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平安夢柔話

いらっしゃいませ(^^)
管理人えりかの趣味のページ。歴史・平安文学・旅行記・音楽、日常などについて書いています。

玉の緒よ 式子内親王の生涯

2015-03-08 09:58:20 | 図書室3
 今回は、源平争乱期から鎌倉初期という激動の時代を生きたひとりの女性の生涯を描いた小説を紹介します。

☆玉の緒よ 式子内親王の生涯
 著者=神部眞理子 発行=文芸社 価格=1836円

[出版社商品紹介]
 平家の繁栄と凋落、源氏の台頭など、激しい時代のうねりの中で翻弄される式子内親王の生涯を史実とともに繊細流麗に描いた歴史小説。


 百人一首89番目の歌「玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることのよわりもぞする」をはじめ、情熱的な恋の歌を詠んだ事で知られる式子内親王の生涯を、激動の時代の移り変わりと共に描いた小説です。
 私は2年ほど前から式子内親王の歌に心惹かれていて、彼女のことを色々知りたいと思っていたので手に取ってみました。

 この小説の主人公はあくまでも式子内親王ですが、物語の前半部分と後半部分に他に一人ずつの主人公がいるという印象を受けました。

 小説前半のもう一人の主人公は式子の兄、以仁王です。
 この小説はそもそも、以仁王が密かに元服するところから始まっていますし、源頼政、仲綱など、彼と関わりの深い人物もたくさん登場します。以仁王の視点で物語が展開する場面も多いです。

 そして、以仁王が平家との宇治川の戦いで戦死したあと、彼と入れ替わるように登場するのが後半部分のもう一人の主人公、藤原定家です。前半の以仁王と同様、彼の視点で物語が進む場面がちらほらあります。
 式子内親王の忍ぶ恋の相手は誰かという問題には色々な説があり、定家とか、法然、あるいは式子には恋の相手はおらず、あくまでも想像の恋によって歌を詠んだとか、様々なことが言われています。
 法然も、式子の心を救うという重要な役で登場しますが、この小説での式子の忍ぶ恋の相手はあくまでも定家です。しかも相思相愛、でも決してその感情を表に出すことは許されないという感じに描いています。読んでいて少し切なかったです。

 その他、定家の姉、中将、竜寿という式子の女房たちは終生、式子の許に従い、彼女と定家を結びつける重要な役として登場しますし、吉田経房も、式子の家司として協力する好意的な人物に描かれています。
 そうなのです、この小説、マイナーな人物も含めて源平、鎌倉初期の人物が総登場します。それらの人物がどのように描かれているかも、この小説を読む楽しみだと思います。
 特に私は、登場シーンが一カ所だけでしたが、藤原多子が強烈でした。

 もちろん、式子の心の動きや行動もかなり詳細に描かれています。

 ただ、小説の3分の2くらいが終わるまで、式子は肉親や親しい人が政争の渦に巻き込まれ、心を痛めてはいるもののあくまでも傍観者のように思えました。そのようなわけで式子の影は薄く、ストーリーも何か単純で淡泊に思えてしまったのですよね。

 しかし、式子が同居していた八条院子内親王と以仁王の忘れ形見の姫を呪った疑いをかけられ、八条院御所を出て白河押小路殿に移り、やがて出家という道を選んでいくあたりから、物語が一気に動き始めます。 

 その後も式子の身の上には不幸が降りかかります。
 父・後白河院からせっかく譲られた大炊御門殿は九条兼実に横領されたまま返してもらえず、他人の邸宅を転々としなければならなかったり、橘兼仲夫妻の託宣事件に巻き込まれて洛外に追放されそうになったり…。
 「私はみんなに迷惑をかける。生きていても価値のない人間なのだ。」と反問する式子に私は、「絶対にそんなことはないよ。あなたはたくさんの素晴らしい歌を作ってしっかりと後世に名を残したのだから」と語りかけてあげたくなりました。

 でもこの小説、決して暗くじめじめした場面ばかりではありません。
 式子を支えるたくさんの人たちの暖かい心遣いにはほっとさせられますし、ラストシーンを読んだとき、「この本を読んで良かった!」と思いました。そしていつまでも式子内親王のことを考えていたい気持ちになりました。感動が長く心に残る、そんな1冊です。

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