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平安夢柔話

いらっしゃいませ(^^)
管理人えりかの趣味のページ。歴史・平安文学・旅行記・音楽、日常などについて書いています。

月宮の人

2009-06-13 20:50:00 | 図書室3
 平安時代の歴史小説を中心に紹介している「図書室3」ですが、私は古代から江戸時代中期頃までの歴史小説を好んで読んでいます。そこで今回は、戦国~江戸初期を舞台にしたこの小説を紹介します。

☆月宮の人 (上巻)
 著者=杉本苑子 発行=朝日新聞社

内容(「BOOK」データベースより)
 花は根に鳥は古巣へ帰るなり…。男の手から手へ、無常な戦国乱世を生きたお市御寮人、お江、淀殿。徳川の礎を固めるため後水尾天皇に嫁いだ将軍秀忠の末娘・和子。女系三代にわたる絢爛の歴史小説。

☆月宮の人 (下巻)
 著者=杉本苑子 発行=朝日新聞社
内容(BOOK データベースより)
 行く手を照らせ中空の月。愛のない結婚に徳川の女の命を託し、女帝明正天皇の母となった家光の妹・東福門院和子。春日局の怨念と宮中に渦まく憎悪。女の悲しみと喜びを描く流麗雄渾の叙事詩。

*この本は、昭和63年に朝日新聞社から単行本が出版され、その後、朝日文庫から文庫化されましたが、現在では絶版のようです。興味を持たれた方、図書館か古書店を当たってみて下さい。なお写真は、私が所持しているハードカバーの単行本の表紙です。


 「この小説が大河ドラマになったら面白いかも…」と、私は読みながら何度か思いました。

 何しろ舞台になっている時代は、永禄年間から寛文元年(1661)まで、約100年間、小説の舞台も近江から始まり、越前、尾張、山城の淀城、そして、江戸、京都…。とにかくスケールが大きいです。
 また、最近の大河ドラマは「これが戦国ものなの?」と思えるような生ぬるい展開のものが多いですが、この小説にはシビアな人間関係や、前半部分を中心にはらはらどきどきさせられる場面もかなり出てきます。お江の自害騒ぎなど、その最たるものでした。

 それに、戦国から江戸初期にわたる激動の時代を扱っているだけに、登場人物もとても豪華です。

 この小説は本の内容紹介でもわかりますように、信長の妹で浅井長政の妻となり、小谷城が落城して夫長政と死別、その後、柴田勝家と再婚し、結婚後半年で柴田の北ノ庄城を秀吉に攻められ、夫とともに自害をしたお市御寮人、天下人豊臣秀吉の側室となって秀頼を生み、大阪城落城とともに自害をした茶々(淀殿)と、2度の離別の末に徳川二代将軍秀忠の妻となったお江姉妹、秀忠とお江の娘で江戸から後水尾天皇の許に入内し、800年ぶりの女帝、明正天皇の母となった徳川和子(東福門院)を中心にした歴史を、3人の人物の語りによって物語るというスタイルで書かれています。上で書いた4人以外の主な登場人物を挙げてみると、浅井長政、柴田勝家、豊臣秀吉、茶々やお江の姉妹の初(京極高次の妻)、前田利家の正室のまつ、佐治与九郎(お江の最初の夫)、徳川秀忠、竹千代(後の家光)、国松(後の忠長)、お福(後の春日局)、そして後水尾天皇、中和門院(後水尾天皇の母)…。武家から皇室まで幅広いです。

 何よりも、3人の語り手がとても魅力的です。モデルはいるのかもしれませんが、多分、作者の創作したオリキャラだと思われるのですが、3人とも小説の中にすーっと溶け込んでいて違和感を感じません。

 そこで、3人の語り手について紹介してみたいと思います。
*以下、ネタばれがかなりふくまれています。まだ読んだことのない方はご注意を…。

☆最初に語る女 井之口ノ尼

 弘治二年(1556)生まれ。北近江の豪族、井之口弾正が身分の低い女との間にもうけた息子と、名もない百姓娘との間に生まれた娘。浅井長政の母は井之口弾正の娘なので、彼女は浅井長政の母方のいとこに当たるが、母親の身分が低かったために豪族の姫として扱われず、両親も早死にしたため幼い頃に出家させられた。俗名は「ちょま」。

 9歳の頃、ふとしたことで北近江に住み着いた教養のある旅の尼と出会い、彼女から文字や古典文学を学んだ。そのようなわけで当時の女性としては高い教養を身につけた井之口ノ尼は、17歳の時、茶々やその妹の初の家庭教師として小谷城に召し出される。しかし、間もなく小谷城は落城、浅井の縁者である尼は、井之口家の使用人とともに身分をかくし、琵琶湖を渡って対岸の今津に逃れた。

 井之口ノ尼は間もなく還俗して結婚、夫とも仲睦まじく幸せな日々を送っていたが、本能寺の変の直前、夫が不慮の死を遂げた。そこで再び得度。間もなく、ふとしたことでお市親子に再会し越前北ノ庄へ。その後、お江の最初の結婚に付き添って尾張へ。お江の結婚相手は、織田信雄(信長の次男)の家臣、佐治与九郎だった。2人は仲睦まじく、尼も平穏な日を送る。

しかし、お江の幸せは5年あまりしか続かなかった。小田信雄の解役とともに家臣である佐治家も取りつぶされ、お江は与九郎と離縁させられる。お江は淀城の姉、茶々のもとを訪れていたが、もう一人の姉、初の手紙で突然そのことを知らされ、絶望して自害しようとして井之口ノ尼に止められる。その時、尼は足に大けがをし、淀城を去る。

 その後、お江は秀吉の甥、秀勝に嫁がされるが間もなく死別、続いて徳川家康の子、秀忠のもとに嫁いだ。井之口ノ尼は再びお江に召し出され、江戸に下った。

 なお、井之口ノ尼の語りは、「~じゃ。」という、おばあさんの昔語りのような口調で、彼女が淀城で大けがをする場面で終わっている。


☆つぎに語る男 曾谷宗祐

 天正十四年(1586)生まれ。井之口ノ尼の夫の兄の息子、つまり、尼の義理の甥に当たる。

 宗祐の父は近江の今津の町医者であった。ちなみに、井之口ノ尼の夫も腕の良い医師だった。宗祐も父のあとを継いで医師となり、今津で父を助けて働いていたが、「町医者で終わりたくない」と密かに思っていた。

 そんな折り、徳川家で子供医者(今で言う小児科の医師)を探しているので江戸に下ってこないかと、井之口ノ尼から誘いを受け承知、慶長十六年(1611)、江戸に下った。

 江戸では将軍家の子供医者として働くかたわら、秀忠から重要な密命を告げられる。つまり、秀忠の末娘、松姫は、将軍家と朝廷を結ぶため、後水尾天皇への入内が決まっていた。そこで宗祐は、松姫とともに京に上り、松姫の健康を守るかたわら、朝廷の情勢を江戸に報告するように告げられたのであった。
 紆余曲折はあったものの、松姫は「徳川和子」と名を換え、元和六年(1620)、後水尾天皇の後宮に入内する。

 なお、宗祐の語りは「~である」「-~だ」という感じで、宗祐の江戸下向から和子の入内直後までが語られている。また宗祐は、正義感が強く、曲がったことが大嫌いで、何でも筋を通さなければ気がすまない性格の持ち主である。


☆最後に語る女 近江ノ局

 天正十二年(1584)生まれ。駿河国出身。本名は「卯女)。

 一度結婚して娘をもうけたが夫と離別。娘を実家に預け、松姫の乳母となった。新しく子供医者として江戸城に赴任してきた曾谷医師に思われ、結婚を申し込まれるが、自分が一度結婚していること、曾谷医師より年上であること、松姫のそばに終生仕えていたいことなどを理由に断る。後に、近江ノ局と曾谷医師は和子(松姫)を守る同士のようになっていったようである。

 元和六年(1620)、和子や曾谷医師とともに上京。和子の忠実な乳母として、またよき相談役として終生、宮中に仕えたようである。

 なお、近江ノ局の語りは「~でございます。」という、女房の昔語りのような口調で、和子が入内して3年後、和子懐妊の兆しがあらわれてくる頃から寛文元年(1661)の小説のラストまでが語られている。


 さて、この小説を読んだ感想ですが、心に残ったのはやはり、「女の強さ」です。

 あくまでも実家の織田家のために生きたお市御寮人、権力者の妻となり、その子供を産むことで、織田・浅井両家の天下取りを目指した淀殿とお江、将軍家と朝廷の対立により、後水尾天皇から憎まれながら、次第に朝廷と同化し、後水尾天皇の心を少しずつ和らげていった和子、生き方は違いますがいずれも、女としての強さ、たくましさを感じてすがすがしかったです。

 ただこの小説、どちらかというと前半の方が面白いです。語り手も、井之口ノ尼や曾谷宗祐の個性の強さに比べると、近江ノ局はちょっとおとなしいように思えますし、和子も母や祖母に比べると多少影が薄いような気がしました。それと、私は江戸時代の朝廷や公家にも興味があるので、後水尾天皇の後宮の様子や宮廷行事などの描写を面白く読めたのですが、波乱に富んだ戦国ものを期待されている方にはこれら宮廷生活の描写はやや退屈に思われるかもしれません。

 あと、浅井三姉妹の次女で、京極高次の妻となった初にも、もう少しスポットを当てて欲しかったです。没落した京極家を再興した 初も、淀殿やお江と同じくらい、たくましい女性のような気がするのですが…。

 と、とりとめもなく、長々と書いてしまいましたが、全体的には登場人物が生き生きしていてとても面白い小説でした。最初にも書きましたが、登場人物が膨大で製作費用がたくさんかかりそうですし、天皇家のことが色々出てきて問題はあるでしょうけれど、この小説を原作にした大河ドラマを見てみたいような気がします。ラストシーンの、和子と後水尾法皇(その頃はすでに退位、出家していますので)の仲睦まじい姿を見て、「宮中も人の心が通じる場所だった」と近江ノ局が述懐し、背景に修学院離宮の池が月に照らされて輝いている場面は感動的で、いつまでも心に残りました。

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