付録1-2継手・仕口の実際 土台・1階床組-1

2020-03-18 11:07:22 | 継手・仕口

PDF「継手・仕口の実際 土台~2階床組~軒桁」A4版26頁 (2024.03.27  リンク不具合、修正しました。)

付録1-2 継手・仕口の実際

1.土台まわり・1階床組   2.通し柱と2階床組  3.軒桁・小屋梁の継手・仕口

                    (付録1 継手・仕口の基本原理  2019年2月投稿記事へのリンク)

参考 木材の特性とその活用:背と腹

斜面に育つ樹木は、谷側から山側に反るように育つ。谷側を背、山側を腹と呼ぶ。背側は年輪幅が狭く固く、腹側は年輪幅が広い。このような傾向は、日本のような急峻な地形で育つ樹木に著しい。曲げの力を受ける胴差・梁などでは背を上側にして(上側に反り気味に)用いるが、出梁のような場合(片持ち梁)には、腹を上側にして使う。このような木材の特性は、現場で様々に工夫され、利用されてきた。 図は齋藤兵次郎著 日本家屋構造  明治37年発行より

                                     

                                            

1.土台まわり・1階床組             (作図は仕上がり4寸角を想定して描いています。)

1)柱と土台の仕口(一般箇所)   柱は土台にほぞ差しで固定する。

                               (作図は仕上り4寸角を想定して描いています。)

①長(なが)ほぞ差し柱の根元に長ほぞ(長さ3寸:9㎝程度)を刻み、土台に設けたほぞ穴にはめ込む。柱に横から力がかかると、土台に接する柱の木口ほぞが転倒に対して抵抗する。ほぞが深いほど摩擦が大きくなり抜けにくい。そのため、ほぞとほぞ穴は、きつめに加工する(ただし、きつすぎるとほぞ穴が割れる)。

②長ほぞ差し・込(こ)み栓(せん)打ち長ほぞ差しとした上、込み栓打ちとすると、さらに抜ける心配はなくなる。込み栓打ちは木材の弾力性を利用しているため、金物に比べ、なじみがよく、緩むことがない。込み栓は、堅木で造り、先細に加工する。丸棒型と四角棒型とがある。込み栓の穴は、刻みの段階で設けるのが丁寧な仕事であるが、組んだ後で設けることもできる。告示第1460号では、引張り筋かい(片側)を入れた軸組の柱下部は、長ほぞ差し込み栓打ちでよい。

③短(たん)ほぞ差し短ほぞ差し(長さ1寸:30㎜程度の短いほぞ)の柱は、ほぞの抵抗が小さく、横からの力で抜けやすい。短ほぞ差し+補強金物(かど金物、山形プレートなど)とすることが多い。告示第1460号では、部位に応じて金物の種類を指定している。 短ほぞ差し+補強金物は、横揺れが反復するとほぞの抵抗が小さいため、金物取付け部に負担がかかり、釘が緩む可能性が大きい。

注 ほぞ:枘  突起物をいう。臍と同源。古くは「ほそ」と発音したと言われる。果実の「へた」も「ほぞ、ほそ」と言う。

 

2)土台をT字型に組む仕口と柱の取り付け

 土台がT字型に組まれる箇所は、通常、土台と土台の仕口、土台と柱の仕口が重なる。

 

①平ほぞ(横ほぞ)差し・柱 重(じゅう)ほぞ       (作図は仕上がり4寸角を想定して描いています。)

②平ほぞ(横ほぞ)差し・割楔(わりくさび)(し)め・柱 短ほぞ

片方の土台に造り出した横向きの長いほぞを平ほぞまたは横ほぞという。

柱に刻んだ重ほぞ重ねほぞともいう)で、土台の平ほぞを縫う。 重ほぞがの働きをして、土台と土台および柱の三者が堅固に接合される。 補強は不要。

平ほぞを相手の土台にあけたほぞ穴に差し、ほぞの端部を割楔で締め固める方法を平ほぞ横ほぞ差し割楔締めと呼ぶ。土台相互は強固に接合される。しかし、この箇所に立つ柱のほぞは、土台の平ほぞにあたるため短ほぞになる。法規上は柱と土台の接合に補強を求められる。

ほぞの先端にあらかじめ鋸目(のこめ)を入れておき、ほぞを差したあと、鋸目を打ち込み、接合部を密着させる方法を割り楔締めと呼ぶ。ほぞ穴を外側(楔を打つ側)に向かってわずかに末広がりに加工しておくと、を打つとほぞの先端蟻型に広がり、さらに堅固に接合される。

 

  

③腰掛け蟻掛け・柱 長ほぞ差し一般に多く用いられる方法。 片方の土台に、腰掛けを設けた蟻型を造りだし、他方に刻んだ蟻型の凹型に掛ける方法を 腰掛け蟻掛け(または、腰掛け蟻)と呼ぶ。柱の根ほぞ長ほぞ差しが可能。

④大入(おおい)れ 蟻掛け・柱 短ほぞ差し+補強金物簡易な方法として多用される。 大入れ材の全形を相手側に刻む方法。 腰掛けのような受けがないため、基礎が平坦であることが前提となる。

短ほぞ差し+補強金物は、横揺れが反復すると、ほぞの抵抗が小さいため、金物取付け部に負担がかかり、釘が緩む可能性が大きい。             

 

3)隅部の土台の仕口、隅部の柱の取付け  土台の隅部は、軸組の安定を保つために、きわめて重要。

(1)土台を優先する(土台を直角に回す)場合

 

①平ほぞ差し・柱 重ほぞ一方の土台端部を柱幅ほど外側に出し、T字型の土台の場合と同じ方法で納める。土台を表しとする場合(真壁)に適する。土台相互、柱の三者が堅固に接合される。大壁仕上げとする場合は、土台を表しとして、土台より上部を大壁にすれば可能である。 平ほぞ差し割り楔締め・柱短ほぞも可能だが、強度の点で、平ほぞ差し・柱重ほぞが適切。

②小根(こね)ほぞ差し割楔締め(目違(めちが)い付)・柱 扇ほぞ通常のほぞより幅の狭いほぞ小根(こね)ほぞと呼ぶ。 小根ほぞ差しは、ほぞを刻んだ側(差す側)の土台が捩れやすい。目違いを設けて捩れを防ぐ。

隅部は、土台の端部であるため、通常のほぞ穴を刻むと割れて飛ぶ恐れがある。土台のほぞを小根ほぞ、柱の根ほぞを短ほぞとすれば納まるが、ほぞ穴が割れ飛びやすい。これを避けるために、短ほぞの形状を、力が木目に沿って流れないように扇形(端部に向かって逆蟻型)に刻む。これを扇ほぞと呼ぶ。割れやすい材(ベイマツなど)には不向き。法規上、筋かいが足元に取付く場合は、金物補強を求められる。

 

 (作図は仕上がり4寸角を想定して描いています。)

③向う大留(おおど)め(目違(めちが)い付)土台の隅を留めに納め、土台の木口(端部)を見せない方法。基本はに同じ。目違いを設けた方が確実。良材でないと、留めがきれいに仕上がらない。見えがかりを重視した仕口で、真壁向き。

 

大入れ・小根ほぞ差し割楔締め・柱 扇ほぞ柱が捩れに耐えられない(アンカーボルトに頼る)。柱には法規上補強金物が求められる。

⑤片蟻掛け・柱 扇ほぞ通常の蟻型では受ける側(下木)の端部が割れ飛ぶため、位置を内側に寄せ、蟻型も半分にする。最近使用例が多い仕事。柱が捩れに耐えられない(アンカーボルトに頼る)。柱には法規上補強金物が求められる。

 

 

(2)隅部で、柱を優先させる場合  土台を回さず、隅柱の側面に土台を納める。通常真壁仕様で用いるが、大壁使用でも可。

 

①蟻落とし土台の端部に蟻型を造り出し、柱に同型の凹型を刻み、土台を据えた後、柱を落として納める。土台が捩れないように、通常は胴突(どうづき)を設ける。二方に蟻型を刻むため、胴突の深さを調節して蟻型同士のぶつかりを避ける。 そのために、柱は4寸(120㎜)角以上必要。二方の土台に胴突付の蟻で取付くため、柱の引き抜き、転倒に対して強い。 玄関の柱、土台幅より太い柱などを土台に納めるときにも用いる(農家の大黒柱)。

 

(3)段違いの土台と柱の取付き      (作図は仕上がり4寸角を想定して描いています。)

      

①寄せ蟻および蟻落とし段違いの二方向の土台に柱を蟻落としで納める。高い方の土台は、柱の土台を納める位置に逆蟻型を、その下部に土台の蟻型が全部入る大きさの穴を刻み、土台の蟻型をその穴に一旦入れた後、柱を下方へ寄せて落とし込むので寄せ蟻という。落とし込むと、穴は隠れる。低い方の土台は、通常の蟻落としで納める。

②小根ほぞ差し 割楔締めおよび蟻落とし玄関まわりなどの土台に段違いがある場合に用いる。低い方の土台に蟻落としで柱を立て、小根ほぞを刻んだ土台を横から差し、割楔で締める。胴突を必ず設ける。横から差すため建て方で苦労するが、強度は確実。

 

(4)礎石(石場)立て独立柱と土台の取付き      (作図は仕上がり4寸角を想定して描いています。)

①小根ほぞ差し 割楔締め ②小根ほぞ差し 込み栓打ち ③小根ほぞ差し 割楔締め、小根ほぞ差し 込み栓打ち 併用:柱に二方向から横材を取付けるときの基本的な方法で、土台以外でも常用する。 材の上側に造る小根ほぞ上小根(うわっこね)、下側に造るのを下小根(したっこね)と呼んでいる。柱の内部でほぞ穴が上下で交叉する。 捩れ防止のため、必ず胴突を設ける。

 

(「1.土台まわり・1階床組-2」へ続きます。)

 

   


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付録1-2 土台と1階床組-2

2020-03-18 11:06:59 | 継手・仕口

付録1-2 継手・仕口の実際

1-4)土台の継手       (作図は仕上がり4寸角を想定して描いています。)

a)土台を布基礎の上に据える場合:通常は下記の継手が使われるが、次項b)の(ぬの)継ぎ、金輪(かなわ)継ぎを用いることもある。

 

      

①腰掛け 鎌継ぎ(腰掛け+鎌継ぎ): 腰掛け鎌継ぎを組み合わせる。竿部分+鎌部分の全長は、 最小でも4寸(120㎜)必要(4寸鎌)。鎌に引き勝手を付けるとよく締まる (点線)。全長が長い方が、直線を保つ効果が大きい。

②腰掛け 鎌継ぎ(目違(めちが)い付):材下部の捩れを防ぐため、目違いを付け加える。よりも確実。

 

 

           

③腰掛け 蟻継ぎ:一般に多く見られる継ぎ方。 竿がないので、継いだ二材を直線に保ちにくい。           

腰掛け 蟻継ぎ(目違(めちが)い付)材下部の捩れを防ぐため、目違いを付け加える。 

 

  

⑤蟻継ぎ丈1寸程度の蟻型だけで継ぐ簡易な方法。強度は弱い。

⑥全蟻継ぎ:材寸いっぱいの蟻型を設けて継ぐ簡易な方法。 材相互の不陸を起こしやすい。

⑦腰掛け+補強金物(かすがいなど): 横ずれを起こしやすく、金物が緩めば材が離れる。きわめて簡易な方法。    

 

b)土台下に布基礎がない場合(土台を独立基礎上の束柱で支持する場合など)梁・桁と同様と考える。

 

   

①布継ぎ:二材同型の(かぎ)型に刻み、合わせ目の空隙にを打つと二材が密着する。きわめて堅固。桁・梁などにも用いる。

 

  

②金輪(かなわ)継ぎ(2階床組で解説)を縦使いにした継手だが、部分にも目違いを設ける。きわめて堅固。Bを水平に移動しを打つと、AB二材が密着する。桁・梁などにも用いる。 

     

       

追掛(おっか)け大栓(だいせん)継ぎ(2階床組で解説)上木を落とし込み二材を密着させ、横からを打つ。きわめて堅固。 

以上の①②③は二材を堅固に接合する方法。普通は、腰掛鎌継ぎが一般的。架構を立体化するためには、少なくとも③追掛け大栓継ぎの利用が望ましい。

二材を密着させる方法として、現在はボルト・ナットによる締め付けが多用されるが、多くの場合、木材の収縮に対応できず、時間を経ると緩むことが多い。

これに対して、木製の割楔)を打つ方法は、弾力性・復元性(と打ち込まれる材がともに木材であるため、双方に弾力性・復元性がある)と相互の摩擦を応用したもので、打ち込み後の緩みが生じることはきわめて少ない(ただし、貫と柱の仕口に使われる楔は、振動により、しばしば緩むことがある。⇒清水寺の床下は、常に点検がなされている)

 

                 写真は土台T字仕口:腰掛け蟻、継手:腰掛け鎌継ぎ(目違い付き)                                

④腰掛け鎌継ぎ(前項参照):使われることが多い継手だが、継手だけでは架構を一体化できない。継手に無理がかからないように注意する。たとえば、束柱相互が貫などで一体に組まれている場合には、継手に無理がかからないため、使用が可能である。

⑤腰掛け蟻継ぎ(前項参照):簡便である。                                                                 

 

 

5)材の割付け(規格材を使う場合)

①材端部の傷みの部分(両端それぞれ約15~30㎜ 計30~60㎜程度)は使えない。

②継手または仕口の長さの分、両端で相手の材と重なる部分がある。

したがって、材の規格長さ ≧{材端の傷み(約15~30㎜)+継手・仕口長さ ~ 継手・仕口長さ+材端の傷み(約15~30㎜)} 下図に一例を示します。

 

6)土台と大引の組み方・仕口、床束

a)大引の天端(てんば)を土台と同じ高さに組む :土台も根太を受ける。大引を土台と同時に組む。

   

 

b)大引を土台に載せ掛ける土台際(どだいぎわ)根太掛けが必要。柱通りの大引は土台際に束が必要。

  

 

大引を土台天端と同面に納める(天端(てんば)同面(どうづら)) 

        

①腰掛け 蟻掛け腰掛けで上下の動きを止め、ではずれを防ぐ。通常行われる方法。

②大入れ 蟻掛け全蟻を造り出し、大入れで土台に掛ける。確実な方法。図のが小さいときには不可(土台4寸角、大引3.5寸角とすると、aは0.5寸:15㎜程度しかない)。

 

  

③大入れ大入れだけで納めると、収縮により、はずれることがある。 図のが小さいときには不可。                   

④蟻掛け:簡易な方法。蟻首がとぶ(折れる)恐れがある。 

b)大引を土台に載せ掛ける大引の土台にかかる部分について、上記(a)②、③、④が用いられる。確実なのは大入れ蟻掛けである。                           

 

7)大引と床束の取付け

 

①目違いほぞ床束頂部に目違いほぞを造り、大引からのはずれを防ぐため大引に彫ったほぞ穴に横からはらいこむ。

②吸付き蟻床束の頂部に蟻型を造りだし、大引下端にその逆型を刻み、 床束を横からはらいこむ。よりも確実な方法。

 

    

 

③びんた(鬢太)出し 釘打ち材の一部を欠き取り、残った部分をびんた鬢太)と呼ぶ。びんづら鬢面)とも言う。床束の頂部をびんたにして大引の側面にあて、釘打ちで留める。床の振動で釘が緩む可能性もあるが、一般に行われる丁寧な方法。土台隅に使う向う大留めびんたの利用。

④かすがい留め現場あたりで長さを決め、床束の頂部を加工せず、大引下にはらいこみ、かすがいで留める。よく見かける簡易な方法。床の振動で緩む可能性が高い。

 

床束は、束石礎石)を適宜配置し、場所ごとに高さを現場あたりで据えつける方法が一般的。基礎工事時点、基礎同様の精度で礎石を設置すれば、床束も加工場であらかじめ刻んでおくことができる。なお、大引面に不陸が生じた場合には、束の下部にを二方向から打ち込み調整する。

 

 

図版等ブログ内掲載記事:補足「日本家屋構造」-1・・土台まわりの組立てかた

 


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付録2-1 通し柱と2階床組-1

2020-03-18 11:06:33 | 継手・仕口

付録1-2 継手・仕口の実際  

2.通し柱と2階床まわり

   参考 実施設計図 矩計図に記入すべき寸法

図面の寸法指示は施工手順に応じた分りやすい指示が必要。
一次的な寸法:主要基幹部:軸組部の位置を先ず明快な寸法(ラウンドナンバー)で示し、次いで二次的な寸法:仕上げ床面位置等を、主要基幹部(土台天端、梁天端など)からの明快な数値(ラウンドナンバー)で示す。 →「確認申請」図書に記入の数値が゙、ラウンドナンバーである必要はない。

 

1)通し柱・管柱の役割

2階建て以上の建物では、一般に、通し柱と管柱を併用する。 

その配置は、平面:間取りを考えるときに、全体の架構を考えながら決定する(平面:間取りを決めた後に架構を考えると、無理が生じることが多い)。

通し柱:建物の隅部や中央部に立て、側面に二~四方向から横架材:胴差・梁が取付く。横架材の取付けのためには、仕口加工の点で、最低12㎝(4寸)角以上が必要である。 通し柱の役割は、1・2階を通しての垂直の基準となり、横架材の組立てを容易かつ確実にするためにあると考えてよい。現行法令は、原則として、隅柱通し柱とすることを求めている(施工例第43条5項)。ただし、この規定から通し柱を設けると軸組の強度が上がる、と理解するのは誤り。 軸組の強度は、通し柱への横架材の取付け方(仕口)に左右される。

管柱(くだばしら) :1階においては土台胴差・梁の間、2階においては胴差・梁軒桁・小屋梁の間に立てる柱を言う。外力(荷重など)を効率よく伝えるため、通常は1~2間(約1.8~3.6m)間隔。管柱も隅柱と同寸(4寸:12㎝角以上)にすると、強度、壁の納まりの点で良好。平面の凹凸とおりに柱を配置する必要はなく、押入れ、床の間、棚などでは、半柱で造れる場合がある。

 

2)通し柱、管柱と横架材の組み方

胴差・梁に用いる材の長さには限界があるため、架構にあたり、①通し柱間に横架材を取付ける、②横架材継手で延長する、③前二者の併用、のいずれかを選択することになる。  

具体的には、次の方法が考えられる(図は胴差と梁を天端同面の場合。胴差への梁の架け方は次項参照)。

    

架構法A:総2階の外隅柱、または2階部分の外隅柱通し柱とする。 胴差・梁は、必要に応じて継手で延長し、1階管柱で支える。

架構法B:総2階または2階部分の外隅柱と、中央部付近の柱を通し柱とする。胴差・梁は必要に応じて継手で延長し、1階管柱で支える。 

架構法A架構法Bは一般的に用いられる。

 

   

架構法C:総2階の外隅柱、または2階建部分の外隅柱通し柱とし、 さらに、2~3間ごとに(通常、間仕切りの交点)通し柱を立て、通し柱間に継手なしで横架材を組み込む。江戸・明治期の商家・町家に多い。必要に応じて(横架材が長い場合など)、1階に管柱を立てる。横架材を表し仕上げにする(継手を見せない)場合に有効。確実な仕口が求められる。確実な仕口とした場合、架構は堅固になる。刻み、建て方に日数を要する。

架構法D:梁間中央に通し柱を並べ立て、両側に向けを出し、両端部を管柱で支える。 切妻屋根の場合、棟通りの通し柱棟木まで伸ばし棟持(むなもち)とすることがある。 2階にはねだし部分やバルコニーを設ける際に応用できる。山梨県塩山、勝沼周辺の養蚕農家に多く見かける(例 塩山駅前にある重要文化財「甘草屋敷」)。

 

3)胴差・床梁・小梁・根太の組み方(床組):床伏の考え方

(1)床梁・小梁の位置  

床梁:通常1間(通常は6尺:1,818㎜)間隔以下に配置する。

小梁:丈45~60㎜程度の根太は、小梁を@0.5間(通常3尺:909㎜)以下に設けて支持する。

床梁、小梁の位置は、階上・階下の間仕切位置とずれないことが望ましい。仕上げにフローリングなどの方向性のある材料を使うときは、根太、小梁の方向の検討が必要。したがって、床梁、小梁の配置は、平面:間取りと並行して検討する。

 

(2)床梁・小梁の高さ:胴差に床梁・小梁をどの高さで納めるか 

 

組み方A 梁・小梁を、胴差の天端同面(てんばどうづら)に納める矩計の計画が容易であり、階上の管柱の取付けにも問題が起きない。階下に管柱がない場合は、胴差の丈≧梁の丈であることが必要。

根太の納め方 胴差・梁・小梁に乗せ掛ける。根太は連続梁と見なせる。柱際に際根太が必要になる。

①-a 丈75㎜程度以下の根太の場合は小梁が必要。 

①-b 丈75㎜程度以上の根太の場合は胴差・梁へのかかりで床高を調整できる。根太のスパン(梁間隔)が6尺(1,818㎜)程度以下であれば、小梁は不要。

 

② 胴差・梁・小梁間に落とし込む根太は単純梁となるので、通常は、根太の支持間隔は6尺(1,818㎜)程度以下、丈は75㎜程度以上必要になる(荷重と根太間隔による)。際根太は不要。根太による床高調整はできない。 

 

組み方B 梁を胴差に乗せ掛ける胴差の丈<梁の丈の場合も可能。階上の管柱と梁の取合いに注意が必要。           

ア)梁の端部胴差の内側に揃える:階上管柱を、胴差上に立てることが可能。ただし、柱と梁の取合いに注意が必要。→後掲6)(2)②で解説 

 

 

イ)梁の端部胴差の外側に揃える:階上管柱梁の端部に立てることになり、確実ななほぞがつくれず(短ほぞの扇ほぞになる)、不安定になるため、台輪を梁上に乗せ台輪に柱を立てる。

 

 

ウ)梁の端部胴差の外側まで出す:胴差の仕口も確実になり(渡りあご)、柱も梁上に長ほぞで立てることができる。梁の端部が表しになり、大壁仕様には向かない。なお、梁を外側に大きく出せば、2階を張り出すことができる(前項架構法D参照)。

いずれの場合も、根太の納め方には、①梁に乗せ掛ける方法(連続梁と見なせる)②梁間に落し込む方法(単純梁となる)があるが、ともに際根太が必要になる。

 

4)胴差・梁・桁の継手

胴差・梁・桁は曲げの力を受けるため、継手位置は、曲げモーメント、たわみが最大になるスパン中央部を避け、管柱から5寸~1尺(150~300㎜)程度持ち出した位置が適当。

力を伝達できる継手は追掛け大栓継ぎ、金輪継ぎなどに限られる(その場合でも、建て方時は不安定なため、管柱から5寸~1尺5寸:150~450㎜程度の位置で継ぐ)。

①追掛(おっか)け大栓(だいせん)継ぎ       (作図は仕上り4寸角を想定して描いています。)

   

曲げのかかる材(胴差・梁・桁・母屋)を継ぐときに使われる確実な継手。 継いだ材は1本ものと同等になる(継手を経て応力が隣へ伝わる)。上木下木からなり、下木を据えたあと、上木を落としてゆくと、引き勝手がついているため両材が密着する。次いで、肉厚の厚い方からを打つ(2本のは打つ向きがちがう)。建て方の際、上から落とすだけでよく、また材軸方向の大きな移動も必要としない(多用される理由)。

側面に継ぎ目線大栓の頭が見える。管柱の根ほぞ、頭ほぞは長ほぞが適切。継手長さは8寸(24㎝)以上、長い方が良い。手加工では、上木と下木のすり合わせを行うため、1日1~4箇所/人という。現在は加工機械が開発されている。

 

②金輪(かなわ)継ぎ          (作図は仕上り4寸角を想定して描いています。)

 

曲げのかかる材(胴差・梁・桁・母屋)を継ぐときに使われる確実な継手柱の根継ぎ(ねつぎ)(腐食した柱の根元の修理)などにも用いられる。継いだ材は1本ものと同等になる。

継がれる2材A、Bの端部の加工は、まったく同型で、上木、下木の別がない。二方向の目違いの加工に手間がかかる。 A、B2材を図1のように置くと、目違いの深さ分の隙間があく。両材を寄せて目違い部分をはめると中央部に隙間ができる。そこに上または下からを打ちこんでゆくと、目違い部がくいこみ、図2のようにA,B2材が密着する。側面には、目違い付き継目線が見える。

追掛け大栓継ぎとは異なり、側面から組み込むため、建て方前に、地上で継いでおく方が容易。建て方時に継ぐには、追掛け大栓継ぎが適している。

 

③腰掛け 竿シャチ継ぎ(目違い付)

 

下木を据え、長い竿を造り出した上木を落とし、上面からシャチ栓を打つ。シャチ栓の道を斜めに刻んであるため(引き勝手)、を打つと材が引き寄せられ圧着する確実な継手。

材相互が密着して蟻継ぎ鎌継ぎよりも強度は出るが、応力を十分に伝えることはできず、曲げモーメントは継手部分で0:継手箇所を支点とする単純梁になると見なした方が安全である。目違いは捩れ防止のために設ける。

 

④腰掛け鎌継ぎ(目違い付)+補強金物     ⑤腰掛け蟻継ぎ+補強金物

     

④腰掛け鎌継ぎ(目違い付)+補強金物:土台の継手参照。丁寧な仕事の場合は、引き勝手をつくり、上木を落とし込むと材が引き寄せられる。目違いは捩れ防止のために設ける。蟻継ぎに比べると、曲げがかかっても継手がはずれにくい。ただし、応力を十分に伝えることはできず、継手箇所を支点とする単純梁になると考えた方がよい。補強金物は、平金物が普通で、簡易な場合はかすがいが用いられる。の方がねじれに強い

⑤腰掛け蟻継ぎ+補強金物土台の継手参照。応力を伝えることはできず、継手箇所を支点とする単純梁になると見なせる。材長の節減、手間の省力化のために用いられる方法であるが、曲げがかかると鎌継ぎに比べ、継手がはずれやすい。 

注 ④鎌継ぎ⑤蟻継ぎが胴差・梁に用いられるようになるのは、耐荷重だけを重視する工法になってからである。元来は、主に、土台母屋などに使われてきた継手である(丁寧な場合には、母屋にも追掛け大栓継ぎを用いている)。

 

(「2.通し柱と2階床組ー2」に続きます。)


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付録1-2 通し柱と2階床組-2

2020-03-18 11:06:08 | 継手・仕口

付録1-2 継手・仕口の実際

2-5)通し柱と胴差・梁の仕口

(1)隅の「通し柱」の場合

①小根ほぞ差し 割り楔(くさび)締め・小根ほぞ差し 込み栓打ち  (作図は仕上がり4寸角を想定して描いています。)

 

隅の通し柱へ胴差・梁を取付ける確実な仕口。 

割り楔締めほぞを柱に貫通させ先端にを打ちこむ。ほぞの先端が広がり抜けなくなる。

込み栓打ちほぞを柱に貫通させ柱の側面から込み栓を打つ。栓によってほぞが抜けなくなる。

割り楔・込み栓には堅木(カシなど)が用いられる。割り楔・込み栓は、木材の弾力性・復元性を利用する方法で、確実に(きつめに)打ってあるか否かで強度に大きな差がでる。

柱内でほぞが交叉するため、ほぞ小根(こね)にする(上小根(うわっこね)、下小根(したっこね)

どちらを上小根、下小根にするかは任意。胴差側を下小根、梁側を上小根にすれば、梁天端高さ≧胴差天端高の場合に対応できる。

図は梁を割り楔締め、胴差を込み栓打ちにしているが、その選択は任意(両方割り楔、または込み栓でも可)。柱は最低でも4寸角以上必要。

 

②小根ほぞ差し 鼻栓(はなせん)(端栓)打ち       

  

図のようにほぞの先端を柱の外に出し、柱面に沿い栓を打ち (鼻栓打ち)、ほぞを固定する確実な方法。注 鼻=端  真壁仕様に用いられるが、ほぞが飛び出す分、材長が必要となる。米マツなどの割れやすい材には不向き。

①、②とも、柱と胴差・梁はほぼ一体化し(胴差・梁端部はほぼ固定端となる)、半ばラーメン状になり、胴差・梁にかかった曲げに対して、柱も共に抵抗することになる。

 

③傾木(かたぎ)大入れ 全短ほぞ差し+補強金物 ④傾木大入れ 小根短ほぞ差し+補強金物

  

「在来工法(法令仕様の工法)」で見かける方法。端部加工が短いため、材は長く使える。傾木大入れとほぞだけでは柱から容易にはずれてしまうため、羽子板ボルトなどで補強する。ボルトの取付けナットは、材の木痩せと曲げの力の繰り返しにより緩むことが多い。 補強金物を用いても、胴差・梁は柱に緊結されないから、胴差・梁は単純梁となる。

 

(2)中間の通し柱の場合

二方~四方から胴差・梁が取付き、それぞれ二方差(にほうざ)し、三方差(さんぽうざ)し、四方差(しほうざ)と呼ぶ。 

①竿シャチ継ぎ・(やと)い竿シャチ継ぎ(目違い付)   (作図は仕上がり4寸角を想定して描いています。)

 

柱への胴差・梁の仕口であるが、柱を介して左右二方の材が継がれるので「・・・継ぎ」と呼ぶ。中途の通し柱へ、胴差・梁を確実・堅固に取付けることができる。 柱の刻みの関係で、柱は4寸角以上必要。四方差しの場合は、できれば4.5寸~5寸角。胴差と梁に段差がある場合も使用可能

一材に竿を造り出し、柱を介して反対側の材に差し込み、シャチ栓を打ち相互を固める。シャチ栓を打つ道に、柱側に向け僅かな傾斜を付けてあるため(引き勝手)、栓を打つと両側の材が引き寄せられ、柱と胴差・梁が密着する。栓はカシなどの堅木。胴差・梁の端部がほぼ固定端となり、半ばラーメン状の架構となる。

竿の部分を造るには長い材が必要になるため、竿部分を別材で造る雇い竿シャチ継ぎがある。

なお、図の三方差しの場合、胴差を取付ける前に梁を差し、割り楔の代わりに込み栓を打つ方法:胴差の胴突内に隠れるので隠し込み栓という方法もある。(後出 日本家屋構造鴻の巣」)

また胴差も竿に対して側面から込み栓を打つ方法もある(この栓は外から見える)。効果は竿シャチ継ぎと同じ。

傾木大入れよりは手間がかかるが、この仕口を必要とする箇所は、通常、全軸組の中で限られており、軸組強度の点を考えれば、決して余計な手間ではない。

シャチ栓込み栓割り楔は、木材の弾力性・復元性を利用しているため、年月を経ても緩みが生じにくく、接合部自体も緩む可能性は小さい。

梁天端>胴差天端の場合の四方差し

   

 

②傾木大入れ 全短ほぞ差し+補強金物 ③傾木大入れ 小根短ほぞ差し+補強金物 ④傾木大入れ+補強金物⑤胴突き+補強金物 注 補強金物:羽子板ボルト、短冊金物、かね折金物、箱金など

②③④⑤は前項(「隅の通し柱の場合」)の図解参照。 取付けた胴差・梁は単純梁と見なされる。

補強金物の場合、金物の取付けボルトや釘は、材の木痩せや繰り返しかかる外力によって緩みやすく、荷重の伝達の不具合、建物の揺れを起しやすい。金物の緩みは隠れて見えないことが多いが、内装材のひび割れ、床・敷居の不陸などで現れることがある。コーススレッドを使用すると、緩みは避けられるが、木部が割れる恐れがある

 

6)胴差と梁の仕口、胴差・梁と管柱の仕口     

(1)胴差と梁が天端同面(てんばどうづら)の場合

 ①胴突き付 腰掛け蟻掛け  ②大入れ蟻掛け(解説図省略)

  

いずれも柱根ほぞ・頭ほぞは長ほぞ差し普通に行われる方法。柱ほぞは短ほぞ差しよりも、長ほぞ差しの方が適切である。込み栓を打てばさらに確実。

短ほぞ差しの場合は山型プレート、平金物などによる補強が必要。筋かいの取付く箇所では、ホールダウン金物を必要とする場合がある(告示第1460号)。

図Aは、胴差丈≧梁丈、天端同面の場合胴差下に管柱があるときは、胴突きを梁丈いっぱいに設けることができる。下に管柱がないときは、胴突きの丈を小さくして腰掛けの効果を確保する。

     

図Bは、梁丈≧胴差、天端同面の場合。下に管柱がなければ梁下端がこぼれる。梁の胴突きを管柱にのせかける。

大入れ蟻掛けで取付けるには、天端同面の場合は、胴差丈>梁丈でないと梁下端がこぼれるまた、下に管柱がないときは、胴差への梁のかかりが1寸(約30㎜)程度必要。必要な梁丈により胴差の丈を決める。梁は単純梁と見なされる。いずれの仕口も、金融公庫仕様は、胴差と梁を羽子板ボルトで結ぶことを指定。

 

(2)胴差に梁をのせ掛ける場合(梁天>胴差天)

①大入れ蟻掛け(解説図省略)梁が胴差にかかる部分だけ大入れ蟻掛けとする。普通に行われているが、安定度が劣るため羽子板ボルトより補強することが多い。上階の管柱の取付けが難しい。梁は単純梁となる。台輪を設けるか(前出 組み方B-イ)、梁を胴差外側まで伸ばし扇ほぞで立てる。これを解決する確実な方法が次の②である。

②胴突き付き蟻掛け+上階柱蟻落とし

      

梁端部全面に胴突き付き蟻を刻み胴差に掛け、上階の管柱を蟻落としで落とし込む。根ほぞは長ほぞが適切。下階の管柱は、胴差に長ほぞ差し。下階に管柱がなくてもできる。図は胴差に左右から梁が架かっているが、外周部など片側だけの場合も可能。見えがかりもよく、真壁仕様で用いられる仕口。

上下の管柱、胴差、梁が一体に組まれるため、梁端部は固定端に近くなる。上下の関係を逆にした納め方も可能である。 胴差端部に胴突き付き蟻型を造り出し、1階管柱に架け、残りの蟻型に胴突き付き蟻の逆型を刻んだ梁を落し込み一体化させる。

 

7)胴差・梁の継手と材の必要長さ

 

 

参考 「日本家屋構造」 所載の「2階梁と通し柱の仕口 鴻の巣」(付録1より再掲)

「・・右図の如く、横差物を大入れに仕付け、その深さは柱直径の八分の一ぐらいにして、(い)(い)の如く柱のほぞ(・・)穴左右の一部分を図の如くのこし他を掘り取り差し合す。この如くなしたるものを鴻の巣(こうのす)といふ。また鴻の巣をその差物の成(せい)(丈)の全部を通して入れることもあり。これ全く柱の力を弱めざるのみならず、その差物の曲(くるひ)を止め、かつ(ろ)の穴底に柱を接せしめほぞ(・・)を堅固ならしむるなり。
本図は二階梁の三方差にして斯くの如き仕口にありては、一方桁行はシャチ継ぎとなし、梁間の方を小根ほぞ差とす。(は)の込み栓を(に)の穴中より差し、かつ(ほ)の切欠きに(へ)の下端を通して梁の脱出(ぬけいで)するを防ぐものとす。」

日本家屋構造は、明治37年(1904年)に初版が刊行された木造建築の教科書で、著者は当時東京高等工業学校の助教授であった斎藤兵次郎である。この書は、「実務者」(*)養成の学校の教科書であり、明治期の木造建築についての教育内容を知ることができ、同時に、当時の木造建築の技術状況も知ることができる。 
*「頭と手を使い、実際にものをこしらえる人びと」のことで、「実業者」とも呼んでいる。
 

 

参考 柱の長さの検討
軸組部分の最下部は土台最上部は軒桁まわりであり、その間をどのように構成するかを考える。
市販の材木を使用する場合、土台~軒桁の高さ:柱の長さはほぼ決まる。市場流通の柱材正角材の規格長さ:3m(10尺)、4m(13尺)、6m(20尺)・・ 注 現在の木材規格は、通常の建物に間に合う寸法として、江戸時代に確立した規格を踏襲。 ただし、関東間向けであるため、関西間・京間(およびメートルグリッド)には適さない。

3mものは、通常の大きさの部屋を確保するときの管柱(比較的大きな部屋を設けるときには天井を高くするために4mものを使う)、6mもの通し柱4mもの土台、大引、小梁などの横ものとして使いやすい長さ(2間の間に渡せる)である。JAS規格相当品(同等品)でも、寸法規格は同じである。

通常の建物:1階の管柱に3m材、2階までの通し柱に6m材を使用。1階管柱に4m材を用いると通し柱は特注。


  

管柱の必要長さ =根ほぞ長さ+土台天端~胴差・梁下端の長さ+頭ほぞ長さ
通し柱の必要長さ=根ほぞ長さ+土台天端~軒桁・小屋梁下端の長さ+頭ほぞ長さ

根ほぞ(柱下部の土台あるいは胴差・小屋梁などに取り付けるためのほぞ)・頭ほぞ(柱上部の胴差・梁、軒桁・小屋梁などに取り付けるためのほぞ:いずれも長ほぞの場合は、ほぞの長さは最低3寸(9㎝)必要。 短ほぞ(1寸程度)は横および引き抜きの外力に対して不安。

必要な柱の長さ=見えがかり寸法(土台天端~胴差・梁下端)+最低6寸
また、材の端部には傷みがある場合があり、両端の1寸程度ずつは使えないと考えておく。 

 ∴3m材の最大可能見えがかり寸法=3m-ほぞ分18㎝-材端傷み分6㎝=約2.76m
   4m材の最大可能見えがかり寸法=4m-ほぞ分18㎝-材端傷み分6㎝=約3.76m
   6m材の最大可能見えがかり寸法=6m-ほぞ分18㎝-材端傷み分6㎝=約5.76m

 

8)梁と小梁の仕口

 小梁は、通常、天端を同面納めとする。

①大入れ蟻掛け小梁の断面の大小にかかわらず確実に納まる。単純梁と見なされるが、蟻掛けがあるだけ、②大入れよりも曲げに強い。

②大入れ:断面が小さい場合は大入れでも可。

 

9)根太と梁・小梁の仕口

(1)梁・小梁にのせ掛ける 根太用材の市販品の材長は3.65m、4mであり、乗せ掛ける場合は、連続梁と見なせる。

丈の小さい根太の場合(幅3.6㎝×丈4.5㎝、幅4.5㎝×丈5.5㎝など):乗せ掛けて釘打ち

丈の大きい根太の場合(幅4.5㎝×丈10.5㎝など):a)渡りあごを設けて釘打ちは梁を傷めず確実な納め。b)梁・小梁を欠き込み釘打ち:梁を傷める恐れがある。床仕上げの高さは、欠き込みの深さで調整する。

乗せ掛ける場合は、ともに、柱の際(きわ)には、際根太(きわねだ)を必要とする。

 

 

根太は、梁・小梁の上で継ぎ、特に継手は設けない。(そ)ぎ継ぎ(接続面を同じ角度に斜めに切り、重ねて継ぐ)にすると不陸が起きにくい。

継手箇所に近いスパンは、それ以外のスパンよりも、たわみが大きくなる(連続梁の特徴)ので、根太の継手を同一の梁・小梁上に並べて設けず、千鳥(互い違い)配置とする。

 

(2)梁・小梁と天端同面納め

根太は単純梁と見なせる。断面の小さな材は使えない。 スパンが3尺(909㎜)程度でも、幅1.3~1.5寸×丈3~3.5寸(40~45㎜×90~105㎜)以上の材が必要。

一般に大入れで取付けるが、単純梁になるため、荷重によりたわみで仕口に緩みが生じる恐れがある。刻みはきつめに造ることが求められる(釘打ちを併用しても、釘がきしむことがある)。荷重が大きいときには、1.5寸以上の幅の材を蟻掛けで納めると固定端に近くなり、同じ荷重でも、大入れに比べてたわみにくくなる。

下図は、激しい振動が加わる体育館の床: 丈120×幅60の根太を蟻掛けで掛ける(筑波第一小学校屋内体育館の床組の一部)

  

 

10)安定した架構を造る:通し柱・管柱と胴差・梁の組み方

普通に手に入る木材で、強度的に安定した架構を造るには、木材の性質を踏まえた確実な継手・仕口を用いて構成部材を極力一体化させることが最良である。

比較的簡単な継手・仕口と補強金物を用いる場合でも、一部分への応力集中が生じないように架構全体を見渡しながら構成部材を極力一体化させるように考える必要がある。

ここで紹介している継手・仕口は、経年変化の確認:実地での改良が積み重ねられてきたものであり、現在でも加工が可能である(多くは機械加工ができる)。

通常用いられるのは、架構法A、Bである(9頁の図再掲)。

  

 

ブログ内記載記事:補足「日本家屋構造」-3・・軸組まわり:柱と横材:の組立てかた(その2)12.08.07


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付録1-2 軒桁まわり

2020-03-18 11:05:38 | 継手・仕口

付録1-2 継手・仕口の実際     

3.軒桁、小屋梁の継手・仕口

1)軒桁の組み方:どの高さで組むか

(1)京呂(きょうろ)組の場合

組み方A 軒桁に小屋梁をのせ掛ける。一般的な方法。小屋梁に丸太太鼓落とし平角材のいずれを用いても可能。

 1)小屋梁を軒桁の内側に納める        2)小屋梁を軒桁の外側にまで渡す(仕口:渡りあご

    

一般に、丸太あるいは太鼓落としを用いる場合は1)が多い(補強を要求される)。2)の方が、強度的には確実(補強不要。ただし、梁の木口が外側に見えるため大壁造りには不向き)。

 

組み方B 軒桁と小屋梁を天端同面で納める小屋梁平角材を用いる場合に可能。

         組み方Bの例                                                                    

 

(2)折置(おりおき)組の場合

組み方A 小屋梁に軒桁をのせ掛ける梁は丸太太鼓落とし平角材いずれも可。 

組み方B 小屋梁に天端同面で落としこむ小屋梁が平角材の場合に可能。

 

         

2)軒桁の継手

軒桁は、京呂組折置組にかかわらず、連続梁と見なせるが、荷重のかかり方は異なる。

(1)京呂(きょうろ)組の場合小屋梁を受け、大きな曲げがかかることを考慮した継手が望まれる。

①追掛け大栓継ぎ ②金輪継ぎ(土台の継手に記載) ③腰掛け鎌継ぎ+金物補強 ④腰掛け蟻継ぎ+金物補強  

竿シャチ継ぎ(軒桁の継手参照)も可能だが、使われることは少ない。

 

(2)折置(おりおき)組の場合

垂木を経て屋根荷重を分散的に受けるだけであるため、曲げの大きさは京呂組に比べ小さく、断面は母屋程度でも可能。ただし、軸組の桁行方向の変動を考慮した断面とする必要がある。

①追掛け大栓継ぎ ②金輪継ぎ ③腰掛け鎌継ぎ+金物補強 ④腰掛け蟻継ぎ+金物補強    

一般的にはが多用される①追掛け大栓継ぎを用いると強い架構になる。

 

3)小屋梁の継手               

①台持(だいも)ち継ぎ  :一般に多用される継手。   

 

柱あるいは敷桁(敷梁)上で継ぐときに用いられる。丸太太鼓落とし平角材のいずれでも可能。太鼓落としの場合は、後出の図参照(追掛大持ち継ぎと記してある)。

稲妻型に刻んだ下木に同型の上木を落とし、材相互のずれはダボ、捩れは目違いを設けて防ぐ。上下方向の動きでのはずれ防止のため、継手上に小屋束を立て、屋根荷重で押さえる。あるいは図の点線位置で、ボルトで締める。敷桁には渡りあごで架ける。

②追掛け大栓継ぎ平角材に用いられる確実な継手。柱あるいは敷桁から持ち出した位置で継ぐときに用いる。継がれた2材は1材と見なすことができ、曲げに対して強い。

③腰掛け鎌継ぎ+補強金物継がれた材は、継手を支点とした単純梁と見なせる。                

 

4)軒桁と小屋梁の仕口     

(1)京呂組の場合

組み方A 軒桁に小屋梁をのせ架ける。

①兜(かぶと)蟻掛け 軒桁内側に納める場合      

   

一般的な方法で、丸太梁平角材いずれにも用いる。基本的には大入れ蟻掛け(目違い付き)である。

丸太梁で、垂木彫りを刻んだ後、木口の形状が兜のように見えることから兜蟻掛けと呼ぶようになった。小屋梁ののせ架け寸法は、垂木が軒桁に直接掛けられるように決める。柱と軒桁は長ほぞ差しが最良(込み栓打ちは更に確実)。法令は、羽子板ボルトでの固定を要求(梁に曲げがかかったとき、あるいは梁間が開いたときの蟻掛け部分のはずれ防止を意図)。実際は、曲げによるよりも、架構の変形により起きる可能性が高く、架構:軸組を強固に立体に組めば避けられる。また、屋根(小屋束・母屋・垂木・野地板)が確実に取付けば、梁のはずれは実際には起きにくい。 垂木を表しの場合は、垂木間に面戸(めんど)を入れる。

 

②相欠き渡りあご 軒桁外側に梁を出す場合    

    

丸太梁平角材いずれにも用いられる。法令・金融公庫仕様でも補強を要しない仕口であるが、外面に木口が表れるので真壁向き。 垂木を掛けるために、鼻(端)母屋が必要となる。鼻母屋軒桁の間に面戸板が必要。鼻母屋の継手は腰掛け鎌継ぎで可(軒桁・面戸板・鼻母屋で合成梁となるため、追掛け大栓継ぎの必要はない)。 垂木表しの場合、垂木の間にも面戸板が必要(図は省略)。

軒桁の小屋梁位置下に管柱があるときは、頭ほぞ重ほぞとし、軒桁・小屋梁・鼻母屋を縫う方法が確実。柱がない箇所では、鼻母屋上部から大栓を打ち、鼻母屋・小屋梁・軒桁を縫う。 小屋梁の脇で、鼻母屋と軒桁をボルトで締める方法は、経年変化で緩む可能性が高い。

 

組み方B 軒桁・小屋梁天端同面 

(大入れまたは胴突き付き)蟻掛け 

 

梁が平角材の場合に用いる。図は胴突き付きの場合。 天端同面納めは、軒桁丈≧小屋梁丈の場合可能。

法令では、梁に曲げがかかったとき、あるいは梁間が開いたときの蟻掛け部分のはずれ防止のために、羽子板ボルトでの固定が要求される。①の注を参照  垂木表しの場合は面戸板が必要(図では省略)。

図では、軒桁を追掛け大栓継ぎで継いでいる(一般には、刻みの簡略化のため腰掛け鎌継ぎ+金物補強が多用されるが、強度的には追掛け大栓継ぎが優れる)。

 

(2)折置組の場合

組み方A 小屋梁に軒桁をのせ掛ける

相欠き 渡りあご

    

丸太梁平角材いずれにも用いられる。図は小屋梁が平角材の場合。相欠きと渡りあごによって、梁と軒桁がかみ合うため桁行方向の変形に対してきわめて強い。この効果を確実に維持するために、軒桁の継手は、追掛け大栓継ぎが望ましい。補強を要しない仕口であるが、外面に木口が表れるので、大壁仕様のときは検討を要する。

柱寸法の節約、刻みの簡略化のために、柱の頭ほぞを短ほぞとして金物補強とすることが多いが、図のように、柱の頭ほぞを重ほぞとし、小屋梁・軒桁を一体に縫うと軸組は一段と強固になる

太鼓落とし梁の場合は、次項参考の図を参照。

 

組み方B 小屋梁・軒桁天端同面納めの場合

 ②(大入れまたは胴突き付き)蟻掛け

梁が平角材のとき可能な方法。 小屋梁丈≧軒桁丈が必要。 図は、小屋梁と軒桁の丈を同寸の場合。

梁の丈>軒桁の丈のときは腰掛け蟻掛けとする。柱寸法の節約、刻みの簡略化のために、柱の頭ほぞを短ほぞとして金物補強とすることが多いが、長ほぞの方が軸組は強固になる。垂木表しのときは面戸板が必要。法令は、軒桁に曲げがかかったとき、あるいは柱間が開いたときの蟻掛け部分のはずれ防止のために、金物補強を要求。

実際は、架構:軸組を強固に立体に組むことで避けられる(従来、金物補強がなされなかったのは、開口部に差鴨居を入れるなど、架構を立体に組む工夫がなされていたからと考えられる)。また、屋根(小屋束・母屋・垂木・野地板)が確実に取付けば、梁のはずれは起きにくい(前項兜蟻掛け参照)。

 

参考 太鼓落し梁の仕口分解図  日本家屋構造 斎藤兵次郎著 より

  

  

 

5)小屋梁と小屋束、小屋束と母屋の仕口

小屋束母屋の幅と同寸角。 小屋束間隔が大のときは、丈を大きくする(梁と考える)。

小屋束の根ほぞ(小屋梁との仕口)と頭ほぞ(母屋との仕口)長ほぞが望ましい。一般に多用される短ほぞ+かすがいは揺れや引抜きに弱い。

 

6)二重梁、つなぎ梁

小屋束・二重梁・母屋は、小屋束の頭ほぞを重ほぞとして一体化する方法が良。 つなぎ梁端部は、小屋束に対してほぞ差しほぞ差し込み栓またはほぞ差し割り楔締めにすれば確実)。

 

7)母屋の継手

母屋は、垂木を経て分散的にかかる屋根上の荷重による曲げの力に対して耐える必要がある。また、小屋束、母屋の構成で桁行方向の変動にも耐えなければならない。

通常使われる継手は次のとおり(いずれも図は省略)。①追掛け大栓継ぎ ②腰掛け鎌継ぎ ③腰掛け蟻継ぎを用いることが多いが、強固な小屋組にするには、①②が望ましい。特に、丈の大きい母屋を用いるときはが適切。②③を用いるときには、各通りの継手位置は、できるかぎり千鳥配置とし、垂木位置は避ける。

 

8)垂木の配置、断面と垂木の継手

垂木の継手:垂木は母屋上で継ぎ、殺ぎ(そぎ)継ぎとすると不陸が起きない。

 

10)垂木の母屋への納め方:垂木彫り

       

 

垂木が軒桁・母屋にかかる部分を、垂木の幅・垂木の勾配なりに彫り込むことを垂木彫りという。

軒桁・母屋の側面に刻まれる垂木彫りの深さを口脇(くちわき)、勾配なりの斜面部を小返(こがえ)りと呼ぶ。軒桁、母屋上端の小返りの終わる位置を小返り線という。

図A小返り線を軒桁、母屋のとした場合で、口脇寸法={軒桁・母屋幅/2×勾配}となり、口脇寸法は整数になるとは限らない。

図Bは一般的な方法で、口脇寸法を決め(たとえば5分)、小返り線を逆算する。この場合、軒桁・母屋芯位置での垂木の下端は軒桁・母屋上にはなく、宙に浮く。 軒桁・母屋芯(通り芯)位置での垂木下端の高さを(とうげ)と呼ぶ。 図Aでは材の上に峠が実際にあるが、図Bでは仮定の線となる。

通常、設計図(矩計図など)は図Aで描くが、現場では図Bで刻む。特に指示する場合は、口脇寸法を明示する

 

参考 日本の建物の寸法体系

寸法の単位
a.柱間単位は「1間」
メートル法の使用が義務付けられている現在でも、木工事では尺表示が使われることが多い。住宅の場合、通常、柱間単位は1間を標準とする。関東では1間=6尺(通称「江戸間」または「関東間」)、関西では1間=6尺5寸(通称「京間」)が普通である。ほかにも、地域によって異なる寸法が柱間単位として用いられており、また、建物により任意に設定することもできる(大規模の建物で標準柱間を9尺とする、など)。 注「京間」では、畳寸法を6尺3寸×3尺1寸5分として柱~柱の内法を畳枚数で決める場合もある。

メートルグリッドを用いることも可能。ただし、木材の「規格寸法」に留意する必要がある。 
  
1間に満たない寸法に対しては、1間の1/2、1/3、1/4、1/5、1/6・・・を用いるのを通例とする(工事がしやすい)。
  
b.尺とメートルの換算
一般に、1間=6尺=1,820㎜とすることが多いが、正確ではない。1尺=10/33m≒303㎜、1間=6尺≒1,818㎜である。

木工事は、現在でも、通常「尺ものさし」:指金(さしがね)で施工し、大工職は1,820㎜の指示を6尺と読み替えることが多い。一方、基礎工事は「メートルものさし」で1,820㎜の指示どおり施工するから、1間につき2㎜の誤差を生み、現場での混乱の原因になる。正確な指示が必要。

 

 ブログ内記載記事:補足「日本家屋構造」-4・・・小屋組(その1) 2012.09.26               


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「付録1-2」と 本blogへの投稿終了について

2020-03-18 11:05:12 | ご挨拶

投稿者よりご挨拶申し上げます。

「付録1-2 継手・仕口の実際」としてまとめたのは、ブログ開設者がすでにこのブログに投稿している多くの図版を、新たに記事として編集しなおしたものになります。元の記事については、各項目の末尾に、投稿記事へのリンクをかけたタイトルを付けました。

 

「付録2-1 継手・仕口の実際」の元になったテキストは、(一社)茨城県建築士事務所協会主催の建築設計講座 2004年・2005年版のテキスト「知っておきたい日本の木造技術 ー 木造軸組工法の基本と実際」約290頁になります。 解説文および全「継手・仕口図」はブログ開設者の作成によります。 上記のテキストは、今年1月まで掲載をしていました「日本の木造建築工法の展開」の元データでもあります。

 

「付録1-2」について、昨年「付録1」の投稿後に作成を考えたのですが、煩雑な編集が必要なため、なかなか作業に取り掛かれませんでした。ようやく投稿ができ、ほっとしています。

 

突然ですが、blogトップを「継手・仕口の実際」として、 本ブログへの投稿を終えることにしました。

今思えば、病気療養中の記事と逝去のご挨拶がブログ記事の最後になってしまうのが、私としては辛かったのだと思います。

念願だった「継手・仕口の実際」も投稿でき、また隔週で投稿している「筑波通信」は、切りよく3年度目が終了しました。

しばらくお休みを頂いて、新しいブログに場所を移して、「筑波通信」を再開したいと思います。

その折には、本ブログのブックマークにリンクをかけます。

(追記:このブログはこのままの状態を保ちます。言葉足らずだったようで恐縮です。   03.27)

 

本ブログ中での、編集ミス、誤字脱字等、ご容赦のほど願います。 

今まで、ありがとうございました。

これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。                                     

      2020年3月18日                        投稿者  下山 悦子


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「私に聴こえるもの、見えるもの」1983年度「筑波通信№12」

2020-03-10 10:23:10 | 1983年度「筑波通信」

PDF「私に聴こえるもの、見えるもの」A4版6枚

   「私に聴こえるもの、見えるもの」   1984年3月

 仕事をしながら聴くともなくFM放送をかけていたところ、いわゆるシンガーソングライターと言われているある人が、次の音づくりのためにスタジオにこもっています、と話しているのが耳に入った。要するにレコードづくりなのだろうが、しかしそれは、彼らが演奏をして、それを単純に録音するという話ではなさそうで、もちろん単に作曲をしているということでもないようだった。察するにそれは、種々な音を、最新の録音技術:エレクトロニクスを駆使して、変形、変調、あるいは増幅縮小し、かつそれらを合成し、彼の言う音をつくりだすことであるらしい。そして、その合成の結果、彼がよしとしたその音がレコードなりテープに(最終的に)収録され売りに出される、ということのようであった。たしかにこれは、通常の概念での演奏ではなく、まさしく音づくり以外の何ものでもない。もしもスタジオの音づくりの場面ではなく、いわゆる普通の意味での演奏のときはいったいどうするのだろうか、と一瞬疑問がわいた。そういうことは一切しないのか、それともカラオケでもながすのか、あるいはスタジオでやったと同じ操作をコンピュータに覚えこませて、その場で合成させるのか。

 聞くところによれば、最近のレコードやテープは、概して、いわゆるライブ版と言われるもの以外(これだって怪しいものだが)こういったいわゆる音づくりのやりかたでつくられるのだそうである。変形、変調などはともかく、一小節だけのつけはずしなどお茶のこなのだそうである。だめな部分だけ、つけ代えることができるという。こうなってくると、演奏会で聴く音楽と、レコードで聴くそれは、まったくちがうジャンルなのだと言ってもよいだろう。

 

 それにしても、ここ二十年ほどの問の音響技術の進み具合は大変なものだ。 Hi-Fi (High Fidelity:高忠実度、高再現性)などという耳新しかったことばも、今ではすっかり日常語の仲間入りをしてしまっている。いかにして原音に忠実に録音し、そして再生するか、録音再生の音域をいかに拡げるか、ゆがみひずみをいかに少なくするか、などといった点はとっくに克服されてしまったらしく、今では再生の段階で自分の好みの音をつくるのだそうである。その意味では原音に忠実というのではもはやない。よく、いわゆる暴走族とくくられる若者たちがシャリシャリしたような音をさせて音楽をかけているのに出あうことがあるが、それがこれである。カラオケが、エコーをかけて、だれが歌ってもうまく聴こえるようにしているのもこれである。ことばのとおりにHi-Fiだったら、カラオケはとても聴いていられないだろう。

 最近では、音を一たんいわば多くの点に分解して信号化し、再生時には再びそれを合成するというデジタル方式なる録音法が開発されたそうである。まじりあった音も、このやりかただと分離されて記録されるから、それぞれの音が鮮明に澄んで録音されるらしい。これだと、点を多くすればするほど鮮明になる理屈である。

 私には、その理屈は、一応理屈としては納得はするものの、いまひとつ合点のゆかない所がある。私は、今はやりのワープロの印字を対比して考えているのである。ワープロの印字も、いうならばデジタル方式で、いくつかの点で構成されている。今のほとんどのワープロの印字では、その点の数が少ないから、なんともみっともないごつごつした字になっている。この点の数を多くすれば、あるところから先は、一見したかぎりでは人の目をごまかすことができる。これは理屈である。実際、朝日新聞の文字は、これもワープロ同様にいくつかの点で構成されているのだが、虫めがねででものぞいて見ないかぎり、それに気づかない。分解する点の数が多いからである。私がこの通信で使っているのは、昔ながらの活字によるタイプライターである。この活字をいくつかの点に分解しなおして印字したとき、たしかにその点の数を増加させてゆけば、あるところから先は、その点に気づかなくなるように思える。しかしそれは、元の字に忠実だと言えるだろうか、これが私の合点のゆかない点、疑問なのである。ある一つの面積を算出するのに、それを点の集積であるとの考えかたは、その昔微積分の初歩で習ったことだが、しかしそのとき、求めるべき実体は、その点が無限である、として求められたのであって、有限の段階でやめたわけではなかった。だが、ワープロの印字は、多分これからさき、もう少し点の数は増えるにしても、一見したところ点の集まりには見えない、というあたりでその分解をやめてしまうだろう。

 近ごろの印刷では、昔の活字・活版に代って写植:写真植字が大勢を占めようとしている。いわゆる写植オフセットというやりかたである。伸縮自在だから、たとえば辞典類の大判、小判を一つの原版から容易につくることができる。ところがこれも、元はと言えば写真、つまり粒子の集まり、このごろは解像力のよいレンズ、印画紙ができてきたとはいえ、一見したかぎり点に見えないだけで、点の集まりであることには変りないから、縮少したりするとボテッとしてくる。実際に活版本と写植本とをならべて比較すると、たちまちにしてその差が分るはずである。これはグラビアによる写真と新聞紙上の写真のできあがりのちがいと同様で、新聞写真は多数の点に分解されているのだが、いくらその点の数を密にしてみても、グラビア(グラビア印刷:チェコのカール・クリッチが発明した印刷法。写真印刷に適している。)にはかなわないのと同じなのだ。

 

 だが、ここで見てきたような印刷・印字の場面でのデジタル分解ならまだ救われるというものだ。なぜなら、点に分解する前の字なり写真の元になる生の姿が実体として(目に見えるかたちで)存在するからである。ところがこれが音となると、たしかにある実体はありそうに思えるけれども、いわば目に見えるかたちでそれを確定することができない。音を周波数のちがいであるとして定義したところで、それは単に音というものが空気の振動であり、その振動のちがいが音のちがいをつくりだしているという説明にすぎないのであって、それは決して私が聴いている音のリアリティではないのである。

 そういう意味では、デジタル録音の音が澄んで明解である、というのは、はたして原音に忠実ということになるのだろうか、という疑問を私は抱くのである。それが澄んだ録音になるというのは考えてみればあたりまえであるわけなのだが、原音ははたして澄んでいたのだろうか。この問題は、原音とは何を指しているか、ということに帰結するだろうと思われる。すなわち、楽器が発している音をいうのか、それとも、私たちが聴いている音をいうのか、このどちらを原音と考えるかである。

 いろいろと考えてみると、いわゆるエレクトロニクスを駆使してのここ二十年ほどの音響技術・Hi-Fi化の進歩は、まず全てが、この音源側の音についてのHi-Fi 化であって、聴く側のそれではなかった、ということに気がつく。音源側のHi-Fi化が聴く側のHi-Fi化に等しい、という何らの保証も、またその検証もないままに、技術は進んできてしまったのではなかろうか。不幸なことに、私たちが聴いている音の実体を目に見えるかたちで表わすことができないことをいいことに、私たちは高忠実度録音の名のもとに、実はまったく別種の、造成された音を聴く破目になっていたのかもしれないのである。

 

 私がこのように思うには、それなりのわけがある。

 私の知人に昔ながらの蓄音機を持っている者がいて、それでSP版のレコードを聴いたことがある。それはまったくの古典的蓄音機で、回転はゼンマイ仕掛け、音の増幅は例の朝顔形のラッパ、電気とは無縁の、エジソンそのままのやつである。それでたしかバイオリンの曲を聴かせてもらったような記憶があるのだが、正直言ってそれはかなりのショックであった。もちろん最近のLPなどとちがってザーザー雑音が入るのだがそのなかから聴こえてくるバイオリンの音色は、まさにほんもののバイオリンのそれなのである。簡単に言えば、リアリティそのものなのだ。バイオリンという楽器の音を聴いているのではなく、バイオリニストが弾くバイオリン曲を彼のそばで聴いている趣があるのである。つまり、音楽が聴けるのである。その意味で、私には、これほどの高忠実度録音はない、と思えたのだ。これは当然だと言えば当然で、機械が吸いこみ刻みつけたものは、機械の吸いこみ口で機械がとらえた音であって、音源の音でも、また分解・分析した結果の音でもない、いうならば生の音に近いものだからである。まじりあった音。にごった音(そのように聴こえる音)も、ただそのままに機械に吸いこまれ刻みつけられ、それが今、ほぼ復原されて私に聴こえているのである。

 

 そうしてみると、エジソンのあと、録音再生の面でさまざまに行われてきた技術革新は、はたしてエジソンが夢見て、そして望んでいたことと、まったく同じことを目ざしていたのかどうか、疑問に思えてくる。

 さきに、楽器の発している音を原音とするか、それとも私たちに聴こえている音を原音とするか、それが問題である、と書いたけれども、ことによると、こう区別することに疑問を持たれる方があるかもしれない。つまり、楽器の発する音を聴いているのであって、発するものと聴こえているものとは同一ではないか、と。だから、楽器の発する音を精密にとらえればよいではないか、と。ところがこれは明らかにちがうのだ。

 補聴器というものがある。聴力を補うために、音を増幅してくれる機器である。これを使ってみると、驚くべき事態に当面する。ありとあらゆる音の全てが増幅され、その全てが均等に聴こえてくるのである。音量を少なくしていっても、この均等に聴こえるということは変らない。これは、私たちが通常耳にしている事態とはまったくちがった異常な世界なのだ。このことは補聴器を使ってみなくても分る。最近では、よく音楽会のライブの録音や生が放送されることがあるが、それを聴いていると、会場内のざわめきやせきばらいの声の多さ、大きさに驚かされる。会場内では絶対にあのようには聴いていない(聴こえていない)はずなのだ。これも、均等に音を伝えてくるからである。かつての蓄音機が、生の音に近いものを伝える、と書いたのも、それは、現代の録音よりもより生ではあるが、そこでもまた補聴器同様に、音を均等に拾っていて聴こえないものまで聴こえてしまうはずだからである。

 つまり、実際の場面では、私たちは、全ての音を均等には聴いていないのである。といって、私たちが聴いていない(聴こえていない)音が存在しないのか、というとそれはちゃんと存在していて、補聴器でもかければ、いやでもその存在に気づかされる。

 つまり、現代のエレクトロニクスを駆使した音響技術が、原音の録音再生の高忠実度、精密化を競った結果、私たちが聴いているもの、あるいは私たちに聴こえているもの、に対してはまったく忠実ではなくなってしまったのである。これは、本来(たとえばエジソンの時代には)音楽とは、まずもって私たちあっての音楽であったのに、少なくともこの技術の場面では、私たちぬきの、音になってしまった、と言うことに他なるまい。そうであるとき、音楽家と称する人たちが、今私は音づくりをしています、と言うというのも、無理からぬ話なのかもしれまい。

 だが、音楽とは、そもそも、単なる音響でしかなかったのだろうか。

 私がここで言いたかったことは、音なり音楽なり、あるいはそれに係わりをもつ技術というものに対して、音というものを私たちと乖離した存在として見なす見かたで理解され、追求されているということ、そして、それの結果として(その追求が精度をあげればあげるほど)、私たちが私たちの耳で聴く、音楽を楽しむ、という局面でのリアリティに対する精度は、逆に悪くなってきているのではないか、ということについてであった。簡単に言ってしまえば、音としての精度を上げれば上げるほど、私たちが聴いているもの、私たちに聴こえているものの実像から、どんどん離れていってしまっている、ということなのである。

 しかも、このような状況は、なにも音についてだけなのではなく、私たちをとりかこむおよそ全てのものに対しても、同様な考えかた、追求のされかたが横行し、人問と人間以外のものがみな全て、乖離した存在として扱われる傾向にある。コンピュータの隆盛は、コンピュータの宿命であるデジタル方式の思考に拍車をかけ、人とものは分離され、そして人もものもまた点に分解され、そこで描かれる点描が、あたかもそれが実像であるかのごとくに扱われる。私たちが聴いているもの見ているもの、そのリアリティは、知らぬまにみなその点描にすりかえられてしまうのだ。それでいて、それらのデジタル的分解が実像と等値であるとの保証は、未だかつてだれもしていないのである。

 かくして、いまや、いったい何が私たちにとっての実像、つまりリアリティであったのかさえ判別しかねるほど、虚像が充ちあふれ、その虚像にもてあそばれるような世のなかになってしまっているように、私には思えてならない。

   ・・・・・今の世では、かつてなかったほどに

   物たちが測落する――体験の内容となり得る物たちがほろびる。

   それは、

   それらの物を押しのけてとって代るものが、魂の象徴を伴わぬような用具に過ぎぬからだ。

   拙劣な外殻だけを作る振舞だからだ。そういう外殻は

   内部から行為がそれを割って成長し別のかたちを定めるなら、

   おのずからたちまち飛散するだろう。

   鎚と鎚(つち。かなづち。)とのあいだに

   われわれ人間の心が生きつづける、あたかも

   歯と歯とのあいだに

   依然 頌める(ほめる:ほめたたえてのべる)ことを使命とする舌が在るように。

   ・・・・・

もう60年も前に、詩人は既に、このような状況の予兆を敏感に感じとっていたようである。

 

あとがき

〇なんとか休むことなく持ちこたえ、一年が過ぎてゆく。少しばかりこの一年は早かった。 というのも、昨年はこの通信を書くことが私のペースメーカー、つまり行事になっていたが、今年はなんとなくいろいろなことが時間を占有し、やむを得ずそのすきまをねらって通信の時間を確保する破目になったからである。

〇今号の内容は、いわゆる研究(もちろん建築についての研究のことである)が、ますます人問と乖離したものになってゆくことに憤慨を覚えたことによっている。 建物なり空間なり、あるいはそういったものをつくりだす技術なりが、すべてそれだけが人問の存在から切り離された形で論じられることが、いわゆる研究の正統であるかの風潮があいも変らず根強いのである。 私たちが生きている日常のなかでは、ものは決して均質・等質にとらえられているわけでなく、そしてまた、そのもののつかまえかた(括りかた)自体、決して一様であるわけがないのにも拘らずそこのところはまったく無視され、一様・等質・均質なものの世界に直接的に私たちがつきあっているかのように見なされる。 それは決して私たちの実像ではないはずなのだが、科学的であるとの名目のもとで、そういった研究の成果という虚像の群に、無意味にもつきあわされるのである。 そして、私たちにとって、私たちをとりかこむものはどのようにして在るのか、などについて問うことは(それこそ最も大事なことであるにも拘らず)残念ながらアレルギー反応を生じせしめる。そのようなことは思弁的におちいり、科学的でなく、成果が得られない、あるいは序論にすぎない、と言うのである。 しかし、今の世のなか、むしろ序論(文中で書いた、分解してもなお元のものに等位であるとの保証)なしの話が多すぎる。 そして、明らかに私の学生時代よりも、事態は一層悪くなっているようだ。もっとも、そうだからこそ、この通信のタネがなくならないのであるが・・・・・。

〇信濃毎日新聞社というところは大変なところだと思う。先に紹介した「土は訴える」の出版元であるが、そこから最近「森をつくる」という本が出た。この内容は例のごとく大変に濃く、大新聞「朝日」がやっている緑のキャンペーンなど、どこかに吹き飛んでしまうだろう。一地方新聞社の(多分)ほんの数人の記者たちが、日本の林業の問題を、とことん調べつくして分りやすく説いた本である。 ことは、森林浴が健康によい、などという単純な話ではないのである。 この本をつくった人たちのものの考えかたは、決してデジタル方式ではない。どろどろしたものを、決してきれいなものに組みかえたりせず、どろどろしたものとしてとらえるのである。

〇四月から、更に続けて書かせていただこうと思う。 ご批判、ご叱正を願う。

〇それぞれなりのご活躍を祈る。

      1984・3・3               下山眞司


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