goo blog サービス終了のお知らせ 

郷秋<Gauche>、無謀にもピアノについて語る

 昨晩、ベーゼンドルファーが売りに出されていることを書きました。そして、書いているうちに、10年ほど前にベーゼンドルファーの調整の場に居合わせたことを思い出してそのことも書きました。ハンマーアクションについても書きました。そうしたところが、その時に見た精緻なハンマーアクションの事が頭から離れなくなってしまったのであります。

 ハンマーアクションの模型(1ユニット(1音)分を横から見えるようにしたもの)を以前にどこかで見た事があり、その画像なり、それを図解したものがネット上にないものかと思って探したのですが、結局見つかりませんでした。でも、どうしてもその事が頭から離れないものですから、無謀を承知で、少し書いてみたいと思います。

 ベーゼンドルファーのハンマーユニットを見て驚いたのが、ピアノの鍵盤が単なるスイッチではなかったということでした。オルガンや、簡易な電子式鍵盤楽器の鍵盤は、つまりONかOFFしかないスイッチです。つまり、音を出さない状態が、鍵盤を押して音を出すかの二通りしかないわけです。

 ところが、ピアノの鍵盤は、それを押した途端に鍵盤に直結したハンマーが弦を叩く(つまりONですね)のではないのです。正確なところは忘れてしまいましたが、鍵盤を押すことにより、4つか5つくらいのアクションが一瞬の内に連続して起こり(エスケープメント)、その結果、ハンマーが弦を叩くのです。

 その構造をよくよく観察すると、10.2mm程の鍵盤のストローク(我が家のYAMAHA C3の実測値)の中で、最初の数ミリを速く、そして残りの部分を遅く鍵盤を押した(叩いた)時と、その逆の場合、あるいは鍵盤を最後まで押し切らなかった場合(初心者に多いようですね)とでは、どうやらハンマーの叩き具合と、ダンパーの動き具合が違うようなのでした。

 鍵盤を押す(叩く)わずか10mm程のストロークの中での微妙な強弱や速度の変化、音符の長さに応じて鍵盤を押している間の力などによって音色や音量が変化するわけですが、その変化を作り出しているのが、このハンマーアクションユニット、取り分けエスケープメントなのですね。これを自由に使いこなせるピアノ弾きのみが、表情豊かな音色を自在に響かせることが出来るわけです。この辺りがオルガンや電子式鍵盤楽器にはない、ピアノならではない音作りと言えるのでしょう。

 ピアノ弾きは、その豊かな音色を作り出すために日に何時間も、それを何年も続けるわけですが、闇雲に練習するのではなく、その音色の源としてのハンマーアクションユニットの構造を知っていれば、より早く理想の音に近づくことができるのではないかと郷秋<Gauche>は思うわけです。

 たとえば、サーキットでより速くマシン(クルマ)を走らせようとした時、ただ闇雲に周回を重ねるだけではなく、コーナリング理論(つまるところは力学です)を知り、タイヤのコンパウンド特性を知り、エンジンのトルク特性を熟知していれば、無駄な周回を重ねることなく、ある程度のタイムをさらりと出せるのと同じではないでしょうか。

 もっとも、そんなピアノの構造を知らなくても、コーナリング理論やトルク特性を知らなくても豊かな音色を響かせるピアノ弾き、人より飛び切り速く走れるドライバーはいるものです。しかし、こういう人は、極稀にしか存在しないわけです。「天才」と言われる人たちですね。ただ、これらの人たちも、人の目に触れないところでハンマーアクションの研究をし、あるいはコーナリングの力学を勉強しているのかも知れません。天才が努力をすれば、鬼に金棒。素晴らしい音色、飛び切りのタイムをたたき出すことは確実です。

 写真も同じですね。「下手な鉄砲」よろしく数を撮るだけではなかなか上手くはならないのです。画面の三分割法、絞りと被写界深度の関係、レンズの焦点距離とパースペクティブについての知識を獲得すれば、写真はあっという間に上達します。更に、露出補正と色温度の知識があればもう完璧。後は写真の技術ではなく、物事の見方・捉え方の勉強をすれば良いわけですね。自分自身の立位置(視点)を確立できれば文句なしです。

 話が逸れました。

 ピアノ弾きが、「このピアノは重い」とか「軽い」と言うのを聞くことがありますが、これは鍵盤を押し始めた時、あるいは押し切るった時の重さ、あるいは押した鍵盤が戻ってくる時のスピードや重さを指先で感じ取ってのことでしょう。もっとも、指先で感じ取った微妙な重さ、軽さだけではなく、実際に発せられた音の重さあるいは軽さ感というものも、そのタッチの中に含まれて表現されるような気はします。

 ピアノは、誰が弾いても、その鍵盤に指定された音程(周波数)の音が出ます。これが演奏者自身が音程を作らなければならない弦楽器との大きな違いです(弦楽器でもギターやマンドリンのように「フレット」を持つ楽器の場合には、調弦さえされていれば、原則的には押さえた場所に見合った音程が保証されます)。同時に、ともするとピアノの鍵盤がONとOFFだけを制御するだけで、誰が鍵盤を叩いても同じ音がするではないかと思いがちなのですが、これが大きな間違いな訳ですね。

 ただ、弓で弦を擦って音を出す弦楽器(ヴァイオリンやチェロなど)の場合には、音程と共に音色のすべてを演奏者自身が創らなければならないのに対して、極端な言い方をすれば、ピアノの場合には音色の99%は楽器が創ってくれる。演奏者に委ねられる最後の1%のためにピアノ弾きは長い孤独な練習を重ねるのではないでしょうか(勿論譜読みや曲作りもある)。音程も音色も一から十まで自分で創らなければならないけれど(原則的に)単旋律の弦楽器と、最後の1%のために奏者が死力を尽くすピアノ。果たしてどちらが難しい楽器といえるのでしょうか。

 いやはや、無謀を承知で書き始めたピアノについてですが、やはり郷秋<Gauche>のようにピアノも弾けない(バイエル70番までならなんとか(^^;)、チェロも弾けない(もうずいぶん長いこと楽器に触ってさえいない)者が思いつきで書いたりすべきものではなかったようです。お読みになった方にはまったく何がなんだか理解のしようもない駄文になってしまいました。また、随分と見当違いのことを書いたかも知れません。ただ、これを書いたことで頭の中から「ハンマーアクション」を追い出し、今晩はぐっすり眠れそうな郷秋<Gauche>ではあります。

*この記事は、初出以降、補筆される可能性があります。

昨日に続き箱根。宮ノ下駅下の足湯のあるカフェ。

探せば紅葉もいたるところに。今週末が見頃?

郷秋<Gauche>が書いた、ベーゼンドルファー関係記事
ベーゼンドルファー代理店が倒産 2008/12/13
ベーゼンドルファー、ヤマハが買収 2008/12/02
郷秋<Gauche>、無謀にもピアノについて語る 2008/11/19
ベーゼンドルファー、売却へ 2008/11/18
コメント ( 4 ) | Trackback (  )