などと変化を付けて組むが、5本以上にはしない、という決まりがある(この部分「和室造作集成」の解説で補いました)。
藤蔓の掻き方は、縦長窓のときは外から、横長窓のときは内から掻き始める。
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以上で「日本家屋構造・下巻・参考篇」は終りです。

蛇 足 読後の感想

先回にも触れましたが、明治期の都市居住者にとって、これは現在にも通じるのかもしれませんが、「住まい」は、そこで暮らす人のステータスシンボルである、と見なす風潮があったのだと思われます。その最も簡単容易な手立てが、床の間のつくりや、建具のつくりように求められたのでしょう。具体的には、材料にこだわり、手の込んだつくりをもって、格の高さの具現化と考えたのだと思います。
私の子供の頃暮した家は、昭和15年に建てられました。天井に杉杢張りの合板が使われていたことを以前にも書きましたが、床柱もいわゆる銘木の薄板・単板(べニア: veneer )を貼った材料であったことを覚えています。
単板(べニア: veneer )は、西欧で産業革命後に誕生した新興勢力が、旧勢力たちが使用したマホガニーやチークなどのいわゆる銘木による造作や家具を模倣するために表面だけを銘木風にしようとした方策が発祥のようです。それゆえ日本語同様、英語でも veneer という語は、《中身がなく薄っぺら》という意味に使われています。しかし、この単板製造技術が、合板:ply wood の製作に用いられたであろうことは想像に難くありません。
   ちなみに、ラワンという材料は、戦後のある時期、安物の代名詞のように言われていましたが、昭和初期には、高級南洋材として扱われています。
   造作材として、珍重されていたのです。その頃に建てられた建物では多く見られるはずです。
   そして、現在は価格の点では、高級材のはずです。日本のラワン材乱用のため、原産地が輸出を制限したからです。
   なお、円安の影響で、米松材も現在は国産の杉・松材よりも高くなっているそうです。

また、開口部の意匠に、下地窓など茶室に起源を求める例が多々あるようですが、当初の茶室を、つまり、遠州、織部、石州たちが造った茶室を、ステータスシンボルとしてつくられたと見なすのは誤りであろう、と私は考えます。だいぶ前に妙喜庵待庵についての記事で触れたように、茶室はあくまでも「心象風景の造成」を意図していた、と考えるのが、適切であると考えるからです。
   この記事の前後の記事で、妙喜庵待庵の詳細図などを紹介してあります(2007年5月5日、6日、7日の記事:「バックナンバー」で検索ください)。
   片桐石州の関わった事例を、「慈光院」で紹介してあります。
   小堀遠州の関わった事例は「日本の建築技術の展開ー19」などをご覧ください。[以上追記 6日9.45]
当初の茶室の作者たちは、そのとき、普通の庶民が、自らの住まいとしてつくりだした建物の各所に、心和む「風景」を発見、その再現を試みた、それが例えば下地窓だったはずです。庶民は、とりたてて、「部分」:たとえば、藤蔓の掻き方など:にこだわったりはしていません。その場に馴染んでいれば:相応しいと思えれば:それでいいのです。それは、私たちの今の日常でも同じはずです。
   これも以前に書いたことですが、建築家は「立面図」の細部にこだわります。
   しかし、私たちは、日常、「建築家」のこだわった「立面」をしげしげと鑑賞しているでしょうか?
   私たちは、その立面の建物があたりにつくりだしている「場の様子:雰囲気」を感じているにすぎません。
   「立面」が、「場の様子」をつくりだすのに関係しているのは確かではありますが、かと言って、「立面」をしげしげと鑑賞などはしていないのです。
   私たちの建物の良しあしの判断は、その建物が「場の様子」の造成に相応しいかどうかに拠っているはずです。

今回「日本家屋構造」全巻を読んでみて、「教科書」というのは「怖い」ものだ、あらためて思いました。一つの「考え方」「見かた」を、それだけを広く、あたかもそれが絶対の如くに「流布」させてしまう恐れがあるからです。これは、現在、建築がらみで出される「基準」や「指針」にも通じるところがあります。いずれも「部分」だけが突出して説かれます。
「部分」は、あくまでも「ある全体・全貌」の部分に過ぎません。
先ず、「ある全体・全貌」がリアリティをもって説かれる必要があります。
人は何故に、建物を、住まいをつくるのか?
これを欠いた「部分」の説明は、誤解を広めるだけではないか、そのように私は考えます。
先ずもって、「教科書」は、何を観たらよいか、何を考えたらよいか、それを示唆するものでなければならないのではないでしょうか。

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「日本家屋構造・下巻・参考篇」の紹介-4・・・・「(四)障子及び襖の部」

2014-08-16 09:37:00 | 「日本家屋構造」の紹介


少し間が明いてしまいました。

今回は、「(四)障子及襖の部」の紹介になります。
図は第十九図から第二十三図まで。そのうち、第二十一図~第二十三図は、障子の組子の「意匠」の図です。
今回も、図とその解説を組になるように編集し転載することにします。
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はじめに第十九図の解説と図。

第十九図 甲 腰付障子(板腰付障子) 全高は内法高(敷居~鴨居の高さ)より3分伸ばす(鴨居・敷居への「のみこみ」分の意と解します)。
         縦(竪)框:見付0.9~1寸×見込1寸
         下桟:成(見付)1寸4分×厚さ(見込)9分5厘
         中桟:成(見付)1寸×厚さ(見込)9分5厘
         上桟:成(見付)1寸5分×厚さ(見込)6分
            框の見込寸法から、敷居・鴨居四・七溝にしていることが分ります。
              四・七溝:敷居・鴨居の中央部に幅4分の凸部:樋端(ひばた)を残し、両側に幅7分の溝(深さ≒5分)を彫る場合の呼称。
              見込1寸の引違の戸の隙を1分にするために、四・七溝となる。
              第二〇図 乙のように、見込1寸1分の戸のときは、五・七溝(中央の樋端の幅を5分、溝幅7分)になります。 
         組子:厚さ(見付)2分5厘~3分×幅(見込)5分~5分5厘
            縦(竪)組子3本、横組子10本
            小間(横組子の間隔)の割り方は美濃紙(短辺の長さ9寸)全長を二小間となるように割る(組子の上端~下端≒9寸)。
         腰板:杉四分板を用いる。
        註 美濃紙の寸法については、次項の註を参照ください。
           紙をぎりぎり使ったときの、内法高5尺7寸の腰付障子の腰の高さ(下桟下端~中桟上端)を求めてみる。
           二小間の組子外面=9寸 ∴ 小間内法=[9.0寸-(0.25×3)]/2=4.125寸
                           ∴ 中桟上端~上桟下端=4.125寸×11+0.25×10=45.375寸+2.5寸=47.875寸
                           ∴ 腰の高さ=全高(内法高)-上桟の見付-[中桟上端~上桟下端]
                                    =57.0-1.5寸-47.875寸
                                    =7.625寸
             通常は、腰の高さをこの寸法近辺にして(たとえば7寸5分あるいは8寸)、後は上桟の見付寸法で調整すると思います。
             当然、障子の姿の検討は、その障子が、その場の surroundings として妥当かどうかの検討が前提になります(後註参照)。

第十九図 乙 雨障子(あま しょうじ) 図は水腰障子の例
          材寸は図 甲に同じ(∴各材の材寸を再掲します)
         縦(竪)框:見付0.9~1寸×見込1寸
         下桟:成(見付)1寸4分×厚さ(見込)9分5厘
         中桟:成(見付)1寸×厚さ(見込)9分5厘
         上桟:成(見付)1寸5分×厚さ(見込)6分
         組子:厚さ(見付)2分5厘~3分×幅(見込)5分~5分5厘
            縦(竪)組子3本、横組子11本
         仕口:すべて包込み枘差しとし、糊併用で組む。
        註 雨障子:雨のかかるおそれのある場所に設ける明障子のこと。
                 西の内和紙など厚手の紙を使い、糊には酢を加え、貼って乾いた後油を塗る。油障子ともいう。(「日本建築辞彙」などによる)。
           水腰障子(みずこし しょうじ):腰を設けない明障子(腰を見ず?!)
        註 美濃紙の寸法
           現在の規格では、
           美濃判394mm×273mm(1尺3寸×9寸)となっています。
           一方、「わらばんし」などの呼称で普通に使われている半紙(一般的な書道用紙)も規格紙です。
           半紙判333mm×242mm(1尺1寸×8寸)
           現在市販のロール状障子紙には、この規格に合わせ、幅9寸もの8寸ものとがあるようです(その他に大判ものもある)。

           水腰障子・横組子11本の場合、内法高5尺7寸として、小間の間隔は、(57寸-2.9寸)÷12≒4.51寸
           すなわち、一小間≒4寸5分=美濃紙短辺の1/2になり、紙に無駄が生じない。
           一般に、内法高5尺7~8寸の水腰障子横組子11本の障子が多いのには、それなりの謂れがあるのです。 
           組子の割付けは、単に《意匠:デザイン》だけでは決められません。     
第十九図 丙 ガラスを嵌め込んだ腰付障子の例 
第十九図 丁 横繁障子(よこしげ しょうじ)の例
         上級品は檜、椹(さわら)、腰板に神代杉、杉柾板などを用いる。
           材寸は、組子以外、前者(甲)に倣う。
         組子:厚さ(見付)1分5厘~2分×幅(見込)5分
             縦(竪)組子3本以上、横組子15本を普通とすし、3小間を紙1枚の長さ:幅(9寸)とする。
             付子(つけご)を設け、面腰を押す場合もある。
        註 水腰障子横繁として、乙に倣い計算すると、小間の間隔は、(57寸-2.9寸)÷16≒3.4寸 となり、3小間では紙の規格を超えます。
          ちなみに、原文の図は、解説とは異なり、腰付障子で、横組子は16本あります。
          また、横組子15本に拘ると、上下桟合計≧57寸-(16小間×3寸)=57-48寸=9寸 となり、上下桟の成:見付が大きくなりすぎます。
          普通は、組子一小間がおよそ4寸5分以下になることを念頭に置き、横組子の本数と上下桟成:見付とを勘案して決めていると思います。
             現在は大判の紙があるので、そこまで考えずに《任意の意匠》で組子を決めるのが普通になっているかもしれませんが・・・・。
第十九図 戌 便所 窓障子 
           註 おそらく、嵌め殺し(fix)が一般的だったのではないでしょうか。
         縦(竪)框:見付6分×見込9分
         下桟:幅(見付)8分×厚(見込)6分
         上桟:幅(見付)1寸×厚(見込)6分
         組子:厚(見付)1分5厘×幅(見込)4分5厘
             縦2~3本、横は高さにより決めるが、3小間を上1枚(9寸)とする。
         仕口:包込み枘差しとし、糊併用で組む。
        註 付子、面腰を押す包込み枘差しなどは、「『日本家屋構造・中巻:製図篇』の紹介-24」参照。
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続いて第二十図解説(上段)と(下段)。


第二十図 甲 硝子入障子
         横繁障子(第十九図 丁)に硝子を嵌め込んだ障子
第二十図 乙 中障子 杉戸障子を嵌め込んだ建具を呼ぶ。
         縦(竪)框:見付1寸4分×見込1寸1分
         上下桟:幅(見付)は縦框の2分増し、厚さ(見込)は縦框に同じ
         中桟:見付1寸4分(竪框に同じ)、厚さ(見込)は縦框に同じ
           この見込寸法は、樋端五・七溝とした寸法です。
         仕口:すべて二枚の包込み枘差し、または鎌枘差しとし、面腰を押しで組み立てる。
        註 鎌枘差し第二〇図 巳のような仕口をいう。
第二〇図 丙 横繁障子組子の組み方
         図の四周の材を付子(つけこ)という。
         横繁障子組子の間隔は、紙の長さ:9寸の間に2本以上入れる(図の点線で示す)、すなわち3小間≒9寸ほどとする。
        註 原文の、「そのは(組子の枘の意と解す)付子を貫通して框に差す・・」がイメージできません。どなたかご教示を!
           普通は、組子の見込幅の小穴を浅く突いておき、そこに付子を嵌めていると思います。
           付子半幅の小穴の場合もあります(付子側も半幅决る)。 
第二〇図 丁 襖の仕上り姿図
第二〇図 戌 襖の張付組子の構造図
         材料:上級品では檜、椹、普通品は杉を使う。
         化粧縦縁:6分角(見付6分×見込6分)
         化粧下桟(下縁):見付7分×見込6分
         化粧上桟(上縁):見付9分×見込6分
         定木縁(定規縁):見付は縦縁に同じ。見付面は蒲鉾形あるいは大面取りとする。
            註 化粧縁は、現在、一般には、次のようにしているようです。(学芸出版社「和室造作集成」などによる)
              化粧縦縁:6分5厘角
              化粧上桟:見付9分(縦縁見付幅+鴨居溝呑込み分2.5分)×見込:6分(縦縁の面内∴縦縁見付-5厘)
              化粧下桟:見付7分(縦縁見付幅+敷居溝呑込み分0.5分)×見込:6分(縦縁の面内∴縦縁見付-5厘)
         組子(外周分):見付5~7分×見込5分5厘
         組子      :見付3~4分×見込5分5厘
         力骨      :見付6~8分×見込5分5厘(見付を組子の2倍程度にする)。本数は、縦1本横3本。
                   組子と力骨の総本数:縦3本×横11本(図参照)。
         入子縁(いれこ ぶち)の場合
           註 入子縁とは、化粧縁側面に組子の厚さ(見込)分の溝を彫り、組子に嵌め込んで納める方式の化粧縁、と解しました。
                「日本建築辞彙」所載の「入子縁」は、襖の用語ではありません。他の参考書でも見つかりませんでした。
                それゆえ、原文文意から、上記の意に推察しました。他の解釈がありましたら、ご教示ください。
              縦框:見付8分~1寸×見込9分または1寸
              上下桟:見付縦框の見付の2分増し(ただし、見えがかり:溝外の寸法)
              組子:見付7分×見込5分5厘
              仕口:隅は、襟輪目違いを設け糊併用で組み立て、木あるいは竹釘で固定する。 
                  縦縁(框)の上下は、図のように角柄を出し、上下桟の上下にて頸切りを施す。
                  四隅の力板および引手板を取付け、現場で実際に嵌め込み建て合せを調整の後、紙貼の工程に入る。
                  紙貼りの工程:骨縛り:下貼→太鼓貼→美濃貼→視の縛り→袋貼→上貼
              化粧縁の取付け法
                 通常:外周張付縦組子側面に仕込んだ折釘に送り込みで取付け。
                 入子縁の場合:外周張付縦組子に樫製のを@8寸ほどに植え込み、化粧縁側に彫った蟻孔をそれに掛ける。
                 その際、上下の化粧桟(縁)は、端部に鎌枘をつくりだし、縦框(縁)の木口に彫った枘孔に嵌め込む(図 巳にならう)。
           註 「折釘」「紙貼り工程」などは、「製図篇」の「仕様書」紹介の項をご覧ください(「『日本家屋構造・中巻:製図篇』の紹介-24」)。
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次は第二十一図。いずれも、組子を文様に組む模様組子の例。図では縦框、上下框(桟)を省いてある。

第二十一図 甲 松川菱組(まつかわ ひしぐみ)
           欄間や小障子(嵌め殺しなどの小さな障子の意か)に用いるときの組子は、見付7~8厘×見込3~4分。付小も同寸が普通。
           このような模様組子の留意点は、その割り方、配置にあるから、各隅の明きの形などは、極力均一になるよう努める必要がある。
第二十一図 乙 霞組障子(かすみ くみ しょうじ) 図では霞障子組(かすみ しょうじ くみ)
           付書院、窓などに用いるとよい。
              縦框:見付5分5厘×見込8~9分
              組子・子:厚さ(見付)8厘~1分×幅(見込)4分
              仕口:包込み枘差し
第二十一図 丙 菱井桁継(ひし いげた つなぎ)障子 図では井桁継組(いげた つなぎ ぐみ)
第二十一図 丁 竹之組子障子(たけのくみこ しょうじ) 
           煤竹などを両面から削り落として組子に用いるもので、大変雅美なものである。
            註 いずれも、開閉については触れられていません。
               また、近世初期の書院造などには、使用事例がないようです(初期の付書院などの障子は縦繁程度が普通です)。
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第二十二図  図では縦框、上下框(桟)を省いてある。 

第二十二図 甲 麻の葉及三重亀甲組(あさのは みえ きっこう ぐみ)
第二十二図 乙 角亀甲組(つの きっこう ぐみ)
第二十二図 丁 菱蜻蛉組(ひし とんぼ くみ))
第二十二図 丙 三つ組手の仕方 
            甲乙丁のような組子は、主要部のみ図のように組み、他の個所(という)は糊付だけとする。
            の厚さ(見付)は、組子の厚さ(見付)の1/2とする。
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最後は第二十三図

第二十三図 甲 香路組(こうじ くみ)
           上等の障子に使われる組み方。
           第二十図 乙の中障子に適す。
           この場合には、腰板の高さを1尺5寸、上の板の丈を8寸ぐらいとして、他(残り)を障子とするのも」よい。
           註 「日本建築辞彙」には「香字組」とあります。
              日本の古来のゲーム「香合せ」(五種類のを各五包、計二十五包を混ぜ、五包を取り出してその同異をあてる競技)で、
              その結果を五条の線のつなぎ方で示し、それを「香の図」と呼んだ。
              この組子の組み方に「香の図」に似た箇所があるための呼称と考えられます。 
              なお、胴差床梁あるいは差物の柱への差口に、狂いを防ぐための凹凸を刻むことも「香の図(通称「鴻の巣:こうのす」)」と呼んでいます。
              下記中の解説をご覧ください。
             「『日本家屋構造』の紹介-9

第二十三図 乙 流れ亀甲組(ながれ きっこう ぐみ)
           付書院などに用いる。


           **********************************************************************************************************
 
以上が「四 障子及襖の部」のすべてです。

次回は「五 床棚の部」の項を紹介します。

   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
後 註  「部分」と「全体」

第二十一図~第二十三図で紹介されている「模様組子」は、ほんの一例にすぎず、前掲の「和室造作集成」などには、実に多様な、驚くべき数の「意匠」例が紹介されています。

しかし、このように多種多様な障子が現れるのは、近世末期以降のようです。
簡単に言えば、「建具一枚をしげしげと眺める」ような「習慣」が「普及する」ようになってから現れる、そのように思います。
それはちょうど、商家や農家など一般住居で、不必要な寸面の大ぶりの柱や差物を多用するようになる「現象」と軌を一にしているように思われます。
    いわゆる「民家」では、太い柱や差物を用いるものだ、という「誤解」は、それにより生まれたのです。
    必要最小限の大きさの材を、近在で集めてつくる、それが当たり前のつくりかたなのです。

初期の方丈建築や客殿建築には、このような「模様組子」の例は、まず見かけません。初期の茶室でも同様です

本来、障子の組子は、「紙を貼るための下地」です。
紙はきわめて貴重でしたから、組子の間隔は、先ず第一に、貼る紙の大きさに応じる寸法でなければならなかったのです。

しかし、組子は、紙を貼っても外から見えます。陽が差せば、一層くっきりと見えてきます。
おそらく、その「経験」から、組子の存在が、surroundinngs にとって大きな「役割」を担っていること、たとえば、組子の数の多少は、障子を通しての明るさに微妙にかかわる、組子の方向性は、その部屋の空間の広がりの感じに微妙にかかわる、・・・などということに気付いたのだと思います。
たとえば、第十九図 甲あるいはのような障子が縁側に接する間口いっぱいに入っていると、横に広い感じになるはずです(その障子が縦繁であるとすると、様相はがらりと変ります)。
   このような「効果」を用いた好例が大徳寺孤篷庵の本堂・客殿(方丈)~書院のの接続部につくられている茶室忘筌の西側の開口部です。
     大徳寺孤篷庵については、「日本の建築技術の展開-19」「同-20」をご覧ください。
   この記事から、大徳寺孤篷庵の平面図と忘筌の写真を再掲します。

    
   先ず、この西面上部の障子が、忘筌の静謐な空間の造成に大きく関わっていること、
   そしてまた、この障子の組子が、縦繁や最近多い方形だとしたら、忘筌の surroundinngs が台無しになること、が分ると思います。
   つまり、ここでは、障子それ自体は、単なる「鑑賞」の対象ではなく、「忘筌」の surroundinngs をつくりだすための、「一要素」として考えられているのです。

   いわゆる客殿建築の「襖絵」も、現在は、取り外して美術館などで展示・陳列して「鑑賞する」のが当たり前のようになっています。
   しかし、「襖絵」も、本来そのような「鑑賞」の対象として描かれたのではありません。
   第一、そういう「襖絵」のある客殿を訪れた客人が、主人の方ではなく「襖絵」に向って座って絵を見ている、などという場面はあり得ません。
      奈良のある古寺の客殿に、現代の有名日本画家が新調した襖絵を展覧会で見たことがあります。
      そのとき、このが入れられた客間の空間を想像して、これでは空間に馴染まない、絵だけ浮いてしまう、と思ったものでした。
   障子も襖(絵)も、往時の人びとは、surroundings の造成、「心象風景」の造成に大きく関わる、と考えていたのです。人びとすべてが分っていたのです。
   それが、いつの間にかすべて忘れられてしまった・・・・!もったいないことだ、と私には思えます。

   本書が模様組子のいくつかを、いわば唐突に、取り上げているのは、明治期の都市居住者の間に、建物の「構成要素の一部」を「鑑賞」の対象と見做し、
   その見栄えの「良し悪し」で建物の「価値」が定まる、と考える「風潮・願望」が強くあった
ことを示しているのではないでしょうか。
   そういう「風潮・願望」に応えるべく、この書は、「見栄のはりかた」の最も簡便な「方策」の手引書の役目を一定程度果たしていた・・・のかもしれません。
   そうだとしたら、それは既に、「となりのクルマが小さく見えます」に代表される「現代の人の世の様態」の「予兆」だった、と言えるのではないでしょうか。

   最近の建物づくりにも、surroundings よりも見栄、見えがかり、他との差別化・・・に執心する、そういう「気配」が濃い、そのように私は思います。

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「日本家屋構造・下巻・参考篇」の紹介-3・・・・「(三)戸の部」

2014-08-02 13:14:00 | 「日本家屋構造」の紹介


今回は、「(三)戸の部」の項の紹介です。内容は、雨戸、舞良戸、格子戸、帯戸、唐戸など、いろいろな戸とその材料、一般的な材寸などの仕様についての解説です。

図版は第十七図と十八図の二図。今回は、第十七図とその解説をA4一枚に、第十八図と解説をA4二枚にまとめました。
   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
はじめに第十七図について

第十七図甲は、普通の雨戸のうち戸尻(閉めた時に戸袋寄りの最後の一枚の戸の呼称)にあたる戸の図。
第十七図乙は、幅に尺の便所の開き戸の姿。
第十七図丙・丁は、雨戸の構造(框の組み方、板の張り方)を示す。便所開き戸もこれに倣う。
以下に、戸の材料、框などの材寸、仕口などの一般的仕様を記す。
上等雨戸 
       材料:框、桟は檜無節。各部とも削り仕上げ。
       縦框:見付1寸2分×見込1寸1分
       上桟:見付1寸8分×見込1寸5厘
       下桟:見付1寸6分×見込1寸5厘
       中桟:見付1寸1分×見込7分
       組み方など:上桟、下桟は二枚枘差板决り(いたじゃくり)を設ける。
                中桟は一枚枘差
                竪框の板决り(いたじゃくり)は深さ2分程度。
                組立ては糊付け併用、枘差部は楔締めで堅める。
       板:杉本四分板赤身無節両面削り、三枚矧ぎ。中桟位置に合釘。桟への釘は@2寸。
       下桟の下端には厚さ3分ほどの樫材の「辷り」を取付ける。ゴムあるいは金属製の戸車を付けることもあるが、金属製は音に留意。
       召合せ:噛合わせ高さ2分程度の実决り(さねじゃくり)とする。
       戸締め:戸尻の戸には上げ猿落し猿および横猿二か所を設ける。 
         註 図丙の左端の突起物は枘と楔の形を示していると思われますが、端部の半円状のものは何か不明です。
中等雨戸 
       材料:框、桟は樅。
       材寸:上等雨戸に同じ。
       組み方など:仕口は一枚枘差
       板:杉並無節三枚矧ぎ、横猿は一箇所。
       召合せ:噛合わせ高さ2分程度の合决り(あいじゃくり)。
下等雨戸 
       材料:框、桟は杉。
       材寸:前者に同じ。横桟は上桟、下桟とも6本。
         註 上等、中等雨戸は『日本家屋構造・中巻:製図篇』の「仕様書」では、横桟は上桟、下桟とも7本とあります(下記を参照ください)。
       板:杉四分板生小節四枚矧ぎ。上端は打流し(うちながし)とする。
         打流しとは、上桟中桟と同寸の材を用い、板を上桟より上に伸ばして張ることをいう。
       他は上等、中等雨戸に同じ。

以上の内容は、「『日本家屋構造・中巻:製図篇』の紹介-24」と重複の個所がありますので、あわせご覧ください。
  「『日本家屋構造・中巻:製図篇』の紹介-24」
   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
次に、第十八図について。
上段に解説文、下段に図をまとめてあります。


第十八図は、:普通の舞良戸(まいら ど)、乙:格子戸(こうし ど)、丙:帯戸(おび ど)、丁:唐戸(から ど)の姿図を示す。
第十八図-甲
普通舞良戸 押入、便所などの片開き戸に使用する。大きさは使用箇所により異なる。 
       材料:檜が最良で、樅、杉がこれに次ぐ。
       竪框:見付1寸5分以上×見込1寸1分 
       上桟:成(見付)1寸6分×厚さ(見込)1寸1分
       下桟:上桟に同じ
       中舞良子:6分角、中央の1本は、左右移動を自在とし、横猿として用いる。
       板:杉四分板、糊併用の樋舞倉矧ぎ(ひぶくらはぎ)とし、四方は、竪框・上下桟に設けた小穴(板决りの意と解す)に入れる。
          雨戸と同じく、裏面より釘打ちとすることもある。
上等舞良戸 玄関あるいは社寺などの雨戸に用いることが多い。
       材料:上記に同じ
       縦框:柱間により異なるが、大抵は見付1寸5分以上×見込1寸1分
       上下横桟:縦框の見付を見廻し(同寸で廻す意と解す)あるいはその2分増しとすることもある。
       中舞良子:縦框の8分どり(8/10)とし、明きは横桟の見付の1.5~2倍程度とする。
       仕口:二枚枘差面腰押(めんこしおし)とする。
       板:普通舞良戸に同じ。
第十八図-乙
格子戸
       縦框:雨戸に倣う。
       中格子(竪子):見付7分×見込8分
       貫:幅(見付)竪子の見付の9/10×厚さ(見込)2~2.5分程度とする。
          竪子は、柱間6尺二枚建てのときは、普通は13本、やや繁くするときは15本にする。
          貫は5通り差し、竪子の歪み防止のため、中央の1~2通りは、掛子彫割貫(かけご ほり わりぬき)とする。
第十八図-丙
帯 戸 室内の間仕切、または押入あるいは廊下などの仕切りに用いる板戸(廊下に用いるときは杉戸と云い、片面には帯桟:おびさん:を設けず鏡板とする)。
       縦框:見付1寸8分以上×見込1寸1分
       上下横桟:縦框の見付を見廻し(同寸で廻す意と解す)×厚さ(見込)1寸1分
       帯桟:見付2寸6分×見込1寸1分(見付は縦框の見付の1.3倍ほどとする)。帯桟の取付け位置は、全高の中央を帯桟の上端とする。 
       仕口:上下横桟は二枚枘差とするか、または鎌枘で上下の木口より嵌め込む。
            註 鎌枘:端部に鎌形を刻んだ桟を、框側に彫った鎌形に嵌め込む方法。次回第二十図で紹介。
          帯桟は二枚の包込み枘(つつみこみほぞ)とする。          
          各材隅部は面腰押とする。
       板:糊併用の樋舞倉矧ぎ(ひぶくらはぎ)とし、四周は小穴に嵌める。
第十八図-丁
唐 戸 社寺などの外回りの雨戸に用いることが多い。開き戸、引戸両様あり。
       縦框:見付は柱間の1/24~30以上、見込はその見付の8/10程度とする。
       上下横桟:縦框の見付の2/10増し(1.2倍)。
       中桟:縦框の見付に同じ。
       中桟の位置:全高の3/5を下から(下桟を含む)5本目の桟の中心位置とする。
              図中、上中下の同寸の三ヶ所の明き寸法は、縦框見付の裏目(√2倍)、下方の二段は等分とする。
          註:原文の「上・中・下の三ヶ所の明きは・・・」の部分、「図中(イ)(ロ)・・」の表示が図にないので、上記のように、想定で解しました。           
       仕口:両面とも几帳面面腰押とする。面の大きさは七つ面とする
          註 七つ面:見付総幅の1/7を両側の面に配分すること。ゆえに、面自体は見付の1/14。(「日本建築辞彙」による)
       各種の門の戸の木割も、唐戸の木割に倣う。その場合、縦框の見付は門柱間の横内法幅の1/22~24、見込はその8/10とする。
          註 原文の「柱の横内法幅」とは、戸の入る門柱間の内法の意と解しました。

   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

後 註
 
  面腰押樋舞倉矧ぎ掛子彫割貫包込み枘などについては、  「『日本家屋構造・中巻:製図篇』の紹介-24」で説明を加えています。

           **********************************************************************************************************

以上で「戸の部」は終り。次回は「四 障子及び襖の部」を紹介します。      

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「日本家屋構造・下巻・参考篇」の紹介-2・・・・「(二)天井の部」

2014-07-21 11:00:12 | 「日本家屋構造」の紹介


今回は、「(二)天井の部」の項の紹介です。図版は二図、解説文も僅かです。今回は、各図とその解説をA4一枚、都合二枚にまとめました。

   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
[補注追記 23日 9.45][字句訂正 23日 15.10]

はじめに一枚目、第十五図と解説。現代語読み下しを付けます。

第十五図は、天井の種類を示す。
図甲は、普通の平竿縁の竿縁天井竿縁天井板の張り方。
    天井板は、矧ぎ目をに対し直角に置く。
    ① 真打ち(しんうち) : 天井板の矧ぎ目を柱の芯に納める方法。
    ② 手挟み打ち (たばさみ うち): 板幅の中央に柱または束柱などを納める方法。

   補注 [補注追記 23日 9.45]
    これは天井板の割付け法の解説ですが、竿縁は、柱の芯の通りに合わせるのが普通です。合わないと、天井板よりも竿縁の方が気になります。
    しかし、柱位置が図のように壁~壁の中央:二分の一の位置にあるときは容易ですが、
    柱が中央にないときは、簡単ではありません。壁~壁を均等に割ったとき、竿縁位置が柱の通りに合うとは限らないからです。
    一定程度は、廻縁の柱からの出で調節することも可能ですが、かなり無理があります。
    この解決のために考案されたのが「蟻壁(有壁)(ありかべ)」と言われています。蟻壁長押および廻縁で調整する方法です。[字句訂正 23日 15.10]
    これについては「園城寺・光浄院客殿・・・・ふたたび」で触れています。
   

図乙は、廻り井桁組と呼び、四畳半の小座敷あるいは便所などの天井に使うことが多い。
    竿縁井桁に組み、周囲には神代杉などの杢板、中央部には柾目板を用いる。
図丙は、網代組天井
図丁は、吹寄せ竿縁天井竿縁吹寄せにする。天井板は杢板、または樋舞倉矧ぎ(ひぶくら はぎ)で一枚板にした杉柾板を用いると見栄えがよい。
      註 吹寄せ : 二本ずつ一組に並べあること。・・・(「日本建築辞彙」による)
      註 神代杉 : 水土中に埋もれて多くの年数を経た杉材。往古、火山灰中に埋没したものとされる。
                蒼黒色で堅実。伊豆、箱根などで産出・・・。(「広辞苑」による)
      註 桶舞倉糊矧 : 「日本建築辞彙 新訂版」の「ひぶくらはぎ」では、「桶部倉矧」と表記。下図のような板の矧ぎ方との説明がある。
         板戸などで使うようですが、私は実物を見たことがありません。
         桶舞倉糊矧とは、この矧ぎ方で糊を併用するものと解します。
         
         ただ、「ひふくら」「ひぶくら」の意はもとより、どちらの漢字表記も、字義が分りません。
         なお、これは「日本家屋構造・中巻の紹介-22」所載、小便所の腰壁仕様の註の再掲です。
   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
二枚目は第十六図とその解説。

図甲は、折上げ格天井伏図見上げ図)。
    組んだ格子の中に子組小組:こ ぐみ)という組子(くみ こ)を嵌め、その上に天井板を張る。
    その仕口・構造などは「構造編・天井の構造」に詳述してある(「『日本家屋構造』の紹介-18」参照)。
図乙は、平格天井伏図見上げ図)。
    図は、杢板柾板などを、縦横交互に張った例。絵・模様を描いた天井板を嵌め込む場合もある。
   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「二 天井の部」は以上ですべてす。

           **********************************************************************************************************

蛇足

「部屋」あるいは「室」または「居住空間」は、「壁」と「床」、そして「天井」とで囲まれる、そして、それを「包む」:「内包する」のが「架構(あるいは「構造」、もしくは「構造体」)」であり、その総体が建物である、というのが、建物(あるいは建築)に対する現在の「一般的な理解・認識」と言ってよいと思います。
もっと端的に言えば、この「理解・認識」は、「舞台装置:背景を形づくる大道具」とそれを「支えている骨組」、と例えるのがいいかもしれません。つまり、各面は「書割」である、ということになります。

「書割」は、まったく「任意」です。たとえば、いわゆる「洋風」にするのも「和風」にするのも、いわば自由自在です。
    最近の建物づくりは、一般の建物はもちろん、いわゆる「建築家」のつくるそれも、ほとんどこのやりかたでつくられている、そのように私には思えます

ところで、私たちは、そのような「書割」でつくられた舞台を観ているとき、私たちは、いったい何を見ているのでしょうか。
「書割」の各面を見ているのでしょうか?
そうではないはずです。私たちは、「書割」そのものではなく、「書割で囲まれた場所」を観ている、「その場所のいわば雰囲気」を「感じている」のではないでしょうか。「書割」は、その場の「臨場感」の造成のためにある、といえるかもしれません。
つまり、私たちは、「書割」そのものを観ているのではない、ということです。

私たちの日常の暮しの場面でも同じです。
私たちは常に何かに囲まれています。surroundings です。
そのとき、私たちは、私たちを囲んでいる「もの」を「見てはいます」が、決して「観てはいない」はずです。簡単に言えば、壁面や天井面・・・そのものを観ているのではない、ということです。
ここで、「見ている」というのは「視覚に入っている」という単純な意味、「観ている」とは、いわば、「味わっている」「鑑賞している」というような意味、としてご理解ください。
つまり、私たちは、そういう各面がそこにつくりだしているいわば「雰囲気」を「観ている」ということです。

   このことをうまく表現することは非常に難しい。現代風に「評価」して表現することは甚だ難しい。
   なぜなら、「その場の雰囲気を感じる」などということは、現代のいわゆる「科学的分析」手法には適しない「構造」の事象だからです。
   このあたりについては、これまでも「くどく」書いてきましたので( ex「建物をつくるとはどういうことか」シリーズなど)、ここではあえて触れません。
   註 「建物をつくるとはどういうことか」シリーズは以下の内容です。
     第1回「建『物』とは何か」
     第2回「・・・うをとりいまだむかしより・・・」
     第3回「途方に暮れないためには」
     第4回 「『見えているもの』と『見ているもの』」
     第4回の「余談」 
     第5回「見えているものが自らのものになるまで」
     第5回・追補「設計者が陥る落し穴」
     第6回「勘、あるいは直観、想像力」
     第7回「『原点』となるところ」
     第8回「『世界』の広がりかた」
     第9回「続・『世界』の広がりかた」
     第10回「失われてしまった『作法』」
     第11回「建物をつくる『作法』:その1」
     第12回「建物をつくる『作法』:その2」
     第13回「建物をつくる『作法』:その3」
     第14回「何を『描く』のか」
     第15回「続・何を『描く』のか」
     第16回「求利よりも究理を」
     第16回の続き「再び・求利よりも究理を」


たとえば、「天井の意匠」に凝っても、日常の暮しで、つまり、一般の住家で、誰がその「意匠」そのものを観るでしょうか?

私たちが天井を見上げ、しみじみと「観る」というのは、たとえば仏堂に入り、仏像を見上げたその先の天井に目が行ったとき、などではないでしょうか。
見上げるような仏像ではないとき、多分、私たちは天井にまで目を遣らないはずです。
多くの場合、仏像の頭上には、暗い空間が覆っている、そのように見えているはずです。それで何も問題ない。


もしも天井の意匠に凝るとすれば、その場を「ある感懐を生む場所:ある雰囲気の場所」とするために、天井の「効果」が必要だ、と思われたときのはずです。
それに役立たない「意匠」は無意味
なのです。

このことは、壁面についてもまったく同じです。


今では、天井を設けることは、至極あたりまえのことと思われています。
しかし、人がつくりだした居住の場、つまり「住まい」に、原初から天井があったわけではありません
そしてもちろん、「書割」とそれを「支えている骨組」、というような「理解・認識」があったわけでもありません。

このあたりについて、すなわち、日本の建物づくりに於いて天井が出現する「過程」について、かなり以前に触れています。下記をご覧ください。
天井・・・天井の発生、その由縁
日本の建築技術の展開-6
日本の建築技術の展開-7

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「日本家屋構造・下巻 参考篇」の紹介-1・・・・「(一) 平面図の部」

2014-07-12 18:07:52 | 「日本家屋構造」の紹介


「(一)平面図の部」には、参考図が14図載っています。数図を除き、いろいろな面積の事例平面図です。そのうちの半分ほどについて解説があります。
そこで、解説文1枚とAからGの8枚の図に編集、紹介することにします。

  なお、紹介の最後に、附録として、
  この書で紹介されている「住家」すなわち、明治期の都会で多く見られた住居:の原型と考えられる江戸期の「武家住宅」の様態について、
  「講習会・伝統を語るまえに」で使ったテキスト(「知っておきたい日本の木造建築工法の展開」)から抜粋して転載させていただきます。


はじめは、解説文の全文

   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
次に各図版を順に紹介します。原文に解説がある場合は、その図に解説内容を要約して付しますので原文と照合ください。

図版A 以下の事例をまとめてあります。
第一図:家族 5~6人向きの建坪27坪・二階建住居各階平面図立面図
第二図:建坪19.25坪・平屋建住居平面図及び小屋伏図
第三図:平屋建一部二階建住居の二階建部分の各階平面図及び骨組姿図
   骨組姿図は、製図篇紹介の際には、その図だけでは分りにくいので、転載を省かせていただいた図です。

   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
図版B 以下をまとめました。原文に解説はありません。
第四図(甲):建坪98.5坪・平屋建住居平面図
第四図(乙):建坪46坪・平屋建住居平面図
第五図(甲):建坪38坪・平屋建住居平面図
第五図(乙):建坪58坪・平屋建住居平面図

   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
図版C 一部に「洋室」をもつ大型住居の例をまとめました。解説はありません。
第六図:建坪80坪・平屋建住居平面図
第七図(乙):建坪60坪・平屋建住居平面図
   第七図(甲)は、「上等客間」の平面図例ですので、「客間」平面図例は、別に第十一図(乙)もありますので、あわせ図版Fにまとめました。

   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
図版D 農家住居の平面図をまとめました。
第八図:建坪80坪・平屋建住居
第十一図(甲):建坪43坪・平屋建 断面図は製図篇の第二十三図参照⇒図版の下に再掲します。
   第十一図(乙)は、「上等客間」つまり、格の高い「客間」の平面図例です。第七図(甲)の「客間」平面図例とあわせ図版Fにまとめてあります。

中巻 製図篇 第二十三図を再掲します。
                   
   参考 なお、農家住宅の架構については、「日本の建築技術の展開-24」「日本の建築技術の展開-25」「日本の建築技術の展開-26」をご覧ください。

   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
図版E 以下の図をまとめました。解説文はありません。
第九図:建坪77.5坪・二階建
第十図(甲):建坪54坪・平屋建
第十図(乙):建坪73.5坪・平屋建

   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
図版Fには、広大な「上等家屋」の例と客間平面例をまとめます。
第十二図:建坪330坪・二階建住居平面図
第七図(甲):上等客間平面図、一列二室続きの例。
第十一図(乙):上等客間平面図、二列二室続き(計四室)の例。

  原文の第十二図解説
  この図は、二階建上等家屋の各階平面図で、二階の客室のには、第二十九図・甲(下図)に示す床棚上段の間を応用し、天井を折上げ格天井とし、
  階段の間(階段室)は平格天井でもよい。
  一階の客室、主人居間などは、平格天井猿棒竿縁天井でも可。
            
    ここに紹介されている客間の構成は、いわゆる書院造:客殿建築の継承と考えられます。この点については、末尾の附録の冒頭の項をご覧ください。
   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
図版G 畳の敷き方及び茶室の平面例をまとめました。
第十三図(甲):建坪40坪の家屋の各室の畳の敷き方を例示。
第十三図(乙):茶室の各種平面図
         (い)は、四畳半茶室風炉を用いるとき畳の敷き方。風炉を置く半畳の畳は道具畳と藺筋をそろえ、勝手口に設ける。
         (ろ)は下座床の四畳半の図。畳は図のように前から三段並べて敷き、道具畳は廻り敷き、は中央の畳に図のように切る。
         (は)は上座床の四畳半の図。前の一畳を床に平行、他は廻り敷き。は中央の半畳に図の位置に切る。畳の藺筋は客畳道具畳に揃える。
         (に)は平三畳、(ほ)は三畳大目(さんじょう だいめ)、(へ)は二畳、(と)は平三畳大目(ひらさんじょう だいめ)、
         (ち)は数寄屋三畳大目に勝手、水場を付した例。
         大目畳とは、普通の畳の長さを四分の三とした畳のこと。
           註 原文では大目に「おおめ」のルビが付いていますが、普通は「だいめ」と呼びます。
              大目とは代目の転じた表記。
              「古昔、田地一町に付き四分の一を納税したるを代目といいたるより起れる名称」(「日本建築辞彙」)。
             「日本建築辞彙」は、「代目」表記が正しい、としている。
             なお、現在は「台目」表記が一般的になっているかもしれません。
第十四図:大きな部屋の畳の敷き方の例。甲は六十畳廻り敷き及び入側などの敷き方、乙は乱敷きと称する敷き方。
      一般の部屋の場合は、この両者の応用で敷くことができる。
      床前は、畳の長手を床に平行に敷くのが一般的で、客座については、藺筋と客の向きが直交しないように敷くのが原則。
      なお、床前の畳を、長さを一間半~二間半を敷目を見せずに敷くこともある。

   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

附録 近世の武家住宅 「講習会・伝統を語るまえに」のテキストから抜粋。
        文中に(〇〇頁参照)などとありますが、そのまま転載します。ご了承ください。






なお、この記事中の「光浄院客殿」については、「建物づくりと寸法-2」などでも触れています。
   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

次回は「二 天井の部」の紹介を予定しています。

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予告 : 「日本家屋構造・下巻」の紹介 、編集中です

2014-07-05 09:46:40 | 「日本家屋構造」の紹介

今朝の曇り空に映えるムクゲ。
降籠められて気付かぬうちに、満開に近くなっていました。
ヒグラシも数日前から鳴きだしています。夏が近いのです。



「日本家屋構造・下巻 参考篇」の紹介用編集にとりかかりました。

「下巻」の目次は以下の通りです。

ところが、たとえば「一 家屋平面図」の項では、図が十数図ありますが、解説はそのすべての図については書かれていません。
ゆえに、解説文と図をどのように編集したら読みやすく分りやすいか、現在思案中です。少し時間をいただきます。

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「日本家屋構造・上巻、中巻」の紹介を終えて

2014-06-26 10:45:19 | 「日本家屋構造」の紹介


少し時間がかかりましたが、「日本家屋構造」上巻、中巻、ひと通り紹介させていただきました。参考図主体の下巻も、おって紹介させていただくことにします。

この書については、実を言えば、これまで必要に応じ当該箇所を拾い読みする程度で、端から端まで目を通したのは、私も今回が初めてなのです。
今回全貌を知るに及んで、これは何もこの書に限ったことでないのは当たり前ですが、あらためて、世代によって、この書に対する対し方が大きく異なるに違いない、と思いました。

たとえば、大きく《開発》が進み《東京風に都会》化した地域で生まれ、そして育った(そしてそれが「普通」と思っている)世代の方がたにとって、この書の言う「普通家屋」なる建物の姿をイメージすることは至難の技であり、おそらく珍奇なものに映るはずです。自分の家はもとより、身の回りに目にすることもないからです。簡単に言えば、《絶滅危惧種》を探すようなもの・・・。

一方、いわゆる《現代的開発》から「取り残され」、いわゆる《現代的繁栄》とも程遠い地域に生まれ育った方がたにとっては、自分の「家」や、あるいは「隣近所の家々」「近在の家々」について、つまり「身近なこと」について書かれている、そう思うに違いありません。そして、「あそこのところはこうしてつくるのか」、「あそこはこうなっているのか」・・・、とあらためて知って納得するのではないでしょうか。
   私が育った家は、昭和15年(1940年)に建てられた建物。ほぼこの書のいう「普通住家」に一部洋室を追加した大正~昭和の頃の典型的な建屋でした。
   雨戸の開け閉めは子どもの役目。雨戸の話は、子どもの頃を思い出させ、その桝目で「九九」を学んだ竿縁天井の「構造」では、天井裏を覗いたときのことを
   思い出しました。
   私が「ベニヤ板」という語を知ったのもこの竿縁天井。天井板が杉の杢目の薄板(veneer)を貼った「合板」だった。当時は「合板」の「創成期」だったのです。
   雨漏りでシワシワになったのを覚えています。糊に耐水力がなかったのでしょう。
   それゆえ、身構えるような門や玄関などの項を除けば、この書に違和感を覚えるところは少なく、むしろ新たな「知識」を教わる点がかなりありました。

最近会った若い大工さん(若いと言っても40代はじめと思いますが)も、この書の紹介を読んでいただいておりました。
詳しく聞いたわけではないのですが、この方の場合は、「現場」で親方からいわば「身をもって」教えられてきたことが「文章化」されている点に「関心」があったようです。多分、こういう仕事が最近は減っているはずですが、紹介されていることの大半は「分ること」のように思われました。

つまり、ある事象を(たとえば、この書の内容を)「分るか、分らないか」は、先ず第一に、その人が、何処で(どういう環境: surroundings で)生まれ、育ったか、が大きく関係しているのです。要は、「経験」「体験」の「内容」次第ということ。単に「語彙」を知っているだけでは「分っている」ことにはならないのです。
   「語彙」を知ることは勿論必要です。
   ただ、「語彙」を知っているだけでは「知ったこと」にもならず、必ず、その「裏打ち」としての「具体的な事象との遭遇」が要るということです。
   あえてこんなことを言うのは、最近、「日本家屋の名称」の検索から当ブログに寄られる方が妙に多いな、と感じているからです。
   「日本家屋」で何をイメージしているのか、あるいは、なにゆえに「名称」を知りたいのか、を知りたいものだ、といつも思います。

では、この書の書名は、なぜ「『日本』家屋構造」となっているのでしょうか?「日本」と限定することにどういう意味があったのでしょうか?
最近の日本人のある部分にまたぞろ見かけるようになったいわゆる「ナショナリズム」的意味があったのでしょうか?
この点を理解するには、「この書の刊行の謂れ」を知る必要があります。
この書は、代々大工職の家に生まれ育った著者・齋藤兵次郎氏が、氏の勤める東京高等工業学校で建物づくりについて学ぼうとする若い人たちのための「教科書」として編んだ書です(「『日本家屋構造』の紹介-1」の序文参照)。
東京高等工業学校は、現在の東京工業大学の前身です。これがどのような教育機関であったかは、当時:明治期の建築教育の様態を知る必要があります。
   この点については、すでに下記で大まかに触れていますのでご覧ください。
   ① 「日本の『建築』教育・・・・その始まりと現在
   ② 「『実業家』・・・『職人』が実業家だった頃
   ③ 「語彙にみる日本の建物の歴史・・・『筋交』の使われ方
   ④ 「日本インテリへの反省
明治政府は、我が国の「近代化=西欧化=脱亜入欧」策の一環として、建物の西欧化を期し、そのための教育機関を設立します。工部大学校・造家学科、現在の東京大学工学部の前身です(①をご覧ください)。
「西欧化」が主眼ですから、そこでは当初から自国の建物づくりについて知ることは不要とされました。
ところが、「近代化」を学ぶために西欧に留学した《エリート》たちが知ったのは、西欧の人びとは、「自国の建物」、というより「自国の文化」を当然のこととして会得している、という事実でした。「日本建築辞彙」の著者の中村達太郎氏もそのひとりです。そこで、「反省」し、自国について、やっと学び始めるのです。そして、わざわざ「日本」家屋とか「日本」建築という呼称がを付けられるようになるのです。この点については、③をお読みください。
一方、そういう教育に異を唱えた方も居られました。「建築学講義録」を著した滝大吉氏はその先駆者でしょう。②で触れていますが、そこでは、西欧、日本の別を特に意識することなく、「建物を『造る』技術」の視点に意を注がれています。
   今でも、日本の木造建築は世界一、などと思っている人が結構居られます!こういうランク付け・比較はまったく無意味・無用です。
   日本(という地域)には、「その環境: surroundings 」に見合う建築技術として独特の木造建築技術が培われた、に過ぎないのです。
   どの地域でも全く同じ。それぞれの地域にその地域特有の技術が育つ。この厳然とした事実がとかく忘れられる
。これについては④をお読みください。

それでは、この「教科書」で学んだ高等工業学校の学徒たちにとって、この書の内容はどのように受けとめられたでしょうか?
多分、そこで例示されている諸事例は、彼らにとっては、特に目新しいものではなかった、と思います。たとえば「家屋各部の名称」も、「名称」は知らなくても、その名を付けられている「「もの」そのものは、どれもどこかで目にしたことのあるものであったに違いありません。つまり、名前を知らなかっただけ。小屋組その他の構造部材についても同様だったでしょう。当然、いわゆる「普通住家」なども決して目新しいものではなく、ことによると自分の家がそうだったりする・・・・。身構えるような門や玄関なども、身近なところで知っている。だから、この書の内容についての彼らの「理解」は、容易であり、早かったのではないかと思います。

ところが、今はそうはゆきません。かつてはあたりまえであった我が国の建物を理解するためには、先ず、「そういう事例の存在を知る」こと、「目にすること」、あるいは「目にする機会を用意すること」・・・から始めなければならないのです(こんな「先進国」は日本だけでしょう)。
そのような「用意」として、各地に「建物」や「街並」が「文化財」として維持保存され、あるいは「資料館・博物館」なども設けられています。しかし、私には、いずれもが単なる「観光資源」扱いにされ、本来の「文化を知る」ための働きをしているようには思えない場合の方が多いように思えます。
   私は、「文化財」よりも「文物」という表記の方が適切ではないか、と考えています。中国では「文物」です。
   文物 : 一国の文化が生み出したもの。芸術・学問・宗教・制度などを含めた一切のもの。(「新明解国語辞典」)
最も最近の例で言えば、今話題の「富岡製糸場」。訪問者の多少に一喜一憂しているだけでよいのでしょうか。この「遺構」について、5W1Hで問う気配がまったく感じられません。5W1Hで問うとき、見えてくるものはきわめて豊饒のはずなのです。
   富岡製糸場が、なぜ完全な形で現存し得たかについて詳細に報じたのは、私が知る限り、毎日新聞だけでした。
   富岡製糸場を政府から引き継いだのは民間の片倉工業です。
   片倉工業は、富岡製糸場存立の「意義」を深く認識し、工場の稼働停止後も、製糸場全体の機能維持に全力を挙げてきたのです。
   それゆえ、現在でも、機械等はすぐに動かせるのです。
   片倉工業は信州諏訪の片倉家が創業した製糸業。
   諏訪にも製糸工場があり、諏訪地域の人びとに広く開かれた温泉保養施設「片倉館」を建てたのも片倉工業です。今も活きています(重要文化財のはず)。     
   また、富岡製糸場の開設にあたり大きな力があったのは、「指導」「支援」にあたったフランスの一青年の尽力です。
   彼は、単に母国の「先進技術」をそのまま富岡にもってきたのではありません。彼は、日本の生糸生産地を訪ね日本の技術を調べ上げ、
   日本の状況に適した器械を設計し、場所を慎重に選び、富岡製糸場を造ったのです。片倉工業は、この考え方・精神を「尊重」「継承」したのです。
   私たちは、富岡製糸場を通し、近代フランスの青年の「思想」と、「経済」の王道をゆく明治の「企業人」の「考え方・思想」に迫ることができるのです。
   この「思想」は、かの「近江商人」の思想にも通じる近世の人びとに通底する「経済」観と言ってよいのではないでしょうか。
   そしてそれはいずれも、現代日本の人びと、特に政治家や企業人そして学者の多くが、どこかに置き忘れてきてしまった「思想」のように私には思えます。

さて、このような現在の「文化状況」は、どうしたら乗り越えることができるのでしょうか。

それは、「明日」は「今日」がなければ成り立たず、「今日」は「昨日」がなければ成り立たないのだ、という厳然たる事実を、各々が認識に努めることではないか、と私は考えています。すなわち、「歴史を正当に認識する」ということ(もちろん、「認識する」とは、今一部の人びとにみられるような「自分の都合のよいように認識する」ことではありません)。
もっと簡単に言えば、常に「謂れ」を考える、すなわち常に5W1Hで問い続けること。
とりわけ、近世~現在の変遷を、多少でも身をもって体験・経験し得た私の世代の責任は大きい、と思っています。


ところで、「日本家屋構造」の初版は明治37年です。
その十数年前の明治24年、濃尾地方に大きな地震がありました。新興の建築家・建築学者を震撼とさせた「有名な」地震です。多くの建物が被災しています。大半が木造の建物です。
   もちろん、木造ゆえに被災したのではありません。大半が木造だった時代ですから当たり前です。
   しかし、一部の学者は「だから木造はダメだ」と騒いだ・・・。この《伝統》は、依然として現在も学界に「継承」されています。
   この点については、下記で触れています。
   「学問の植民地主義
   「木造家屋と耐震・耐火研究」[リンク先を追加しました。26日16.05]
濃尾地震の後、学者の間では、上記記事でその詳細を触れているように、木造建物の「補強策」が話題になりました。軸組に斜材を入れる方法がクローズアップされます。すなわち「筋叉(筋違)」。
また、金物(主にボルト締め)による仕口の「補強」も薦められ始めます。

では、そういう地震被災の後に刊行された「日本家屋構造」に、最新の「耐震策・技術」が紹介されていたでしょうか?紹介してきたように、「筋叉・筋違」の語は、何処にも見当たりませんし、金物使用も、西欧の工法の紹介どまりと言ってよいでしょう。

つまり、この書の著者は、大地震を経験後も、近世の工法(石場建て、軸組、小屋組を「貫」で縫う工法)を、いわば自信をもって紹介していた、と言ってよいように思えます。
   現在では、大地震を経験後十年もすれば、かならず《新たな耐震補強策》が奨められているでしょう・・・・。

「日本家屋構造」の所載の内容は、図版を含め、多くの現在の建築関係参考書に編集・転載されています。実際、日本の近世までの建築技術は、職方の家に秘匿されていましたから、この書はその意味で極めて稀有、貴重だったのです。
この書の内容には、若干、私には「形式」化した「型の継承」としか思えない箇所がありますが、そのような「形式化」現象をも含め、、そこに至るまでには、はるかに長い「前段の経緯:歴史・謂れ」があるはずです。
その「謂れ」を見通し得たとき、明日も見えてくるはずだ、そのように私は思っています。「形式化したがる」のも人間の本性、その「形式」は何を意味しているのか・・・。

それにしても、紹介しながら新たに学んだことがたくさんありました。何とかの手習い・・・。

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「日本家屋構造・中巻:製図篇」の紹介-24 :附録 (その9)「仕様書の一例」-6(終回)

2014-06-11 15:28:20 | 「日本家屋構造」の紹介


二十九 普通住家建築仕様書の一例(一式請負の時)」の項の原文を編集、A4判6ページ(右上に便宜上ページ番号を付してあります)にまとめましたが、現在、仕様の具体的内容部分(2~6ページ)を紹介中です。

           **********************************************************************************************************

[文言改訂 12日 8.20][文言改訂 12日 10.20][誤字訂正 12日 11.30]

紹介は、原文を、編集したページごとに転載し、現代語で読み下し、随時註記を付す形にします。
今回は、その最終回、6枚目の建具、畳などの仕様の項の紹介になります。

はじめに原文。

以下、見出しを付け、現代語で読み下します。

〇 雨戸
 材料 
  框 : 樅
  鏡板 : 杉 四分板 無節 三枚矧ぎ 7本桟とし、は上下ともで止める。
 仕様 
  閉めたとき、戸袋寄りの最後の建具に、上げ猿落し猿を仕込み、また、戸相互の召合せ部には、召合せ决りを設ける(下図の雨戸建具平面詳細図参照)。
  建具は実際に建て込み、建付けを調整する。 
    註 原文の「・・・七本桟上み下も止め」は、「7本の桟のうち、上下は框としてつくる」という意に解しました。
        近世の雨戸は、通常、上框を設けず、両側の縦框を角のように出し先端を决り一筋鴨居の溝を滑らす方式を採っています。
        も、上桟より上部にはねだし、を滑ります。
        原文には、材寸などが指示されていません。
        そこで、一般的な雨戸の事例の参考として、滋賀県大津の近世の商家旧西川家の雨戸の詳細を転載します。
        旧西川家は、宝永3年:1706年に建設された近江商人の代表的な商家で、内法高五尺七寸の当時の標準的な矩計で計画されています。
        それゆえ、雨戸なども、当時の標準的な仕様でつくられていると考えてよいと思います。
        なお、図は、滋賀県 刊「旧西川家住宅修理工事報告書」より、筆者が抜粋し編集したものです。
        はじめに、旧西川家の平面図(図の上方が北東、下方が南西)と、雨戸詳細図
        下段の雨戸・平面詳細図は、平面図の赤枠内に相当します。
        右側の図は、建具:平面詳細図・立面図・組立図です。材寸は、当時の標準的な寸法でしょう。

    註 上げ猿、落し猿 : 雨戸の戸閉装置。建具に仕込んだ扁平の棒敷居、鴨居に彫った穴に差し、戸の動きを止める(下図参照)。
      下図は前掲修理工事報告書から、左が上げ猿、右が落し猿の立面図。これらは縦猿とも呼ぶようです。
      上げ猿の場合、の下るのを避けるため、図のように横棒を飼います。下げ猿に設けることもあります。
      なお、建具相互をつなぐ横猿を設けることもあります。建具を一枚ずつ外されないようにする工夫です。
      横猿は、上の雨戸建具詳細図・立面図に描かれています。
      の実物は、各地の保存民家や博物館、資料館などで見られると思います。
        この装置を、なぜと呼ぶかについては、諸説あるようです。
       

      召合せ决り : このほかに、縦框に台形の凹凸を削りだす印籠决り(いんろう しゃくり)と呼ばれる方法があります(現在はこれが普通では?)。
        これは、印籠の蓋のように噛み合わせることからの呼称のようです。
 
        次図は、一筋敷居・鴨居、戸袋:断面詳細図です。

      蛇足 「旧西川家住宅修理工事報告書は、建具の詳細図が載っている稀有な修理工事報告書の一ではないかと思います。
          詳しくお知りになりたい方は、同書の「調査事項」(122~187頁)をご覧ください。
            国会図書館の複写サービス(当該部分を指定)が受けられます。
                
〇 便所の開き戸
 材料 雨戸に倣う。すなわち、框は樅、鏡板は杉 四分板 三枚矧ぎ舞良戸(まいらど)に仕立て、肘壷にて具合よく釣り込む。
    註 舞良戸 : (板戸の)表裏に幅6~7分内外、厚さ4~5分程の木(舞良子)を横に(繁く)打付けた板戸を言う。縦に打つ場合もある。各種の意匠がある。
             (「日本建築辞彙」ほかによる)
〇 表入口の格子戸
 材料 すべて檜
  縦框 : 見付 1寸2分×見込 1寸  下框 : 成・丈 1寸4分×見込 1寸  上框 : 成・丈 1寸6分×見込 1寸
  にはを設け、上下の縦框に二枚枘で差し、面は隅で「面腰(めんこし)を押す」。
    註 面腰を押す 下図のようにつくり納めることをいう。(「日本建築辞彙」による)
       二枚枘は雨戸の組立図参照。
        
  竪子(たてご) :縦の格子見付 7分×見込 8分 大面取り 15本。上下は枘差し、5本のを通す。ただし、中央の掛子彫をして割貫とする。
  なお、各部の仕口は、糊付けを併用する。
    註 掛子彫、割貫については、前回に説明。
    註  「押糊入れ」「押糊飼い」という表現は、職方の常用語なのでしょうか。
       「面腰を押す」という表現を含め、「押す」という動詞には、職方独自の意が与えられているのかもしれません。「押角」も?
       
〇 明り障子(表八畳間縁側境4枚 腰板付、表出格子4枚 水腰、玄関2枚)
 材料  
  縦框 : 見付 1寸3分×見込 1寸  下框 : 成・丈 1寸3分×見込 1寸  中桟 : 成・丈 9分×見込 1寸  上框 : 成・丈 1寸6分×見込 6分 すべて檜
  組子 : 杉柾 見付 2分×見込 5分5厘 横繁
  腰板 : 杉柾
 框、桟の仕口は包み込枘差しとし、糊付を併用して組立て、建付けを調整後、引手張りも含め上美濃紙を張る(貼る)。
    註 引手張り : 引手にあたる部分の一ますだけに、紙を反対側に張る。その部分だけ部になり手が掛けやすくなる。[誤字訂正 12日 11.30]
             表側の紙を×形に切り、折り返し反対側の紙に張り付け、×形が見える場合が多い。
〇 明り障子(その他の個所)
  材料樅の上等品を用い、材寸は前者に倣い、組子は見付 2分5厘×見込 5分 、紙張り同前。
    註 腰板付障子水腰障子の例を前掲「旧西川家修理工事報告書」より、抜粋転載させていただきます。

      左が腰板付。ただし、この例は腰板に目板様の格子がついています。原文の腰は板を矧いで嵌めてあるだけ。
      右が水腰腰のない明り障子を水腰と呼ぶ。その理由は「腰を見ず」つまり腰がない、という説があります。
        原文に「水腰」とありますが、普通は「」の字は付けないのではないでしょうか。
      原文にある包み込枘差しとは、組立図のように、横材のを貫かず、框内に納める方法のこと、と推察します。
        以前に紹介の武家・横田家の飛貫にも「包み枘差」が使われていましたが、その場合は、「地獄枘差し」と同義と考えるのが妥当と判断しました。
        しかし、このような建具の場合は、上記の意と思われます。
〇 腰高障子(台所入口)
  材料は樅
  縦框 : 見付 1寸3分×見込 1寸  下框 : 成・丈 1寸5分×見込 1寸  中桟 : 成・丈 1寸5分×見込 1寸  上框 : 成・丈 1寸6分×見込 6分
  組子 : 6分角 横の組子横子)を西の内紙の幅の二つ割で、縦の組子(竪子・縦子)は中三本を入れて組む。
          腰高は、内法高さの中央を中桟の上端とし、裏桟(見付 1寸×見込 6分)二本を設け、杉 赤身 無節板を糊で三枚矧いだ腰板を四周の小穴
          嵌め 引手板ともども組立てる。
    註 美濃紙美濃の国・岐阜県産の和紙、西の内紙は茨城県北部西の内産の和紙。
       明り障子組子の間隔は、張る紙の寸法に応じていた。
〇 襖
  材料 椹(さわら)
  化粧竪(縦)縁 6分角、下桟 見付 7分×見込 6分、上桟 見付 9分×見込 6分召合せ定木縁蒲鉾形につくりだし、いずれも黒漆塗り仕上げとする。
  下地骨組 組子 見付 6分×見込 5.5分力骨 見付 8分×見込 5.5分
        下地骨組は、縦3本、横11本とし、そのうち縦1本 横3本力骨が兼ねる。
        隅は襟輪目違入りで糊を飼い木釘にて打付け、四隅力板、引手部に引手板を切込み打付ける。
        竪縁は、上下を角柄を伸ばし、横縁上端にて切断し、現場に合わせ調整する。
    註 原文の「張付組子・・・」以下を、上記のように解しました。
       この説明に相当する襖の骨組図学芸出版社刊「和室造作集成」より転載させていただきます。表示寸法はmm表記(18×16.5≒ 6分× 5.5分)。
       
  紙貼り(張り) 下貼り骨縛り一度以上、下張り四遍仕上げ(都合五遍仕上げ)、上貼りは、唐紙(からかみ)を貼る。     
    註 骨縛り襖貼りで最下層になる紙貼りのこと。
       四遍、五遍⇒四回、五回の意
     
  化粧縁の取付け 貼り下地竪縁折釘を仕込み、化粧竪縁に設けた凹部を当て、上部から化粧竪縁木口を叩くと折釘に刺さり下地竪縁に密着する。
              張替の時は、この逆、下部の木口を叩いて外す。[文言改訂 12日 10.20]
    註 各部の詳細図を、前掲「和室造作集成」より抜粋編集し転載させていただきます。表示寸法はmm表記。
   
   左上は、引違の場合の平面詳細、左下は召合せ部の「定木縁」の例(この図では「定規」と表記)。
   中央は断面詳細。右図は、化粧縁取付けの折釘おりくぎ、おれくぎ。図では「合折釘:あいおれくぎ」と表記)化粧縁の納まり図。
   図の竪縁表記が化粧竪縁(黒い部分)。折釘は、下地側に打込んである。
  引手金物 上等品を用いる。
      
〇 畳
  畳床(たたみ どこ) : 八畳間二間は刺数(さしかず)十一通し、他の三間は九通しの品。
    註 刺数 : 畳床を糸で縫い締める針を刺す通りの列数の意と解します。どなたか、詳細のご教示を![文言改訂 12日 8.20]
  畳表(たたみ おもて) : 八畳間は備後(びんご)、他は「表前仝断早嶋表を用い」る。
    註 備後 : 備後(広島県東部地域)産の畳表。
       「表前仝断早嶋表を用い」の意不明。どなたかご教示を!
  (へり) : 紺(色の)縁の上等品。

〇 其の他 補遺
 工事中、不明な点が生じたときは、すべて係員の判断を待つこと。
 工事中は、指図に従い随時大掃除を行い、火の元を十分警戒し、指定場所以外の喫煙を禁じる。
 (請負工事のときは)請負人は工事進行中諸法規を遵守し、自己の怠慢より生じた諸損害はすべて請負人が負担する。
 工事に従事する人夫職人は従順にして勤勉な者とし、喧嘩口論を好む輩は一切従事することを認めない。
 以上は仕様の概略で本工事の程度を示したもので、明記のない個所であっても、建築上欠くべからざる工事は請負人の負担をもって指図通り施行する。


  [以上で「仕様書の一例」の紹介はすべてです。]

           **********************************************************************************************************

不明な点がいくつかありますが、ご存知の方は是非ご教示くださるよう、お願いいたします
内容を理解するため、いろいろと調べることになり、「あらためての学習」になりました。もっとも、その分、時間がかかってしまい、恐縮しております。

「日本家屋構造」には、主に参考図からなる「下巻」があります。これをどうするか考え中です。 

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「日本家屋構造・中巻:製図篇」の紹介-23 :附録 (その8)「仕様書の一例」-5

2014-05-31 18:21:34 | 「日本家屋構造」の紹介


二十九 普通住家建築仕様書の一例(一式請負の時)」の項の原文を編集、A4判6ページ(右上に便宜上ページ番号を付してあります)にまとめましたが、現在、仕様の具体的内容部分(2~6ページ)を紹介中です。

           **********************************************************************************************************

[文補訂 6月1日早朝][蛇口枘の図追加 1日 9.45][文言追加 1日 10.30]

紹介は、原文を、編集したページごとに転載し、現代語で読み下し、随時註記を付す形にします。
今回は、その5枚目:出格子、雨戸戸袋、霧除け庇、雨押え、軒樋、下水、などの仕様の項の紹介になります。
ところが、今回分の原文に目を通していて、「日本家屋構造・上巻」の紹介が尻切れトンボになっていることに気づきました。
2012年12月21日の「『日本家屋構造』の紹介-18・・・天井の構造」に続き、まだ「庇し」と「戸袋」の項の紹介をしなければならなかったにもかかわらず、入院に取り紛れ、その紹介をせずに終わってしまっていたことに、あらためて気付いたのです。忘れるなんてボケたかな?・・・
そこで、今回の紹介に際して、その項に関わる図と解説を載せ、補うことにいたします。

はじめに原文。

以下、現代語で読み下します。なお、工事順、部位別に、大まかに「分類見出し」を付けました。
〇 表 出格子
  この解説は、平屋建て普通住家の事例についてなされているものと思われますので、その平面図立面図を再掲します。
  
  材料はすべて 檜 無節
  妻板幅 8寸×厚 1寸2分 上々に削り仕上げる。
  格子台成・丈 5寸×幅 2寸5分
  鴨居成・丈 2寸2分×幅 2寸5分
   格子台、鴨居とも、格子取付け用の穴雨戸溝、左右の妻板への取付け用枘を刻み、妻板に差し合せ楔締めで固める。
    註 格子台の参考図として、二階建ての二階に、下野庇上に設ける出格子の例を載せます。いずれも再掲です。
       この図では格子台は庇上に立つ柱に取付けていますが、平屋建ての場合は、本体の柱に取付けた妻板に取付けます。
      
       妻板への取付けは、
       丁寧な場合は、妻板の間に数か所設ける太枘(だぼ)で固定する、
       簡単な場合は、小穴を突いておき、を嵌め込み、隠し釘で取付ける
       などが考えられます。戸袋の項であらためて触れます。
 台輪成・丈 1寸6分×幅 4寸妻板より 1寸8分 外に出し、に納める。
    註 台輪については、次項の戸袋の図を参照ください。
 格子見付 7分×見込 8分 削り仕上げ。1寸5分明きに立てる。
       格子は、幅 7分×厚 2.5分を四通り差す。そのうちの中二通りは、掛子彫りをして割貫として差す。
    註 原文の「中二通り掛子彫割貫に差し通す」を上記のように解しました。
       これは、下図の、貫を二つ割にして差す「割り貫」」「割り子差し」と呼ぶ方法のことと思われます。(図は「工作本位 建築の造作図集」理工学社 刊より)
       「掛子彫り」とは、格子に施す図のような細工のこと。「掛子」とは、段状の形をいう(⇒土蔵掛子塗
       これは、格子の間隔を正確均等に組むために考え出された技法と思われます。
      
       残りの二通りのの位置は具体的にわかりません。適宜か?
       なお、妻板があるので、格子を立てた後にを差すことはできませんから、格子を仮組みして、建具のように嵌めこむものと推察します。
 出格子の戸袋 : 二か所とも檜 無節材方立妻板と同じ大きさ、仕様とする。
    註 「・・方立大きさ妻板と仝断・・」の意が分りませんが、方立は、戸袋の戸の入口に立てる方立のことか?次項の柱建て戸袋側面図を参照ください。    
       また、原文の「見付は仝木にて簓子に造り挿め込み・・・」の「見付」は、戸袋正面の下見板の「押縁」の意かと推察します。別解釈あればご教示を!

〇 表入口の戸袋

以下の説明のために、はじめに上巻の紹介のときに忘れた戸袋の項の原文を転載します(現代語読み下しは省略させていただきます)。

  
   戸袋は、柱建て戸袋妻板建て戸袋に大別されます。
   なお、原文の表の戸袋妻板建てと考えられます。
 材料は、檜 無節
    註 原文の「木口前仝木・・・」は、このような意と解しました。なお、「仝木」のルビは「どうもく」の誤記と思われます。
 妻板厚 1寸2分
 上下長押成・丈 3寸×厚 1寸2分。妻板に小根枘差し楔締め糊を併用
 (戸袋正面の)及び目板杉 赤身 本四分板 無節 削り仕上げ。は、妻板及び長押に彫った小穴に嵌めて張り立てる。
 (板張り用の)中桟杉 幅 1寸2分×厚 8分 削り仕上げ 四通り、妻板寄蟻で取付け。
 台輪長押より外の出 1寸5分、納め。
 戸袋天井杉 六分板 削り仕上げの上、張り立てる。
 他の(横及び裏側の)戸袋、五ヶ所
 妻板 厚 1寸板 上小節材を用い、上下の長押皿板中桟も同材を曳割り削り使用。
 中桟は四通り設けるが、その内の中の二通りは寄蟻で取付け。その他の仕口などは、表の戸袋に倣う。
    註 他の二通りは大入れでよい、との意と解します。
 戸袋正面の及び目板杉 四分板 上小節 を削り仕上げ、張り立て。
 戸袋屋根は、杉 厚 1寸板 を削り取付ける。
    註 戸袋上部は、台輪をまわし天井板を嵌め込む方法と、上長押妻板上に勾配付の屋根板を載せる方法があり、表以外は後者を採るものと解します。

〇 戸袋補遺
  原文の図には戸袋の断面図がありません。「工作本位 建築の造作図集」(理工学社)から、抜粋、当原文に見合うように加筆・編集した図を下に載せます。
  
  戸袋奥の妻板戸尻妻板は、本屋の柱に隠し釘または引独鈷(ひきどっこ)で固定し(隠し釘の場合は、太枘を併用することを奨めています)
   なお、この図のような引独鈷の実例は、私は見たことがありません。
  入口側の妻板手先妻板は、一筋敷居一筋鴨居に取付けます(上掲の図参照、一筋敷居には渡り腮で掛け、いずれも隠し釘で固定)。
  なお、戸袋の深さは、雨戸収納枚数により決め、見込 1寸の雨戸の場合は、1寸1分×枚数 で算定(戸と戸の隙間を 1分と見なす計算)。

〇 霧除け庇  
  この項の説明のため、上巻の「庇し」についての解説原文を下に転載します(紹介を失念した項目です)。

 腕木 松 無節 成・丈 3寸×幅 1寸8分 を削り、を刻み、を飼い(柱に)差し、堅める。
    註 これは、地獄枘の意と推察します。
 杉 磨き丸太 末口径 2寸5分以上 上端を削り、腕木に取付ける。
    註 仕口は、上巻解説文の「(腕木に)渡り欠きを施し、渡り腮腕木に納める」意と推察します。
       なお、同原文の「蛇口枘差し」が不明です。
       調査不足でした。前掲「工作本位 建築の造作図集」(理工学社)に図が載っていましたので、転載させていただきます。[蛇口枘の図追加 1日 9.45]
       渡り腮の場合は、腕木の先端がより前に出る。蛇口枘は、腕木外面に揃える場合の技法、と思います。蛇の口に似ているからか?
       私が蛇口枘の経験がなかったので知らなかったに過ぎない、というお粗末でした!   [文言追加 1日 10.30]
       
 板掛大貫 上小節 を幅 3寸に曳割り、削り仕上げの上、柱を欠き込み取付け。
 板及び目板、垂木形杉 板割 生小節(いたわり いきこぶし)を曳割り削り、正二寸釘にて張り立てる。
    註 杉 板割(すぎ いたわり) : 杉板割は長さ二間、幅七寸~一尺程、厚さは墨掛一寸、実寸は八分~八分五厘程。
                         東京近傍にて単に板割といえば杉一寸板のことなり。   (「日本建築辞彙」より)
 雨押え大貫を削り打付ける。
 鼻柵(=鼻絡:はながらみ): 杉 小割 無節 を削り、庇板の先端より 1寸5分 ほど内側に板、目板双方に打付ける。
    註 杉 小割杉四寸角十二割または五寸角二十割なる細き木にして長さ二間なり。実寸は幅一寸、厚さ九分程のものなり。 (「日本建築辞彙」より)
 外まわり土台上及び窓下、桁下端とも、杉 大貫 二つ割を削った雨押えを取付ける。
    註 窓下の雨押えとは、下見板張り上の雨押え桁下端の雨押えとは、縁側庇と桁の接点の雨押えの意、と解します(前回の矩計図を参照ください)。
 持送り板割 を幅六寸、長さ一尺で絵様形(えようがた:模様を彫った形:別図参照)につくり、に取付ける。
    註 持送りを設ける場所が具体的に示されていません。通常は出格子などに設けられますが、原文の出格子妻板建て。ゆえに場所不明。
       参考として、前掲「工作本位 建築の造作図集」(理工学社)から、持送り付出格子の図を編集の上転載させていただきます。
       右側が雨戸付出格子の例で、原文の出格子は、これに相当するものと思われます。
       ただ、原文の出格子には、屋根の反りはありません。
  
 窓上の横板庇杉 板割 生小節 幅 8寸 を削り仕上げの上取付け、猿頭(さるがしら)は 杉 大小割 の上端を(しのぎ)に削り、一尺五寸間に打付ける。
    註 猿頭(さるがしら) : 上図参照。
       大小割(おおこわり): 墨掛 1寸5分× 1寸2分 の矩形断面の杉材、長さ二間。(「日本建築辞彙」による)
       鎬に削る : 上端を屋根形に加工すること。上図参照。
 下見板杉 四分板 生小節 を削り仕上げ、羽重ね 8分以上で張る。
 押縁大貫 二つ割羽刻みを施し、削り仕上げ、三尺間に打付ける。

〇 雨樋
 軒樋周長 9寸 の竹の二つ割。
 縦樋周長 8寸 の竹、六箇所。
 樋受金物 : 鉄製、三尺間で垂木の横へ打付け、縦樋とも、銅線で水勾配に留意の上取付ける。
    註 「・・・横樋杉 六分板 上小節 削り指立、・・」とは、木製の場合の樋受のことか?どなたかご教示を!

〇 箱下水
 箱下水とは、「広辞苑」によると、「蓋で上部を覆った、断面が長方形の下水溝」とのこと。蓋付のU字側溝も該当する?
 箱の側板及び蓋板杉 板割 生節(いきぶし) 耳摺物(みみずりもの:角が端正なもの) 幅八寸継手殺ぎ継(そぎつぎ)。
 松 二寸角 丸身なし 蟻形に刻み 二尺五寸間に蟻欠きした側板に、左右に 1寸5分ずつ伸ばし嵌め込む。
    註 原文の「・・側板継手殺ぎ継ぎ張桁松二寸角丸身なし二尺五寸間に蟻欠き致し側板外左右に一寸五分宛延し蟻に仕拵へ嵌め込み・・」の部分を
       上記のように解しました。自信はありませんので、別解がありましたら、ご教示ください。特に、「側板外左右に一寸五分宛延し・・」の部分不明
 底板 松 六分板 幅 1尺 生節 耳摺物 内部を荒鉋削り、正一寸五分釘で打付け、内部はコールタール塗し、通りよく埋設する。
 蓋板底板と同木。幅 7寸継手は長さ 2寸 板幅三ツ割三枚の鵙(いすか:鶍が普通の表記)に組む。
      「板幅三ツ割三枚の鵙」の形状不明。どなたかご教示を!
 耳桁 : 大貫 二つ割。継手は殺ぎ継。正二寸釘にて打付け。
      耳桁とは蓋板受材の意か?           
    註 これは、尺幅の底板側板底部に打つと、側板内法が約 8寸、受材:耳桁を打つと、幅 7寸の蓋板が載せられる、と考えた末の解釈です。     
      別解がありましたら、ご教示ください。
 以上仕上がった箱下水を、入念に埋設する。ただし、竪樋より箱下水までの間は、径 3寸の土管を水勾配を十分にとり伏せ、継ぎ目には粘土を十分に塗る。

           **********************************************************************************************************

以上で今回分はおしまいです。原文の文意の解釈に四苦八苦しました。古文読解よりも難しい・・・!

次回は仕様書紹介の最終回。「建具」の仕様が中心になります。また少々時間をいただきます。[文言追加 1日 10.30]

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「日本家屋構造・中巻:製図篇」の紹介-22 :附録 (その7)「仕様書の一例」-4

2014-05-21 10:15:00 | 「日本家屋構造」の紹介


二十九 普通住家建築仕様書の一例(一式請負の時)」の項の原文を編集、A4判6ページ(右上に便宜上ページ番号を付してあります)にまとめましたが、先回からは仕様の具体的内容部分(2~6ページ)を紹介中です。

           **********************************************************************************************************

[文中の誤字を訂正しました。23日9.00]
紹介は、原文を、編集したページごとに転載し、現代語で読み下し、随時註記を付す形にします。
今回は、その4枚目:押入、壁、縁側、便所の仕様の項の紹介になります。
はじめに原文。


なお、現代語で読み下すにあたり、工事順、部位別に、大まかに「分類見出し」を付けました。

 押入
  根太掛大貫を(柱、土台面に添い)打付け、(床束位置には)抱き束を添える場合もある。
        註 室部分の垂木は、土台及び大引上に載せ掛けるため、根太掛は不要です。
           しかし、押入床面は、室の床面(畳面)=敷居面に揃えるのが普通です。そのため、根太掛を別途設けることになります。          
           ただ、根太掛土台にも添うので、土台側面にも釘打ちとし、必ずしも抱き床束は設けないのではないか、と考え、上記のように解しました。
            抱き束、抱き床束根太掛を承けるため、床束に添える材。厚さは根太掛に同じ。
              先回掲載の普通住家矩形図第三図・乙縁框束石の間に抱き束が描かれています。この後の縁側の項に再掲してあります。
  根太松 二寸角 1尺2寸間に取付け。
       註 大貫墨掛寸法 幅4寸×厚1寸 実寸 幅3寸9分×厚8~9分 程度、一般には
         松 二寸角松 八寸角の16割。実寸1寸7分角程度。
  拭板=床板松 六分板 無節 削り仕上げ。
 押入中段の棚
  框、根太掛二番大貫 無節 削り仕上げの上、根太彫をして取付ける。
  根太松 成・丈1寸5分×幅1寸2分1尺2寸間に取付け。
  中段棚板杉 六分板 上小節 両面削り仕上げ を張る。
       註 原文の、「・・・根太 松三寸(一寸二分・一寸五分)・・」は、上記の意と解しました。
 壁下地  
  間柱松 二寸角 丸身なし。上部は片枘を刻み(梁・桁に)、下端は土台上端に大釘にて取付ける。
  塗込貫(ぬりこみ ぬき) : 杉 三寸貫。表面を荒し、(上下は)枘差し
       註 下に、木舞壁の詳細図を挙げます。
          左が両面真壁、右が片面下見板張り大壁(外壁)。(理工学社刊「おさまり詳細図集1 木造編」より抜粋編集)
          一般に、間柱下見板張など大壁仕様の場合に設け、
          塗込貫両面真壁仕様の時に横方向の間渡竹の固定のために間柱代りに設けるいわば薄い間柱と考えてよいでしょう。
          塗壁内に塗り込められ、見えなくなるための呼称です。
          縦方向に入れる材をと呼ぶのは、材料として市販の貫材を使うことによるものと思われます。
          なお、縦方向の間渡竹は、に固定されます。         
    

          松 二寸角 : 上掲参照。
          「間柱・・・上み片枘 付け・・」とは、材上端をL型の(実寸1.7/2×1.7寸)に刻むことではないか(通り芯側に設けるため)、と察します。
          「塗込貫 杉三寸貫 嵐付・・・」は、塗土の付着をよくするため、材の表面を荒す、という意に解しました。
  間渡竹は縦横とも、切込み、間柱あるいは塗込貫に打付ける。には横間渡竹をさす孔を穿つ。(上図参照)
  小舞竹 : 四つ割りものを間渡竹に縄で掻き付ける(縛り付ける)。(上図参照)
       註 掻く小舞竹などを縄巻することをいう。・・「かく」は、「鳥が巣をかける」の「かく」と同意なり。「」はただその当字のみ。(「日本建築辞彙」)
          [の字、誤記を訂正しました。23日9.00]
 壁塗り
  荒壁荒木田土藁苆を混ぜ練り、塗り立てた後十分に乾かし、
       に当る部分、柱際、天井回縁の下それぞれ幅三寸ほどについては貫縛(ぬき しばり)、散漆喰(ちり しっくい)を施す。
      註 貫縛荒壁が乾燥した後、の部分に亀裂防止のために行う作業。
              布伏(ぬのふせ):八寸ほどの長さに切った布片や藺柄(いがら)を中塗土とのつなぎに塗り込む。 
              貫漆喰幅より上下二寸ずつ広く漆喰を塗る。荒壁を縫い付けるように切麻を摺り込む。
        散漆喰 : 柱際などに隙間が生じないように二寸程度の幅について漆喰を注意して塗り込む作業をいう(本書では三寸)。
                この解説は、「日本建築辞彙 新訂版」の解説を筆者が要約。
  中塗 : よく漉した土を使う。
  上塗大坂土にて色壁塗り仕上げ。台所、大小便所及び押入の中は、いずれも茶大津で塗り仕上げる。すべて、のないように入念に塗り立てること。
       なお、色合いについては、現場での指示に拠ること。
      註 大坂土(大阪土):上塗土のこと。錆土天王寺土とも呼ばれ、赤味を帯びた褐色の上塗用壁土
                     四天王寺近辺で採掘されたものが特に上等とされ、この名がある。
         今日、赤味を帯びた土壁を聚楽壁と通称するように、明治時代には上塗土の総称として大阪土の名称が使われていたようである。
            聚楽土 : この土は中塗土としても使われ、必ずしも上塗専用土ではなかったが、その後の枯渇により珍重され
                  上塗専用土としての評価を高め、土壁の代名詞となった。(「日本建築辞彙 新訂版」より)
         茶大津上塗用の茶色なる壁土にて、黄へな土二俵半程に川土一升以内を混ぜ、これに蠣灰八升、揉苆百匁程を合せたるものなり。
               へな土粘土のこと。
               蠣灰消石灰のこと。
               揉苆藁苆に同じ。    (以上「日本建築辞彙 新訂版」より)                 
 縁側木工事
    縁側の構造について、「『日本家屋構造』の紹介-14」にあります。
    以下の解説の参考のため、矩計図及び縁側床の詳細図を再掲します。

  縁框栂 無節 柾目もの 成・丈5寸×幅3寸5分溝突き、板决り、根太彫りの上、上鉋削り仕上げ
       継手箱目違い入しゃち継、下木は大釘にて打付け。
            箱目違い入しゃち継箱目違いを設けた竿しゃち継。下図参照。
            註 しゃち継を上面に設けるわけにはゆきませんから、多分下面かと思いますが、どなたか詳しい方ご教示を願います。
  根太松 成・丈2寸5分×幅2寸 間隔は1尺5寸ごと。(縁板の載る)一面を通りよく削り、縁框足堅(足固)には根太彫を施す。
  縁榑貫(えん くれぬき) : と同木すなわち栂 幅4寸×厚8分を丁寧に削り仕上げ、大面を取り、相互は合釘で結び、
                   落し釘手違い鎹または目鎹にて根太に取付け張り立てる。
      註 縁榑貫:現在の縁甲板・フローリングの意と解してよいでしょう。
         板傍は、現在の(さね)ではなく合决り(あいじゃくり)のため、不陸を防ぐために合釘で相互を繋いでます(上図参照)。
         根太への取付けも上図をご覧ください。
         矧ぐ方法の一。片方の板の傍=側面突起をつくりだし、もう一方の板の傍同型の溝を彫り、両者を接合させる。
            突起自体につくりだす場合を本実、双方のだけを彫り、雇材を打込む場合を入実(いれざね)または雇実(やといざね)という。
            についての解説は、「日本建築辞彙 新訂版」などの説明を筆者が要約
             「広辞苑」によると、「さね」とは、「核・実」、「真根(さね)」の意で、果実の中心の固い所、骨、根本の物、実体、などの意とあります。
  無目、一筋鴨居 : 部屋内の鴨居と同木すなわち 樅 無節 とする(前回を参照ください)。
               無目成・丈1寸8分×幅3寸2分)は削り仕上げの上、上面に欄間障子落込み用一筋鴨居を取付け用の决りを刻み取付ける。
               一筋鴨居>(成・丈2寸×幅2寸2分)は削り仕上げの上雨戸用のを突き、無目决り:小穴に嵌め込み取付け、上端より釘打ち。
               鴨居釣り束は、上は割楔を込めた枘差し(通称地獄枘)、下は無目上端に篠差蟻で取付け(上図参照)。
 便所の構造仕様
  床下の内側に、(土台から)床板下端まで 厚さ本六分以上の板を張りつめ、コールタール塗を施す。
       註 を張る場所については矩計図を参照ください。ただし、矩計図には、この板張りは描かれていません。
   : 柱の内面に大貫材の根太掛を打付け、抱束を立て、栂 無節 幅6寸×厚8分合决り(あいじゃくり)に加工、鉋仕上げとし、縁側床同様に張る。
  幅木床板と同木(すなわち、)を面内に取付ける。
  小便所の壁漏斗(じょうご:木製の小便器) の裏側及び両側の壁は、
            高さ3尺まで、杉赤身 無節の本四分板を削り、桶舞倉糊矧(ひふくら のり はぎ)で竪羽目張りとし、には小穴を突き嵌め込む。
      註 桶舞倉糊矧 : 「日本建築辞彙 新訂版」の「ひぶくらはぎ」では、「桶部倉矧」と表記。下図のような板の矧ぎ方との説明がある。
         板戸などで使うようですが、私は実物を見たことがありません。
         桶舞倉糊矧とは、この矧ぎ方で糊を併用するものと解します。
         
         ただ、「ひふくら」「ひぶくら」の意はもとより、どちらの漢字表記も、字義が分りません!!
         ご存知の方、是非ご教示ください
  便所まわりの長押栂 柾 成・丈3寸×厚1寸 削り仕上げを取付け。
  同所入口の敷居、鴨居 : 住家部分と同木(成・丈1寸3分×幅3寸)
  同所窓の敷居、鴨居 : 上記にならい、(建具用の)を突き取付け。
  (小便所)下の簀子(すのこ): 径4分の曝した女竹(めだけ、原文 おんなだけ)を幅1尺に並べ、栂 柾(幅1寸5分×高1寸2分)を削り仕上げたで打留め。
     註 このように解しましたが、自信はありません。
        また、原文の「・・・漏斗の掛釘共打ち、・・」の漏斗の形、掛釘の様態、打つ場所などまったく不明です。お分りの方ご教示ください
        女竹(雌竹) : めだけ。竹の一種。幹が細く、節と節との間が長い。(「新明解国語辞典」)
  便所入口の方立樅 無節 1寸8分角戸当を决り出し、壁板取付け用の小穴を突き、上下にを刻み削り仕上げの上取付ける。
  方立脇の板壁杉 無節 六分板 を両面削り仕上げで、四方を小穴に嵌め込む。
  窓の外格子檜(見付5分、見込7分)を削り仕上げ、2寸5分間に取付け。檜 幅5分×厚2分の削り仕上げ。    
     註 原文の「窓外格子檜・・・、仝貫削り二寸五分間に取付け」は、第三図乙図便所の立面図から、のこのような意と解しました。
  同所への雨戸建ての取付けは、図面の通りとする。
     註 「仝所雨戸建の仕口・・・」とは、第三図 矩計図・乙のように雨戸を納める、との意に解しました。
  便所の天井天井板は、住家部分の八畳間と同じ、竿縁は、五分角として吹寄せに取付け。
     註 吹寄せ : 2本を一対にすること。

以上で今回の分は終りです。

           **********************************************************************************************************

蛇足 陶器の便器のない頃の大便所の床の穴を「桶箱(ひばこ)」というそうです。(「日本建築辞彙」)
    名前は知りませんでしたが、疎開先の外便所がこれ(屋内便所はなかった・・!)。ぽっかり空いた暗い穴は、子どもには怖かった。特に夜は・・・。
    小便器の漏斗は実際に見たことはありませんが、陶器の壁掛け小便器の下が竹簀子になっている例を、倉敷の旅館で見たように記憶しています。
    便所まわりは、いろいろ修理工事報告書を調べましたが、意外と紹介がありませんでした。
       

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「日本家屋構造・中巻:製図篇」の紹介-21 :附録 (その6)「仕様書の一例」-3

2014-05-07 09:00:00 | 「日本家屋構造」の紹介


二十九 普通住家建築仕様書の一例(一式請負の時)」の項の原文を編集、A4判6ページ(右上に便宜上ページ番号を付してあります)にまとめましたが、先回からは仕様の具体的内容部分(2~6ページ)を紹介中です。

紹介は、原文を、編集したページごとに転載し、現代語で読み下し、随時註記を付す形にします。
なお、現代語で読み下すにあたり、工事順、部位別に、大まかに「分類見出し」を付けました。

           **********************************************************************************************************

今回は先回の続きの3ページ目、はじめに原文

先回の続きで、縁側部分の屋根葺き下地の仕様から始まります。
通常、屋根下地の工事が終ると、一旦木工事は中断し、屋根葺き工事が行われます。
原文でも、その工程にしたがい、縁側の屋根下地に続き、瓦葺きの仕様が述べられます。
  なお、記述にはありませんが、棟木、母屋等が掛けられた段階、あるいは垂木が掛けられた段階には、上棟式が行われたものと思います。
  また、瓦桟の取付けは、大工職が行う場合と、瓦職が行う場合とがあるようです。

現代語で読み下します。
参考のために矩計図を再掲します。ここで描かれているのは、図中の第三図・甲の場合です。


木工事の続き
 縁側垂木掛松 丈3寸6分×幅1寸8分、(裏板を載せ掛ける)腰掛决(こしかけ しゃくり)及び垂木彫を施し削り仕上げをして取付け。
 化粧垂木松 丈1寸8分×幅1寸5分、1尺5寸間。面戸取付けの欠き込みを設ける。
 面戸板:杉 本四分板(ほん しぶ いた:実寸 3分程度)を削り仕上げの上はめ込む。
 裏板:杉 四分板(しぶ いた:実寸厚 2分5厘程度)無節の削り仕上げ。刃重ね8分以上で張り上げる。
   註 四分板:東京近傍にて、四分板は、杉材にして、長さ一間、厚さ実寸 2分5厘程。また杉本四分板は厚さ(実寸)3分程なり。
            またその幅は一尺内外数種あり。これを下見板、天井裏板などに用うることあり。(以上「日本建築辞彙 新訂版」による)
           この「実寸」は、四分板と称して市販されている材の実寸、つまり「墨掛寸法:曳割る前の寸法」の意と解します。
           したがって、削り仕上げると、更に薄くなるはずです(天井裏板で 2分程度、面戸板は 2分5厘程か。)
 なお、野屋根部分(垂木、野地板)は、主屋からの続きとする。(上掲の第三図・甲参照)。
   註 原文の「上野地は本屋よりつき下し」とは、第三図・甲のように、主屋の屋根をそのまま延長する、との意に解しました。

   〈この段階で、現場での木工事は一旦休止、屋根葺き・瓦葺きに入ります。〉

瓦葺き工事
  
 片面磨き 深切込桟瓦、軒先唐草瓦・敷平瓦を、一坪あたり4荷葺土を用い通りよく葺く。
   註 磨き(瓦):白雲母の粉を布袋にて包み、以て素地の表面を磨きたる後、焼きて製す。(「日本建築辞彙」)
 葺土荒木田川粘土を等分に混ぜる。尻釘は各瓦に打つ。
 大棟は、五遍熨斗瓦(のし がわら)四段+冠瓦:とし、鬼板を銅線にて釣り付ける。
 隅棟は、三遍熨斗瓦二段+冠瓦:とし、鬼板を銅線にて釣り付ける。鬼瓦須甘州浜:すはま の転訛)とする。
 切妻(屋根)の端部は螻羽瓦(けらば がわら)を用い、風切瓦丸瓦一通りを葺き、其の端部は巴瓦とする。
 瓦は、面も通りもすべてムラのないように入念に葺くこと。
   
   註 用語の解説のための参考図として、一般的な桟瓦の形状図と瓦屋根形状図を載せます。
    ① 桟瓦の形状図(現在関東地域で多用されている JIS規格53A型の規格寸法です) 
      
     これは、坪井利弘 著「日本の瓦」(新建築社 刊)を参考に作成した図です。
        なお、この書は、瓦と瓦葺きについての現存最高の参考書と言えるのではないか、と思っています。
      深切込切込とは、瓦の左上の欠込み部の深さ:流れ方向の長さ:をいい、深切込桟瓦は切込 1寸3分のもの。
            上図は 40㎜≒1寸3分 なので、深切込に相当します。
    ② 瓦屋根形状図
      上段:切妻屋根  左図中の「袖瓦」は、「螻羽(けらば)瓦」とも呼ぶ場合もあります。
                  右図中の妻側端部の一通りの丸瓦を「風切丸瓦(かざきり まるがわら)」「風切丸(かざきり まる)」と呼ぶ場合もあります。
      中段:寄棟屋根   普通の葺き方は左図です。
      下段:入母屋屋根 左図の表題「下り棟」は、同図中の「降り棟」と同義です。

   註 瓦については、原文は「寄棟屋根の普通住家」についてだけではなく、寄棟以外の屋根形状についても述べています
      寄棟屋根には、螻羽瓦:袖瓦風切丸などはありません。

      軒先唐草瓦:軒先瓦で唐草模様付が唐草瓦軒先瓦の代名詞として、模様のない瓦も唐草瓦と呼ぶ場合がある。原文もその意と解します。
                普通は、上図の「万十」と記した瓦が使われる。「万十」は、「饅頭」の転訛と思われます。
      棟の葺き方  以下に、「日本家屋構造・中巻 八 鬼瓦の書き方」より、当該箇所を抜粋転載します。
        棟積重ねに於て何篇取とは、平の屋根瓦上に熨斗瓦及び冠瓦を重ねたる数にして、
        例へば四篇取りとは、平屋根瓦上に、熨斗瓦三通りと冠瓦一通りを積み重ねたるものにして、三篇或ひ五篇取るも亦之に準ず。
         「日本家屋構造・中巻」の紹介-8に、「鬼瓦の書き方」の項の原文及び「瓦葺き要説」を載せてあります。今回の図は、その中の再掲です。
      冠瓦:棟上部にかぶせるのこと。
        下図は、冠瓦の一例。通常は丸瓦を使うことが多い。(前掲書「日本の瓦」より抜粋転載)

      熨斗瓦:冠瓦を載せる台を形づくる丸味を帯びた扁平な形の瓦。
            「のし」は「のし餅」の「のし」と同義で、「伸ばす」という意。熨斗袋の熨斗も同義に発する。(「広辞苑」による)
      須甘 鬼瓦州浜(すはま):「州のある浜辺」をかたどった模様(「広辞苑」による)の鬼瓦。鬼瓦でもっともシンプルな形状と言えるでしょう。
       下の写真はその一例です。左:表、右:裏面。江戸末頃の建物に使われていた瓦です。なお、地面の目地の幅は、約6寸です。
       「形の謂れ」が明解です。中央の大きな円が「冠瓦:棟の丸瓦」の端部、下の左右の渦が「のし瓦」の端部を隠す(「のし瓦」の痕跡が裏面に見える)。
       裏面の「取っ手」のようなリング状の形をした突起に、瓦固定(原文の「釣付け」)のための銅線を縛り付ける。
         

 軒先瓦はは5枚分、踏下げは4枚分を、また面戸、螻羽、風切丸瓦は2篇を屋根漆喰で接合する。下付けは普通の白漆喰、仕上げは鼠(色の)漆喰を用いる。
   註 踏下げ(ふみさげ):「日本建築辞彙」には、「踏下げ」ではなく、「踏下り(ふみさがり)」とあり、下記の説明があります。
      踏下り(ふみさがり):流れに沿いて棟よりの下り。屋根漆喰、踏下り、三枚通り とは、棟より三枚目迄は漆喰塗になすとの意。

   〈この段階で、再び、木工事が再開します。〉

 足固め(足堅め)檜 五寸角、両端にを刻み、に差し、込栓を打つ。
 床大引末口5寸、長さ2間の松丸太の上端一面を削り、3尺間に架ける。
 床束杉 四寸角大引枘差し礎石玉石上に据える。
 根緘貫(根搦貫) : ねがらみ ぬき 杉 中貫床束の側面に打付ける。
 根太松 二寸角 丸身なし、1尺5寸間。継手殺ぎ継ぎ。上端から大引に大釘打付け。
 床板松 六分板。側面を削り調整の上、張付ける。
   註 五寸角、四寸角、二寸角、 六分板・・・ : いずれも墨掛寸法(曳割り前の寸法)表示。
      中貫隅掛 幅3寸5分×厚8分
 天井廻縁(回縁) : まわりぶち 松 二寸角無節。隅の仕口は下端をにした目違い枘入り。柱へは、襟輪欠きで納める。
 竿縁 : さおぶち 樅 無節 を、高(成・丈)8分×幅1寸に曳割り削り仕上げ。1尺5寸間に回縁に彫り込み取付け。
 天井板 : 八畳間は二間とも杉 四分板 赤身無節、その他の部屋は 杉 四分板 並無節 を上々に鉋で仕上げ刃重ね8分以上で張り立てる。
 天井釣木杉 小割 を3尺間に配し、天井板裏に3尺間に打付けた受木に釣り付ける。
   註 小割 : =並小割。杉の四寸角の十二割または五寸角二十割の細い木材。実寸は幅1寸×厚9分程度の材。長さ2間。(「日本建築辞彙」による)
 内法敷居 松 無節 高(成・丈)2寸×幅3寸8分鴨居 樅 無節 高(成・丈)1寸4分×幅3寸5分 削り、溝を彫る。
 敷居取付け仕口 : 一方 横枘、他方 待枘、横栓打ち
 鴨居取付け仕口 : 一方 横枘、他方 上端より大釘2本打ち、中央部釣束下は、篠差蟻で取付け。   
   註 敷居、鴨居、釣束の仕口などについては、下記参照。
     「『日本家屋構造』の紹介-15」  内法長押樅 柾目 上等品を削り仕上げ。床柱への取付けは雛留とする。   
   註 長押の納まりについては、下記参照。
      「『日本家屋構造』の紹介-16」 
 上り框松 無節 高(成・丈)5寸×幅3寸5分 左右枘差し床板掛りを决り(しゃくり)、蹴込板取付け用の小穴を彫る。
 蹴込板 : 杉 本四分板 赤身 無節 の削り仕上げ。側面には辷刃(すべりは)を設ける。
   註 辷刃 : 板の「傍」を刃のごとくになしたるものなり。(「日本建築辞彙」による)
         相手の材へ嵌め込み作業を容易にするための細工・工夫と考えられます。
      决る(しゃくる) : 職方の常用語の一。板壁に使う「あいじゃくり板」のように、板の側面:接合部を段状に削りとることをいう。
                「日本建築辞彙」では、「抉る(さくる)」(「抉る」は、「くじる」「えぐる」と同義)の転訛、誤記ではないか、という。
      小穴を突く小穴、すなわち幅の狭い細いを穿つ・彫ることを小穴を突くという。職方の常用語の一。
    台所上り框、上げ板框 : 松 四寸敷居木(しすん しきいぎ)無節上げ板掛りを决り取付ける。
   註 敷居木 : 「東京付近に於て販売する松敷居木は、厚さ二寸にして、幅四寸及び五寸の二種あり。これをそれぞれ四寸敷居木五寸敷居木という。
           右、厚さ及び幅は、実寸に於て一~三分少なし。」(「日本建築辞彙」より)
 同所蹴込板 : 杉 四分板 小節 辷刃付、削り仕上げ。
 拭板(ぬぐい いた):松 六分板 無節を削り仕上げ、張る。
   註 拭板 : ・・・・鏡板は区画内にある一枚板・・たとえ矧目あるも顕著ならずして全く一枚板の性質を具うるものとす。
           然るに拭板は同じく平滑なりと雖も、床板の如く合せ目顕著なるものに用うる語なり。(「日本建築辞彙」鏡板の解説より抜粋)
 上げ板杉板 小節 幅七寸以上。削り仕上げ。手掛けの穴を彫り、組み合わせる。
 下流し(した ながし)の根太松 丸太径3寸の一面を削る。
 下流し側板 大貫 赤身 に、底板 松 六分板 を削り仕上げの上差し組み立て埋め込み、松 六分板 上小節を 削り、水勾配に留意の上張り上げる。 
   註 下流しは、下に再掲する平面図の右下隅の矢羽根様に描画された3尺四方の場所。
      中央部の2本の線は:排水溝を、そこに向う左右の斜線は流しの底部になる板張り(上記の松 六分板 上小節)を示しているのでしょう。
      しかし、実際のの位置など、詳細が分りません。修理工事報告書に実例の報告がないか探しましたが、見つかりません。どなたかご教示を!
          
 下流しの上部に無双窓(むそう まど)を設ける(上図の下流しの右手:西面がそれと思われます)。
   註 無双窓無双連子(むそう れんじ)。連子(間隔が一定の格子をいう)を造りつけにした内側に、同形の連子引戸を設けたもの。
             一方に引けば一面の板張りのようになり、他方に引けば普通の連子に見える。(いずれも「広辞苑」より)
 無双窓は、明き3尺、高さ1尺5寸、仕様は以下による。
   註 原文には明き9尺とありますが、平面図から明き3尺と判断しました。
      また、原文の「明き九尺高さ一尺五寸下は鴨居上端に溝付、仝鴨居・・・」は、他の一般の鴨居位置に無双窓敷居を設ける意と解しました。
   鴨居松 成・丈1寸2分×幅3寸2分 削り仕上げ 溝付。
   連子杉 本六分板 無節 を幅2寸5分に曳割り削り仕上げ、明き2寸間に打付ける。
   引戸連子と同じ板の上下にを取付ける。
        杉 中貫 無節 を曳割り削り仕上げ、格子板の木口より、(板一枚に対し)正1寸5分釘2本ずつ打付け作製し、辷りの好いように取付ける。

    長くなりましたが、今回分はここまで。引き続き、各部の詳細が記されます。

           **********************************************************************************************************

用語の確認チェックに時間がかかりました。
これまで、結構「いいかげんな」理解ですましていたんだなァ、と思うことがたくさんあり、大変「復習」になりました。

次回分の用意にも、少々時間をいただきます。
コメント (3)
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「日本家屋構造・中巻:製図篇」の紹介-20 :附録 (その5)「仕様書の一例」-2

2014-04-25 15:05:43 | 「日本家屋構造」の紹介


二十九 普通住家建築仕様書の一例(一式請負の時)」の項の原文を編集、A4判6ページ(右上に便宜上ページ番号を付してあります)にまとめましたが、今回からは、先回の「建築概要」に続く仕様の具体的内容部分(2~6ページ)の紹介になります。

原文を、編集したページごとに転載し、現代語で読み下し、随時註記を付す形にします。
なお、現代語で読み下すにあたり、工事順、部位別に、大まかに「分類見出し」を付けることにしました。

           **********************************************************************************************************

[註記追加 30日 17.00]

はじめに2ページ目の原文

以下、現代語で読み下し。

地形(地業)基礎工事
 敷地の高下を均し、水盛り・遣り方を設ける。
 建物の側まわりの布石
  大小便所まわりを含め、深さ8寸幅1尺5寸の布掘に根伐し、割栗石を厚さ6寸以上敷きタコ付きする。
  布石は、房州(安房国)産の本元名石(ほん もとな いし)の尺三角を、見えがかり、合口は小叩き仕上げ、上端に水垂れ勾配を付け、入念に据え付ける。
    註 房州元名本山:房州産の本元名石の意と会します。
       元名石:安房郡元名村より算出する凝灰砂岩石なり。(「日本建築辞彙 新訂版」)
       尺三角:石材の規格寸法と解します。並尺三:8寸5分×7寸5分×2尺7寸
       「日本建築辞彙 新訂版」では、尺三角とは「豆州、駿州などより出る青石にして、並尺三は8寸5分に7寸5分・・・」とありますが、
       ここでは、文意から見て「規格寸法」の意と解しました。
 間内柱および床束礎石
  柱の礎石:上端幅1尺5寸、深さ1尺の壷堀とし、割栗石を厚さ8寸敷きタコ突き、径1尺2寸以上の玉石を地面より3寸上りに据え付ける。
  床束の束石:あらかじめ小タコ突きして固めた地面に、径8寸以上の玉石を据え、改めて(石の上を)タコ突きして固定する。
  大小便所の便槽:内外とも釉薬をかけた本四荷入り*の瓶(甕:かめ))を埋め込み、まわりを三寸以上の厚さのたたきとし、上面を厚2分ほどのセメント塗り。
    註 下須瓶(げす がめ):汲取り便所の便槽。下須下種の転訛か?
       本四荷入り:瓶(甕)の容量で、「正四荷入り」の意と解します。
       「漆喰」の調合に際していただいたコメントで、1荷=1/100立坪=0.01×1.8³㎥≒0.058㎥≒60㍑ とご教示いただきました。
         したがって、四荷≒0.23㎥≒200~240㍑ぐらいか。
       三州叩き:風化花崗岩を主とする土に石灰および苦塩を混ぜて叩き締める仕上げを叩き:たたきと呼ぶ。三河(三州)産の土が良品とされた。
             ゆえに三州叩き叩きの代名詞になった。土間の床などに用いる。(「日本建築辞彙 新訂版」ほかによる)
       セメント塗り:セメントモルタルの意か、あるいはセメントだけか不詳(セメントだけの場合もあったようです)。
木工事
 土台:ヒノキ5寸角削り仕上げ。継手金輪継柱枘の穴を彫る。隅の仕口襟輪目違い立て 小根枘差し
     玄関及び台所の入口の個所では、引戸用に溝突き鉋で敷居溝を彫る。
     玉石に当る部分は、3~4分刳り付け(いわゆるひかりつけ)、下端はコールタールを塗り、を飼うなどして、土台玉石に馴染むように据え付ける。
     註 をどこに飼うのか?実際は、ひかりつけを慎重に行い玉石に馴染ませるのではないでしょうか。
        土台隅の仕口襟輪目違い立て 小根枘差しは、下図の②図に相当するものと思われます。
         下図は、土台の隅部分の代表的な納めかた(茨城県建築士事務所協会「建築設計講座」テキストから)
         ①は、農家住宅などで普通に用いられている。確実な方法。
         ②は、隅をに納めるための基本的な方法。
         ③は、基本は②だが、見えがかりを重視し、見える面だけ留めで納める方法。
         ④⑤は、簡便、安易な納め。
     
        襟輪(えりわ)とは、上図の目違いと記した部分のように僅かに突出した部分の呼称。ゆえに、襟輪目違いは重複表記では?
      なお、「補足『日本家屋構造』の紹介-1」で、継手・仕口についての概略と土台まわりについて、この図も含め、説明していますので参照ください。

 :主屋 杉 仕上り3寸8分角
    縁側 杉 仕上り3寸6分角
    便所 杉 仕上り3寸4分角
    釣束 杉 仕上り3寸4分角
    いずれも、上下にを設け、貫穴および庇の腕木孔、間渡竹の穴を彫り、鉋にて上々に仕上げる。
    釣束は、上は(梁・桁に)寄せ蟻で、下は鴨居篠差蟻(しのさし あり)で取付ける。貫孔も彫っておく。
     註 寄せ蟻、篠差蟻は、「『日本家屋構造』の紹介-15」を参照ください。  
    にはを(土台~梁・桁間に)5通り設ける。継手略鎌継(りゃく かまつぎ)とし、隅柱へは小根枘差し楔締めで取付ける。
     註 原文の鎌継は、継手として多用される通称略鎌継を指すものと解します。
        略鎌継は、「日本の建物づくりを支えてきた技術-19の補足:通称『略鎌』」および「日本の建物づくりを支えてきた技術-19」を参照ください。
 軒桁:杉5寸角、持出し部分は松丈8寸以上×幅5寸。
     見付(みつけorみつき:正面のこと)、下端、上端とも鉋仕上げ。継手は追掛大栓継
     上端は垂木を掛ける小返を殺ぎ、下端に柱の枘穴、梁との仕口を彫る。
     隅の交叉部には、火打貫を通す。
     註 口脇、小返:後記の棟木の項の註参照。
     註 火打貫:入隅に於て、二つの桁などを固むるため、斜めに差し通したる貫をいう。(下図とも「日本建築辞彙 新訂版」による)
        下図のように、先細りの材を互い違いに打込むとのこと。天井内に隠れるので、目には触れない。
        私は実際に見たことがありません。現在の火打梁の前身と思われますが、火打梁よりも効果的でしょう。
        少なくとも近世までの遺構には見かけないようですので、見えがかり優先の脆弱な架構が増えてからの発案ではないかと思います。
     
  縁桁:杉磨き丸太末口5寸5分以上、柱の枘穴その他を軒桁同様に仕上げ、下端に欄間障子用の溝を彫る。
  便所桁:杉大4寸角4寸5分角のこと)、他軒桁同様に仕上げる。
  小屋梁:長さ2間    松丸太末口6寸5分 太鼓落し
        長さ2間半  松丸太末口7寸 太鼓落し              
        下端は桁当り及び上端は垂木下端で殺ぎ落とす。上端には(所定位置)に小屋束枘穴を彫る。
        註 下端の桁当りとは、敷梁、中引梁と交差する個所の意と解します。
           原文には、垂木上端にて殺ぎ落し・・・とありますが、垂木の下端にて、と解します。
        小屋梁継手台持継(太枘:だぼ:2箇所)。
        軒桁との仕口渡腮(わたり あご)(内側にを設ける)とする。
  飛梁:松丸太末口4寸5分~5寸、鹿子削り(かのこけずり :ちょうな:で斫ること)で調整、仕口は同前。
       註 このあたりについては、「『日本家屋構造』の紹介-12」を参照ください。
  棟木、母屋、隅木、束:杉4寸角を鹿子削り(かのこけずり :ちょうな:で斫ること)。上端及び口脇は削り仕上げ。
                 継手鎌継。柱の枘穴を彫る。
                 小屋束は、背なし杉中貫材:仕上り幅3寸2~3分厚6~6.5分)で縫う(楔締めのこと)。
                  杉中貫:市場品の規格 長さ2間、墨掛寸法(曳き割寸法)で幅3寸5分×厚8分 の材をいう。
                  背なし :丸身なし。
                  口脇小返(こがえり)付の木の横面をいう。[註記追加 30日 17.00]
                      たとえば、垂木の載る母屋の側面のこと。
                  小返:木の上端の勾配付の部分をいう。母屋の場合は、垂木の勾配なりに殺いだ部分。

  垂木:松 丸身なし2寸角を使用。面戸欠きを刻み、軒先部分は鉋削り仕上げ。1尺5寸間。
  広小舞、鼻隠し杉二番大貫(背なし)削り仕上げ。
       二番大貫墨掛(曳割)長さ2間 幅4寸×厚1寸の材(実寸幅3寸9分×厚8~9分)。
              二番・・・・は規格の呼称。一番赤身無節二番白太混じり・丸身なし三番は下等品。(「日本建築辞彙 新訂版」による)
  面戸板杉六分板を曳割り、削り仕上げ。
        六分板墨掛(曳割)6分厚 幅1尺以内の板材の呼称。実寸厚4.5分程度。材種は松、杉、樅など。(「日本建築辞彙 新訂版」による)  
  軒先裏板及び台所上裏板:材料 松六分板 上小節。(そば:次材との接続面のこと)は辷り刃(すべり は)を設けて張り上げる。
                     辷り刃:材の接する面を斜めにのように削ること。の部分を重ねて張る。刃重ね。(「日本建築辞彙 新訂版」による)
 野地(板)三寸貫小間返しに張る。
       三寸貫墨掛(曳割)長さ2間 幅3寸×厚7分(実寸幅1寸6分~2寸2分×厚3.5~5分)の杉材。
       小間返しに打つ:明きを同じにすることをいう。この場合は、板を材の幅と同じ隙間(明き)をとりながら張ること。
  引戸上枠・下枠大貫を削り拵え組立て取付ける。
        このように解しましたが、枠材の寸法が不詳ゆえ、大貫材で材寸が間に合うか不明です。
  引戸上小屋根:あらかじめ拵え取付けておく。
        註 この二項は、いずれも、建て方時に組み立てることを指示しているものと理解します。
  土居葺:杮板(こけら いた)葺き足1寸5分、軒先は二枚重ねとする。釘は入念に打つ。
  「棟折(むな おり)長板杉皮入折掛け押縁三寸貫打付け」:
    「杉皮を折り掛け、三寸貫の押縁で押さえる」と解しましたが、詳しくご存知の方ご教示ください!
  瓦桟:杉並小割(仕上り長さ2間 幅1寸×厚9分程)。
     小割 :木材の規格。大小割墨掛(曳割) 1寸5分×1寸2分の矩形断面の杉材。
                  並小割 :杉の4寸角12割(≒1寸3分×1寸)、または5寸角20割(1寸2分5厘×1寸)の杉材。
     一段目・軒先瓦の瓦桟の位置は、軒先より、もう少し上になるので、「軒先より8分入りに打付け・・・」の意が不明です。どなたかご教示を。
  軒唐草止木、葺き土止め上三寸貫を打付ける。
                   上三寸貫とは、三寸貫の上等品、赤身で丸身なし を指すと解します。             


    「木工事」の途中ですが、今回はこれまでにします。

           **********************************************************************************************************

このように、仕様について、きわめて詳細に述べられています。
おそらく、図面に記載がなくても、職方には、この仕様書があれば、意図が十分に伝わったものと考えられます。
これは、建築関係者の技術的基盤が、今に比べ高かったからではないか、と私には思えます。

まだA4で5ページ分残っています。
用語を確認するのに、思いのほか時間がかかりますので、次回まで少し間が明くかもしれません。ご容赦を!

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「日本家屋構造・中巻:製図篇」の紹介-19 :附録 (その4)「仕様書の一例」-1

2014-04-19 15:00:00 | 「日本家屋構造」の紹介


今回は、「附録」から、「二十九 普通住家建築仕様書の一例(一式請負の時)」の項の紹介です。

原文を編集、A4版6ページにまとめました(右上に便宜上ページ番号を付してあります)。
編集した原文をそのまま転載し、ページごとに現代語で読み下し、随時註記を付す形にします。
この「仕様書」は、すでに紹介の「普通住家」を例としています。

分量がかなり多くなりますので、数回に分け、今回は最初の1枚目を紹介することにします。

最初の頁にまとめたのは、「建物の概要」の部分です。
最初に規模、階数などを示し、「附而(つけて)」として、各所の建具の構成、雨戸の戸袋、床の間の仕様、そして霧除庇などの外部附属物について、その概要が示されます。
   註 「附而」の意は色々と辞典で調べましたが不明。書かれている内容から、「附記」「補足」あるいは「摘要」というような意ではないか、と思われます。


  なお、原文転載部分に、行間の不揃いや歪みがあります。文字もかすれて読みづらい箇所があります。ご容赦ください。


           **********************************************************************************************************

[第三図と記していましたが、誤記でしたのでに訂正しました 20日 9.45]

「第二図」:平面図、立面図:及び第三図:矩計図(この「仕様」の矩計は第三図の甲に相当すると考えられます)を再掲します。[に訂正 20日 9.45]



現代文で読み下します。

二十九 普通住家建築仕様書の一例(一式請負の時)(第二図参照)
  延坪数 22坪7合5勺 木造平屋建 1棟
   内 主屋
         建坪19坪 
           桁行4間・梁間3間半 及び 桁行2間半・梁間2間
           軒高 布石上端~軒桁峠:11尺6寸
           軒出:1尺5寸、庇屋の部分:2尺4寸
     葺おろし 
         建坪 3坪7合5勺
           桁行7間半・幅3尺
     ただし 屋根方形造、5寸勾配桟瓦葺き
         外部下見張り、内部壁塗り・床畳敷および板張り。
         その他、図面の通り。

   註 「合坪」は「延坪」の意と解します。
      当時、現在の「建築面積」「床面積」の別はなく、建物の平面的大きさは、常識的に、現在の「床面積」表記で示されていたのです。
      現在でも、法令の規定する「建築面積」という〈概念〉は、常識的感覚には、つまり一般には分りにくいはずです。
        「建築面積」は、「建蔽率」という〈概念〉のためにつくられた、と考えてよいでしょう。
        そして、「建蔽率」という〈概念〉が、「軒(の出)を設けないつくり」を流行らせた元凶である、と言っても過言ではありません。
        なお、1坪=10合 1合=10勺 
      「葺おろし」は、平面図の「縁側」および「便所」(第三図・甲の部分に相当)と解します。[に訂正 20日 9.45]
      「方形造」は、立面図から、現在の用語の「寄棟造」の意と解します。
      「方形造」(以下は「日本建築辞彙」の解説より)
        ① 四方の隅棟、一箇所に集れる屋根にいう。
          隅棟の会する所には、露盤その他の飾あり。これを宝形造とも書く。屋根の伏図は正方形をなす。
        ② 大棟の両端に隅棟集まれる屋根にもいう。明治時代の建築家は、多くこの意味に、この語を用いたり。
          又一部の人は、この如き屋根を寄棟造と称し居れり。
          されば明治大正時代に於いて、方形造、寄棟造、宝形造の意義は人により異なりて、甚だ混乱の状況なりき

附而
   註 原文の表記を、平面図と照合の上、場所(室名など)、内容(名称など)、大きさ等、数量、備考(位置など)の順に編集し直しました。
   註 極力、表の上下の文字が揃うように努めましたが、不揃いが生じてしまいました。ご容赦!

  場所       内 容                  大きさ等              数 量       備 考
 玄関      格子戸並びに雨戸          明き6尺・高さ5尺7寸        1箇所   北面
 台所      腰付障子並びに雨戸         明き9尺・高さ5尺7寸        1箇所   土間西面出入り口
 西側3畳    水板腰障子並びに雨戸       明き9尺・高さ5尺7寸        1箇所   西面
 北8畳     表出格子付 障子並びに雨戸   明き2間半・高さ4尺2寸・出8寸  1箇所   北面
 台所         同  上               明き2間・高さ4尺2寸・出8寸   1箇所   北面
 南北8畳    板腰障子                 明き2間・高さ5尺7寸        3箇所   縁側境
 北8畳     同  上                  明き6尺・高さ5尺7寸        1箇所   玄関境
 南8畳、3畳  両面上張り襖2枚立          明き6尺・高さ5尺7寸        2箇所   8畳~中3畳~台所3畳境
 南8畳     両面上張り襖4枚立          明き6尺・高さ5尺7寸        1箇所   北面3畳境
 押入中棚付  片面上貼り襖2枚立          明き6尺・高さ5尺7寸        3箇所   各8畳と西3畳の押入
    註 箇所数の齟齬から、平面図の中3畳~北8畳境の「障子2枚立」は、「襖2枚立」の誤記と解します。
 台所      両面上張り襖1本引き         明き3尺・高さ5尺7寸        2箇所   台所~8畳、台所~西3畳
 押入中棚付  肘壷釣り片開き戸           同 上                   2箇所   玄関、台所
 便所      片開き戸                 同 上                  1箇所   便所入口
 便所      片開き戸                 明き2尺・高さ5尺7寸        1箇所   大便所入口
 便所      外格子付障子引違          柱間2枚立・高さ1尺5寸      2箇所   便所南面
 外まわり    戸袋                    幅3尺・高さ6尺            6箇所   縁側3、玄関,台所西,西3畳各1、妻板張り
           表戸袋                  幅3尺・高さ4尺2寸          2箇所   北8畳、台所出格子部分
 縁側      雨戸                    長さ7間半・幅3尺
 縁側欄間   障子                    明き6尺・高さ1尺5寸        6枚    北8畳南面、南8畳南・東面
 床の間     板床                    幅6尺・深さ3尺            2箇所   南北8畳各1
 北8畳     霧除庇                  長さ2間半・流れ2尺         1箇所   北側出格子上
 台所      同 上                  長さ2間・流れ2尺           1箇所    同 上
 玄関      同 上                  長さ9尺・流れ2尺5寸        1箇所   北側入り口上
 台所西     同 上                   同 上                  1箇所   西側入り口上
 西3畳     同 上                   長さ9尺・流れ1尺5寸        1箇所   西側開口

   以 上



           **********************************************************************************************************

原文では、これに続き、仕様の詳細について具体的な記述が続きます。
内容は、現在普通に目にする いわゆる「(特記)仕様書」よりも、数等中味が濃い印象を受けました。

A4判に編集し直して5枚分ありますので、次回から順次紹介させていただきます。


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「日本家屋構造・中巻:製図篇」の紹介-18 :附録 (その3)

2014-04-10 11:00:00 | 「日本家屋構造」の紹介


今回は、「附録」から、「二十八 住家建築木材員数調兼仕様内訳調書」の項の紹介です。

原文を転載し、現代語で読み下すとともに、註記を付します。
転載部に註記してありますが、明治の初版本大正版では、「表」の部分が異なります。
ただ、文章部分には、表題の「住家建築木材員数調兼仕様内訳調書」の調の字が大正版で省かれた以外には、変更箇所は見当たりません。「木材員数兼仕様内訳調書」で十分意味が通じます。

なお、原文転載部分に、行間の不揃いや歪みがあります。ご容赦ください。
  原書は、現在ではきわめて稀な活版印刷です。そのためと思われますが、版面が各ページごとに若干異なっています。
  たとえば、各行がページ上の波線に直交しているか、というと必ずしもそうとは限りません。しかも、波線自体、水平でもない・・・などなど。  
  編集は、「国会図書館蔵の明治37年刊の初版本の複写コピー」を基にしています。
  編集作業は、一旦「原本の複写コピー」の各ページを更に複写コピーし、
  読みやすいように、各項目ごとにまとまるように、ページ上の波線を基準線と見なしてA4用紙に切貼りし、
  汚れている個所を消してスキャンする、という手順を踏んでいます。
  こういった一連の操作の積み重ねが複合して、歪みや不揃いが生じてしまうようです。
  もちろん、原文に改変などは一切加えてありません。念のため・・・。

           **********************************************************************************************************


表の部分は「用語」の説明を加えるだけにいたします。
表中の用語の意味 (「日本建築辞彙 新訂版」による)
 大正版 尺〆(しゃく じめ)
        1尺角にして長さ2間、すなわち13尺なるを尺〆1本となす。これ木材に用うる単位なり。
        もし奇零あらば尺〆何本何勺何才と称す。才の位より以下用うること稀なり。  
       (さい)       
        ① 1寸角にして長さ6尺なるを1才という。これは板子などを売買するときに用うる単位なり。
        ②勺〆1本の1/100をいう。即ち130立法寸なり。
          これは粗木(あらき)の売買に尺〆奇零(単位以下、即ち小数点以下の意)として用いらるるものなり。
   註 現在の木材の材長で多用される4mは、13尺の読替えによるもの。
      現在の建材の規格は、大半が尺貫法時代の規格の読替えであった。
        ただし、多くはいわゆる関東間対応であるため、京間など関西の用には適していない。
      尺貫法時代の規格寸法には、すべて「現場」の裏付け、つまり謂れがあった
      残念ながら、現在、金属建具の〈新規格〉のように、謂れを欠いた《標準化》が進行している。
 なお、大正版表中の杭木の項「口」は「口(すえくち)」の誤植と解します。


以下、本文部分を現代文で読み下します。

使用する材料等の員数調べは「表」の如くに記入し、その順序、及び部位名あるいは材料名を次に挙げる。
   註 「木材」員数とありますが、「木材」以外も示されています。
      また、「材料」とありますが、各部に使う材料:「部材」の意味と解します。
      部材名を部位ごとに分け、たとえば差敷居、差鴨居を「軸組まわり」に移すなど、原文の順序ではなく、私なりに、まとめ直します。

 なお、矩計図を参考のために再掲します。

主屋の部  
 差鴨居・軒桁~小屋組まわり
  軒桁 小屋梁 小屋束 小屋貫 棟木 母屋 野隅木 谷木 野垂木 化粧垂木 広小舞 鼻隠 裏板 野地板 
 屋根葺下地まわり
  瓦桟 土居葺 杮板 軒唐草止木 土居土止木
   註 ここでは瓦葺の名がありませんが、「二十九 仕様書の一例」(次回紹介予定)では具体的記載があります。
 軸組まわり
  土台 柱 差敷居 差鴨居 貫(通し貫 壁塗り込み貫) 大引 床束(大引受) 根搦貫(ねがらみぬき)
   註 原文の根柵貫を、現在の一般的表記の根搦貫に改めました。「日本建築辞彙」では、根緘=根搦とあり根柵の表記はありません。
 床(ゆか)まわり
  根太 敷居 畳寄せ 床板(ゆかいた) 
 造作
  鴨居 付鴨居 長押 床框 床柱 落掛 床板(とこいた) 地板(ぢいた) 袋戸棚板 違い棚板 欄間敷居・鴨居 天井長押 回縁 竿縁
   註 「床の間」まわりの構造については、「『日本家屋構造』の紹介-17」を参照ください。 
 天井まわり
  釣木受 釣木 裏桟 天井板 
   註 「天井」まわりの構造については、「『日本家屋構造』の紹介-18」を参照ください。
縁側の部
 化粧:造作
  縁框 根太 縁板 無目 一筋鴨居 同所綿板 垂木掛 化粧垂木 淀 広小舞 木小舞 裏板 野垂木 野地板 屋根葺材(杮板または鉄板) 
   註 上ば野地の垂木:野垂木、>(上ば野地の)裏板:野地板、屋根:屋根葺材の意と解します。
 外まわり
  土台上雨押え 窓下雨押え 窓上横板庇の板 同猿頭 下見板受下縁 下見板 同押縁簓子
 板庇
  腕木 腕桁 庇板 目板 垂木形 品板(しな いた) 面戸 鼻搦(はな がらみ) 雨押え 恵降板(えぶり いた) 笠木 
   註 品板(しな いた):下図参照 鼻搦(はな がらみ):下図参照 恵振板(えぶり いた):絵振板、柄振板 などとも書く。下図参照。
      図は「日本建築辞彙 新訂版」より転載。
     
 出格子
  柱 妻板 格子台 鴨居第 格子
 戸袋
  柱 妻板 上下長押 皿板 中桟 戸袋板 目板 台輪
   註 皿板:戸袋の底板のこと
便所
  土台 柱 桁 根太 床板 巾木板 無目 窓敷居 窓鴨居 小脇の方立 天井回縁 同竿縁 床下柱内側横板
 外まわり土台上
  雨押え 窓下雨押え 横板庇など
地形(地業)
  水杭 水貫 水縄 山留用杭 同堰板 割栗石 切込砂利 布石 柱下玉石 束石 大小便所の甕 同所の叩き土、石灰など
 地形(地業)用語の参考図を再掲します。
  


           **********************************************************************************************************

  次回は、製図篇の最終章「二十九 普通住家建築仕様書の一例」の紹介。分量が多いので数回に分けるかもしれません。  

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「日本家屋構造・中巻:製図篇」の紹介-17 : 附録(その2)

2014-03-29 15:21:38 | 「日本家屋構造」の紹介


今回も、原文を転載し、全文を現代語風に書下ろし、随時註を付すことにします。

           **********************************************************************************************************

[註記追加 30日 9.15][後記追加4月1日 9.20 、後記に文言追加 2日 11.10]

今回は、附録から、「二十七 漆喰調合及左官手間」の項を紹介します。

はじめに、「材料の調合」について、原文と現代語による読み下しと註記。

  二十七 漆喰調合及び左官手間
  材 料
  普通漆喰用に必要な材料は、粉石灰(こ いし ばい)、蠣灰(かき ばい)、角又(つの また)、海苔(のり)、および(すさ or つた)などである。
    註 粉石灰蠣灰は、いずれも組成・成分は消石灰(しょう せっかい): Ca(OH)₃、水酸化カルシウム。原料の違いに拠り呼称が異なる。
       石灰石あるいは貝殻:いずれも主成分は CaCO₃を焼成すると→生石灰(せい せっかい or き せっかい) CaO:酸化カルシウム+Co₂になる。
       この生石灰 CaOに水を加えると CaO+H₂O→消石灰(しょう せっかい) Ca(OH)₃になる。
       石灰岩を原料とする消石灰粉石灰(こ いし ばい)又は単に石灰(いし ばい)、貝殻を原料とする場合が貝灰(かい ばい)
         粉石灰は「ふけ ばい」とも呼ばれる。「生石灰(き いしばい)が、空中より水気を取りて水化したる石灰。(「日本建築辞彙」)水化水酸化
       日本の場合、石灰(いし ばい)は近世後期以降、それ以前は貝灰が主であったようです。
       漆喰は、石灰(せっかい)の中国語読みへの当て字という。
       漆喰は、塗られた後、空気中の炭酸ガスと化合し、徐々に CaCO₃に戻ってゆく。ゆえに、気硬性と呼ばれる。
       表面がさわれる程度に硬化するまでに時間がかかり、一定程度硬化した後も、空気中の水分を吸収、完全に硬化することはない(調湿性)。

       角又:長さ15㎝ほどの紅藻類の海藻。煮ると糊状になるので、漉して接着材・糊として使う。
       海苔布海苔(フノリ)の類のことと解す。フノリも紅藻類の海藻で特にフクロフノリの煮汁は糊として使う。他にぎんなんそう など)も糊に使う。
      :塗壁の亀裂防止のために混入する繊維質の材の総称。(「日本建築辞彙」)
        浜苆:網曳または船などの古綱を切解きてつくりたる苆をいう。(「日本建築辞彙」)
           本浜苆:下総九十九里浜、地引網の古きものを切解きて製したるものなり。(「日本建築辞彙」)
           並浜苆:和船の古綱にて製する苆なり。大阪、兵庫などより算出す。(「日本建築辞彙」)
           油苆:菜種油を搾るとき使用する袋(註:麻袋か)の廃物利用なり。(「日本建築辞彙」)
             (以上は特記以外、「建築材料ハンドブック」「建築材料用教材」「内外装材チェックリスト」「「広辞苑」などに拠る)


  調 合
  以下の調合の項の単位表記について
   尺貫法単位表記→メートル法表記の換算は、以下に拠ります。
    容積 1斗=18㍑
    重量 1貫(かん)=3.75㎏=3,750g 1匁(もんめ)=1/1000貫=3.75g
       註 550目=550匁

   ア)下塗り  
       粉石灰 4斗:72㍑ 蠣灰 6斗:108㍑ 角又 1貫650匁:6.1875㎏ 干切(ひぎり)並浜苆 1貫450匁:5.4375㎏
   イ)斑直し及び小斑直し  「村直し」は「斑(むら)直し」の意と解します。
         註 「日本建築辞彙」にも「村直し」の表記で解説が載っています!
       蠣灰 5斗:90㍑ 消石灰 5斗:90㍑ 川砂 5斗5合:99㍑ 角又 1貫550目:5.8125㎏ 干切浜苆 1貫450目:5.4375㎏
   ウ)中塗り
       上蠣灰 7斗:126㍑ 上消石灰 3斗:64㍑ 上角又 1貫600目:6㎏ 干切浜苆 1貫400目:5.25㎏
   エ)上塗り
       上蠣灰 8斗4升:151.2㍑ 上消石灰 1斗6升:28.8㍑ 上々角又 1貫300目:4.875㎏  干切浜苆上 1貫100目:4.125㎏
   オ)上塗り 野呂掛け(のろ がけ) 上磨き
       上々蠣灰トビ粉 9斗:162㍑ 極上消石灰トビ粉 1斗:18㍑ 美濃紙苆 350目:1.3125㎏
    
    中塗り上塗りになるほど蠣灰の比率が高くなっていることから、蠣灰の方が石灰よりも品質がよかったのではないか、と推察されます。
    この違いは、原料の違いに拠るものと思われます。貝殻の方が石灰岩よりも、石灰分の純度が高いのではないでしょうか。
    たしかに、蠣灰を使っていると考えられる古い建物の漆喰は白さが際立っているように思います。
    私は蠣灰を使った漆喰の経験がありません。どなたかご存知の方、ご教示ください。
    トビ粉(とび こ):「より微粒である」という意か? この点についても、ご存知の方、ご教示ください。
    野呂掛け:石灰を水で溶いたものを塗ること。セメントを水で溶いたものもノロと呼んでいます。
    美濃紙苆として美濃国(岐阜県)産の楮(こうぞ)を原料とした和紙:美濃紙を解いて用いる。
      :桑科の落葉低木。樹皮を和紙の原料に使う。「こうぞ」は「紙麻(かみそ)」の音便から。(「広辞苑」ほか)

  普通の住宅で上塗り茶大津(ちゃ おおつ)仕上げの壁にする場合の所要材料量は、壁1坪あたり、おおよそ以下の通りである。
    註
    大津壁もっとも低廉な壁の上塗仕様。一般に蠣灰を使用し、土、苆を混ぜ、糊は用いない。
    混入する土の色により、泥(土呂)大津、黄大津、茶大津、本茶大津、鼠大津等があり、石灰や蠣灰が多い方が上等である。
    混入する土には「へな土」と呼ばれる粘土と海土(川土)があり、海土は「ネバ」とも呼ばれていた。
    「へな土」にはその色味により、赤へな土や黄へな土がある。「へな土」1俵は1貫500匁。(「日本建築辞彙新訂版、後註」より転載)
  小 舞:間渡し竹 平均14本 割竹 70本 細縄 100尺
  荒壁土:川粘土の場合 1荷半 荒木田土(あらきだ つち)の場合 2荷
       ただし壁厚を厚くする地域では3荷を要す。
       川粘土:普通の粘土のことを指すか?
       荒木田土:荒川沿岸の荒木田原に産する粘土、粘着力が強い。転じて、粘着力の強い土の一般的呼称。
  中塗土:川粘土 半荷 川砂 1荷 藁苆 半俵
       中塗土は、これらを混和した後、夏季は1週間、冬季は3週間ほど積み置き、その間に二・三度鍬を入れて切り返し菰をかけておき、
       土色が青味を帯びた頃使用するのがよい。
       註
       土の単位の「」には、嵩:容積、重さの両義があるようですが、この場合は土ですから重量の意と思われます。
       ∴1荷(か):天秤棒の両端にかけて一人の肩に担える分量。重量では50~60㎏程度か?
         この点についてご存知の方、詳しい方、ご教示ください。

  上塗土:蠣灰 2俵 赤粘土 半俵(ただし1貫7・800匁≒6.5㎏前後)麻苆 20匁=75g 
       
       物品を(たわら:藁や葦で編んだ円筒様の容器)につめて運んでいた時代、は一人で運べる大きさにつくられ、
       その俵の数で、物品の量を数えていました。したがって、1俵あたりの重量:重さは、俵に詰める物品によって異なります
       つまり、「俵」は、「荷」と同じく、もともとは、運べる嵩:容積、重量両様に適宜に解され用いられていた単位です。
       明治期になり、混乱を防ぐために、1俵:米俵1俵=容積4斗(72㍑、重量16貫=60㎏、とされたといいます。
       しかし、この文中の「赤粘土 半俵ただし1貫7・800匁」は、この「規定」とは異なります。ゆえに、土をどのような測り方で計っていたか分らなくなります。
         なお、蠣灰石灰は、同じ重量でも容積が異なるそうです。
       註記追加:土などを入れる「俵」は、当然「米俵」様の「俵」とは違い、塩などを入れたいわゆる「(かます)」様だったのではないかと思います。
               の容量など分りません。どなたかご教示ください。[追加 30日 9.15]

       現在、日曜大工でモルタルをつくる要領は、たとえば、25㎏入りセメント1袋:20㎏入り砂3袋に水〇㍑を加える、などと表されています。
       これは、日曜大工用に、セメントは25㎏入り、砂は20㎏入りがそれぞれ1袋として販売されており、袋単位で調合する方が分りやすいからです。
       おそらく、明治期に於いても、一般的な単位、で数える数え方が分り易かったのではないでしょうか。
       問題は、当時、土は何貫で1俵だったか、という点です。「赤粘土 半俵ただし1貫7・800匁」⇒「赤粘土1俵≒3.5貫≒13㎏」となります。
       この数値は、前掲の「日本建築辞彙」記載の「へな土1俵は1貫500匁」と違い、困惑します。

         このあたりのことを含め、左官の仕事全般について詳しくご存知の方、是非ご教示をお願いいたします。
       

  屋根漆喰  粉石灰 4斗 蠣灰 6斗 角又 1貫 並浜苆 900匁、油苆 1貫
       註
       屋根漆喰 瓦の接合または棟などに用うる漆喰なり。(「日本建築辞彙」)
         「日本建築辞彙」記載の調合はこれとは異なり、以下のようになっています。
         「・・・屋根1坪に付き、石灰、蠣灰合せて6斗、角又、布海苔合せて840匁、中浜苆720匁、水、油3合なり。
       文中の配合も屋根面1坪あたりか?
  砂漆喰    粉石灰 7斗 川砂 3斗 角又 1貫 並浜苆 800匁
       註
       砂漆喰:下塗り、中塗り用に用いる。漆喰よりも強度が出る。この調合は塗面積1坪あたりか?
         セメントモルタルが普及する以前は、接着材として、煉瓦目地などに使われている。
         砂漆喰目地は、調湿性に富み、ゆえに一定の弾力性があり、セメントモルタルに比べ、亀裂が生じにくい。
         喜多方の煉瓦蔵も、当初は砂漆喰目地である。新潟地震の際も、砂漆喰仕様には、煙突以外、損壊はなかった。(「喜多方の煉瓦蔵」参照)
  木摺壁    石灰 7斗 蠣灰 3斗 角又 1貫200匁 並浜苆 1貫
       註
       これは、木摺上に塗る漆喰の調合。木摺への付着をよくするため、角又の量が多い。この調合は塗面積1坪あたりか?
         木摺上の下塗りとして、ドロマイトプラスターが使われる。粘度が高く、木摺によく付着し、漆喰との相性もよい。


以下は、左官手間についての原文と現代語による読み下しと註記。

  左官手間
  普通荒壁 「荒木田土」使用  左官1人に付手伝い3人掛りとして
    荒壁 左官1人に付き
       下等仕上げ 60坪
       中等       40坪
       上等       25坪
  中塗り、上塗り  左官1人に付手伝い3人掛りとして
    中塗壁 左官1人に付き
       下等仕上げ 20坪
       中等       12~3坪
       上等       7~8坪
    上塗壁、大津壁の類 左官1人に付き
       下等仕上げ 10坪
       中等       6~7坪
       上等       4~5坪
    上塗、漆喰塗、色壁の類 左官1人に付き
       下等仕上げ 8坪
       中等       5~6坪
       上等       3~4坪
    上塗、白上塗 左官1人に付き
       野呂掛け磨き上げ  2坪
       普通中等          6坪
       下等        14~15坪
       註
       色壁:「聚楽」などの色つき土を用いる塗り仕上げ

  屋根漆喰、平、棟、面戸とも平均地坪(ぢつぼ)1坪に付き  左官1人に付手伝い1人掛りとして
    二遍塗 
       上等塗  1.7~1.8人
       中等塗  1.3~1.4人
       下等塗  0.8人
    三遍塗
       上等塗  2.5人
       中等塗  1.5人
       下等塗  1人
       註
       地坪1坪:屋根仕上り面の面積1坪のことか?

以上で「二十七 漆喰調合及左官手間」の項は終りです。

後記 [4月1日 9.20追加]
その後、「単位」について、いろいろと調べています。
塩は土と似ている、との素人考えで、「講座・日本技術の社会史 第二巻 塩業・漁業」(日本評論社 刊)を紐解いたところ、「塩業」の章の P48~に「塩の計量単位」について触れられていました。
それによると、古代から鎌倉前期まで、「果」という単位があり、「塩1果」=「塩3升」とありました(米1果=米1石とのこと)。しかし、それがどのような形状の「包装」であるかについては、不詳です(この場合は、塊状の塩の計量法であったようで、塩の形状により、異なっていた?)。
一方、平安時代には「籠」という単位も現れるそうです。場所によっては、「籠」が「俵」と併用とのこと。しかも「俵」には「大俵」「中俵」「小俵」があり、「中俵=3斗籠」という場合もある、とのこと・・・。
   工事現場での土などの運搬法に「もっこかつぎ」というのがありました。「もっこ」は、「持ち籠」の転。
   3尺角程度の四角い(@3~4寸の目の粗い網)の四隅に結んだを天秤棒にかけ、そのに土などを載せて運ぶのです。
   土を入れ、持ち上げるとのようになります。[文言追加 2日 11.10]
   もしかしたら、これと「籠」という「単位」は関係しているのかもしれません。あくまでも、私の当て推量です。念のため・・・。
いずれにしろ、物品の「運搬」「包装形態」「計量法」は密接に関係していて、時代、地域によっていろいろな包装法、計量法があり、
取引上その「換算」が面倒であったことが分ります。
とはいうものの、肝心の「土」や「石灰」などの、明治時代の包装や計量法の詳細は、結局分らずじまい・・・。
当時のことを知っている方も少ないし、あとは何か参考文書でもあれば・・・、と思ってます。


           **********************************************************************************************************

「日本家屋構造・中巻 製図篇」の紹介も、残りは、「二十八 住家建築木材員数兼仕様内訳調書」「二十九 普通住家建築仕様書之一例」だけとなりました。
「二十八」はともかく、「二十九」は仔細にわたり書かれていますので、編集作業に少々時間をいただきます。
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