平安夢柔話

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承香殿の女御

2010-10-18 11:32:31 | 図書室1
 今回は、最近、再読した角田文衞先生の歴史評論を紹介いたします。

☆承香殿の女御 復元された源氏物語の世界
 著者=角田文衞 発行=中央公論新社 中公新書25

[目次]
 まえがき
 第一章 北の藤波
 第二章 後宮の女人たち
 第三章 父と母
 第四章 元子入内
 第五章 飛香舎と承香殿
 第六章 一条院
 第七章 頼定の過去
 第八章 堀河の女御
 第九章 悪霊大臣
 第十章 斜光
 終章

☆40年以上前に出版された本なので、すでに絶版になっているようです。興味を持たれた方、図書館か古書店で探してみて下さい。

 「復元された源氏物語の世界」という副題がついていますが、源氏物語に関する本ではありません。源氏物語が書かれた頃に生きていた女性で、一条天皇の女御、そして後に源頼定の妻となった藤原顕光女の元子(979?~?)の生涯を綴った歴史評論です。でも、元子の生涯はとても波乱に富んでいるので、源氏物語と通じる部分が多々あるような気がしました。。

 それはともかくとして、平安中期のこの時代を、彰子や定子の立場で書かれた本はよく見かけますが、元子の立場から書かれた本はほとんどないと思いますので、この本は貴重だと思います。
 また、父の顕光をはじめ周辺人物についてや、当時の時代背景も詳細に述べられているので、170ページ余りのわりと短めの本ですが、読み応えは充分です。

 ところで、実は私は以前、藤原元子について、こちらのページで紹介したことがありました。元子の生涯については当該記事で書きましたし、この「承香殿の女御」は参考にした本の一つなので、彼女の生涯についてはここでは詳しく述べないことにします。
 本記事では、今回、この本を再読してみて、改めて気がついたことや感じたことを少し、書いてみることにしますね。

☆顕光について
 この本では、元子の生涯と同時に、その父である顕光の生涯についても、詳しく述べられていました。

 顕光は、藤原兼通と、昭子女王(陽成天皇皇子元平親王女)の間に生まれ、円融天皇女御の女御、(女皇)子と同腹です。
 ところが、兼通と昭子女王の仲が早く切れてしまったため、顕光は、父親の愛情をあまり受けずに育ったようです。その上兼通は、後に別の妻との間にもうけた朝光を寵愛したため、兄でもあるにもかかわらず、顕光は朝光に比べると出世も遅く、そのことにかなりコンプレックスを持っていたようなのですよね。顕光の内向的でひがみっぽく、卑屈な性格は、若い頃のこのような体験から形成されたのかな…なんて思いました。

 それにしても顕光さん、考えてみれば気の毒な人ですよね。
 一条天皇に入内させた元子は皇子に恵まれず、敦明親王と結婚したその妹の延子は皇子に恵まれたのに、敦明親王が皇太子を降りた上に道長の婿になってしまい、延子や子供たちはすっかり取り残されてしまったのですから…。道長を恨むのも当たり前です。それでいて、延子が産んだ皇子が皇太子になり、自分が摂関になる望みを捨てきれないところが人間くさいのですが…。

☆元子と彰子
 元子は、一条天皇の愛情をそこそこ受けていたようですが、道長や彰子の権勢に押され、天皇と会う機会も少なくなり、女御とは名ばかりの存在になっていきました。この頃の元子にとって、一条天皇の中宮となった彰子は、仇以外の何者でもなかった存在だと思います。

 ところが、一条天皇の崩御後は、2人はかなり親しい間柄になっていったようなのです。

 顕光は、源頼定の妻になった元子を勘当し、彼の邸宅堀河殿の相続者を元子から延子に切り替えてしまいます。元子は堀河殿の相続権を主張し、父と争うことになるのですが、そんな元子の後ろ盾になってくれたのが、彰子だったそうで、これには驚きました。
 おそらく、一条天皇の崩御ののちは、頼定の妻となった元子と、権力者の娘として、皇太子の母として生きていくこととなった彰子は、同じ一条天皇の後宮にいた女性同士、お互いに同志のような感情を抱いたのかもしれません。そして、心の広い彰子は、元子と頼定のことを応援していたのかもしれませんし、権力欲のない元子も、そんな彰子の気持ちを素直に受け入れたのだと思います。
 またのちに、元子と頼定との間の娘が、頼通の養女(女原)子が後朱雀天皇に入内するとき、女房の一人として宮中に上がったようですが、元子と頼通の橋渡しをしたのが彰子だったのかもしれません。

 …とこんな風に、当時の貴族たちの人間関係のこともたくさん出てきて、色々と妄想できる本でした。堀河殿や東三条殿がどのように伝領されたかも詳しく述べられていて、興味深いです。
 何より、藤原元子という一人の女性が、この時代を真摯に精一杯生きた様子がひしひしと伝わってくる、好感の持てる1冊だと思いました。

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