平安夢柔話

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うつほ物語(ビギナーズクラシックス 日本の古典)

2009-08-02 10:31:40 | 図書室2
 今回は、最近読んだ古典の本の紹介です。

☆うつほ物語 (ビギナーズクラシックス 日本の古典)
 編者=室城秀之 発行=角川学芸出版・角川ソフィア文庫 価格=860円

☆本の内容
 源氏物語に先行する壮大な長編物語。ある貴族の四代にわたる秘琴の伝授を主題とし、源氏・藤原氏両家の皇位継承をめぐる対立を絡めて語られる。異国の不思議な体験や琴の伝授にかかわる奇瑞などの浪漫的要素と、皇位継承や結婚に関する世俗的な話題を併せ持つ。絶世の美女への求婚譚、三奇人のエピソードも登場し、波瀾万丈の展開が楽しめる。膨大なため全体像がみえにくかった作品を初めてわかりやすく説いた古典入門書。

[目次]
俊蔭/藤原の君/嵯峨の院/春日詣/吹上・上/祭の使/吹上・下/菊の宴/あて宮/内侍のかみ/沖つ白波/蔵開・上/蔵開・中/蔵開・下/国譲・上/国譲・中/国譲・下/楼の上・上/楼の上・下


 「うつほ物語」という古典は、タイトルは聞いたことがあるものの、内容についてはほとんど知りませんでした。でも、面白いと聞いていたので、いつか読んでみたいと思っていました。なので、ビギナーズクラシックスのシリーズに「うつほ物語」が入っているのを知り、早速購入してみました。

 さて、この本の内容ですが、同じビギナーズクラシックスの「紫式部日記」の紹介でも書きましたが、この本も全文が載っているのではなく面白そうな所だけの抜粋です。

 本の構成は、各章段の初めに簡単な解説があり、次に現代語訳、続いて原文が掲げられ、最後に編者による詳しい解説がついています。そして、紹介されている原文・現代語訳以外の箇所は、この編者の解説で補われています。省略は多いですが、この1冊を読めば、「うつほ物語」のだいたいのあらすじがわかるようになっています。また、所々に、平安時代に関する基礎知識についてのコラムも差し挟まれていました。全体的にはわかりやすく、読みやすいという印象です。

 本を読んだ感想を一言で言うならば、「うつほ物語はなかなか面白い」です。以下、物語の簡単なあらすじと、私の感想を書かせていただきます。

 その前に、「うつほ物語」の概要を述べますと、この物語は10世紀に成立した日本最古の長編小説です。作者は不明ですが、源順(嵯峨源氏)説などがあります。伝奇的要素と世俗的要素を兼ね備え、これより前に書かれた「竹取物語」の影響を受け、後世の「源氏物語」に影響を与えたと言われています。

 では、ストーリーと私の感想に移りますね。

 遣唐使として派遣されることになった清原俊蔭は、渡唐の途中で嵐にあって船が難破し、ペルシャ国に流れ着いてしまいます。そして、その土地で不思議な天人と出会い、秘琴の術を伝授されます。このあたりは伝奇的で、「竹取物語」の影響を受けていると感じました。

 さて、二十数年後に日本に帰った俊蔭は結婚して娘をもうけ、その娘に秘琴を伝授することになります。やがて俊蔭は亡くなり、娘は長じて太政大臣の息子、藤原兼雅との間に仲忠をもうけます。
 しかし俊蔭の娘は、貧しさのため北山に隠れ、木の空洞の中(うつほ)で仲忠を育て、同時に秘琴の術を彼に伝授します。
 そうこうしているうちに2人は兼雅に見いだされ、仲忠は兼雅に引き取られることになります。

 ちょうどその頃、源正頼の娘、あて宮がたいへん美人だと評判になっていました。あて宮の求婚者は数知れず、その中には仲忠も混じっていました。仲忠はやがて、嵯峨院のご落胤で、同じように秘琴の伝授を受けている源涼とライバル関係になります。2人は宮中で見事な琴の演奏の対決を行うのですが、その際、天人が降りて来るという不思議な場面もあります。

 ところで、このあて宮の求婚者たちのエピソードは悲喜こもごもで大変面白かったです。

 あて宮の求婚者の中には上流貴族の貴公子だけではなく、うだつの上がらない学者や老人も混じっていました。
 その一人に、あて宮にしつこく求婚する上野の宮という宮もいて、あまりのしつこさに困った正頼は偽のあて宮を仕立て、上野の宮に奪わせます。宮は偽のあて宮をほんもののあて宮だと思いこみ、長く一緒に暮らす…というこっけいな話もありました。
 また、妻子がいるのにあて宮に執心する実忠という貴族も登場し、家庭をかえりみなくなった父実忠に心を痛め、それでも父を慕いつつ病気になって死んでしまう真砂子君という幼い少年の哀れな話も載せられています。このように、あて宮の求婚者たちのくだりでは、それだけででも短編小説になり得るような話が数多く語られていました。

 さて、色々な紆余曲折はあったものの、あて宮は結局東宮に入内します。そして、仲忠は朱雀帝の女一の宮と結婚しました。やがて朱雀帝は退位し、東宮が即位するのですが、次期東宮をあて宮(藤壷)の生んだ皇子にするのか、兼雅の娘、つまり仲忠の異母妹(梨壷)の生んだ皇子にするかで争いが起こります。この場面も、陰謀あり政略ありでなかなか面白いです。また、この場面は「源氏物語」の左大臣と右大臣の争いを連想させられます。

 このように、「うつほ物語」は、「源氏物語」に影響を与えたと思われる場面が所々あります。
 俊蔭の娘は、朱雀帝に見いだされて尚侍になるのですが、帝が蛍を放ち、その光で尚侍をかいま見る場面は、「源氏物語」の「蛍」の巻で光源氏が放った蛍の光で兵部卿の宮が玉鬘をかいま見る場面とよく似ています。
 また、東宮はあて宮が入内すると、彼女にすっかり心を奪われ、他の妃たちの嫉妬を招くことになるのですが、これは桐壷帝が桐壷更衣一人を寵愛する場面に影響を与えたとも言えそうです。

 話がちょっと横道にそれてしまいましたが…。東宮には結局、あて宮所生の皇子が立ちました。物語は、仲忠から秘琴の伝授を受けた女一の宮との間の娘、いぬ宮が、嵯峨院・朱雀院の前で琴の演奏をするところで終わります。この時、空が光り、地が揺れるといった現象が起こりますが、伝奇的要素と世俗的要素がよくマッチしていて見事だと感じました。
 また、物語のラストの方で、将来、いぬ宮が新東宮に入内することがほのめかされています。でも、編者の解説によると、これはスムーズには行かないのではないかということです。なぜなら、源涼を初め、娘を東宮に入内させたがっている貴族はたくさんいるとのこと。いぬ宮が将来どうなるかは読者のご想像にお任せしますということなのでしょうね。

 この本を読んで、私は「うつほ物語」をいつの日か全部読んでみたいと思いました。でも、「うつほ物語」は原文と現代語訳が対照になった値段の高い全集でしか出ていないのだそうです。安価な文庫本で出版されないかなあ。それか、現代の作家の方が現代語訳して、「小説・うつほ物語」みたいな形で出版されることも希望します。

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