goo blog サービス終了のお知らせ 

平安夢柔話

いらっしゃいませ(^^)
管理人えりかの趣味のページ。歴史・平安文学・旅行記・音楽、日常などについて書いています。

異文・業平東国密行記

2006-01-25 00:12:16 | 図書室3
 今回は、あまり歴史小説に取り上げられることのない9世紀半ばを扱った小説を紹介します。

☆異文・業平東国密行記
 著者・中園英助 発行・新人物往来社 定価・1800円

ーオビに書かれた本の紹介文引用ー

 在原業平の「東下り」は蝦夷偵察行だった!

 「伊勢物語」に秘められた謎を、現地取材とともに解き明かす、著者渾身の歴史紀行推理。

              ー引用終了ー

 題名や本の紹介文でおわかりのように、在原業平を主人公にした小説です。

 皇族の血を引く在原業平は、30歳を過ぎても従五位下・左近衛少監という官位に甘んじていました。そして、彼が得意なことは歌を詠むことでした。
 業平は、右大臣藤原良相の娘で文徳天皇の女御だった多賀幾子の四十九日法要に参加したり、異母弟の惟仁親王が清和天皇として即位したために皇位の望みを絶たれた惟喬親王のお供をして狩りに出かけたりと、当時の権力者であった摂政藤原良房とは対立する勢力に接近していました。

 そんなある日、業平は五節の舞姫に選ばれたある女性を見そめます。彼女の名は藤原高子、摂政良房の姪で、将来清和天皇に入内させようと、良房が大切に大切にかしずいていた姫でした。
 しかし、業平は高子の女房の手引きで、彼女の寝床に忍んでしまいます。業平は高子に夢中になり、ある夜彼女を邸から連れだしてしまいます。しかしたちまち追っ手(高子の兄の基経や国経)に捕まってしまい、2人は引き裂かれてしまいました。

 その翌年の貞観四年(862)、業平は突然昇叙されて従五位上となり、東国への旅に出発することとなります。これには、良房の「后候補者に手を出した業平を都から追い出す」という思惑が込められていました。そして、朝廷からの表向きの命令は「東国の歌枕を観て参れ。」、でしたが、良房と対立する藤原良相からは「東国や陸奥の蝦夷の動きを探索せよ。」という密命を帯びていたのです。しかしそれとは別に、業平には大いなる野望があったのでした。……

 以上がこの小説の序盤のあらすじですが、当時の在原業平を取り巻く情勢をもう少しお話ししますね。この小説のネタばれも含まれていますのでご注意を…。

 上で名前を挙げた惟喬親王は、実は文徳天皇の第一皇子でした。清和天皇となった惟仁親王は文徳天皇の第四皇子だったのです。

 ではなぜ惟仁親王が皇位につけたかと言いますと、早く言えば外戚の力です。惟仁親王の母は藤原良房の娘、明子でした。そのような藤原氏の強大な力をバックに、惟仁親王は生後間もなく皇太子に立てられ、9歳で即位して清和天皇となったのでした。天皇の外祖父となった良房は、絶大な権力を握ることとなりました。

 一方の惟喬親王の母は、紀名虎の娘、紀静子でした。紀氏は古代の名族ですが、平安初期のこの時代は新興勢力の藤原氏に押されてすっかり力が衰えていました。
 業平が惟喬親王に加担した理由は、自分と同じ不遇さだけではなく、実は親王が彼の姻戚だったからでした。業平の妻は紀有常の娘であり、その有常は惟喬親王の母方のおじだったのです。そのため業平は惟喬親王とは兄弟のように親しくつき合っていたのでした。「伊勢物語」には、そんな2人の交流が随所に描かれています。

ところで、この小説で重要な舞台となる東国や陸奥についても少し…。

 この時代の東国や陸奥は、都や西国の植民地のような状態でした。つまり、中央の行政は何とか行き届いていたもののそれに反乱する者も多く、しばしば暴動が起こっていたのです。
 特に陸奥は、この時代から約250年後に栄えることとなる奥州藤原氏に代表されるように、都からの独立国のようになってもおかしくないような状態でした。そして皇位に敗れた皇族が陸奥の王になることも充分に考えられたわけです。
 つまり、惟喬親王に加担していた在原業平が東国や陸奥を偵察する理由は、「陸奥に新しい国を造る」ためだったというのがこの小説のテーマなのです。そしてその国の王は……、このことを書いたらものすごいネタばれになりますので、書くのをやめますね。

 この小説全体の感想ですが、「伊勢物語」確章段の内容や和歌があちらこちらにうまく織り込まれていて、とても興味深く感じました。
 ただ、ちょっと難点もあります。小説ですのでもちろんストーリーになっているのですが、合間合間に著者の紀行文が挟まれているのです。業平がしゃべっていたかと思うと突然著者の現地取材の話になることもあります。初めて読んだとき、このあたりの頭の切り替えがちょっと大変でした。
 でも、それを差し引いてみてもとても面白い小説だと思います。読んでいると、業平や著者と一緒に東国を旅しているような気分になることができます。もちろん創作も数多く含まれていると思いますが、「業平は本当に東国や陸奥を偵察するために東下りをしたのかもしれない!」という気分になってしまうので不思議です。

 それに、この小説の業平、とっても魅力的なのです。多少色好みなところはありますが、勇気があってたくましい武官として描かれています。それでいて繊細で感受性が強くて、そこがまた魅力的です。

 業平や「伊勢物語」が好きな方はもちろん、平安初期の東国や陸奥に興味がある方、旅の好きな方にもお薦めの1冊です。
    
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 警察からの電話!? | トップ | 今日は誕生日♪ »
最新の画像もっと見る